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「料理と温度の関係 Part3」Program 2:スタディ 2/2
Program 2:スタディ 2/2
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■「おいしさ」のデザインを考える
おいしさをデザインすることを考える時、どう感じさせるか、どうつくるかを逆から考えていくことに「分解と再構築」が役に立つのではないかと思います。たとえステーキであっても、そういうことができる。まず、ステーキは一体何かを考える。表面の焼けたメイラード反応は茶色く褐色になる。肉を焼く時にリアルタイムで何が起こっているか見たいと思い、耐熱ガラスを用意して下からカメラで撮影してみました。肉を上において耐熱ガラスの下からガスバーナーで加熱します。リアルタイムでメイラード反応、焼き色がついている瞬間が見える。焼き色は何からきているかが見える。下から見た映像です。だんだん白くなってくる。タンパク質が変性して離水が起こっている。温度が上がっていくと沸騰する。肉汁が沸騰する。沸騰が起こるとどんどん濃縮が起こってくる。茶色くなってくる。これがメイラード反応です。肉の焼き色、茶色は少なくとも肉汁が加熱されたものであるとわかります。だからおいしい。肉汁が濃縮して表面についている。
肉の加熱とタンパク質・アミノ酸の関係を整理しておきます。筋肉は筋原線維タンパク質からなっています。その中に水が含まれていて、水には2種類ある。自由水と結合水。結合水はタンパク質が離れてくれません。細胞の中にある水は自由に動ける。自由水の中にアミノ酸が溶けている。これが我々の舌に到達して味わいになるのです。肉を加熱すると縮んで、自由水が抱えきれなくなって出てくる。これが先程の液体です。アミノ酸が溶解している肉汁がある。肉汁が濃縮されてメイラード反応を起こすか、肉汁が肉の中に止まっているか。生の肉には味がない。自由水が出てきていないからです。何回噛んでも水は出てこない。肉を挽き肉機で回しても水は出てこない。この現象が起こってないからです。熟成、ドライエイジングの場合は自由水が飛んでいる。その自由水にはアミノ酸が溶解していますから水だけ飛ぶとアミノ酸は残る、だから味が濃縮される。さらに酵素によって筋繊維が切れています。だから柔らかい。筋線維たんぱく質が切れてアミノ酸になるには酵素が必要です。加熱しても酵素が働かないとタンパク質が切れてアミノ酸が出てきません。酵素が必要なのです。だから「熟成」という。肉を焼くとタンパク質が分解するというのは誤りです。酵素によって分解する。だしとか肉汁にはアミノ酸が溶解しています。タンパク質は加熱しても変性するだけで分解しない。タンパク質の分解には酵素が必要なのです。
■調理技術の分解:1ステーキを焼く<参照:図8><参照:図9>
ステーキを焼くというプロセスを分解してみます。初めはセジール、表面を焼く。次にルポゼでステーキになります。セジールとルポゼを抽象化すると、セジールはメイラード反応で120℃以上。154℃以上という人もいます。ルポゼは中心温度が58℃以上になるように表面から火を入れていく。これは伝導熱ですね。表面を高い温度にすることによって中心温度との差を利用してゆっくりと並行状態に温度をならしていく、それを伝導熱だと抽象化してみる。それで変換するとどうなるか。メイラード反応を起こすのを何℃にするか。メイラード反応は後でいいじゃないかという考えとか、伝導熱によって58℃にするなら最初から低温加熱58℃で周りを加熱すれば全体が58℃になるじゃないかとか。出し入れする方法と、58℃にずっと入れておくのとどっちがいいかを比べてみる。結果はいっしょです。ただ、手間の違いがある。出し入れする方が速くあがります。温度勾配があるほうが速くなります。じゃあ、セジールを後にして低温調理したらいいじゃないとなる。真空調理というのがあります。真空調理の加熱は低温加熱です。空気が入ると熱伝導を妨げるので空気を入れたくないだけ。真空にすることが重要ではなく、空気を入れないことで熱伝導を良くすることが重要です。58℃で2時間くらいやってやっと上がっていく。もし空気が入ったら全く温度は上がりません。調理技術を分解する考え方をもてば、素材×加熱媒体×温度×時間の観点でいろんなことができるのではないかと思います。


■調理技術の分解:2コーヒーを淹れる<参照:図10>
コーヒーを調理と考えて分解してみます。コーヒー豆を煎る。砕く。抽出する。コーヒーになります。抽象化すると、コーヒー豆を煎るのはメイラード反応です。温度は何℃にするか。ごく低温でやったらどうなるか。高温ならどうか。砕くのを抽象化すると、表面積を大きくしている。植村さんが鰹節を0.01mmにするのは表面積を大きくすることでした。それを微細か、丸ごとにするとどうなるか。抽出を抽象化すると、液体との接触、液体からの分離になる。何℃でやったらいいか。分離は重力なので蒸気圧でやったらエスプレッソですね。手動はハンドプレス。さらに変換を考えるとメイラード反応を起こすものが他の豆、大豆でもいいのではないか。お茶とかスパイスを煎ったらどうなるか。液体の接触ではだしでもいいのではないか。鰹節をエスプレッソ抽出するとどうなるか。じつは酸っぱくなります。鰹節には乳酸とヒスチジンという酸味アミノ酸が含まれているので酸っぱい、それが全部抽出されるからものすごく酸っぱくなりました。昆布はトロッとした面白いものができる。昆布は水分で膨張するので爆発には気をつけてください。その他、油でやってもいい。苦味オイル。コーヒーを油で抽出したら苦いオイルができる。というような発想になります。分解して考えるの、いろいろできそうでしょ。

