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「料理と飲み物の相性」Program 3:ディスカッション
Program 3:ディスカッション
講師紹介

出演者に新コアメンバーの吉岡 勝美氏(辻調理師専門学校中国料理主任教授)が加わり、あらためて料理と飲み物の相性について討議していただきました。
門上 まずは、コアメンバーとして初参加の吉岡先生、ご感想をお願いします。
吉岡 川崎先生から料理に対する裏付け的なものがきちんと出てくるのを見せていただき、いろんなジャンルの方々が調理のデモンストレーションをされるのを直接見させていただきました。こういう会が、無料で参加できることは最高の配慮ではないかと思います。ありがとうございました。
門上 本研究会のイベントの内容はどんどんハードルが上がってきて、いろんな角度で研究できるのはすごいと思います。岡さんも初めてのご参加ですが、いかがでしたか?
岡 今日は川崎先生もおられるので心強いなと。サイエンスをバックにお話をされ、体験的な部分にいろいろと科学的な裏付けをしていただける、いい勉強の機会になったと思います。
門上 清酒とワインでセッションをされましたが、赤が大半の中で白がいいという方もおられましたね。今後はどういう展開になりそうですか?
岡 皆さんの料理に合わせ、いきなり僕が「これや」と言うて、いいのかなと思いまして。そこで考え方を変え、相性とはどんなものか、というところから始めたらどうかと考えた訳です。ベーシックなラインで一度試していただいて、これは合うとか合わないとか、皆さんに思っていただく。その次、この料理にはこれが合うというものを、近い将来にやらせていただければいいのではないか、と。
門上 川崎先生から相性の研究はあまり進んでいないというお話をいただきましたが、「ウォッシュ」とか「シェア」とか「ニュー」などのキーワードが提示されました。今後、検討を重ねていって、また新たなキーワードが生まれてくる可能性もあるんですね。
川崎 相性は、よくわかっていないというか、感覚的で混沌とした状態でもあるんです。逆に、科学はそれをどうやって切り開いて整理していくか、そこが大事なので、わかりきったことをやってもしょうがない。今、混沌としているものこそ研究対象にしていかないといけないと思っています。科学的に研究していくのは難しいですが、考えて整理をして、言葉で説明できればと思い、今回参加しました。できるだけ網羅したかったので、6つの要素と3つのルールにしましたが、まだ整理しきれていないのです。他にもあるなら教えていただければと思っています。
門上 混沌としたものを、まずは6つの要素と3つのルールに整理して第一ステップを提案していただきました。僕も岡さんといっしょに山口さん、山根さん、高橋さんそれぞれ事前に会い、話をさせていただいたのですが、高橋さんは最初にコンセプトをはっきり出されました。
高橋 日本料理では、相性自体ウォッシュタイプが多い。日本料理は日本酒と相性がいいのは当たり前ですが、日本酒はアルコールと若干の苦味が特徴ですから、苦味とアルコールからウォッシュ、シェアというタイプの料理にもっていく方向性になるのです。ニューのタイプのものになると今度は素材自体が変化することを好まない料理で、そこでマリアージュを起こすことは結婚による束縛みたないもので、結婚して失敗したかなという感覚に陥ってしまう。必ずしも結婚はよくなくて、独身を貫きながらちょっとハーブを変えるみたいな、そういうタイプの方が好ましいような気がします。
門上 山口さんや山根さんとは、そこで分かれているような気がしますね。
高橋 僕も山根さんはギョーザでくるなと思ったんです。組み合わせて複雑さにもっていくというのは、日本料理にはほぼないので。そこがわりと特異性というか、そこでお酒やワインに合わせるにも、そちらの方に合わせる姿勢がどうしても自動的に発生してくる。ワインは常にコンプレキシティが重視されるので、その方に振れていく。そちらの方にフレーバー、味わいをさせるという、どこへもっていくかが重要になってくると思います。
門上 山根さんの考えをお聞かせください。
山根 シンプルさを目指しているのですが、ただ、高橋さんがおっしゃるように日本料理はクリーンで雑味がないというか、そういう料理を志向してきたのではないかな。温度は変えられるかもしれないですが、何皿かの料理を取り進めた時に同じようなものを繰り返している感じにならないようにするのは難しいのではないか。同じ季節に何軒か食べにいくと、同じような感じがしてしまいがちとか。その中で、それぞれの店や料理の献立の中でメリハリとか違いを明確に出して食べ飽きさせないことができるか。それが和食の今後のテーマなのかなと思います。イタリアンとかフレンチは伝統的にそれをやってきているのかもしれません。
高橋 確かに春やったら木の芽ばっかり乗っている、かというと、秋になれば黄色の柚子がやたらかぶる。日本酒だったらそれでいいとしても、ワインだったらそれに全部振られて、チョイスになると必ず木の芽に合わすワインだとシノンとかになってくる。柚子だとイタリアの南の方の感じのワインだったら合うという、そこに固定化されますよね、日本料理の場合は。
山根 香りとか味の共通項で括っていくことにおいては、そうだと思います。柑橘には柑橘を思わせるワインとか、山椒とオレンジの相性があるのでそれに合わせていくとか限られてくるけれど、西洋料理は相乗効果を考えるから、必ずしもその組み合わせではないと思う。もしかすると油脂を加えることが大きく影響しているような気がします。最初にワインのマリアージュかなと気がついた時、そう思ったのは、普通に結構、脂がのっているステーキのような料理を食べて、タンニン系の強いカベルネ系のカベルネ・メルロー、ボルドータイプのワインを飲んだ時に脂っぽさが消えて、ソースや肉自体もまろやかにクリーミーに感じたんですね。それは初めての経験で、これはうまいなと。それまで香りが似ているとか、相性がいいものを見ていたけど、どっちにもない味に落ち着いて、すげぇと思ったことがあるんですね。油脂だと感じます。
門上 山口さん、お二人の会話を聞かれていかがですか?
