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「料理と温度の関係 Part3」Program 2:スタディ 1/2
Program 2:スタディ 1/2
講師紹介

温度の話は3回目です。1・2回目は科学的なこと、知識になる部分を話しました。今日は使い方、考え方に着目したいと思います。
■「おいしさ」のデザイン<参照:図1>
料理における「デザイン」とは何か。こう考えてみます。まず、お客さんの口の中で、どう感じさせたいか。それにはどういう成分が必要で、どういう構造が必要か。その料理を出すためには、どういう調理が必要か。というふうに考えることがデザインなのです。吉岡先生は、まさにこういう考え方で「どういうものが必要だからこれを入れる」と説明されていました。中国料理の場合、特に動きが速いですから考えている隙がない。事前によく考えないといけない。お客さんにどう感じさせたいかを考えてから調理を開始する。デザインを意識する、デザイン思考はこれから大事になっていくだろうと思っています。もう一つ、「おいしさ」は人によって違います。料理人はどうすればいいか。料理人は「完成度」を高めるためにいろいろ考えて料理します。そして、お客さんに判断してもらう。それが合えば「おいしい」と思うし、合わなかったら「おいしいんだけど、好みではない」と思うだけです。「おいしさ」と「完成度」は分けて考えればいいかなと思います。

「料理のアイディアと考え方」について。「どうやっておいしい料理をつくるか」と考えるのは技術論。これはもちろん大事ですが、「どうやって新しい皿を考えるか」のデザインについては、おそらく調理師学校の授業でもあまりないだろうと思います。ほとんどの場合、若い学生は技術を学ぶことが先で、10年とか修業して自分の店をもちます。その時、「新しい皿」を考えないといけなくなる。そこで困る。ベースの技術があっても考え方がなければ新しい皿を思いつくこともできない。どうやっておいしい料理をつくるかという技術は、how。どうやっていくかは大事なのですが、さらに重要なのがwhat、どういうものを考えるか、何を食べさせるべきか。両方、大事ですね。デザインは技術とは別なんです。技術が上がればできることが増えるので「デザインの能力」も高まっていく。こういうものをつくれるという技術が上がっていく。「デザイン能力」が高まっていくと「実現したい技術」が必要になってくる。だから技術を高める。「デザイン」と「技術」は両方が必要で、技術が上がればデザインも上がる。デザインが上がれば実現したいことができる技術も生まれるのです。
今日はどんな話かというと、「デザインする力」はどうやって培われるかです。トップシェフはすばらしい技術をもっているだけではなく、すばらしいデザイン技術をもっています。技術は誰でもできる部分が多い。「新しい料理」を考える時、「その見方、その作り方は今までなかったな」ということがある。今日はそういう話です。トップシェフはどうやって、その料理を考えることができたかをひもといてみたいと思っています。
■クリエイティビティ(創造性)の段階<参照:図2>
修業先で覚えた料理、昔からの料理など既存の料理からどのように新しい料理を考えていくか。ステップ1は「調理法全体」から始めます。調理法そのものを変える、温度とか時間を変える。技術論になります。例えば、飯蛸は昔こういう温度で調理していたが、今はこの温度帯で加熱しているとか。それは調理法全体を変えることにつながります。ステップ2は「食材」。ある調理法を他の食材で試すとか。技術はジャンルに関係ありません。例えば、焼くことに関しては食材から考えて、フランス料理の焼き方も日本料理の焼き方も、食材のたんぱく質変性が起こるとかという意味では同じ部分もある。今の調理法を他の調理法で試すことによって新しい料理法ができていきます。ステップ3、これがメインですが、「調理法の分解と再構築」。調理法を分解し再構築して新しい効果を生み出す。こういうステップがあるのではないかという提案です。そういうことも含め、トップシェフは素材に向き合い、何を表現したいのか、何を生かしたいのか、非常に哲学的な方向にもっていくんです。あとは本人のセンス次第です。以下、ステップ3までを更に詳しく話したいと思います。

<参照:図3>は「温度と調理技術」の切り口で今まである調理技術をまとめた俯瞰図です。「ブロイル」は日本語の炙り焼と同じ。赤外線を使って200~250℃に食材をおく。「蒸す」は水蒸気で100℃で加熱すること。「茹でる」「煮込む」は水や調味液の中で100℃で加熱すること。「揚げる」「油通し」は120~220℃くらいまで。「オーブン」は空気で食材を加熱する。「炭火焼」はさらに温度が上がって赤外線で加熱する。「コンフィ」は油脂の中で80~120℃くらいで加熱する。「過熱水蒸気」は水蒸気をさらに加熱する。水で焼くのです。水蒸気は水の気体で、温度を上げると「過熱水蒸気」といいます。焼いているジャンルに入ります。「ドライアイス」は温度を下げる。マイナス196℃までいく「液体窒素」というのもある。「低温調理」は今までの調理の中では低温だということです。それがなぜ可能になったか。温度センサーがなかった時は水が100℃になったら見た目がボコボコしますから100℃というだけ。それより温度を低く保つことが難しかった。温度センサーがあれば50℃でも保つことができる。「アイスフライ」はマイナス180℃、液体窒素の中に油脂を入れれば油脂が固まる。「低温焼き」は、この図の隙間を埋めれば新しい調理技術ができるのではないかという考えです。赤外線で100℃以下の加熱ができるかどうか。低温炒めもできませんかね。100℃以下の鉄板の上でゆるやかに炒めていく。デンプンのミルク炒めの糊化は水100℃以下でもできるわけで、そこまで温度は高めなくてもよい。隙間を見つけると新しい調理技術が発明できるのです。例えば「アイス炒め」。ごく低温にした鉄板に液体のミルクを入れて炒めながら冷やしていくこともできます。

