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「料理と温度の関係 Part3」Program 3:ディスカッション 1/2
Program 3:ディスカッション 1/2
講師紹介



門上 「温度」のまとめとのディスカッションに移ります。植村さんは初めて参加されてどういうふうに感じられましかたか。
植村 日本料理のプロセスの中で「温度」を中心にという形をとらせていただきました。しかし、料理はやっぱり温かい方がおいしいですね。
門上 温度にもいろいろアプローチがある。山口さんは会場で見られていていかがでしたか。
山口 中国料理はわからないことが多いので、吉岡さんの一つひとつの説明が新鮮で面白かったです。料理される手の動きもいろいろ説明していただくと、そこまで温度にこだわっているんだと、あらためて思いました。
門上 川崎先生、植村さんのだしの抽出方法ですが、加熱の回数が少ないことについてはいかがでしたか。
川崎 だしで重要なのは味だけではなく、香りなんですね。味成分は常温の水でも冷蔵庫に入れておいた水でも溶解する。それを活用されています。重要なのは、自分の出したい香りが今までのやり方では出なかったから、それで低温抽出することの効果を期待され、感覚的にそうされたんだと思います。味覚と嗅覚は分離して考えることはできないので、香りの部分もいっしょに考えられたんだと思われます。ガストロバックは減圧でして、昆布は乾燥物なので減圧によって抽出されることはないと思います。けれど、今日の話では酸素がないことの方が大事かな。酸素によって脂質が酸化する。昆布は微妙に脂質が入っていて脂質酸化が起こることによって臭さが出るのです。それが適度に起こるのはいいのですが、起こりすぎると昆布の磯臭さが鼻につく。減圧することによって酸素がない状態で抽出されるから、昆布の臭さが適度な香りへと変わるのを敏感に感じ取られて、この方法を選んでおられるのだろうと見ていました。
山口 村田さんが調査機関で分析された結果、昆布を60℃で1時間が合理的だと発表されたことがありました。今日の植村さんのやり方と融合させるなら、ガストロバックで酸化を防止して60℃で1時間加熱するともっとすばらしいだしができるのかなと思うんですね。ガストロバックは60℃に温度設定ができるし、それで、また新しいだしをつくるきっかけになったのではないかと感じたんですけど。
植村 今日、帰ってつくってみます。作業プロセスの中で足りない部分が何なのか、目に見えてわかるものではないので、データ化する、数値をとることは今から勉強していきたいと思いました。もっともっと知識を高めていかないといけないですね。ありがとうございます。
門上 だしはこの10年でいろんなアプローチがされています。10年前と比べ、液体の研究が進んだり、融合があったり、機械の発達も含めて考えていきたいなと考えています。今日のプレゼンテーションでセンセーショナルだったのは吉岡先生です。
吉岡 中国料理では「温度」というのが見えているようで見えない。一般にいわれるのは「中国料理はサッと炒めてすぐ出来上がる。何も考えてないんじゃないか」ということです。ですから、今日は「炒めもの」を料理人がどう考えているかを理解いただくのが私の狙いでした。「料理と温度のデザイン」をキーワードに、いくつかわがままな個性も盛り込んでいますが理解していただける方が増えればうれしいのです。いい勉強になりました。
山根 吉岡先生のプレゼンは非常に面白かったです。パーツごとに温度帯を変えたり、食感とか考えたり、構築的な料理で、まさに「料理はデザインである」ことを実践されていると感じられました。機能性にあたる部分とデザインにあたる部分を、いろんな機能のパーツで分けて考えて、どういう機能をもたせたいか。それをおいしさに置き換えると料理になる。今回はミルクを揚げたものが口の中で熱くて全体の温度を押し上げる役割をしていたとか、非常に計算されてパーツを配しているところが、すごくよかったです。
山口 結果的に求めているものは、全くいっしょですね。料理には国境がないなと思いました。おいしいものは同じ人間が食べるんですからね。そこにどう科学がかかわってくるかで料理のスタイルが出てくる。フランス料理らしさ、日本料理らしさ、中国料理らしさを出しながらグローバルになっていくような、僕にとっては、そういう体験でした。
