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料理の発想ワークショップ part3 7つのキーワードから発想する「麻婆と豆腐」の再構築Program 2:スタディ 1/2

料理の発想ワークショップ part3 7つのキーワードから発想する「麻婆と豆腐」の再構築Program 2:スタディ 1/2

Program 2:スタディ 1/2

講師紹介

講演「料理人のための新しい料理をデザインする方法

川崎 寛也氏
農学博士、「味の素株式会社イノベーション研究所」主任研究員

料理人のための「新しい料理をデザインする方法」が主題です。麻婆豆腐はあくまで題材です。意識的にデザインの概念を料理に入れることによって、より新しい料理が考えやすくなる。では、デザインとは何か。デザイナーで建築家の佐藤オオキさんは「デザインとは、見えないものを見えるようにすることである」という。料理の世界でも見えないものを見えるようにできる。食材は見えるが、食材の裏にあるストーリーや生産者との関係は見えない。料理人の仕事はそれをお客さんに感じさせることなのです。「デザインは見えないものを見えるようにすること」という比喩はいいなと思います。

■デザインとサイエンスの関係

料理人にとってデザインがなぜ必要か、科学、サイエンスがなぜ必要かを説いておきます。椅子をデザインする場合、凡庸なデザイナーは今まで使っている椅子を参考になぞらえていく。椅子ですよねと。本質を考えるデザイナーは、座るとは何か、座るとは人間にとってどういう意味があり、座ることはどんな価値があるか、本質的にものを考えるとどうなるか発想する。つまり、デザインとは「本質を見い出して意図的にコントロールする」こと。座るという本質を見い出し、深く考えてコントロールする。そのコントロールには何が必要か。サイエンスは「本質を見える化するための考え方、方法」です。サイエンスは科学的な物質を使うとか科学的な技術を使うことではなく、本質を見える化するための考え方です。技術を使うから科学ではない。フランス料理でモレキュラーガストロノミーという考え方や技術を採用する料理人もいました。山口さんが使われたパコジェットやガストロバックが出てきた考え方ですが、山口さんはあくまで技術として使うべきところに使っている。そこが重要だと思います。サイエンスは、本質のための「見える化」する方法、そこでデザインとサイエンスはつながると思います。本質を見るための考え方・方法のサイエンスを、デザインに使うことができれば、より高度な本質に迫るデザインができる。料理人がこういうことをよく考えることは「ブレない、違わない、変なサイエンスを使わない」ことにもなります。

■おいしさのデザイン

新しい料理を考える時ですが、今までの料理があり、それをどうやってつくるかを学びます。その後、つくった料理が、どういう成分とか構造とかがわかると、どんな風味と食感があるか人間が感じる側のことまでわかる。この成分がどんな風味と味を感じさせ、構造が壊れることによってどんな食感を生み出しているかなど、その関係に思い至る。もっと深く考えれば、それをどうコントロールするか、どう感じさせるかという情報の流れがあり、おいしいものをつくる時、こういう情報の流れがあるとわかる。デザイン思考は最近、ビジネスの世界でいわれていますが、これは、お客さんをどう感じさせるか、そのためにどんな風味と食感が必要で、どうやってつくるかという逆の発想で料理のおいしさを考えていくことです。今回の麻婆豆腐のテーマにはこれが効いてきます。考え方としては、「どう感じさせるか」から発想して、料理をつくっていく。そういうこともできる。そのためには何らかの知識が必要です。お客さんの口の中で何が起こっているかを理解しておくと、どう感じさせるかをコントロールできる。