■ステップ1:加熱時間と中心温度の隙間を見つけよう。<参照:図4>
横軸は「加熱時間」。対数で1分、10分、100分、1000分となっています。縦軸は「中心温度」。焼き鳥は中心温度60℃にもっていくのに炭火の強い火でガッと焼きますから10分以内に焼く。「煮る」は中心温度が100℃になるのを10分以上。中国料理だと「燉(ドゥン)」とか「煨(ウェイ)」とかも煮込みのジャンル。調味液の中で煮込むのも中心温度は100℃です。1時間も煮ません、20、30分ほど。「ロティ」「コンフィ」もこのあたりにプロットされる。ドミグラスは100℃で、昔からの洋食屋では「二日かけました」とかいいますが、何が起こっているか。100℃でメイラード反応を起こし続けているのです。隙間はどこにあるでしょうか。まず低温長時間、焼き鳥を60℃で2日間やるとどうなるか。豚を50℃で24時間加熱したことがあります。肉の自己分解酵素に働きかけることができる。柔らかくなります。表面はゆっくりとメイラード反応が進む。衛生に気をつければできる。さらに低温長時間で3日くらいになると衛生に問題があります。こんなふうに隙間を見つけていく。表を描いて自分の知識で隙間を見つけていくと新しい調理技術が生まれる。やってみてください。

北新地の「焼鳥 市松」では、名古屋コーチンを1週間乾燥させ、炭火でゆっくりと焼いている。彼は思いつきでやったと言っていますが、マトリックスを描いて考えると、どこを埋めたかがわかってきます。事前に感想をして水分を抜いて、鶏を自分の油の中で肉をゆっくり火入れすることを考えている。コンフィといっても油にドボンと漬けて80℃で加熱するのではなく、自分がもっている油の中で筋肉が加熱されるというイメージをもつと、こういうこともできるのです。
■ステップ2:加熱調理を他の素材でやってみる。<参照:図5>
料理人にこの表を見せると、これがあると何でもできてしまうと言われました。横軸に「食材」、縦軸に今までの「技法」を書いています。マトリックスを埋めていくのです。牛肉は液体加熱でいうとブレゼがある。液体加熱で横に見ていくと、牛肉、仔羊のブレゼ、白身魚はポシエ。卵はゆで卵、根菜類は茹でる。葉菜は煮る。水蒸気加熱はヴァプール、魚に関しては蒸すがある。卵は茶碗蒸しがある。野菜も蒸して食べる。肉はあまり蒸さない。日本だと蒸籠蒸しとかがありますが。こういうマトリックスをつくると、抜けているところが見えてくる。熟成では低温熟成肉はある、熟成魚も最近あります。卵を熟成させると腐敗かな。中国料理のピータンはそこに入るかもしれない。熟成野菜、根菜は熟成させます。ジャガイモとか。葉菜は熟成させない。熟成野菜はないのでやるかどうか、やってみて失敗してもいい。この表を使うことで空きが見える。発酵は加熱ではないですが、乳酸菌を使う意味では熟れ寿司。酵母は肉の場合は勝手についた酵母で熟成肉をつくっています。魚は危険ですが、できるかもしれない。野菜も酵母でつけるとどうなるか。魚の昆布締めはありますが、肉で昆布締めはあるか。野菜も昆布締めもあるかな。この表は横も縦ももっと広くできます。マトリックスの表をつくることによって空いているところが見えてくる。興味あるところをよく考えて、誰もやっていないことを見つけてみてください。

■ステップ3:さらに新しい料理の考え方。<参照:図6>
既存の料理を分解して抽象化し変換することによって新しい料理ができるという考え方です。おそらくトップシェフは頭の中で自然にやっているのでしょう。それを意図的に分けて考えると、誰でもできるようになっていくのではないかと思います。具体例が<図:7>です。「分解と再構築」は料理の発展に寄与してきました。ソースオランデーズは何からできているかと分解しました。バター、ビネガーとレモン、卵黄です。それを科学的に見たり一回抽象化して考える。すると、バターは油脂、ビネガーは酸、卵黄は乳化剤にあたる。そうして一回前のことを忘れます。抽象化した中で変換する。油脂はバターに、酸はビネガーに、香りならハーブに、乳化剤は当時は卵黄しかない。当時はそう考えて再構築して、ソースベアルネーズができたのかもしれない。ソースオランデーズとソースベアルネーズはどっちが先かという議論は別にして、考えることによって新しいものができていく。ソースベアルネーズにトマトピューレを足したらソースショロンになる。足したら新しいものになるのは簡単です。でも本質的に考えて中を変換するのは難しい。ソースオランデーズからソースベアルネーズを考えた人は、すばらしい。


