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甘さは、なぜ必要か。「甘くて、旨い」Program 4:ディスカッション 1/2

甘さは、なぜ必要か。「甘くて、旨い」Program 4:ディスカッション 1/2

Program 4:ディスカッション 1/2

講師紹介

出演者に木下 幸治氏(辻調理師専門学校 フランス料理主任教授)が加わりディスカッション。休憩時間に集められた質問に答えながら、各料理人の甘さに対するアプローチ(考えや手法など)について検討しました。
進行:門上 武司

門上 ディスカッションに移りたいと思います。まずは木下先生、川崎先生の話と4人の料理デモを見られて、感じられたのはどんなところでしょうか?

木下 古い話ですが、1970年代後半くらいにパリの当時三つ星シェフ、アラン・サドランスが「オマール海老のバニラ風味」を作って一世風靡しました。甘い料理ではないです。クリーム煮のソースなのですけど、バニラというイメージはアイスクリームに入っていたり、お菓子によく使われています。われわれの頭の中でバニラの香りは甘いというイメージをもたされているわけですね。それでオマール海老の煮込みを作った時、「エッ、バニラ、甘いのとちがうか?」と反響があった。バニラ自体は、舐めても甘くないです。彼がやりたかったことは何か。人はバニラに甘いというイメージをもっている。そのイメージをもたせたままでオマール海老を食べさせる。村田さんがバニラを少しだけ入れたのも、それだなと思いました。甘くておいしいというのは、味でなくてもあり得るということ、舌で味わう味に対して、頭の中のイメージで味わうということもあるのですね。
フランス料理では、料理で砂糖を使うのは、ガストリックやグラッセという(つや煮)ハンバーグの付け合せにする、ニンジンを砂糖とバターと水を入れ、煮たもの。それくらいしか砂糖を入れることはないように思います。甘味を使う時はアルコールですね。ダイレクトに使わないのはコクがあるから。その分だけ甘味をコク出しで料理するというのがあります。西洋料理には塩のものが多いですが、最後のデザートに甘いものがあるから、あまり甘いものは食べないのです。
というのは、パティシエは、もともと料理人の中の部門でした。昔は分かれていなかった。料理人の中でも生地(パート)を作る、パテを作る部門がパティシエと呼ばれるようになった。そういう人が甘いものを作っていたので、もともと料理の中に組み込まれているもので当然、塩味を食べて甘いものを食べるというふうに分けて食べていた。なぜ分けたか。コクがありすぎて、とりあえずガバッと食べる、最後に甘いものもガバッと食べる。

川崎 確かにそうですね。糖は必ず血糖値を上げますから、甘いものを食べるとタンパク質をとれなくなるかもしれない。昔の西洋人は肉がエネルギー源だった。アジアの人は炭水化物をいっぱい食べるための調味料が発達したのではないか。タンパク質を摂っても身体の中で分解、再構成してエネルギーになる。結局、エネルギーを炭水化物でとろうが、タンパク質でところが動物にとっては同じなんです。

門上 今日は会場から質問がきています。「バニラがもっているイメージはイタリアにもあるんですか?」。香りによって甘さを感じさせるというものは。

山根 ハーブとか甘さを感じさせるという感じかな。古いリキュール、意外に甘くないけど、ギリシャの白く濁るお酒アブサンとか、そんなものはあります。

門上 村田さんに。「本日は蜂蜜を使って風味を仕上げられましたが、色の薄いあわせ風にされる時は上白糖またはグラニュー糖を使われますか?」。

村田 ショ糖ではメイラード反応は起こりませんので、使うのは味醂か蜂蜜です。メイラード反応が起こらないと、あのままですから。反応が起こらないと味噌にはなりませんからね。

山根 酢を入れて分解したら?

村田 酢を入れてショ糖は分解できるけども。

川崎 酢を入れて分解するには強加熱が必要なので。ガストリックを作る時は砂糖と酢があるんですけど、どの段階の話ですかね。水分が多いと、なかなか進まないので。煙が出るくらいまで熱して初めて砂糖が分解してくる。

村田 200℃くらいにせんと、だめですから、それはなかなか難しい。蜂蜜か味醂を使うことでしょうね。

門上 山根シェフに。「トマスソースのトマトは煮込むと、えぐみが出るといいますが、何分くらい煮込むのがベストでしょうか?」。

山根 僕は、ほとんど煮込まない。水分の量を調整しているだけです。甘味を出すといいますけど、甘味は煮詰めて出るだけで、タマネギと甘味の出るものを入れれば別ですが。もっている糖分が凝縮することで甘さが強くなる。それと酸が反応して中和する。酸味を和らげているだけですが、えぐみというのは火加減が強すぎても出やすい。酸化とか空気中の酸素の結合も影響すると思うんですね。長時間煮てもトマトはおいしくならないのが結論で、僕が料理を始めた頃はトマトソースを1時間以上煮込みましたが、全然おいしくならない。5分で仕上げれば5分でもいい。どれくらいから、えぐみが出るかについては、えぐみを出すような作り方をしたことがないので、わかりません。

