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料理に使える「乳化の技」Program 1:対談:「乳化と料理の関係」
Program 1:対談:「乳化と料理の関係」
講師紹介

川崎 まずは油の話をしたいと思います。そもそも乳化というのは何か。例えば、砂糖を水に溶かすと透明になる、それを溶けるといいます。けれど、水と油は混ざらない。この混じり合わない液体同士を共存させることを「乳化」といいます。乳化した液体である乳濁液(エマルション)といいます。
木下 フランス料理には乳化するものが多いですね。油をそのまま飲むと飲みづらい。それを乳化させることによってサラッとさせる。油はそのまま摂取できませんが、酢と卵でマヨネーズにしたら、スプーン1杯でも2杯でも食べられるところに乳化させる意味があったのかなと思います。
川崎 昔は油のエネルギーを補給する意味で大事だったのだと思います。卵黄にはレシチンという乳化剤があり、卵黄自体が乳化物ですから、動物は大好きですね。乳化には「水中油滴型」、「油中水滴型」の2種類あります。水の中に油が分散しているのを水中油滴型。油の中に水が分散するのを油中水滴型。マヨネーズは酢の中に油が分散している。牛乳は牛乳の水分の中に乳脂肪が分散している。それを低温にしてかき混ぜることによって相転移が起こる。つまりバターです。乳化剤とは、水に溶けやすい成分と、油に溶けやすい部分が一つの分子の中にあるもののことです。油を水に入れて振ると白くなって分散するが、安定しない。安定化させるのが乳化剤で、牛乳はカゼイン、卵黄や豆乳にはレシチン。これがO/W、オイル・イン・ウォーター。マヨネーズとか牛乳とかアイオリソースとかが、O/W型の乳化です。


木下 マヨネーズ自体、もともとはミノルカ島のマオンという港町で作られていたソースを18世紀の頃、リシュリューというフランスの宰相が、七年戦争の時にマオンの港をイギリスから奪還した。その時に戦勝記念でソースを持って帰ってきた。マオン風のソースなのでマオンネーズが訛ってマヨネーズになった。その時は、オリーブオイルと卵黄とニンニクのみじん切りです。アイオリは南仏の方ですが、もともとはニンニクのみじん切りしか入っていない。ニンニクにオリーブオイルを垂らしながら混ぜていくとつながっていく。ニンニクの成分が乳化剤になる。
川崎 ニンニクにはリン脂質という乳化剤が含まれます。だからニンニクだけでもつながるんですね。
木下 アイオリは、もともとソースではなくて料理なんですね。野菜を茹でたものをアイオリをつけて食べた。それがそのままソースになってブイヤベースにも入れるようになったのです。南仏ではアイヨリ・ガルニという料理、野菜を茹でたものにソースをつけたもの。ソースが始まりではないんですね。マヨネーズはヴィネグレットとは違いますよね。
川崎 ソース=ヴィネグレットは置いておくと分離しますね。
木下 ヴィネグレットは、ドレッシングに塩・胡椒とマタタードを入れて、そこに油を入れていくと、どろどろになってつながった感じがする。時間をおいておくと油が外に出てきて最終的には分離する。つながるという言い方と乳化は一緒かというと難しいところですが、一緒ですね。つながった感じがする。マスタードに入っているものは違いますね。
川崎 マスタードも粒とペーストのものがある。ペーストの方がつながりやすいことはありますか?
木下 マスタードがペースト状、そうですね。一瞬で乳化しているというか。マヨネーズとは違うけども、乳化する感じがする。油をたくさん入れすぎると分離してしまったりする。

