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料理の発想ワークショップ -天ぷらから発想する「衣と揚げる」の再構築-Program 3:ディスカッション 1/2

料理の発想ワークショップ -天ぷらから発想する「衣と揚げる」の再構築-Program 3:ディスカッション 1/2

Program 3:ディスカッション 1/2

講師紹介

出演者:田中 勝美氏(「このは」主人)、坂本 健氏(「cenci(チェンチ)」オーナーシェフ)、川崎 寛也氏(農学博士)
参加コアメンバー:山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長)、山根 大助氏(「ポンテベッキオ」オーナーシェフ)、吉岡 勝美氏(「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問)
進行:門上 武司

門上 まずコアメンバーにご意見をいただきたいと思います。山口さんからお願いします。

山口 「再構築」については、30年くらい前に僕の師匠ベルナール・ロワゾー氏が「料理を分解して再構築するのがテクニックだ」と言い続けていたのを思い出します。メークインの天ぷらは、技術的なことの前に、メークインがほくほくして、さつまいものようにおいしい。いつもの味とは違うおいしさになってびっくりするところに料理の妙味がある。それをつくりだすにはサイエンスが重要なんだと実感しました。休憩の時、2年熟成のメークインについて多くの会員が問い合わせにこられてましたが、みなさん素材に興味があるんだなと見ていました。ところが、普通のじゃがいもでも、βアミラーゼの酵素の働きとペクチンの働きを理解すると、2年間おかなくても熟成させるのと同じ効果を得られる方法があるんです。40℃で2時間加熱してから一気に90℃加熱すると5年間おいたくらいのじゃがいもになる。ペクチンが50℃で硬化するのを利用して。食品工場ではマスコミでも話題になった50℃洗いがあります。50~60℃でペクチンを硬化させる酵素の働きが高まるのを利用して、冷凍野菜はそれで加熱して冷凍し、解凍した後でも食感がシャキシャキ残るという。そうした科学的な根拠のある情報は企業レベルでは活用されているのですが、料理人はまだ知らないことが多い。だから、こういう機会に勉強できるのはいいことではないかと思います。
また、筋繊維をそのままでコラーゲンを分解する、58℃くらいで長時間加熱すると仔牛もジューシーなまま、コラーゲンが変性して柔らかいものになる。以前は250℃のオーブンの中で芯温度を58℃にすることで「テクニック的にすばらしい料理人」という価値観があったと思うのですが、今や調理器具で簡単にできる。それだけ料理に対する価値観も変わってきていて、川崎先生の講義を聴きながら「デザイン」が最大の価値になっていくんだろうなと改めて実感しました。
 

門上 吉岡先生は先のプレゼンテーションをご覧になっていかがでしたか。

吉岡 油を加熱媒体にして調理するのが「揚げる」ことだと考えると、揚げるという行為自体は表面の水分を飛ばしてそこに油が入り込むという事実がある。食材中の水分が加熱されて水蒸気になって揚げている時に油の中に泡になって出てくる。水蒸気になると体積が1700倍になるといわれています。水蒸気が抜け去ったところに油が入っていって加熱することによって食材の表面にカリッとした食感が生まれ、中にはじっくり火が通ってドリップがたくさん溜まる。これが基本的な中国料理の揚げ物の理論です。
水や水蒸気を加熱媒体とする「煮る」、「蒸す」には肉質のものを柔らかくする、調味液を食材に浸透させて味の変化をつけるなどの特色がある。しかし「揚げる」という調理法にはそのような特色はない。旨みを十分に備えて柔らかく、癖の少ない食材を比較的短時間加熱して食材自身の味をストレートに味わうのに適している。味の点からは単調になりがちな欠点をもつが他のいろいろな調理法が下加熱として応用されることで味、触感、食材のバリエーションが可能となった。しかし食材を煮込んだり焼いたりしたあとで揚げるとなると焦げるし揚げたメリットも少ない。そこで多彩な衣が考えられる。卵とデンプンもあれば北京ダックのように水飴を塗って揚げるなどの技法も生まれた。
油脂の浸透による豊潤な旨み、高温による香味の添加、食材の旨みとドリップの保持と濃縮、多彩な下加熱と衣などが「揚げる」の魅力でもある。そういう意味でも今回の試みは的を得たものであったと思います。
 

