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甘さは、なぜ必要か。「甘くて、旨い」Program 3:ポスト・デモ

甘さは、なぜ必要か。「甘くて、旨い」Program 3:ポスト・デモ

Program 3:ポスト・デモ

講師紹介

今回は、料理デモンストレーションの後、川崎寛也さんから各料理に関しての解明がありました。

表:1

復習です。皆さんの料理を俯瞰して理解を深めたいという話です。4人の皆さんのお料理はどういうフレーバーデザインで作られたかという俯瞰図(表:1)です。レシピをいただいて、食べてないのですが、レシピだけで想像してまとめた図です(笑)。食材、味付け・ソース、+αの各項目で描いています。例えば、食材はパスタとかを前提として、調味料は何のために存在するのかを考えてみます。

動物に必要なのはエネルギーであり、身体を構成するタンパク質です。面白いのは炭水化物そのものは味がないんです。ネズミは炭水化物そのものを味わえるんです。ところが、人間は炭水化物だけだと、デンプンそのものの味を感じることはできません。片栗粉をなめても味はない。舌でアミラーゼが働いてデンプンが分解されて糖になって、初めて甘味が出てくる。ご飯も一緒です。ご飯をずっと噛んでいると、だんだん甘味が出てくる。タンパク質も同じです。肉の味は、肉の筋線維のタンパク質の味ではなく、肉汁に含まれるアミノ酸の味を味わっているんですね。だから生肉に味はないでしょう。焼いて、細胞の中から肉汁が出て、その肉汁が甘味やうま味があるから焼いて味がする。韓国料理でユッケにタレを入れます。タレがなかったら食べられません。そういうことだと理解しています。焼くことと、味をつけることは、同じ意味があるのではないかと思っています。動物として必要な炭水化物とかタンパク質をもっといっぱい食べる、そのために調味料があるわけです。パスタだけを茹でても80グラムを食べるのは難しい。それに塩が入ったり、オイルが入ったり、うま味を入れることによって80グラムのパスタが食べられる。身体を動かすために必要なエネルギーを得るために炭水化物があり、それをたくさん食べないといけないから調味料が発達してきた。

そういうふうにみると食材に対して味をつけて、ソースをつけて、プラスαがあるんですね。それがまた面白いところです。パスタは、炭水化物に対して甘味とうま味のソースがあって、今回はアラビアータという辛味があって、ちょっと変化が得られる。中国料理の蒸し物は、魚のタンパク質に対して甘味とうま味を入れていって香りが面白い。中国料理の南さんの言葉の中で、「10年」とか調味料を作る単位が違いますよね。発酵による風味を使う。それが中国料理の特徴なんだと思います。村田さんの場合は、海老芋の炭水化物に対して甘味とうま味のふき味噌で、苦味があってメイラード反応の香りもつけている。山口さんは、白子のソース、タンパク質の鱈と白子に甘味のソースがある。甘味だけではなく、うま味も入って。お料理として甘味を使うためには、甘味だけではなく、うま味も使いつつ、最終的に食材の味をつけていく。食感のヘテロ感とメイラード反応を使う。それぞれの料理の違い、特徴が出ているのではないかと思います。それが料理のジャンルの歴史であり、その歴史を踏まえた料理になっているわけです。

村田さんが、なぜ味噌を使わない方向にいっているか。不思議かも知れませんが、僕の考えとして面白いと思うのは、発酵をあえて使わない。海外のお客さんには発酵臭は好まれないですね。香りは記憶情報です。微生物の出す香りは、その土地の香りなんです。茸と発酵食品は好き嫌いがある。西洋人からすると発酵食品の匂いはいやでしょうがない。その場合に発酵臭がないものをつくる価値はあると思います。日本人からすると物足りないと感じた方がいらっしゃるかも知れないが、それは発酵臭を感じないからかもしれない。今の子どもたちが発酵食品を食べてないのであれば、我々が好む発酵食品を子どもたちは好きになれないかもしれない。これは恐ろしいことですけど。そういうことにも、かかわってくるかなと思います。以上が全体の料理の話ですね。

細かいところを付加的に解説させていただくと、ガストリックは本来、砂糖と蜂蜜に酢やレモン汁を入れて煮詰めたもの。フランス料理の技術です。砂糖(ショ糖)に酸を加えたものを加熱すると、ブドウ糖と果糖に化学的に分解します。微生物は関係ない。分解して初めてブドウ糖ができる。メイラード反応はショ糖では起こりにくい。メイラード反応を起こしたいためにショ糖を分解してブドウ糖ができる。さらに、おそらく酢に含まれるわずかなアミノ酸と反応してカラメル化の香りとは違う香りができている。これがガストリックのメカニズムです。カラメル化の甘い香りだけではなく、メイラード反応の香ばしい香りを使う。カラメル化反応だけの匂いだと甘い香りだけになる。というように、ガストリックを活用する方法があると思います。今回、村田さんは酢で止めましたが、醤油で止めるとコクのある醤油ができる。砂糖と酢を加熱してガストリックができます。それにお醤油を加えて温度を加えれば香ばしい醤油ができる。実際やってみたんですが、コクのある醤油ができたりします。ガストリックは何と混ぜるかでメイラード反応を活用できると思います。

山口さんの野菜のジュ、使われている野菜が、さすがだなと思いました。糖が多い野菜を重点的に使われていました。ニンジン、タマネギを使うことで効率的に糖を抽出していたなと思います。野菜によってショ糖が多いもの、ブドウ糖が多いものがある。ニンジン、タマネギはショ糖が多い。

最後に、どういう考えで料理を作っていくのかを整理しておきます。僕がいうデザインは、「デザイン思考」のことです。先に明確なイメージがあって、それに近づけていくデザイン思考のことをいっています。今回の皆さんのお料理も甘いのが目的ではない。それはただの道具であり、先にデザインがあって、それにどういう形で近づけていくか。イメージに対して食材と技術と科学的観点を入れていくことをいう。もう一つ重要なのは、完成度です。皆さんの料理は完成度が高い。デザインと完成度は別の話で、それをつないでいる技術がある。そういうのが、今までも含めて、皆さんの料理の考え方を感じられる会なのですね。さらに、そういういろんなことを考えていけばいくほど複雑になりがちです。いらないものを入れがちです。しかし重要なことは、シンプルさだと思います。シンプルに考える。シンプルに考えたらこうだと。いろんな要素が入っていますが、シンプルに考えることは本質的に考えることだと思っています。アップルのデザイナーが「真のシンプルさは混乱や虚飾を排することから生まれない。それは複雑性の中に秩序をもたらすことである」といってます。料理というのは自然という複雑性の中に人間が食べておいしいという秩序をもたらすことではないかなと僕は考えます。だから皆さんの料理には秩序がある。世界のスペシャリティをみるとシンプルじゃないですか。考え方はすべてシンプルで新しい組み合わせを深く考えた結果だと思う。それが本質的においしいということだと、最近、感じることです。今日の話は以上です。

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