■調理技術の分解:3赤味噌<参照:図11>
関西食文化研究会のイベントにはガストリックがよく出てきます。もともとフランス料理でコク出しに使っていた手法です。酢と砂糖を強加熱し、メイラード反応を起こしてソースのコク出しに使っていたんですが、それを醤油と混合してもいいじゃないかと変換してみると、濃厚な香りの醤油ができる。その醤油の考え方を用いると、赤味噌ができる。大豆を蒸す。種麹を入れる。塩と水を入れる。発酵熟成する。大豆を蒸すのを抽象化するとタンパク質の変性、デンプンの糊化です。麹を入れるのはタンパク質分解酵素とデンプン分解酵素を入れることです。塩を入れるのは抗菌のため。発酵熟成はタンパク質の分解とデンプンの分解とメイラード反応です。それぞれ変換していくと、大豆を蒸していますが、タンパク質変性とかデンプン糊化だったら蒸さなくてもいい、煮てもいい、揚げてもいい、焼いてもいい、そういう発想になっていきます。塩と水を入れるのは熟成期間で決められます。あとはタンパク質分解で何ができるか。うま味成分ができる。うま味成分をどこからもってくるかという発想で、「菊乃井」の村田さんはビーツをもってきていました。メイラード反応はガストリック。こうやって村田さんが最近よくやっているビーツ味噌ができる。こういうのは、ただ頭に浮かんだのではありません。日頃から、分解、抽象化、変換という考え方をもっていたからです。

ここで、大好きな「別館牡丹園」のチャーハンをつくる映像をお見せします。温度を測りながら見ていました。動きの意図が明確です。中華鍋にご飯を広げていますね。これは広げることによって米一粒一粒に鉄板を触れさせている。そうすると水分の蒸発は速く起こります。温度も鉄板が180℃くらいなので米は100℃を超えています。醤油を入れてバーッと炒めています。さらに鍋肌に醤油をあててメイラード反応を促進している。中国料理の調理の一瞬に「分解→抽象化→再構築」というのが表れているのです。
■プラットフォームを見つける<参照:図12>
これは次回以降の提案ですが、プラットフォーム(基盤)について話します。クラシックな料理のような何百年もかけてつくられた料理は好かれている料理です。それには何らかの重要な要素があって、それはプラットフォームになるんじゃないかと考えられます。そこから新たな組み合わせをつくることによって新たな料理ができるのではないかと。
例えば、ピザをプラットフォームにして何か新しいものができないか考えてみます。ピザはピザ生地とトッピングに分けられます。ピザ生地を抽象化すると、炭水化物のシートです。トッピングは何らかのうま味食材。「炭水化物のシート」とすると、何があるか。ナンでもいいではないか。ピザ生地よりナンの方がおいしいじゃないか。ナンでトッピングしたらナンピザもできる。
例えば、カラスミの作成工程を分解していくともとは卵巣です。卵巣を塩で乾燥させている。卵巣を粒状食品と抽象化しました。塩と乾燥はタンパク質の溶解と水分の低下です。粒状食品で探っていけば、キャビア、蟹の内子、おいしそうな粒状食品がある。ギューッと圧縮したらキャビアのカラスミができます。蟹の内子のカラスミができる。京都のフランス料理のMOTOIさんはキャビアのカラスミのようなものを使っています。そういう発想になる。キャビアのカラスミをつくったのは天才ではなくて、こういうことをすれば誰でも考えられるはずです。
「ノーマ」のレネはこういうことをやっているのです。たまたまこの考え方をみなさんに紹介したいと思った直後、レネのインスタグラムにこんなことがアップされています。彼らはマーケティングがうまいから、名前を付けるのもうまいですね。「フィッシュ・シャルキュトリー」。カラスミですが、ウニ、タラコ、イカの卵、トラウトの卵でカラスミのようなものをつくっている。彼らは西洋人特有のマトリックス的な発想だと思います。カラスミみたいな誰もが好きなものをプラットフォームとすれば、細かく粉砕すれば調味料のように使える。というように、何らかのプラットフォームを見つければいろんなことに使えるのではないかという提案です。

いかがですか、こういう考え方。既存の料理からどうやって新しいことを考えるか。それに「温度」の知識、理論的な知識があれば考えの幅も広くなりますが、重要なのはこういう考え方ではないでしょうか。ということで「感覚」から考える、お客さんにどう感じさせるか、何をデザインしていくかという考え方ということで、今日の話は以上になります。
