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「料理と温度の関係」Program 1:基調講演:料理人のための「料理と温度」そのサイエンスとデザイン 2/2
Program 1:基調講演:料理人のための「料理と温度」そのサイエンスとデザイン 2/2
講師紹介

●調理の温度
どうやって作るか。「調理の温度」の切り口として、加熱媒体と温度の関係をみます<参照:図4>。赤外線が加熱媒体の場合、ブロイルという加熱方法は180~300℃まで。炭火焼きは800~1,200℃。空気、気体が加熱媒体の場合、オーブンは180~250℃くらいの温度帯。よく肉を焼くとき「肉を常温に戻す」と言いますが、これは「室温で肉を加熱している」ということですね。肉にとって常温は室温ではない。下にいけばドライアイスや液体窒素があります。料理の世界では、昔は0~800℃までが調理の温度帯だったのが、今は液体窒素を使えば-120℃から、高温は1,200℃まで選択できることになります。水、調味液の加熱媒体に関しては、氷で冷す、茹でたら100℃、蒸すも100℃から。加熱水蒸気だともっと高い温度になる。水が水蒸気になり、それ自体、温度を上げて300℃まで上がる。オーブンの中で水蒸気が充満する状態です。水蒸気で焼くのが加熱水蒸気のオーブンです。油脂が加熱媒体の場合、低温だとコンフィ。中国料理は低温で油通しをする。あと、加熱で揚げる。金属が加熱媒体の場合、ソテーとか炒めもある。こういうことをイメージしておくと考えやすいかなと思います。

加熱温度の選択は、素材に何度でどれだけ時間をかけるかというのが重要です。肉を焼くとき、周りはメイラード反応が起こっていて中心がロゼ。難しいのは中心を60℃くらいにしたいのに、表面をカリッとさせるためには水分が蒸発する必要があるので、100℃以上にする必要がある。さらにメイラード反応をしっかり起こさせるにはもっと温度を上げる必要がある。例えばオーブンは、200℃で8分の設定で目指していたロゼになる。現代は、中心温度60℃でロゼなら、60℃で全部をロゼにしようという考えです。表面だけメイラード反応を起こせばいいということになる。それが低温調理、真空調理(Sous-vide)の考え方です。クラシックなやり方はグラデーションで表面から中のロゼへと変わっていく。現代の低温調理は全部がロゼになる。
加熱温度と素材の中心温度をまとめてみました<参照:図5>。横軸は加熱時間、対数の単位で1分、10分、1,000分、1万分となります。中心温度は40~100℃。焼きとりは数分で中心温度を60℃以下くらいにしたい。rotiもそうです。braiseeは煮込みになります。100℃でだいたい80分以上は加熱することになります。図の右上のdemi-glaceは100℃で何日も煮込む。低温で長時間はできないか。図の右下は伝統的なやり方ではない時間帯です。60℃で超長時間というのはあまりない。でも、現代ではできますよ、こんなことやってもいいのかなという話です。加熱温度の必要な判断としては、素材×温度×時間。表面にメイラード反応を起こしたいのか、離水をどの程度させるか、筋繊維同士を離したいのか。そういう目的によって、素材にメイラード反応を起こしたいなら120℃以上、離水をどの程度するかは60℃あたりでどうするか、筋繊維同士を離したいなら90℃で90分以上加熱しないといけない、というようなことが決まってくる。では、どこから考えるか。お客さんに料理を提供するところから考えることが必要になってくるわけです。温度差が大きいほど熱は速く伝わります。水の流れと同じです。ピザ釜は500℃で生地に水分がいっぱいあって1分間。なぜ1分で加熱できるかというと温度差が非常に大きいからなのです。