門上 そんなに長く煮詰める必要はないということですね。山口さんに。「フラットな甘味を基本に考えられるでしょうか。さわやかな甘味の糖分はどういう位置づけになるでしょうか?」。

山口 さわやかな甘味?じつは、そんなにショ糖と果糖は分けて考えていません。そんなに砂糖を料理に使うことがないので。ただガストリックをやらせていただいたのが食文化研究会で、ガストリックで、アイスクリームを作った。ガストリックを知っている人が少ないのでびっくりしました。化学反応で酸と熱で強制的に果糖とブドウ糖に変える。カラメル化のアイスクリームと食べ比べをしてもらったら、ガストリックはコーヒー、チョコレートとか、いろんな香りがして安上がりだなと。果糖とかショ糖、ブドウ糖という意識はないです。

門上 ガストリックを知らない方が多かったのと、温度のこととか、「チョコレートではないか?」という声も出て面白かった。あれ以降、料理屋さんでガストリックを耳にすることが出てきて、一つのメイラード反応の発展系になってきているのかな。

山口 アイスクリームを作る時230℃まで上げました。普通は230℃までまで上げません。ヤバイと思いますから。僕らが230℃で香りが出てくることに気づいたという、違う人たちとのコラボレーションと知識を融合した時に新しいものが生まれてくるのかなと思います。

門上 パティシエの方にも入ってもらう機会があれば、また違う発想が出てくるかもしれませんね。全日本・食学会で、「うま味がスイーツを変えるか?」というシンポジウムを行ったとき、パティシエたちは、うま味というのをスイーツで考えたことがなかったので、そこに今までと違う発想があって、違うジャンルのテーマで討議することは興味深いことだなと思います。次、川崎先生に。「甘味で時間をコントロールするということがあるのでしょうか?」。

川崎 それはどの味でも、そうなんですけど。たとえば、固める凝固剤、みたらし団子の場合はなぜ甘味が最後にくるのかというと、もちの中に砂糖が入っていて、タレを先に飲んでしまって、もちが残るからという。同じようにフレーバーは味も香りも含んでいますが、どんなものでも凝固剤で固めると、デンプンとか寒天、ゼラチンでも、そういうものに味成分、香り成分が入っているとリリースが遅れます。遅れることによって後に感じさせることができる。酢は口に入れた瞬間に酸っぱさを感じる。それを後ろにやりたい。固めて後から感じさせることにすれば、液体で感じさせるものと違うものになるかもしれません。そういうように凝固剤は使えると思います。

山口 先生に教えてもらった閾値、苦味を閾値に使うとうま味が長く続くという錯覚がありますね。

川崎 あれはまだ明確な結果が出ていないんですね。苦味物質が舌にくっついて離れないことで苦いものは後味まで苦い。閾値は2種類あって、苦いと感じる閾値と、何か味があるが、何かわからないという閾値があるんですね。この味は苦味、この味は塩味だとわかるのは認知域といいます。舌のこの味、なんか味があるけど、わからないのを検知域といいます。検知する閾値を苦味に使えば長く続くが、何の味がわからないという状態になるのではないかと。実験をして、うま味の後味を長く感じた結果を出したんですが、論文は書いてないので、その説が認められるかどうかはわかりませんが、そういう可能性があるのではないか。うま味を感じた後に、検知閾値以下のわからない味が続いて感じたら、うま味が続いたかのように錯覚をするのではないかということですね。

門上 閾値という、言葉が出てきましたが、そのテーマも、どういう形でできるか興味深いなと思っています。次、村田さんに。「バナナを揚げたものはおいしかったのですが、自分で揚げるとくさい食べ物になって、どういう変化が生じたのでしょうか?」。

村田 そんなバナな。バナナを揚げると、くさい食べ物になったと。東南アジアの料理でありますけど、くさくなる原因がみつからないんですが。芋みたいなものですから。熱によって臭くなるのは考えられないので、油かなと思います。皮ごと焼いても中はおいしいですからね。

門上 加熱することで甘味が増すということは?

川崎 加熱によって濃縮が起こるので甘味が強くなることは感じると思います。

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