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![「料理と飲み物の相性 Part2」Program 2:スタディ[科学の視点から]](https://food-culture.g.kuroco-img.app/v=1774927651/files/topics/668_ext_2_0.jpg)
「料理と飲み物の相性 Part2」Program 2:スタディ[科学の視点から]
Program 2:スタディ[科学の視点から]
講師紹介

・『料理人のための「料理と飲み物の相性」のサイエンスとデザイン』講義その2。前回示された「相性の要素の分類」もバージョンアップです。
ワインを昼間から飲むとおいしいですね。今日はまず、前回の復習からです。 前提として、「相性」は難しい分野だというのをご理解ください。研究もほとんど進んでいません。料理だと調理科学、ワインだと醸造学、というような学問分野がかかわってきますが、「相性」には人が介在する、しかも、好みとか人がどう感じるかが介在するので、境界領域で科学的な研究として捉えるのが難しかったのです。もう一つ、料理とワインの相性をいつ判断するか。料理を飲み込んでからワインを飲んで判断する人もいれば、ワインを飲んでから料理を食べて判断する人もいる。いつ判断したかによって話が違ってきます。口の中に料理を入れている間にワインを飲むのはあまり品がよくないことなので、無視してもらって。今回は、ワインを飲んで、飲み込んでから料理を食べた時の判断としました。以上の前提条件を頭に入れておいてください。
今回、特に話したいのは「時間」の話です。人が口に食べ物を入れて食べる、その時に3つ情報が脳にいきます。まず「質」、甘い味とか柚子の香りとか、種類ですね。次は「強さ」、濃度です。その二つがよくいわれます。ソムリエも強いとか、弱いとかの表現をよく使います。それに「時間」。例えば、香りをいつから感じて、どのくらいの時間続くか。口の中では時間差で起こっている。口に入れてからどうやって質が変わっていくかを体験する。この3つを頭において味わうことが重要です。その中で、今回は「時間」に着目します。
昨日、シェフお二人の店にうかがい、シェフご自身に今回プレゼンされる料理の評価をしていただきました。ワインだけを味わった時、料理だけを味わった時、そしてワインと料理を味わった時。どういう質の味、香りがどれくらい続くか、いつからいつまで続くか、その順番をある手法を使って評価しました。評価したワードは、それぞれのシェフから出てきた言葉です。
・山口さんの場合、今回のピノ・ノワールに関しては、粘度を感じてその後、酸味が続いて、甘味がして、苦味、ベリーのフレーバーがして、最後に渋味で終わる。口に入れてからどれくらいの時間が続いているか。ワインだけだと36秒くらいまで続いています。料理だけの場合は甘味がして、酸味、苦味、うま味、魚の皮目の焼いた香ばしさが後に続いて苦味がして、噛んでいるとうま味がする。ワインと合わせると、料理の味がどう変わっているか。最初、ワインの酸味が残って肉のうま味、苦味、渋味、そして「コク」。まろやかなという表現もされていましたが、合わさったことによって初めてまろやかな新しい味が出たということがわかります。今日、皆さんが食べた鱸の料理とピノ・ノワールを合わせたらこう変わったと。これが一つのマリアージュの見方ですね。料理とワインが出合った時、料理の感じ方がどう変わるか。「おいしかったな、マリアージュがよかったな」と判断するわけです。あくまで料理されたシェフ自身の感覚です。こういうつもりで作ったというのではなく、実際に味わってもらって表現してもらった言葉です。
・山根さんの場合、ワインはピノ・ノワールの酸味があって、塩味、ベリーがあって、苦味、と山口シェフと似たような評価です。料理だけだと仔羊のフレーバーがしてミルクの印象があって、塩味、うま味、ミルクでうま味があってトリュフがあって、最後、羊が残った。では、合わせたらどうなるか。ミルクがあって香ばしさがあって羊があって、うま味、甘味、その後、「まろやか」という言葉を出されました。山根シェフの場合でも合わせることによって新たなワードが出てきました。ベリーが残っていて最後に羊が残る。本来この実験は繰り返しやるんですが、今回は一回の評価にしています。どこを切って食べるかによって変わってきますが、できるだけ味わった部分を評価することをやってもらったわけです。マリアージュの一つの表現だと思います。少なくとも料理人の考えとしては新しいワード、合わせたことによって「まやろか」というワードが出たことが重要かなと思います。料理に対してワインがどういう影響を与えているのかという見方もできる。それは単に香りを足しただけではない。「まろやか」とか「コク」という新しい言葉が出たことが発見だったと思います。
