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「料理と温度の関係 Part3」Program 3:ディスカッション 2/2

「料理と温度の関係 Part3」Program 3:ディスカッション 2/2

Program 3:ディスカッション 2/2

講師紹介

門上 植村さん、日本料理の場合はどうですか。

植村 日本料理は温度に関してはずぼらで、おざなりにしていた部分があったと思います。冷たいか、熱いかのどちらか。修業時代に教えられた適正温度もマクロなんですね。遠火で強火と言われても、何センチからが遠火なのか、強火は何℃からなのか、誰も教えてくれない。訊ける環境でもなく、それがいいのか悪いのか。数値とか出せるようになったのは最近ですね。他ジャンルの料理とは感覚が違うのではないか、ようやく今、勉強させてもらったくらいです。

門上 川崎先生、日本料理における温度はどう捉えればよろしいのでしょうか。

川崎 日本料理は茶懐石の時代から「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく」という原則があります。それも「感じさせる温度」です。調理温度に関しても何℃でという話は温度計もなかったので無理だったんでしょう。そもそもフランスでエスコフィエが、『料理の手引き』を書いたのは、フランス人には昔から数値で残していく発想があったからでしょう。日本料理では、ようやく日本料理アカデミーが『日本料理大全』を書いて数字で残していこうという流れになってきています。それによって、みなが料理をプロレベルでできるようにしていく。そうして初めて世界に広がっていくと思うのです。「サッと」なんて外国人にはわかりにくい表現なので、難しかったんですね。

門上 今はかなり数値化というかデータ化されてきていますよね。

川崎 一つ重要なのは、科学者でも勘違いする人が多いのですが、数値化というのは測ったものしか数値化できていないということです。例えば、アミノ酸とかの濃度は、測る人が「この成分があるかな」と思って分析センターに出して返ってきたもので、網羅しているわけではない。科学者のなかにもそのひとつで全部説明できると思いこむ人がいますが、「そうではないかな」と思いながら結果を見ることが大事なのです。数字だけを鵜呑みするのは危険なんです。例えば、アミノ酸濃度のデータだと、10くらいの差を人間が認知できるかどうかは、また別の問題ですね。誰かは認知できたとしても、他の人は認知できないかもしれない。そういうことを考えていかないと数字に踊らされることになる。数字ばかりを追ってはいけないということは思います。伝える場合は、伝える側の言い方が大事です。僕も気をつけていますが、「この成分はこの濃度でした」ではなく、幅もある。そのことをいっしょに伝えていかないと勘違いされてしまう。それは科学者側の問題ですね。

会員からの質問 吉岡先生にうかがいます。五味五感の中で一番感じさせたいと思っているものは何でしょうか。

吉岡 一番というのは難しいです。映画を見に行く時、どの服を来ていこうかと考えますね。周りの環境の中で何を一番キーにしたいかということだと思うのです。今日の料理も甘い味付けと辛い刺激がある。その中に苦味が入ると際立つ味になるのではないかと考え、苦味を入れました。料理についても、何にスポットライトをあてるかということだと思います。

門上 今回の温度の3回目。川崎先生にはデザインを含めて新しい料理をつくる、これから料理をどう考えていくか、いろんなキーワードを提示していただきました。次に向けての示唆もあったかと思います。山根さん、温度についての総括をお願いします。

山根 温度は提供温度が一番大きな気がします。口に感じる温度のメリハリ、熱い、冷たいを同時に出すとか、こういう会場で微妙な温度の差を表現するのは不可能に近いので、実演する側としては加熱温度になってしまう。しかし「加熱」に関しては、温度だけではない。例えば、鴨の胸肉をフライパンで焼きます。ロゼに焼いていたら中心温度は同じです。しかし火加減によって食感は変わります。固く感じたり、柔らかく感じたり。それは温度ではなく、別の要素で柔らかく仕上がったり、固くなったりすることもある。今日、オイルで加熱した理由は、柔らかく仕上げたかったからです。そういうことも絡んでくるなと思いました。温度は難しいテーマです。ただ料理のおいしさを左右する大事な要素であることは間違いないと感じました。

門上 植村さん、みなさんの話を含めて温度について感じられたことは何ですか。

植村 最近、自分の店でも提供温度を目ざとくやらせてもらっていますが、自分の中で料理をつくる着地点として大事にしているのは温度なのです。おいしさも香りも、もちろん大事ですが、温度を操ることができれば、お客さまの満足度は上がるのではないかなと思っています。今回初めて参加させていただいて、これからも経験を積ませもらい勉強させてもらいたいと思いました。