川崎 乳化力は弱い。
木下 中国料理の奶湯(ナイタン)とか白湯(バイタン)という豚骨の白く濁っただし汁は油をたくさん入れるんですか? 油が入っていることは液体と油で乳化しているんですか。ずっとおいておいても濁ったままですね。
川崎 油としては豚の脂ですね。スープに豚の脂を入れて強く熱することによって、強い対流を起こさせる。それで乳化させる。もともと骨に含まれるゼラチンが乳化剤として働いてどんどんつながる。上海では、人によっては牛乳を入れる人もいました。
木下 ダシ汁の中に牛乳を直接入れる。
川崎 手抜きかも知れませんが(笑)
木下 奶湯の奶は、乳のことですね。乳のような白いだし汁、白く濁っている中国料理、それが乳化かなと。西洋では今はしませんが、20、30年前まではソースを作ったら必ずそこにバターをバッと入れて揺すぶりながら、ゆっくりゆっくり溶かしていくんですね、余熱で。モンテ・オ・ブールといって、バターで味を高めて、よくする操作があって、そのまま言葉になっている。ゆっくり溶かしていくことによって照りが出るとか、風味が出るといって、そんなに分離するほどでもないんですが、あれも乳化なんですか?
川崎 モンテで重要なことは冷たいバターを入れることですね。冷たい固まったバターは熱によってゆっくりしか溶けない。乳化に重要なことは、いかに小さい油の粒を作るか。ちょっとずつ溶かさないと小さい油脂の粒ができないので、そういうことをやっているのだと思います。
木下 乳化というのは濃度が重要なんですね。そこで固いバターではないというのは、テクニック的には二つある。固い、冷蔵庫から出してきたバターを入れるバターモンテと、グニュッと潰れるくらいのバターで作るバターモンテがある。その違いをどう出すか。もともとのソースに濃度がついている場合には柔らかいバターを使う。そうするとサアーッと溶けながら混ざりこんでいくので濃度がつきにくい。濃度がないソースはちょっと固い目のバターを入れてゆっくり溶かしていくと濃度がついてくる。小麦粉とかを使うのとは違う。トロッとする。固いバターと柔らかいバターはソースの濃度によって変えたりするんですね。そういう変化もあります。
川崎 溶けたバターを入れて攪拌しても同じことですか?
木下 ミキサーの力があればできると思いますね。
川崎 昔、そういう器械がなかった時代に技術を考えていた。そういう意味で、バターはO/W(オイル・イン・ウォーター)。今回、乳化を自由に考えてみたいと思います。水と油、どんなものでも組み合わせていいわけです、現代は。水溶液にいろんな味とか風味とか、例えばお酢、だしでもいいし、ワインでも。乳化剤もいろんなものがある。油脂もいろんな風味をつけたり、凝固温度が違う油を使うとか。乳脂肪を使う、オリーブオイルやナッツ油を使う、そんなことをすることによって無限の組み合わせができるのです。重要なのは、味成分が溶けるのは水で、香気成分が溶けるのは油ということ。村田さんはこれを活用して新しいものを作っておられる。そのことを理解することによって新しいものを作っていく。“両親媒性”というのは、水にも油にも溶けるもので、アルコールとか乳化剤とかです。香り成分には油に脂溶性のものが多いです。ほとんどのものは油に溶ける。フランス料理でもハーブオイルとかを作りますね。


木下 乳化をこれでやると新しいものができるというのは、ダシとレシチンとオリーブをつなぐ時にレシチンを使ってもゼラチンを使っても、できると。
川崎 やってみないとわかりませんが。
木下 カカオバターとレシチンも面白い。マヨネーズもカカオ風味のマヨネーズができるんですね。こういうことってすごく大事なことです。もともとの成り立ちをわかると、今までにない組み合わせができるのですね。料理は限られた材料と限られた料理法しかないといえば、ないのです。ないということは、新しい組み合わせとか突拍子のないことでも、やってみる。組み合わせの表はいろんな料理の可能性が高い。自分で考えると液体と水溶液と脂質を変えるだけで、つなぐものがわかっていればいいということで。
川崎 料理人としては新しいものを使いたいという時、二つ考え方がある。一つは全く新しい素材をどこからかもってきて使う。もう一つは、例えば、デンマークの「noma」では虫を使うとか、そういう考え方もある。でも、全く新しい素材を使う前に一つ考えないといけないことは、既存のものを使って新しい組み合わせを考えてみること。
木下 スペイン料理に鱈のピルピルという料理がありまして。グラタン皿に鱈の身、向こうは鱈に塩をして水分を出すとかしないので、そのまま鱈を入れてオリーブオイルを皿に半分くらい入れる。それを火にかけながらずっと揺するんです。ずっと揺すっていると、ゆっくり温度が上がってくるので鱈から水分が出てくる。モンテではないですが、揺すっていると油と出てきた汁が少しずつ混ざっていって、最後に白ワインソースのようなトロッとしたものになる。それに塩胡椒してニンニクを少し入れる。それも乳化の水分をどこからかもってくるのではなくて、鱈の水分で作っている。
川崎 ゼラチンが皮から出るから、多分、乳化するんですね。
木下 水分の中には酒も入るんですか。酒と油をつなぐ。酒は乳化剤にはならないんですか?
川崎 アルコールは乳化剤として働かないのではないかという話もあります。でも、アルコールと油は混ざりやすいのは混ざりやすい。分散する。キャリアとして香り成分をちゃんと運んでくれる。ワインのようにいろんな香り成分が入っていて、それと油を混ぜると香り高いものはできる。