前回の復習を踏まえて。お二人が感じたことはどういうメカニズムから出てきたかを検証しておきます。味に関しては、脳に伝わる情報は5つしかない。五味覚はそれぞれ受容体が決まっている。中でも、甘味、うま味、塩味は生得的に好まれることもわかっています。最低限この3つのどれかが入ってないと料理はおいしいはずがない。酸味と苦味は生得的に嫌われる。酸味と苦味は経験によって変わっていく。嗅覚は、味との連合学習で好き嫌いが決まります。匂いの好き嫌いは生得的に明確に決まっていない。匂いは「記憶情報」ともいわれていて、その人がどんな匂いを経験してきたかが好き嫌いに影響する。ある匂いが、おいしい味と組み合わさるから、いい匂いに感じる。バニラの香りはバニリンという化学物質ですが、バニリン自体は苦いのに香りは甘く感じる。これは、バニラの香りと甘いアイスクリームといっしょに経験してきているから、これは甘い匂いだと思う。もう一つ記憶情報と「プルースト効果」。匂いを感じる嗅神経の受容体が鼻腔にあって鼻の前と後ろから情報がくる、その情報は脳の中で好き嫌いを決めるところに近いところに情報として行きます。好き嫌いを決めるところは記憶、海馬というものの近くにあって記憶情報を処理する。匂いを感じるとパッと記憶が呼び起こされるのを「プルースト効果」といいますが、好き嫌いを決めるのは重要で、記憶が匂いによって呼び起こされることも活用して判断している。
匂いを感じる嗅覚受容体は鼻腔にありますが、受容体はそこだけなんです。したがって、鼻腔の後ろからの匂いは絶対に口に入ったものしか匂いませんから、食品の匂いです。今までは前からも後ろからも同じだろうといわれていたのですが、最近の研究では後ろから感じる匂いが重要だと、それが食品の好き嫌いを決めるのに重要だといわれています。ワインも鼻から抜いて香りを判断される。理にかなっていることになります。
「相性」を好き嫌いではなく、科学的に説明したい。科学の最初は分類なんです。料理人もソムリエも、客もいろんなことを言う混沌とした相性を、科学者の観点から一回整理させてもらいます。「あなたがいう相性はこういうことですよね」と言いたいんです。今日は、相性の要素の分類案バージョン2を用意してきました。前回のを検討して、7分類に整理し直しています。
*図1:相性の要素の分類案相性の要素の分類案ver.2

<WASHウォッシュ>、口の中を洗い流すのは気持ちいいから、相性がいいんだと。アルコールが油脂を乳化させてくれる。それはワインも日本酒も同様でしょう。他の要素として水、硬水の方が洗い流しやすい。口の中に唾液があって、その上に油脂が乗っているとする。油脂がまとわりついている状態は気持ち悪い。では、どうやって流すか。水を流すだけで油脂は流せません。油があって水を流しても残りますね。じつは、流すというのは唾液が流してくれている。唾液には粘度のあるタンパク質がありますから、硬水のカルシウムとタンパク質が結びついて、唾液といっしょになって油脂を包み込んで流してくれる可能性があります。ワインはその酸によって唾液が分泌されます。唾液が多くなって流しやすい可能性もある。ワインの酸自体が味の強さを弱める場合もある。炭酸水は炭酸そのものが油脂を除去してくれます。さらに赤ワインはタンニンがありますから、タンニンが唾液タンパク質と結びついて流してくれる。タンニンという点では、お茶でも同様の効果があるでしょう。ところが口の中の皮膚というか粘膜は全部タンパク質ですから、タンニンは唾液だけでなく、口腔内にもどんどんはりついていく。赤ワインを飲むとどんどん蓄積されていくことも考えられます。
<BAD FLAVOR バッドフレーバー>、悪い匂いが発生すること。最近、メルシャンの研究者が発見したことで、ワインに含まれる鉄イオンが魚介類の脂質と反応して脂質酸化物を発生させることがわかりました。魚介類と赤ワインとは相性が悪い、魚介類と白ワインは相性がいいと言われる。ところが魚介類に相性が悪い白ワインもある、それはなぜか。白ワインでも、醸造法、保存方法によって鉄イオンが入り込むことがあります。魚介類の脂質は酸化されやすく、ステンレスタンクとかの鉄イオンがそれと結びつきやすいので口の中に入れた瞬間に脂質酸化を起こし、生臭いと感じるものが出てきてしまうことがわかった。物質としてはヘキサナール、ヘプタナールとかアルデヒドという成分です。口の中で一瞬にしてそういうことが起こっているらしいと。香りは複雑なので悪い成分があるだけで嫌になることもあります。
<NEW ニュー>、味というのは、甘味受容体と塩味受容体は全く別なので、甘味と塩味をいっしょに味わっても単に甘味と塩味がするだけでA+BはABなんですね。ところが、香りはA+BはCになってしまう。我々の嗅覚の受容体は400種類。しかし、認知できる香りは1万種類ある。400種類の受容体で1万種類を認識できるのはどういうことか。味は5種類の受容体で5種類の味覚を認知する、1対1対応です。ところが、匂いはパターン認識ですから脳はパターンが違っていると匂いが変わったと認知する。それがA+BはC理論。2つ合わさると新しい香りが発生する。その新しい香りが良い香りであれば、相性が良いと判断されるでしょう。
<SUPPLEMENTサプリメント>、補う、料理の要素をワインで補う。ハーブの香りをワインで補う。月刊専門料理の連載でやってもらったのですが、オマールの料理があってハーブを使っていて、ハーブの要素をワインに求めたらどうなるか。できないことはない。でも厳密にいうとやっぱり違うんですね。ハーブの香りをワインで補うことはできないですね。なぜか。ハーブは固形ですから嚙んだ瞬間に香りが出ます。ワインは流し込まれますから違うんですね。でも可能性はあるかもしれません。
