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料理の発想ワークショップ -天ぷらから発想する「衣と揚げる」の再構築-Program 2:スタディ 2/2
Program 2:スタディ 2/2
講師紹介
料理人のための「揚げ物」のサイエンスとデザイン

■さらに新しい料理の考え方
さらに新しい料理の考え方として、既存の料理を一回分解して抽象化し、変換して新しい料理を組み立ててみる。分解したものを再構築しようという提案です。分解には2つある。「素材の分解」と「調理の分解」。素材から香り成分とか味成分、食感成分を分解するのが素材の分解です。ハーブオイルのハーブの中に入っている香り成分を油の中に分解して採り入れる。これは「素材の分解」です。「調理の分解」は調理工程自体の分解。炒めものはどういうことが起こっているか、揚げるとはどういうことが起こっているかを要素分解する。「再構築」は、鍋の中で、皿の上で、舌の上で、頭の中で再構築する場合がある。鍋の中での再構築は、一回低温調理したものに衣をつけて揚げる。鍋の油の中でする再構築です。フランス料理にあるのが、皿の上での再構築。「デクリネゾン」という。ショコラを分解して皿の上で合わせて再構築するとか。お客さんによっては、それぞれ別々に分解させられたものを食べていることもある。それを口の中で再構築することもできる。一回、分解したものを舌の上で再構築するのもある。ヘストン・ブルメンタールというイギリスのシェフは、海の音、ザザーっという音をiPodで聞かせながら料理を食べさせる。頭の中で海の状況を再構築して環境そのものを再構築するという広い概念です。こうした再構築の概念がある訳です。調理技術を分解する一つの視点としては「素材×加熱媒体×温度×時間」という組み合わせを挙げておきます。どういう素材で、何で、何度で、何分やるか。それが分解ということでしょうね。
■分解と再構築の例1
「分解」して「再構築」することによって発達する部分もあるのではないかと思います。骨付き鴨肉をグリエして塩味をきかせて皮をパリッとさせる料理があります。でも一回、骨と身に分けてみる。肉だけを鴨肉のムネ肉のグリエとして。骨は骨だけでジュをとって、ソースとして仕上げ、肉に合わせるとフランス料理らしくなる。どっちがいいかではなく、両方必要ですが、こういうことをすると新しい料理ができるのではないか。骨と身は火の通りが違いますから骨からまた熱が入っていくこともある。骨と身がくっついたまま加熱することは技術としては難しい。効率もあって一回分解して、骨は骨だけ、肉は肉だけで調理するのは料理の発達という意味で重要だと思います。坂本さんがされたように、玉ねぎを刻んだものを真空調理してジュと身に分けて、ジュは一回煮詰める。ジュだけを煮詰めることによって、そのまま煮詰めたのではえられない濃厚なジュと身をあわせて再構築して、もう一度、ピュレにすると全体をピュレにしたのとは違うものになる。
■分解と再構築の例2
ステーキを焼く調理技術に関してもプロセスを一回分解してみる。ステーキの表面を焼くセジ―ルは、表面をカリッと焼きます。何が起こっているか。メイラード反応ですね。それを科学的概念によって抽象化し変換してみる。温度を変える、後で反応させてみる。ステーキはセジールの後、ルポゼという置いておいて温度を保つ。伝導熱で中まで温度を上げていく。中心温度を58℃くらいまで上げたい。それがルポゼでステーキになるんです。その前段階で抽象化して、メイラード反応と伝導熱を起こしたものがステーキだととらえ直せば、メイラード反応を後でやってみる。火入れは低温加熱、出し入れによって火を入れよう。オーブンで火を入れようと考えれば「後でやっていいんだな、低温加熱でステーキはできるんだな」と新たな考え方が発明された、それが低温調理スゥ=ヴィド(真空調理)です。真空調理はホテルでステーキを焼く時に効率よくするために使われた。今は低温で肉に火を入れるやり方として広まっていますが、ステーキを焼くことを分解して再構築することで新たな技術が生まれた。
■「天ぷら」の分解・抽象化・変換(表:6)
本題の天ぷらを「分解」「再構築」してみます。最初、卵水に小麦粉を溶かすとグルテンが形成され、グルテンと水の結合が起こる。素材に衣をつけると表面にデンプンがつく。熱した油に入れることは、加熱媒体に接触することと捉える。加熱されて表面の温度が上がるとデンプンが糊化する。素材の温度がさらに上がるとタンパク質が変性する。表面がカリッとなると衣の水分が蒸発し、それによって衣の構造が保たれる。これが天ぷらを分解して抽象化したことです。

