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1 theme STUDY vol.01「うどん研究」Program 3:ディスカッション 2/2
Program 3:ディスカッション 2/2
講師紹介



門上 昆布水の話も出ていました。山根さんは早くから使っていたそうですが、いつ頃からですか。
山根 昆布だしを魚のだしに入れ始めたのは20年くらい前です。水だしを冷蔵庫で一晩つけて出しているのは最近7,8年くらい前から。村田さんの影響が大きかったと思います。最初は、魚のだしをとる時に入れ始めたんです。魚のだしに昆布を加えたら、日本料理的ですけど、澄んだおいしいだしがとれたんです。昆布の多孔質の部分とか粘りで、きれいに澄んだんです。味もよくなった。後で村田さんに伺いました。アミノ酸を複合的にあわせることでうま味が増すんですね。その後、野菜を加熱するのに茹でるのではなく、少量の水分と野菜そのものの水分で蒸し煮にしたいとき、何を加えようか考えたんです。アスパラガスとかエンドウ豆とかに少量の水分を加えて蒸し煮にしたら味が出たんですよ。青い感じとか、うま味が出てきて、野菜でもうま味の相乗効果があるんだとわかって。でも、水だけだと水っぽく感じるし味がぼやける。味がぼやけないで、くっきり、はっきり出るようにするのにどうしたらいいか。そこで昆布水とあわせることを閃いた。おいしい水は何だろうと。昆布にはグルタミン酸だけではなく、いろんな成分がありますから。それからは、ブイヨンにも全部入れています。
喜多條 昆布をイタリアンに使われたのは山根さんが世界でも一番早いと思います。私も山根さんに教えられて昆布水というのを見つけたんです。他の方も昆布を水だしにつけておくのは多いのでしょうか。
村田 昆布の種類によると思います。真昆布とか羅臼の系統は、水につけておくといいのかもしれんね。僕らみたいに京料理で使う利尻昆布は、ちょっと火にかけた方がよう出るかもしれません。
山根 僕は、昆布の味を前面に出したいわけではない。あくまで内側ですが、今ではパスタの茹で汁を入れたりするのもやめて、昆布水です。麺も昆布と相性がよい。パスタの茹で汁は、粉の粘りや塩味があるのでソースの味を変えるんです。そば湯を使って料理する人はおられないように、パスタの場合、使える湯がそれしかないから使っているだけで、ものすごくいいわけではない。トマトソースにブイヨンを入れると、ブイヨン的なうま味が入ってぼやけるんですね。昆布水だと、ぼやけないでトマトの味を引き出しつつ邪魔しない。昆布味にしたいから使っているのではないんです。
喜多條 昆布屋で、こんなことをいうのも変ですが、昆布の味が表に出るのは好きじゃないんです。そういうことをやっていると、和食のごく限られた範囲の昆布のよさしか伝わらない。うま味成分として昆布があるという形で伝えたいと思っているんです。
門上 昆布だしだけでも新たなテーマができそうですね。今日は「うどんとだし」ですので、次にうどんのコシについても検討しておきたいと思います。蓮見さん、資料をいただいていますが、もう少し噛み砕いてコシについてお話しいただけますか。
蓮見 例えば、延ばしてつくる稲庭うどんの細さでは、2分半~3分くらい茹でます。それを冷たい水で締めた時、あの細さでも十分コシを感じると思います。五島うどんの半生麺とかは、3ミリくらいの細さですが、コシを相当感じられる食べ方は、冷たく締めた場合です。太いうどんでも釜揚げではコシを感じなくなる。釜揚げでコシを感じるのは、あまり茹だっていない場合です。そういう意味では、食べ方によってコシの食感は変わると思います。関東の武蔵野地方で、肉汁うどんは肉の入った温かい汁に冷たいうどんを入れます。うどんが完璧に茹で上がっていると、食べた時にコシがなくなっているように感じるので、ごわごわのうどんを入れる店が多いのですね。それで、ズルズルと噛みしめて食べる。これが、固いコシだと思われています。店に時間をもっと長く茹でてほしいとリクエストしてみると、食感がまた変わって、弾力系というかモチモチした感じになる。デンプンがちゃんと火の通った食感で、“弾力系のコシ”という言葉があるのかわかりませんが、押して気持ちいいというか、口の中で優しさを感じられるコシになる。茹で足らないうどんをゴツゴツ食べるよりは、もっちりして、すっと入るうどんがおいしいのかなと思うようになりました。埼玉のうどん屋さんで肉汁を注文すると、いきなり冷たく締めたうどんが出てきます。それだったら、温かいうどんを汁につけて食べるとどうなるか。うちの店では、冷たいうどんか、温かいうどんかを確かめることにしています。意外と4対6くらいで温かいうどんが支持されるのです。お客さんから「食べやすい。このへんのうどんは固い。冷たいうどんではなく、やわらかいうどんがいい。いっそのこと煮てくれないか」というような声がありました。うどん屋は、地域ごとで伝統的な食べ方もあるんですが、もう一歩踏み込んで冒険できることもあるのかなと思っています。
門上 すると、モチモチとコシというのは同義語ではないんですね。
木田 そうですね。気持ちいいのが好まれると思います。香川の人でもコシのあるうどんと、滑らかなうどんとでは、滑らかなうどんを好む方が多いと思います。有名店の釜揚げうどんはやわらかく、滑らかです。東京から自称「讃岐うどん派」が行くと、コシのあるうどんということになるのです。



門上 コシというけど、じつは、そんなに求められているわけではないと。