山口 6つの要素と3つのルールについてですが、本研究会の過去のテーマにあったメイラード反応の話にも出ていましたが、和と西洋、それぞれの料理が持っている、もともとのスタンス、ロジック、求めているものの違いが見えたようです。高橋さんが言われたように、和食には日本酒ですが、フランス料理はニューを求めているのかなと思います。どういうふうに料理していくかという時、高橋さんがされたことは料理人がワインに寄っていくのですが、フランス料理はそれをあまり考えない。フランスのマリアージュには自由婚がありまして、自由な結婚もできるので、マリアージュが束縛かというと、そうではない世界もあるんです。今日は「好きなように合わせてください」という包容力と「これでも、うまいやろう」という人間性も見えてきたのかなと思いました。
門上 皆さん、個性の際立った方々ですから。吉岡先生、山根さんの料理は何料理だと思われましたか?
吉岡 ギョーザがここまでおいしくなるのには驚きました。味をどう重ねるか、ほんとにバランスが大事だなと思いましたね。ただし、ラヴィオリは専門ですが、餃子の包み方はもう一つでしたね。



門上 山口さんからは和食と西洋料理の違いが出ましたが、中華はワインでもなく、清酒でもなく、紹興酒ということでしょうが、中国料理はどうなるのでしょうか?
吉岡 基本的に中国料理は紹興酒が絶対的というイメージが強いですが、そうではありません。話をお聞きしていて、似たもの同士が合うのかなとも思いました。中国に陰陽五行説がありますが、陰陽とは全てのものが対立すると同時に、統一のある「陰」と「陽」の両面を持っているという考え方です。簡単に言えば、男性と女性は対立する関係ですが、二つが揃って世界が成り立つ関係です。五行説とは、万物すべてのものは5つの基本物質からなり、これらが関係し合うことで様々な現象が生じるという考え方です。水は木を生じ、木は火を生じ、火は土を生じる。互いによい影響をあたえる関係を「相生(そうじょう)」といい、相反する関係を「相剋(そうこく)」といいます。ワインと料理を考えるとき、似たもの同士もいいのですが、相反するものが出合い、いかにデザインできるか。不足は相生によって補われ、過剰は相剋によって抑えられて平衡が保たれる。色の相性でも補色はセンスの悪いことになる可能性が大きいが、うまくデザインしていくことも面白い、大きな魅力のように思います。
門上 川崎先生、吉岡先生からは陰陽五行説も出ましたが。
川崎 他にあるものを補う意味でも「ニュー」という概念を示しましたが、ちょっと違いましたね。足りないものを補うという発想ですね。足りないものを補い合うという考え方もありますから、もう一回考えます。今日、話を聞いていて、料理とワインのバランスは時間と強度、どっちかが覆い被さることにはよく気を使っておられるなという印象でした。どっちかが強すぎると、よくないことと、油脂については油脂に香りが溶ける。フランス料理やイタリア料理は、アルコールとか香りをどんどん入れていって液体からも出る、香りが長く続く。日本料理の場合、香りは素材として、そのまま置きますから、嚙む瞬間に香りが口の中に広がる。スポットで香りが咀嚼ごとにポンポンと出てくる。そういう意味でも香りの使い方が違うのかなと思いました。
門上 どんどんテーマが広がり、面白いのですが、ノンアルコールというのも外せませんね。
岡 話をしていきますとキリがないのですが、こういう場では難しい言葉も出てきがちです。それが一人歩きすると、こわいなと思っています。我々はお客さん商売なので、あまり難しい言葉はお客さんには使ってほしくないと思いますね。
門上 今日はあくまでもプレゼンテーション、提案で、川崎先生ももう一つ要素を考えてみようかという次のステップに進んだような気もします。料理と飲み物では、こういう可能性もあるのではないか、こんなアプローチの仕方もあるのではないかとか、ノンアルコールとか。会員の皆さんの意見があって、「相性」については、もっと皆さんといっしょに考えていきたいと思っています。会場からご意見をいただければと思いますが。いかがですか?
会員 うちの店では毎月、ワイン会と日本酒の会をやっています。毎回、5種類の日本酒を飲めるようにいろんなタイプをお出しします。会を重ねていくと、日本酒だけ飲んでおいしいお酒は、相性が面白くない。シェアですね、同じ要素の料理と同じ香りのお酒は誰が飲んでも安心できる味わいで驚きがない。会を重ねると、「この酒、感が強すぎる、香りがたち過ぎて料理に乗らんやろう」というお酒ほど、いろんなお料理を出すと、まさにニューですね。全然違う香りが飛び出してきたりするのです。そういう時こそ、お客さんが感動を覚えるんですね。似た者同士より、美女と野獣の方が印象が残るし、楽しい。飲食店は、当たり障りのないもので安心した味で間違いないというのもいいんですが、どこかで驚き、ニューをいつも求めたいと思っています。人それぞれ違うと思いますが、そんなことを考えながらやっています。
門上 いろいろ新しいアプローチ、感動を覚える話も含めて、皆さんから「自分だったらこんなのがいけるのではないか、こういう感じがあってもいいのではないか」というご意見をいただいて試してみたいと思います。「相性」の第一回目については、6つの要素と3つのルールを提案させていただきましたが、それを次のステージに上げようと思います。今日はどうもありがとうございました。