会員からの質問 山根シェフにうかがいます。真空パックにして油で温度を上げていって53℃まで上げると「油の方が水に比して熱を伝える力が弱い」という説明でよろしかったでしょうか。
山根 単純に比熱の違いです。水は比熱が高いので100℃の沸騰した湯に漬ければたちまち100℃になる。オイルは水に比べると比熱が低い。蒸気は温度が低いですから空気に近く、粒子が粗いというか、隙間が多いんですね。ベタッと張りついている状態だから温度をよく伝える、柔らかく温度が伝わるというイメージです。しかし湯せんでしたり、スチコンでやった時は違いが出るのか、川崎先生に相談していたくらいで、違いが全くないとなると今日やった講習は意味がなくなってしまうということです。
会員からの質問 油脂が熱を伝える力が弱く、水が強いという仮説があるなら、油でなくても水で温度自体を下げれば同じ効果がえられないかなと思いますが。
山根 その可能性はあると思います。ただそれをどうコントロールするかですね。調理場の中では、65℃のオイルを58℃の水にするとか、微妙な温度帯と時間をコントロールするのは結構難しいので。たっぷりのオイルに漬けるというのは比較的安定して速く熱を伝えることができているように思いました。真空パックの中のオイルがある程度多いというのが、おいしくする一つの重要なポイントだと思います。
山口 衛生的な問題について加えておきます。山根さんはいろんなことを経験されているのでサッとやられたんですが、危険な温度帯を使っているのですね。日本では、真空調理について法律でこうしなければならないということがない。野放し状態なので、そのまま真似すると危険なところがあります。フランスではスービットを使う時、必ず真空パックしてから80℃で3分くらい表面殺菌してからやります。表面が汚染されているという考え方がありますよね。表面を殺菌してから温度を落としてやるというやり方とか、逆にそれが進んで、フライパンで焼くみたいに温度ムラをつくる。58℃で均等に焼き色をロゼにするのではなく、表面は少しタンパク質に熱変性を起こさせ、中は生に近い状態にするみたいな。真空の袋の中で通常のフライパンで起こるようなこともやる。今はそれが主流ですかね。均等化された食感はおいしくないということで、山根さんは最後に強い温度で表面のあたり具合を変えられていましたが、今は袋の中でそういうことをすることも多いですね。
川崎 そもそも真空調理が発明されたのは効率化のためです。大量調理のステーキをつくることに都合がよかったということです。辻調理師専門学校の教科書にはちゃんと衛生上の問題が記されています。肉はカットした部分から汚染されていくという考えのもとで調理しないといけない。真空調理を「おいしさの技術」と「効率化の技術」と考えた時、「おいしさの技術」の方にフォーカスされがちですが、おいしくするためには山根さんがされたようにグラデーションをつけて表面を変性させることも重要です。表面を変性させることによってアミノ酸を含む自由水が出てくるので、表面で味を感じさせるという処理を山根さんはされたのではないか。その方がおいしい。全部が58℃だと水分を含んだ高野豆腐のような状態になってしまう。それよりもグラデーションがあって表面にしっかり味がして、というヘテロ感ですね。グラデーションがあって噛むたびに味が変わるという処理をされていましたから、その方がいいんじゃないかと思います。
門上 吉岡先生、中華料理の場合は、どういう動きがあるんですか。
吉岡 中国料理の煮込み、蒸し物、揚げ物では調理法に国境はありません。科学は国境を超えてどの国の料理にも適応できるわけです。しかし今日のような炒めものをする時、どうするかです。中国料理は油を加熱媒体にしているので、召し上がられる時に100℃近い料理を出すことができる。フランス料理でも、オニオングラタンスープとかエスカルゴのブールギニョンとか、ごく一部の熱い料理もあると思いますが。
事前に材料を一度低温加熱をしておく。オーダーを受けて改めてもう一度高温で再加熱、調味して提供するという方法が考えられる。温度勾配を変える方法です。理想的な調理工程と思えたので今回この方法を試しました。結果はプレゼンのように調理作業の一連の流れの中で低温加熱のメリットを利用することが最良と知りました。一度下加熱をすると元には戻れない。本来の調理工程で仕上げた状態(温度、食感などのバランス)とは違う、全く別のおいしさでした。ですから、今日の試食をつくったスタッフも前もって低温加熱の調理をせず、料理をつくるその都度、低温の油通しをしながら料理を仕上げてくれました。



