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「料理と温度の関係」Program 3:ディスカッション+質疑応答 3/3
Program 3:ディスカッション+質疑応答 3/3
講師紹介



門上 時間と素材の質についての質問が出ましたが、他にありませんか。
質問者 料理と温度ということで、タンパク質、油脂に温度がどう作用して変化するか。料理人としては、温度というのは食の安心・安全を考えて安心して食べてもらうには大事なことだと思っています。その中で、料理人として温度を使っておいしいものを作ることと、安心・安全をお客さまに提供することと、そこの棲み分け的なところ、考え方について知りたいなと思いました。
山口 それは大切なことです。説明しましたように、57℃では肉の殺菌にはなりません。83℃で3分間加熱することで表面の汚染はリスクヘッジしています。温度管理しながら加熱するということです。フォアグラはその作業をしていない。塊の状態の時に微生物研究所に出して大腸菌とかすべての菌の検査をしました。結果は「優良」ということでした。しかし、誰かが言っていたから安全ということでは通用しない。料理人が店で供した時は、全部、料理人の責任になってしまうので、各自がちゃんと責任をもてるエビデンスというか、安全は確保しないといけない。微生物研究所に検査に出したものがたまたまよかっただけで、実際は殺菌作業をしていませんから、昨日、自分でマリネ液を180cc飲みました。起きても大丈夫だった、という最終的なエビデンスをしています。
村田 山口君は普通の人間とちゃうからね。真空調理にはもともとリスクはあるんです。真空調理の基礎技術に関する本も出ています。基本的に手袋をするとか、袋の中を殺菌するとか、厨房では別のまな板を使うとか、そういうことは自分でちゃんとやらないといけない。形だけ真似してたら、えらい事故に結びつくことはあると思います。
質問者 川崎先生に質問です。口の中の温度、アルコールの場合はどういうふうに変化していくのでしょうか。それと、温度と温度の面白い食べ合わせとかあれば教えてください。
川崎 アルコールに溶ける香りが多いのとアルコールには揮発性があります。温度だけではなく、口の中から鼻に抜ける香りが多くあるので、酒に関しては、より香りが感じやすくなるということではないでしょうか。温度と温度の食べ合わせに関しては、食材として同時に口に入れたいが、熱いほうがおいしい食材と冷たいほうがおいしい食材だった場合は、そういう組み合わせもあると思います。口に入ることによってそれぞれのよさが出ると思うのです。あとは価値観の違いですね。
門上 山根さん、熱いものは熱く、冷たいものは冷たく。文化によって日本とヨーロッパでは違いますよね。パスタも温度帯によって、かなりいろいろあると思いますが、いかがですか。
山根 日本ではアツアツのラザニアとかがココット鍋でグツグツしながら出てくる。舌を火傷するようなのがいいとされているけれど、ヨーロッパでの記憶でいうと、あまりそういうのを食べたことはなかったですね。全体にチエド、ぬるい感じ。ラザニアでも焼いたものがポンとあって、そのまま切って出すとか。もう一回アツアツにはしない。味覚や香りは、口の中の受容体で感じるということからすると、あまりにも高い温度のものは受容体が傷つき味を感じなくなる。味を感じているのではなく、痛さとか、辛いのもそうで、味わっているとはいえないので「おいしい」と感じる温度帯は、じつは違うところにあるのかなと思える。いかにも熱い、冷たいというのは演出の部分が大きいような気がします。皿をキンキンに冷やして結露が浮いている状態に盛ったら冷たいものを食べているような気がする。蕎麦もそうだけど、冷たくて頭がキンとするような蕎麦、おいしくないでしょう。湯がいてシメてはいるが、どこかほんのりあたたかく感じる、20℃より上で食べた方が香りも甘味も風味も感じる。果物も冷たい方がおいしいと思いがちだけど、冷たすぎる果物は歯に染みます。甘さと香りは落ちます。最適においしく感じる温度は食材によっても違う。もしかしたら、ヨーロッパ人はめちゃめちゃ熱いものとかを避けてきたのな。飲み物でも日本は氷をすぐ入れますよね。ヨーロッパでは氷を入れない。ちょっと大人っぽい感じがしますね。
門上 イタリア料理で冷性パスタとか、ほしいなと思うようになりますか。
山根 冷性パスタはやってないでしょうね。原型としてはトマトをオリーブオイルでサラダにして、そこに茹でたての熱い麺を入れてササッと絡める。ぬるい感じになりますよね。それは昔からあった。ミントとかバジルを効かせて夏に食べる。ぬるいといえばぬるいけど、冷めて延びたものではない。冷たくさせて味が乗っかって、微妙にぬるくなっているのは結構おいしいですよ。
門上 蕎麦の温度の話が出ましたが、中村さんはちょっと生ぬるい方がいいのではないかと思われますが、いかがですか。
中村 冷た過ぎるのは、口に入れると冷たいので、やはり違和感のないくらいの冷たさが好きですね。
村田 実際に冷たく感じる演出はしますけど、ものを冷たくしたら味がわからんようになります。吸いもんの温度に関しては80℃ぐらいでないと「ぬるい」と言われます。ヨーロッパでは熱くても65℃くらいです。この頃、お客さんの3分の1が外国の方なのでややこしいですね。鮎とか焼くと、食べられないほど熱いと日本のお客さんは喜ばはる。ヨーロッパの人は熱過ぎて口の中に入れて、すぐ水を飲んだりする。日本人が感じる「おいしいと思う温度帯」とヨーロッパ人が「おいしいと思う温度帯」は大分違いがあるのではないか。積み重ねの生活習慣で、日本人は幼児から「熱いで、気いつけて、フーフーして食べや」と言われて熱いものを食べてますけど、ヨーロッパの子どもはフーフーして食べていることはないと思いますよ。中国人も熱いものは食べはります。熱いものを食べるのは、日本人と中国人と韓国人と違いますかね。
吉岡 中国でも基本的には熱いものは熱く、冷たいものは冷たくですね。冷たいものに熱いものを組み合わせるのはありえない。1980年代、アツアツのコンソメを飲みながらフォアグラのシャーベットをスプーンで食べるとか、グラスに冷たいスープが入っていて途中まで飲んだら半分くらいで逆転するという奇抜な発想の料理が登場してきた。香港のマンダリンホテルにピエール・ガニェールさんとかランドマークにロブションさんの店ができて中国料理のシェフは新しい料理の刺激を受けていますが、今、香港ではそういう影響を受けているのは2軒くらいでしょう。しかも、お客さんは外国人の方が多い。まだ、現地の人には受け入れにくいというのが実情みたいです。
門上 いろんな新しい調理法の話も出ました。好まれる温度帯は西洋と東洋では違う。村田さんは外国の人には吸い物を65℃で出されるという訳ではないんですね。
村田 それをやりだすと、ややこしい。塩加減も変わってくる。煮方もややこしくなるので、えらいことです。味から変えていかないといけないし、うま味成分の調整からしていかないといかんので難しいですね。郷にいれば郷に従え、日本に来たら日本人のように食べてもらうということですね。
門上 温度は食べる側からいうと文化圏とか土地にあったものに由来するものが多いこと、道具をどういう使い方をするかによってプレゼンテーションも変わってきます。温度だけでも口の中の温度、体感とか、いろんな切り口が出てきました。次回はまた違う角度でアプローチしたいと思います。皆様、どうもありがとうございました。