木下 乳化すると、味はどうなんですか。最近この10年くらい、新しいことをやっているので、ドレッシングもあわせますが、もともとドレッシングは乳化させたものかどれくらいか、わからないんですが。ヨーロッパのどの家庭にも、口が2つのフラスコがあるんです。一方の側には油を入れて、別の側には酢が入っている。家庭でサラダを食べる時、酢をかけて、こっちに向けて油をかける。そうやって食べていた。酢と油だけで。いつのまにか乳化させて全体をトロッとしたソースにしてドレッシングにする。味の差があると思うんですが、若い料理人たちはソースもセパレといって、お皿にオリーブオイルをタラッと垂らして、バルサミコ酢をトントンと垂らしたり、シェリー酒を垂らしたり、好みで食べてもらうという料理人がいて。それと、混ぜたものとの味の差はあるんですか?
川崎 今まで、乳化の研究は、食品工業がいかに安定させるために乳化を使うかという研究しかなくて、フレーバーはどうかの研究はほとんどないのです。乳化させることが目的で、乳化させないことによって何が起こるかは、まだはっきりわからない。マヨネーズも乳化の方法がいろいろあって、昔と比べ、乳化させる技術が発展してきているはずなんです。何が違うかというと、乳化を細かくすると表面積が増えるので香りがたちやすいという話もありつつ、お酢をそのまま舐めても酸っぱいですが、マヨネーズにするとそんなに酸っぱくない。そういうことはマスキングされるだろうということもあるし、それぞれの香りがちゃんとするというのもある。はっきり見えないのが現状なんです。
『あまから手帖』で連載した時、新しいアイディアとしてやってみたのが、新しいムニエル。ムニエルの場合、冷たいバターを入れて、ずっと泡ができる状態で加熱すると柔らかく仕上がる。それはなぜかというと、熱が水分の蒸発に使われるために温度の上昇がゆるやかになる。だから、ムニエルの魚は柔らかい。でも、バターが特徴的なのは香りなので、バターでやってしまうとフレンチにしか使えない。オリーブオイルでバターのような乳化物を作って水と油と乳化させて、それを魚を焼くのに使ったらオリーブオイルの香りで柔らかな魚ができる。イタリア料理でも使えるかなと。これが発展バージョンです。あとは、油脂の融点が違うので、それを活用すること。例えば、カカオバターをジュとつなげる。固定のカカオバターはそんなに香りはしませんから、カカオバターでジュをつなげることによって固形のソースを作り、それをお皿の上に削って入れることで、口の中でバターが溶ける感覚が大好きなんですけど、そういうソースもできます。
木下 オリーブオイルと水の乳化は熱を加えると乳化がどんどんブレイクする、壊れる。壊れていって水分を出してやるということですね。もともと乳化は油を使うということですけど、企業はつなげるために努力してきた。油をたくさん食べられるのではないかという話ですが、大企業は油をたくさん使ってほしい。
最後に、そもそも乳化をすべきだろうかということも提案しておきたい。もともとの味、単一の味がおいしい、それをバラバラにして、どういう味がするか、バラバラなものをお皿において、少しずつつけて食べることがおいしいのか、全体を混ぜてマスキングされてまろやかになったものを食べた方がいいか、二つの選択は、これからもしていくべきだし、今はつなげることばかりで、つながっているものがある。乳化しているものを今度バラバラにする方法はどうしたらいいですか?
川崎 加熱するといい。
木下 加熱してバラバラになったものを料理に使うことも、これからはありえるのかな、と。最近は味がシンプルになっていると思いますが、使う素材自体は複雑になってきていますね。昔より皿の中に入っている味は複雑化されているような気がするのです。乳化はしてないけど、一つのお皿の中にたくさんの種類の味が入っているのが現代ではないか。そこにソースでまったりさせて乳化させる必要があるのかどうか、単一の味の方がいいのかどうかも最後に提案させていただきます。

