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料理の発想ワークショップ -天ぷらから発想する「衣と揚げる」の再構築-Program 2:スタディ 1/2
Program 2:スタディ 1/2
講師紹介
料理人のための「揚げ物」のサイエンスとデザイン

今日は「揚げ物」ですが、「分解」と「再構築」の話が主体となって、その中で「揚げ物」をどう考えるか。それを深く考える一つの材料を提供したいと思います。「天ぷら」という言葉を調べてみました。料理研究家の奥村彪生先生が最近出された本『日本料理とは何か』に書かれていたことに納得できたんですが、天ぷらという言葉はオランダの言葉らしい。多めの油に入れることはオランダではされてなくて、それは中国からきている。絵画でテンペラ画があります。壁に漆喰を塗って描く。そのテンペラは泥、ペーストです。つまり天ぷらという言葉はどろっとした衣のことです。泥状のものでまとわせる。それが中国料理のディープフライといっしょになったのが、どうやら日本の天ぷらではないかという話でした。つまり天ぷら、揚げ物に関して重要なのは、衣と油だと思っています。
■「おいしさ」のデザイン(表:1)
なぜ料理に「デザイン」という言葉を使うか。重要なことは「本質的にコントロールする」ことなんですね。「食べる」とはどういうことか、食はどういうことかを深めて本質的に考える。確かに、料理を学び始めたときは、どうやってつくるか、が主要な関心だと思います。まずそこから発想する。そして、それがどういう成分なのか、どういう構造なのかが気になってくる。もっと進むと、お客さんが口の中でどういうふうに感じているか、感じさせられるかも考えるようになるわけです。それをすべて逆から考えることが「おいしさのデザイン」だと考えています。揚げ物でいうと、揚げたものが口の中でどういう感覚を及ぼすのかということから発想して、そのためにはどういう風味で、どういう構造であるべきなのか、そのためにはどういう調理を選択すべきなのかという発想が「おいしさのデザイン」なのです。坂本さんも、「こういう仕上がりにしたいから、これを使った」というふうに説明されていましたね。

今、料理人が興味をもつことが変わってきていると感じています。ここ10年くらいは「どうやっておいしい料理をつくるか」を気にして料理をされていたのが、次第に「どうやって新しい料理を考えるか」を考えるようになってきている。「考える」ことを重要視される人が多くなっている。「デザイン」ということを概念として提示してきましたが、サイエンスは技術です。つまりハサミのようなものです。ハサミをどう使うかが重要で、どれだけ切れ味のいいハサミを使うかだけでなく、その使い方を考えるのがもっと大事だ、ということに料理人は気づいたんです。もっと効率よく仕事を進め、空いた時間をクリエイティビティの時間に使う料理人が増えてきたのです。
■クリエイティビティの段階(表:2)
既存の料理からどのように新しい料理を考えるか、クリエイティビティを発揮することを4つのステップに分けました。ステップ1は調理法全体です。調理法の条件を変えてみる、温度や時間を変えてみる。ある調理、トンカツだったら超高温で揚げてみるとか。コアとなる技術は180℃で7分揚げる、ですが、それをあえて温度を変えてみる。150℃で15分揚げてみるとどういう効果があるか?例えば、豚肉の火入れの感じが違う、衣のメイラード反応が起こりにくいとか。だからその後は二度揚げしようという話になります。温度や時間を変える、調理法そのものを変えるというシンプルなやり方です。ステップ2は食材。ある調理法を他の食材で試してみる。ジャンルを超えてもOK。中国料理の二度揚げをフランス料理でやってみる。ステップ3が「分解」と「再構築」。調理法を分解し、再構築して新しい効果を生み出そうというステップがあるのではないか。その調理法でどういうことが起こっているかを理解しないとできないと思いますから難しい。さらに難しいのが、ステップ4で概念やスピリットの話になる。素材に向き合いましょう。素材に向き合って何を表現したいのか、何をやりたいのかという話になっていく。