木田 ないと思っています。パスタとうどんでコラボしましょうと、うどんで麺をつくったんですが、中力粉では締めるとコシがあるのに再加熱すると食感が弱くなりソースとの絡みがベタッとなってだめでした。パスタは滑らかではないし、パスタの固さがあるのではないかと思います。
山根 乾麺と生麺では違うんですね。乾麺で芯を残すというのは、茹で上がってない部分をあえて出すことに近い。噛んだ時、中に芯のようなものが見えるのは固すぎます。芯はいらんから根性だけ残せといいます。表面が滑らか、しなやかだけど、しっかりした麺はパスタもうどんもいっしょだと思う。ただ、パスタはちょっとざらついている方が扱いやすい。ソースが乗りやすいし。
蓮見 加水量が多い方がうどんのツルツル感は増してくると思います。ヌードルメーカーの加水率は、うどんの標準が38%くらいですが、50%で実験してみたら、そっちの方がおいしいうどんができました。38%くらいで押し出し式で麺をつくると、表面がプラスチックの穴から出るので結構、表面がざらざらして見えるんです。加水率を上げるとツルツルした状態で出てくるので、ずいぶん違うもんだなと面白く感じました。
門上 コシの話から加水率まで広がりましたが、木下先生、西洋の料理でコシとか求めることはありますか。
木下 ヨーロッパで小麦粉を茹でる文化はイタリアしかないんです。西洋はコシではなく、固さですね。コシは、麺が伸びてグルテンによってできるのですが、パスタはコシを求めることは、あまりない。コシよりゴリゴリした感じ、固さを求めていると思いますね。コシとか粘りは、あまり西洋にはない食感です。小麦粉はパンとかしかないので、カリカリとかモチモチする食感ですから、ないと思います。モチモチする食感は、塩分の濃度にもよると思いますが、麺の塩分は練る時にすごく多いんですね。グルテンの間に塩分を入れていってグルテンの中のコシの部分と粘る部分、それはタンパク質にあるんですが、塩でつなぎあわせて塩分を最終的に抜いてしまう。粘りと伸びることだけが残ってくるので食感的にはコシが出てくる。イタリアの場合は、中に入れた塩分を抜くことは、あまり考えてないので、液体の中に塩を入れて塩分を抜かないようにしていますから。コシではなく、固さだけしか出ないと思います。
村田 基本的に茹でる水の硬度が違いすぎるんだと思います。イタリアは硬度が髙すぎてタンパク質が中心によって固まる。日本でやってみたらお粥になるものが、イタリアでは水の質でリゾットみたいなものになってしまう。大阪と京都でも茹でている水の質が違うので、自ずとダシの質も変わってくるから、茹で上がった麺の質も違うのやと思います。イタリア料理は普通の浄水器で通した水でパスタを湯がくでしょう。日本ではイタリアと同じようにパスタを湯がけてないと思いますね。
山根 そうですから、ミネラルの多い塩を入れています。
村田 塩分濃度1%というのは血中濃度といっしょくらいですから、塩もつきませんし、辛くはならないでしょうね。
門上 一つのテーマからどんどんいろんなことへ広がっています。「水」というテーマもありますね。では、会場からご質問があればいただきたいと思います。
質問 塩を使ってグルテンという話がありましたが、うどん屋の冷凍うどんで塩をいくらでも入れたらコシが出る、固くなるという話を伺ったことがあります。塩を入れる量に関してコシの出方とか違いについてご説明いただけたらと思います。
木田 うどんは小麦粉を水と塩で練ります。塩は砂糖のように水の中に入れても溶けないですね。飽和量以上の塩は入らないということが一つ。濃度を高くした塩水でうどんを練りますと、グルテンが出てきて生地が固くなる。塩分量を間違えると、固くて踏めないという作業性の問題もありますから、ある程度以上の濃度ではつくれない。許容範囲の中で水に溶ける塩の量には限界がある。塩水を入れて作業できないという限界を超えるといけないので、なんぼでも塩を入れるということにはならないと思います。
蓮見 うどん屋さんの場合、季節によって変わってくるんですね。夏の暑い時期ですと15~16%くらい。一般的には特に手作業で揉めるということで、常温で1時間くらい放置して、楽に手に負える程度の作業の生地にするには濃度は11~12%くらいかなと思います。茹でる時に塩はほとんど出てしまいますので、うどんに関してだけでいえば、塩分摂取を制限されている方でも、うどんは十分食べて大丈夫です。完成したうどんから塩辛さを感じたら、ちょっとまだ茹でるのが足らなかったと認識した方がいい。うどん屋さんは釜の最後の問題として、うどんの塩が抜けきらない時、お湯が塩を含んでしまっていて塩が外に出ていない状態になる。相当、店が忙しくないと、そうはならないんですが、そういう時はお湯を足すしかないんです。失敗すると、そういうこともあります。
質問 今井さんに質問が2つあります。一つ目は、白だしをとってその後、調味料を入れる順番です。今井さんは醤油から入れられました。その順番にこだわりがあるのでしょうか。二つ目は、醤油でうどんだしの味が変わってくると思いますが、今井さんのところの醤油のブランドを差し支えなければ教えていただきたいのですが。
今井 薄口はヒガシマルで、濃い口がマルキンです。順番は「さしすせそ」といいますけど、特に何も考えずに入れています。薄口の量を計って、ほり込んで、砂糖と塩を入れて最後に味醂を入れる順番です。順番を変えても味が変わることはないと思います。
門上 今回は、じつにいろんな角度から多様なお話ができて次への示唆をいただいたように思います。どうもありがとうございました。




