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料理の発想ワークショップ part3 7つのキーワードから発想する「麻婆と豆腐」の再構築Program 1:プレゼンテーション+試食 [日本料理]

料理の発想ワークショップ part3 7つのキーワードから発想する「麻婆と豆腐」の再構築Program 1:プレゼンテーション+試食 [日本料理]

Program 1:プレゼンテーション+試食 [日本料理]

講師紹介

松尾 英明氏
日本料理「柏屋」代表・総料理長
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「海老そぼろと西京味噌の玉子豆腐の信州味噌のすまし仕立て 山椒と唐辛子」

概要

麻婆豆腐の味の構成要素、食感の構成要素、香りの構成要素を分解し日本料理の要素に置き換え再構成しました。薄葛仕立ての出汁を口にすると清ましのようだが、信州味噌(辛口味噌系)の味わい。具材と共に食べ始めると変化が始まり、少しずつ麻婆豆腐のニュアンスに近づく。気づけば最後は麻婆豆腐の印象で終わる仕掛けにしてあります。あくまでも日本料理の立ち位置でアプローチを試みました。

麻婆豆腐の中には豆腐の大豆のうま味、味噌系の発酵の味もあり、日本には豊かな味噌がありますので味噌を使おうと思いました。吸い物のようなスタイルで用意します。吸い物で最初にくるのは出汁の味です。それに最初から麻婆豆腐に寄り添いすぎたものになると、日本料理の立ち位置はどこにあるか曖昧になると思い、清まし仕立ての煮物椀にしました。今回は一番出汁ではなく信州味噌を使い味噌の清まし仕立てにします。信州味噌は辛味噌系の白味噌で、甘みのない清まし仕立てにしていきます。卵白を合わせて、よく溶きます。昆布出汁で伸ばして火にかけ卵白で味噌の粒子を寄せて清ましをとっていきます。

豆腐については、発酵する中で生まれる甘みが麻婆豆腐にはあると感じまして西京味噌を使おうと思いました。それも最初から全面にでるのではなく、食べているうちに表に出るようにしたい。では、どう封じ込めるか。そこで玉子豆腐の形にして、食べて崩していくと閉じこもっていた出汁が出てくる。それによって外にある信州味噌と混ざってどんどん麻婆豆腐の味に近づく仕掛けにしました。鶏の胸肉に西京味噌をよく練り合わせます。清湯(ちんたん)という中華料理の出汁のとり方からヒントをえて、ミンチに味噌を混ぜてこれを昆布出汁で溶いていきます。一回合わせた後、しばらく寝かせて、昆布出汁を合わせてかけていく。西京味噌の麹の甘み、豆の香りが強いと鶏のうま味の効いた出汁がとれました。麻婆豆腐に近づけようとすると、鰹と昆布出汁ではない鶏や動物系のうま味もあると寄り添っていってくれると思いました。

信州味噌の方は、一旦漉したものを昆布出汁で味噌のうま味をとったもの。それを沸かして一番出汁を引く要領で、削りたての鰹節を打ち濾しておきます。きれいな澄んだ出汁で信州味噌の味が出ています。
卵豆腐を作ります。鶏の西京味噌の出汁の方は、ゆっくり沸かないように80℃くらいの温度で30~40分、うま味を抽出する。静かに、あら熱をとった後、漉していきます。とれた出汁をベースに玉子豆腐をつくります。適宜切り分けておき盛り付けるタイミングに合わせて玉子豆腐を温めていきます。