門上 水分が出ていき、そこへ油が入る。しっとり感は、まだ中に水分が残っているからで、水分の移動も考えられるんですか。

川崎 衣の水分と素材の水分を分けて考えた方がいいと思いますが、基本的には素材の水分をできるだけ残して衣の水分は油と交換する。揚げ物は油と水分の交換なのです。おいしい素材を揚げる、確かに全部そうですね。天ぷらにしろ、揚げ物にしろ、新鮮な素材で準備しているような気がします。坂本さんの料理でも衣をつける前からおいしそうですね。いい感じで火入れされていて、素材の表面をカリッとさせる、食感をつけるのが天ぷら、揚げ物の本質です。中はおいしい、あとは食感だけが足りない。「表面がカリッとなったらもっとおいしくなるから揚げる」と、とらえ直すこともできる。

門上 田中さん、おいしい素材に衣をつけて食感を出すということについてはどうですか。

田中 その通りだと思います。素材には何もしない、いい素材を油と衣によって、よりおいしくするのが天ぷらだなと、今回実験して確かになりました。

門上 山根さん、おいしいものに衣をまとわせることによって、よりおいしいものをつくりあげるということですが。

山根 今日のパン粉をつけて揚げるというやり方の場合、感じたのは、中に閉じ込めているなと。水分は外に向けないで衣の中に閉じこもる状態。そのまま加熱する場合はどれくらいの温度で、どのくらいの時間、加熱されるかによって素材の状態は変わっていく。坂本さんの場合、衣の中で加熱する時間は、ほとんどなかったから、その前に、ほぼ加熱もすべて終わっている状態。最後に表面をアツアツにしたり、風味とか食感をつけるために衣をつけた。もう一つ加えると、香りが中にこもるので香りの出方が揚げ物の特徴になっていないかと思える。衣の中にどんな香りを潜ませるかによって、食べた時に中からわき出てくる驚きとか、いろんな組み合わせができるから、一個一個の揚げ物が一つの皿であり、宇宙を形成しているんだなと感じました。

門上 坂本さんから仔牛のフリットの話がありましたが、山根さんならどういうアプローチになりますか。フリットにはいかないとか。

山根 生ハムは薄くて脂が少ないので固くなりそうな気がする。その部分を逆に脂分のあるものを入れて衣を熱くつくる。長い時間かけて揚げる。揚げ物のよさって、熱っとなる温度が楽しみの一つだから。坂本さんのは、衣に蓄熱されることによって全体を熱く錯覚させる。もっと錯覚させたかったら衣の蓄熱される部分を多くしてやれば面白い効果が出るのではないかな。脂分もトロッとした食感をもってきて、中の仔牛をより熱くジューシーに感じられるようにできると思いました。後出しジャンケンだから何でも言えるけど。普通に考えたら絶対、二度揚げしたいですね。中に何か閉じ込める、食感、柔らかさ、中はどんな温度で蒸し焼きにするかをコントロールしたら、できるわけだから、入れるものをいろいろ考えて。揚げ物の中で一つの世界がつくれると考えます。

門上 山口さん、フランス料理では油の中で調理することはないですよね。

山口 シュークリームのように衣を揚げて、とろとろのものを入れることはできそうですね。揚げるより蒸す方が効率がいいし、衣の中で蒸気が働くことが一つ、重要なのかな。東京の天ぷら屋さんで「天ぷらは鮮度が大事。揚げるから鮮度は重要でないと思われているかもしれないが、寿司は事前に仕事ができるけど、天ぷらは揚げる瞬間まで鮮度がよくなかったらダメ。東京でも天ぷら屋が少ないのは、そういう理由があるから」といわれた時、納得して、やはり素材ありきなのかなと思いました。

門上 素材ありきという話、新鮮なものという切り口が出てきましたが、吉岡先生、中国料理は油通しとか考えると、ちょっと事情が違うように思いますが。

吉岡 中国料理も新鮮な食材に勝るものはないと思います。技法的にみなさんがご存知なものを体系づけてできあがっているのが中国料理だと思っていて、わかりやすいですね。中国料理は最後の調理法が料理になりますから。蒸してから揚げると揚げ物だし、炒めて揚げると揚げ物になる。中国料理には沢山の調理法があり、揚げものはその調理法を組み合わせることで多彩な食材(乾物や塩蔵品など)を楽しめるようになっています。

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