■コンフィのメカニズム
ステップ1の例です。コンフィは揚げ物といっていいのかわかりませんが、もともとコンフィの調理は揚げること自体が目的ではなく保存が目的です。しかし、コンフィは低温のオイルの中に浸けることも重要だと思います。つまり、揚げ物の温度を低温に変えたもの、と捉えてみよう、ということです。何か良いことがあるのではないか、と。低温なのでそこまでタンパク質は収縮せず、余分な脂肪は油に溶けます。加熱されると水分とうま味成分が肉から出ていこうとするんですが、周りが油ですから、そんなには出ていかない。うま味成分が流出しないので、ちょっとずつ濃縮していく。コンフィの濃厚な味になって、おいしい。このようにコンフィを捉え直すと、低温のオイルによる加熱の意義が明確になってくる。他の加熱調理でも、調理の条件を変えることで何か良い発見があるかも知れません。
■加熱調理法を他の素材でやってみる(表:3)
これはステップ2ですね。マトリックスを描くと頭の中で整理されます。料理人の中では机の前に座って表を描くことはあまりやらないと思いますが、一回やってみると頭の中が整理されると思います。横軸が素材、肉、魚、卵、野菜。縦軸が調理法。「加熱」という調理法も、液体で加熱したり、水蒸気、空気、石で加熱したり、低温調理もある。「熟成」もあります。「発酵」は菌がかかわります。麹菌の発酵もあれば乳酸菌の発酵もある、酵母、酢酸菌の発酵もある。「成分移行」は、塩漬け、酢漬けとか昆布締めとかの調理法もある。この縦軸と横軸の交わったところに料理の名前を記入します。液体の加熱で牛肉なら「ブレゼ」という。仔羊も同じ。白身魚の液体加熱は「ポシェ」、茹でるみたいな調理がある。卵は茹で卵という具合。赤字は空欄だったセルです。このセルを埋めていく。「牛肉を水蒸気で加熱はあまりしないな。では、やってみよう」と。ダメだったらダメでいい。新しい調理技法を考える意味でやってみる。「熟成」というのは広い概念で肉自体がもっている酵素によって肉が変わる。酵母菌を使って熟成させる。魚はやらないほうがよいと思います。腐りやすいので。熟成魚は菌を使わずに魚自体がもっているもので熟成させて独特の食感を生み出すということです。などと、思考実験をやってみる。料理人ならこれは「あり」やなとか、これは腐る手前とかがわかると思います。一回考えてみることが大事。この表の空欄を埋めてみることを提案します。

■「揚げる」のメリット(表:4)
埋めてみる時に何が大事か。調理法そのものに何かメリットがあることです。今回は「揚げる」に関して、どんなリメットがあるかみてみます。1番目、全体が均一な高温は加熱しやすいこと。2番目、油の量が多い場合、鍋に衣がふれないので衣の食感が出やすい。衣が立った状態が起こりやすい。フライパンで油を1cmほど引いて焼くくらいなら衣が宙に浮かない。構造が保たれません。衣の食感が出にくい。日本料理の天ぷらは、油の中に浮いた状態で衣がパッとその場でできる。独特の食感になるのはディープフライだからこそ。3番目、表面のみの加熱がしやすい。200℃、20秒で表面だけを加熱できる。油の比熱が小さいためとしていますが、比熱はその物体が保てる熱。油は温度が上がりやすくて下がりやすい。表面だけを加熱してすぐ温度を下げることができる。4番目、表面と内部の食感のコントラスト。食感のヘテロ感といいますが、ヘテロはホモの逆で食感が不均一。焼くとか蒸すとかよりも、表面がカリカリして中が柔らかいのでコントラストがつけやすい。最後、5番目は表面のメイラード反応が起きやすい。低温で加熱する場合、154℃以上はメイラード反応が起きやすので茶色で香ばしい香りがつきやすい。メリットはこの5つくらいでしょうか。こういう効果を出したい時の調理法として、揚げる方法が有効だということです。

揚げる調理の一つかもしれませんが、「油通し」という中国料理があります。下味をつけて、塩に溶けるタンパク質を塩に溶かして表面だけを蒲鉾状にし、油通しする。それをまた炒めたりする。油通しと湯通しを比較してみると油通しの方がおいしい。湯通しすると、うま味成分が水に溶けますから肉のエキスが湯に溶けてしまい、味気ないものになる。比較すると、わかりやすいと思います。
フランス料理には「アロゼ」がある。オイルとかバターを上からかけて火を通す。油をかけて火を通す中国料理の揚げ方(油淋炸)はアロゼと原理的には同じ。油の置換と温度の置換が起こっている。食材がもつ脂に熱い油をかけると食材のもっている脂が溶けて落ちる。新しい油がかかることで脂が変わっていく。動物がもつ脂は常温では固体です。油かけをする場合、植物性の油を使えば動物がもつ脂を植物油にある程度置き換えられる。常温で固体の脂をもっていた動物が常温で液体の油に変わると常温の食感が変わってくる、温度が上がりながら。そういう「アロゼ」のメカニズムもあると思います。揚げるの定義をディープフライとすると、そこからはみ出していますが、面白い調理法だなと思っています。
■「揚げる」を他の調理と組み合わせる(表:5)
油脂加熱で肉類、魚類、卵、野菜と定番の食材を変えてみるとどうなるか。さらに、揚げるを他の調理と組み合わせてみる。煮たものを揚げる、蒸したものを揚げる、焼いたものを揚げる、炒めたものを揚げるわけです。揚げたものを煮る、揚げたものを蒸す、揚げたものを焼く、揚げたものを炒めることもある。例えば、揚げ料理ではなく炒め料理ですが、揚げたものに味のついたパン粉炒めとか。揚げる調理法を他の料理に組み合わせることで新しいものができるかもしれません。日本料理の場合、揚げた後に蒸すのは油抜きのためにやる。他の調理と組み合わせることもある。この料理はこういうものという先入観をとらえ直してみましょう。