豆腐の上に盛る具材は鶏肉系のそぼろを使うより、今回は海老のうま味を使って表現しようと思います。海老はミンチにかけたものを酒で溶いて、酒、塩、少量のみりんを入れたものが沸き立ったところに入れて火を通します。ザルに上げて漉す。その出汁は海老のうま味があるので葛を引き吉野あんを作っておきます。具材は豆腐の上に盛る時に崩れるのを防ぐために後で吉野あんで和えていきます。海老のそぼろに合わせるのは椎茸と豌豆です。椎茸は、油で傘を揚げて、裏側は直火で焼いたものです。焼いた時の香ばしさと油のうま味を同時に味わえます。ネギとか香味野菜系を使おうと思ったんですが、中国料理に寄りすぎてしまう。吸い物仕立てということで食べて汁ものでない感覚もほしい。豌豆はシーズンですし、食べていくと豆が潰れて、ねっとり感も食べる時に合わさることも考えました。これら海老のそぼろ、椎茸、豌豆を先ほどの吉野あんであえておきます。

麻婆豆腐のキーになる「麻」と「辣」ですが、唐辛子を使わず、「かんずり」にします。かんずりは、新潟のもので、雪晒しといって唐辛子を雪の上に撒いてゆっくりアクを抜いた唐辛子を麹と食塩で漬けたものです。熟成の効いた酸味のある辛味が豆板醤のニュアンスによく似ているので選びました。実山椒のペースト、シーズンに若い実山椒が出た頃に塩湯がきしたものです。それを太白の胡麻油と合わせてペーストにしたもの。さわやかな華やかな、しびれるような味があり、花椒(ホオジャン)といわれる中国の山椒のしびれに似た香りがあります。大徳寺納豆は豆鼓の豆の発酵の香りがありますので、それを加えることによって日本料理で身近に使う材料を合わせて麻婆豆腐の構成する食感、香り、味を一つひとつ分解して組み立てていくことを試みたつもりです。

ある経験、ある美味しさを分解して再構築する。料理する時、新しい料理のアイディアをいただき、パッと発想することがあります。ある料理を食べて「美味しいな。」と感動した時、「これを日本料理の中でどうやって表現するか」と考えます。どういう要素があるかを頭の中で分解し日本料理のもつ手法、材料の何をもって置き換えて一つのバランスのとれた完成品にしていくかを考えます。その時にすることは、再表現したいほど印象に残る要素を選択し抽出するものですが。今回、決定的に違うのは麻婆豆腐を構成する要素すべてを、できるだけ再表現しないといけないという縛りがあったこと。そこが、いつもの発想とは違う部分があって、今回、自分にとっていろんな発見がありました。豆腐の食感をどう表現したらいいか、玉子豆腐で置き換える、そうすると、うま味が出てくる。今まで考えていなかったことが考えられたのでよかったなと思っています。

盛りつけにいきます。この玉子豆腐に西京味噌の甘み、うま味、香り、麹からくる甘みがたっぷり入っています。箸を入れて崩していくと出汁が出てきます。食べると味が変化していく。最初は「あ、なんだろう、これが麻婆豆腐なのかな」と思われるでしょう。食べ終わった時、なんか麻婆豆腐を食べ終わって10分後くらいの印象が口の中に残っているようなものができたと思います。豆板醤の辛味の代わりに使う「かんずり」、大徳寺納豆。実山椒のペースト、最後に湯葉を揚げたもの。川崎先生が麻婆豆腐を分析されたものを読ませていただいて、脆い歯触り、サクサクとしたイメージは、肉を強い火で炒めていく時の表現、サクサク感かと、中華料理ではミンチを水分がなくなるまで炒めて使っている、そのことかと。気になったのは玉子豆腐なので玉子の香りが強い、それで湯葉の揚げたものをトッピングすることによって豆乳の香り、大豆の香りを最後に入れることができたので「サクサク感とは何か」を考えて思いついたのが、結果的にはよかったなと思っています。

以上、私なりにつくった日本料理で表現する麻婆豆腐になります。結構面白いものができたなと思っています。再構築については、今まであまり強い意識をもって考えたことがなかったことが、フランス料理、中華料理を食べて、それをオマージュとして日本料理をつくる。そういうことをやってきたんだなと再認識できたことは、いい勉強になりました。

「海老そぼろと西京味噌の玉子豆腐の信州味噌のすまし仕立て 山椒と唐辛子」

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