加熱の原理をみておきます。高温の物体に接触させる、電磁波を照射する、その二つ。まず、高温の物体を接触させる場合。物体には流体のものもあるし、固体もある。固体は伝導熱で素材に伝わる。液体や気体は対流熱で素材に伝わる。伝導熱のイメージは鉄板とか高温の固体に食材を接触させることで、運動エネルギーの玉突きが行われる。運動エネルギーが食材に伝わる。対流熱も同じで、液体の分子自体、水、油、気体が移動しながら熱を伝える。ということは、流体を攪拌した方が効率よく加熱できる。中国料理では低温で油通しをして必ずかき混ぜます。低温では流体が動きづらいので、かき混ぜることが大事になるのです。スチコンでコンベクション(対流)するのは効率よく加熱できることになる訳です。
電磁波は、赤外線とマイクロ波があります。赤外線は輻射熱。マイクロ波は電子レンジです。遠赤外線だから中まで通りやすいというのは誤解しやすいんですが、それは逆なんですね。遠赤外線の方が表面1、2mmで吸収される。中まで入らない。しかし温度が高いので加熱が速いのです。そこは勘違いしやすいので誤解しないでください。加熱器具はオーブン、フライパンなど。フライパンでは伝導熱もあるし、出てきた肉汁による対流熱もある。伝導熱としては肉の表面から肉内部に伝わる状態が考えられる。オーブンもファンがあるのか、ガスなのか、電気なのかによって効率は変わってくるという実験があります。茹でる、揚げるに関しても対流熱ですが、加熱媒体によって調理が違う。炭火は輻射熱の遠赤外線ですが、炭火の表面温度は800~1,200℃、電気ヒーターは600℃ですから炭火の方が早く温度が伝わる。遠赤外線の特徴は表面に焼き色がついて乾燥することです。内部は表面からの伝導熱でゆっくり加熱されて水分が保たれてしっとりする。なぜ炭火がおいしいかということです。蒸すのは独特で、メイラード反応がおこらないので焼き色がつかないのが特徴かなと思います。スチコンは60℃以下の設定だと誤差が大きくなるので気をつけた方がいい。温度計で確認したほうがよい。表示盤の温度だけでは不安かなと思います。
こんなふうにざっくりイメージをもっていただき、加熱媒体と素材、温度、時間と、複雑なことをコントロールしないといけないことになります。石窯で焼くとおいしい理由は何か。石は熱容量が大きい。熱容量とは熱を留めておく能力で、石やレンガは金属より熱容量が大きい。さらに石は放射熱が高く、同じ温度でも石は多くの赤外線を放射しますから、その意味でも速く加熱できるのです。

●温度のデザイン
最後に温度のデザインについて。温度を変える、温かいものと冷たいものを同時に合わせる、フォアグラを液体窒素で凍らせたパウダーに、熱いコンソメをかけて食べるなど、おいしかどうかは別にして表現としてはあるわけです。温度に関してはヘテロなものを口に入れると驚きがある。ただ、重要なのは一体感があること。全く別のものを合わせるだけではなく、一体感が重要だと思います。もともと温かい仕立ての料理を冷たい仕立ての料理にするというのもあります。逆に冷たい仕立ての料理を温かい仕立てにすることもありうる。炊き合わせにしても、温かいものを冷たい冷し鉢にすることもできる。それはそれでおいしいと思うのです。
温度を見せるデザインに関して。日本料理では氷を使ったりしますが、皿に水滴とか霜をつけ、見た目を涼やかにすることもできるでしょう。水滴とか霜をつけると皿は凍っているという印象がある。そういう表現があったりする。近年、料理人が自然をどうやって表現するかに着目しています。自然を表現するのにジオラマみたいな料理もあるかもしれませんが、日本人はもうちょっとバーチャルな、概念的な自然表現の方が馴染むかなと思っています。温度でしかできない自然表現はないのでしょうか。見た目で温度を表現する。氷柱とか霜柱を見ることによって口に入れるのではなく冷たく感じさせる。日本には「見立て」という文化があります。見立てによって「温度」を表現する。「ああ、冷たいな、寒そうだな」と感じさせることによって、キンとした緊張感すら表現できることもあるかなというのが最後に話したかったことです。
重要なことは何のための温度のデザインなのかということだと思います。温度は構造とか成分を保つためにあるし、温度の感覚は温度を感じさせるため。調理の温度は食材の状態を変えるため。そしてデザインは何かを表現するため。面白いからではなくて何を表現したいのか、何のためなのかをしっかり考えてデザインをしていったらいいかなと思います。