■グルテンの形成に影響を及ぼす要因
天ぷらでは、グルテンをつくりたくないというけれど、グルテンを抜いてみて逆に価値に気づきましたね。グルテンとは何か。小麦粉の中のタンパク質に「グルテニン」と「グリアジン」というタンパク質がある。もともと分けてあるんですが、グルテニンはコイル状のタンパク質でグリアジンは粒状のタンパク質といわれています。ふたつが水と混ざるとグルテンという編み目状のタンパク質に変わる。それがグルテンの形成です。それをつくりたくないという時、いろんなことがされる。水が入るとグルテンが希釈され、塩が入るとグルテンの編み目状の構造が強化される。油脂、ショートニングが入るとグルテンの構造を弱める。砂糖も卵もビタミンCも低温もグルテンの構造を弱めます。粉自体を100℃で15秒湿熱加熱すると形成が抑制される。日本料理でされているやり方は、水でグルテンを希釈し、卵でグルテンの網の目構造を弱め、低温で編み目構造を弱める、という複合的なことが天ぷらには入っているといえます。他にもやり方があるのですが、味がついたら天ぷらの範疇に入らないから、やらないのでしょう。
■中国料理の揚げ調理技術
中国料理はすばらしい。辻調理師専門学校の松本秀夫先生が書かれた『プロのためのわかりやすい中国料理』をマトリックスにとらえ直して表にしてみました。工程、衣、下味、下加熱、加熱方法。それぞれの揚げ方をまとめるといろいろあります。中国料理は下味をつけることが基本です。衣をつけない揚げ方以外は下味有りととらえていいのではないかということで「有」としています。下加熱も飴がけの部分、「脆」というのは中国人が好きな食感ですが、パリパリしたものを下加熱した素材が多い。油淋炸は大きな塊の材料に熱い油をかけて火を通す。下加熱「有」ととらえてもいい。中国料理のやり方を知っておくと洋食の方も和食の方も、活用できることがあるのではないかと思われます。
驚くのは、第4回「油脂」の時に出ていただいた二條晃一さん(「中国彩膳にじょう」)の料理「蜂巣芋角(ホンチャオユイチャオ)」です。芋で編み目状の衣ができる。タロ芋を蒸して裏ごしして打ち粉を熱湯で練って入れてアンモニアパウダーを入れ、ラードも入れます。アンモニアパウダーは加熱で気体となりアンモニアが発生します。アンモニアは水蒸気、二酸化炭素より爆発力が強いのでバッと小さい爆発が起こる。ラードが入っていると何が起こるか。揚げていきます。顕微鏡で生地を見ました。いろんな成分が分散している。ラードが分散していて常温より高いので油脂が固形となって分散している。それが加熱されることで油が液体になって溶ける。隙間が空く。このメカニズムは生地の状態では融点の高い油脂が分散していて、表面を高温に加熱して表面に気泡をつくる。最後、衣に残った油を後の加熱で流しきる調理をする。中国料理にはこういう面白い揚げ物があるんですね。(参照:1)

似たような食感の衣をフランス料理の人がやっています。東京の下村浩司さん(「Edition Koji Shimomura」)は、カダイフというお菓子に使う小麦粉を細く焼いたものをまとわせて揚げる。二條さんのと下村さんのは食感は似たようなもの。注目したのは「構造体をくっつけてサクサクさせるフランス料理」と「構造体を調理過程でつくっていく中国料理」の違いですよね。これがまさに目の前にある坂本さん、田中さんの料理にも表れています。パン粉を後からくっつける「分解」と「再構築」の考え方のイタリア料理。日本料理は生の水っぽいものをくっつけて調理過程の中でカリカリさせる。それぞれの考え方、調理の違いが、こういうところに表れています。そういうことを踏まえて「分解」「再構築」をやっていかないとジャンルから外れる問題が出てきます。
天ぷらの話に戻りますと「変換」して新しいものをつくることを考えた時、今回、田中さんは表面に衣をつける部分でデンプンの種類を変えることをされた。それによって食感が変わった。事前に「香り油を入れたらどうか」という話もしています。柚子油で天ぷら揚げたらほんのり柚子の香りがつく。油の種類を変換すると新しい天ぷらもできる。素材の温度を上げ、タンパク質を変性させる、これは素材の温度を上げないこともあるかもしれません。アイスクリームの天ぷらの場合、最初は「アイスクリームを揚げたらどうなるか」という面白い挑戦だったかもしれませんが、「分解」「再構築」していくと、こういうやり方で新しい料理が生まれるのですね。
■「天ぷら」の粉を変換する(表:7)
天ぷらに使う粉にはいろんな粉がある。今回、試されたんですが、なぜもっと試してみないのか。調べてみると大昔は小麦粉ではなかった。大麦とかそば粉が使われていた。料理の進化を生物の進化のようにとらえると、最初はとにかくいろんなことをやってみたのではないでしょうか。いろんなものが選択肢としてありますから、室町時代とかでもいろいろやってみたと思います。やっていく中で小麦粉に至った、効率性、おいしさとかがあると思います。今の時代は逆に、粉の選択肢がある中で「出したい料理には小麦粉でいいのか、この油でいいのか」と考えてみるべきだと思います。試してみてください。

■「天ぷら」のストラテジー(表:8)
天ぷらをどう考えるか。シンプルに考えると選択肢として「下味」「下加熱」「衣」「油」「加熱方法」と、要素分解して書き出してみました。揚げることを考えると、下味も下加熱もなし、衣もなし、香りのない油を使ってディープフライをするのが「素揚げ」とする時、天ぷらはどうか。下味なし、下加熱なし、衣は粉と卵と水。香りのない油でディープフライとなる。というように、この線をいろいろ組み合わせてみると新しい天ぷらができるかもしれません。

ということで「分解」と「再構築」をまとめてみました。最終的に「分解」と「再構築」をして新しい料理ができたとしても、素材とちゃんと生かしているかどうかは別の話ですから、一回実験をして料理をとらえ直すことが、これからの料理に大事ではないでしょうか。本会コアメンバーの村田吉弘さん(「菊乃井」)が、雑誌『専門料理』の対談の中で発言されている「素材のどこにスポットを当て、何を組み合わせ、どう切るかを、まずは頭で考えて筋道を立ててそれから調理せんとあかんよ」という言葉に集約されていると思います。これをまとめの言葉にしたいと思います。