門上 「温度」Part1で川崎先生が「素材の温度で、魚が海にいるときの温度と人間が触った時の温度は違う」という話がありました。魚にとっては火傷しているのではないかという話もあって、温度ににも、素材がもつ温度、調理する時の温度、提供する時の温度などいろいろな視点がある。口の中で前後に冷たいものを飲むとかでも違ってくるし、香りの感じ方も違う。また、茶懐石で水を打つとか「感じさせる温度」もありますね。温度にはいろいろなアプローチがあって、数値化されたものだけではないという話もありました。温度についてみなさんからの総括をいただきたいと思います。

山口 温度については、まだやり足らないところが僕にはあります。川崎先生の話では、温度を「面」として感じてとらえられていますが、みなさんは「点」として「何℃」というところを感じておられるのかな。ほんとは料理の温度がどのくらい時間がかかっているかが重要なところで、そこを知っておく必要があるかなと思うのです。分科会では「焙煎」について考察していますが、何℃まで、到達する時間や、急激に上げるのかゆっくり上げるのかによってもまったく違う。そこに酵素の働きが出てきたり、メイラード反応が起こったり、おいしい料理をつくるための鍵がドンドン提示されていって公になっていく。ですから、もっと深堀りしたいなという思いはあります。

吉岡 どなたも、おいしい料理をつくりたいと思っておられる。おいしいとか香りがいいとか、食感がいいとか、究極的にたどりつくところでは温度が抜けない部分です。温度をいかにアレンジできるか、思うように操れるかがキーになっている。それを中国料理にどれだけ落とし込めるかを考えています。今までの料理にも、「こうしたらおいしくなる」と取り組んでいる料理がたくさんあって、オーソドックスな料理も同じです。その中で、現在は、川崎先生がお話された科学的な裏付けができるようになっている。科学的裏付けを吸収しながら今ある料理をアレンジしていけると、新しい中国料理の目指す方向性が見えてくるのかなと思っていて、今回の「温度」は私としてはいい勉強になりました。各国にある基本的な調理法を、もう一度、「温度」で検証し直すこともいい勉強になるのかなとも思いました。

川崎 「料理と温度」のPart1では網羅的に話をして、「つくる温度」と「感じる温度」について考えてきました。本会のホームページを見ていただくと新しいヒントになるかなと思います。今日は、中国料理の吉岡先生のお話が面白く残っています。「中国料理の技術を理解できれば全世界の料理が理解できる」という人もいます。それは、中国料理があらゆる温度帯、あらゆる時間帯にチャレンジしているせいなのか、歴史のせいなのか、わかりませんが、それが今、中国料理としてここにあるわけで。今日、お話された考え方をもって中国料理を、もう一回見てみると日本料理にもフランス料理にもイタリア料理にも生かせるのではないかと思っています。中国料理は操作が速い。一つの操作の中にいろんなことが入っていてわからないことも多いです。それを分解して「これは一体何のためにやっているのか」を考えれば、「別館牡丹園」の映像のあの一瞬の炒めの調理の中にもいろんなことが入っていることがわかってくるはずなので、そのタイムスパンをちょっと長くすれば、日本料理やフランス料理にも使えることはあると思います。中国料理は「温度」の面でも面白いなと思いました。日本人は熱いのが好き、冷たいのが好きなんですね。もともとフランス料理ではティエド、ぬるいというのがあって、フランスで修業された方が日本に帰り、日本のお客さんにまた違う観点で「温度」を考え直さないといけなという面白い面もあったりします。温度に関しては、話は尽きないのですが、今回3回目で、まとめの話をさせてもらいました。いろいろ頭を働かせる面白いこともあり、楽しかったです。

門上 今日、川崎先生から「分解、再構築」ということを提示していただきましたが、伝統技術のような分解する元がないと分解もないわけです。吉岡先生も、もう一度、伝統を考えてみたいと話しておられました。伝統というものについてはいろんな考え方ができるのではないかと思います。山口さんとは別の部会で「焙煎」をやっています。コーヒーの焙煎の中にもいろんなものが隠されているということもわかりました。みなさんから「こういうテーマでやってほしい」「こういう部会をやってほしい」「こういう勉強会をいっしょに考えてほしい」とアクセスをいただけば、関西食文化研究会の価値もまた上がってくるかと思います。とりあえず「温度」は今回で終了いたします。来年度はまた新しいテーマでやりたいと思います。どうもありがとうございました。

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