<SHAREシェア>、ソムリエの中では重要なこと、香り成分を「シェア」する。同じ香り成分を持ったり、感覚的に同じ香りがするから相性がいいということもできる。そういう情報を提供している会社もあり、ホームページもあります。チキンの香り成分を分析して共通の香り成分を持つハーブとかを示している。チキンに対してヨーグルトとかブラックオリーブ、リーク、ネギとかが共通の香り成分がありますよと教えてくれる。しかし、だから相性がいいとは限りません。試してみるしかない。そこに好みが入るからだと思います。料理人が相性を考える時は、経験でやるわけです。その経験を外して、とりあえずこの可能性があるから一回試してくださいというふうに思った方がいい。悪いことではないが、相性がいい可能性がある、このデータを利用するなら高額の使用料がかかるようですが、それをやるシェフもいます。新たに検証するということです。
<DOMINANTドミナント>も結構重要かなと思っていて、飲み物と料理、どちらかの強度が強すぎて感じる時間が長すぎたりすると印象がどちらかに偏ってしまう。オランダの研究者が学会で発表されたのですが、バランスをとっているから相性がいいという。どちらかがドミナントだと嗜好性が低くなるという話です。この料理に対してあるワインを飲んだ時にワインが優勢だと嗜好性は結構低い。ワインが優勢でも、嗜好性が低くなる。逆にどちらも強くない状態ほど嗜好性が高くなるという実験結果です。どっちが「強い」かを、判断しています。相性とはどちらかが強いと相性が悪いと判断していいと思います。ワインが強くてもだめ、料理が強くてもだめ、強さと時間、ワインが長くてもだめだし、料理が長くてもだめ。どちらかの印象がなくなるということもある、それが「ドミナント」です。ドミナントがどちらかにいかずにバランスをとっているほどおいしいのではないか。実験で聞くのはおいしさ、嗜好ですが、相性で聞いてもいいかなと思います。
<WEAK/STRONGウィーク/ストロング>は、互いに強めたり、弱めたり、ドミナントにもかかわりますが、何かを混ぜてどちらかが弱まってしまうと相性が悪い。
以上の7つの分類が「相性の要素の分類」です。これで「あなたのいう相性はどれのことですか?」と議論できるのではないか。話の中でテーマが決められるのではないかということが一つ。あと、ルールとして、これがいいというのが相性がいいというルールを提示します。
*図2:全体としての印象に関する相性のルール

<COMPLEXITY 複雑さ>、いくつの感覚と風味を感じるか。短い間に風味や感覚を感じる状態では、複雑なものほどおいしい、「相性がいいね」という議論になるのではないか。複雑さがあるものがいいのではないか。山口さん、山根さんの料理と相性を思い出してもらうと非常に短時間の中で変わっていった。それが相性の一つの良さ、複雑さが高まったということがいえるのではないか。
<HARMONYハーモニー>、複雑とはいっても一体感がある方がいいのではないか。これは「シェア」の概念があてはまってきて、山口さんの場合、赤ワインに料理の赤ワインソースと、同じ香りのものがあるので一体感はあるわけですね。山根さんの場合も同じ香り成分を入れるのではなく、油脂との一体感、アニョー(仔羊)に入れたミルク、ソース、油脂による全体的な「まろみ」がハーモニーを醸しだしているのではないかともいえる。
もう一つ<BALANCEバランス>に関しては、今日の赤ワインはそんなに強くないということだったので、山根さんはメイラード反応をガリガリに起こさないということをあえてやられた。そこにバランスを保とうとしておられるのがわかる。メイラード反応をガチッと起こすと香ばしい焼いた香りが出ますからワインが負けてしまうのではないかということを考えられたんだと思います。
ということで、料理人もソムリエも自由自在に実際味わって作ってみて、デザインできるのではないか。例えば、最初、料理とワインを合わせる時に「バッドフレーバー」は当然避けます。その後、方針をどうするか。「ウォッシュ」させよう、ウォッシュさせるようなワインを選ぼう。「シェア」の方向でいこう、あるいは「ニュー」でいこう。それを「ドミナント」させようとか、最終的に「複雑」なものを醸しださせようか、「ハーモニー」を感じさせようか。お客さんに合わせて感覚をデザインする。フレーバーデザインは、じつはセンサリーデザイン、感覚をデザインするということなんですが、料理人もソムリエもお客さんの感じる感覚をデザインしているのですね。
*図3:相性のフレーバーデザイン
*図4:Non-alcohol相性のフレーバーデザイン


先に挙げた「分類案」のワードを使えば、シェフとスタッフとソムリエで、どのことをいっているかを議論できるのではないかと思います。方針を決めて、それをちゃんと図で描く。盛りつけを図で描くだけではなく、相性のいいペアリングまでも図で議論できるような気がするのです。そんなことも提案したいと思います。以上です。