■風味

「風味」はバーチャルなもので科学的には「味覚情報+嗅覚情報」です。食べ物の場合、味覚と嗅覚が大きい。味覚受容体が舌の表面にあります。味覚受容体に味の物質が結合する必要がある。逆に受容体にくっつかないものは味がない。流されて、さらっと通るだけ。受容体にくっつくと、味覚受容体から電気信号が発信されて味覚神経によって脳に情報がいきます。口の中に受容体はどこにあるか。昔の「味覚地図」、舌の前方で甘味を喉の奥でうま味を感じてというのは、今は正しくないとされています。受容体は、舌の上と舌の横、喉の奥、軟口蓋にある。口の中全部ですべての味を感じていて、味覚地図は正しくないですが、感受性の違いはあって、舌の前の方は塩味と甘味を感じやすくなっている。喉の奥はうま味を感じやすくなっている。軟口蓋、喉の上の方は甘味を感じやすい。味覚受容体から味覚神経に情報が伝わり、頭の後ろを通って脳の真ん中から前に情報が集まる。嗅覚は鼻の前からも後ろからも、気流に乗って匂い物質が、鼻の奥の受容体にくっつき、嗅神経によって嗅球という情報を集約するところに伝わる。その情報と味覚の情報が合わさって好き嫌いを決める部位が脳の中にある。それが扁桃体です。アーモンドの形をしています。情報がそこにいって「おいしいか、まずいか」を判断する。そういうイメージをもつと、お客さんが無意識に感じるような、鼻の前から、後ろから、口の中、舌の先、真ん中、奥かを、プロはそれをコントロールしてやろうという気持ちになる。「この物質の溶かし方をこうしたら、舌の先で感じさせることができる」ことまで、考えようとすれば考えられる。山口さんが、水に溶けるか、油に溶けるかと話してましたが、味物質は水溶性が多い。だから、だしが存在する。香り物質は油に溶けるものが多い。それをやりとりするためにアルコールが必要になる。というふうにコントロールすることでお客さんの口の中、鼻の中の情報の行き来を決めて、お客さんの感覚を作用する。そうして、どうおいしく感じさせるかというのが可能になるのです。

■ヘテロ感(*表1)

もう一つ重要なのは、ヘテロ感です。食品メーカーではよく使います。ヘテロは「不均一」という意味で、人間は均一なものよりヘテロなものの方が、なぜか「おいしい」と思ってしまう。2種類のものを同時に口に入れるか、別々に入れるかでも感じ方が変わります。感じ方も味覚、嗅覚、触感、温度、いろんなヘテロ感がある。そこで「質が異なるものか、強度を変えるか、時間差を見るか」でヘテロ感を演出できるのではないかと考える。にぎり寿司は酢飯の上に生の魚が乗っている。造りだけを食べるのではなく、酢飯といっしょに食べるとおいしい。咀嚼していると、細かくなった魚身と細かくなった米が交互に舌にあたって、うま味成分を放出してくれる。それがヘテロ感。均質な魚の味だけでなく、米、魚、米、魚と一瞬のうちに広がる状態です。このヘテロ感を感じさせるために、寿司の米のほどけ方、点同士で米がつながっていることも大事だと理解できる。吹き寄せ盛りなど日本料理でいろんなものを盛ることも、そういう考え方です。

表1:感覚におけるヘテロ感の例

■料理の分解と再構築(*表2)

では、ヘテロ感をどうつくりあげていくか。「分解と再構築」です。素材の分解には、いろんな食感、味、香りがある。味だけを分解することもできる。調理の分解には、何かを焼く、ポトフにする、すき焼きにするなど調理の工程を分解して、ある工程はここで、ある工程は違うところで、とすることができる。再構築には4つの段階があります。鍋の中の再構築、皿の上の再構築、舌の上の再構築、頭の中の再構築。山口さんの「分解と再構築」では、山口さんがされた辛いシューは、辛いのを分解して皿の上に乗せていた。いっしょに混ぜていない。そういうやり方がフランス料理的な考え方で、いっしょじゃなくてもいい。日本料理では、いっしょにして「和をもって貴しとなす」となる。一皿でいっしょに味を合わせたいという考え方が現れている部分もある。

表2:料理の分解と再構築

■クリエイティビティの段階

どのように新しい料理を考えればいいか、ステップに分けます。ステップ1は「調理法全体」、調理法そのものを変える。ある調理の方法で温度、時間を変える。ステップ2は「食材」、調理法を他の食材で試してみる。ステップ3は「調理法の分解と再構築」、そうして新しい効果を生み出す。ステップ4は、究極的に素材に向き合って「何を表現したいか、何を生かしたいか」をステップ1から統合的に考える。

マトリックスを使うと考えやすい。ステップ2の場合、加熱調理法を他の素材でやってみる(*表3)。例えば、ヴァプール、蒸すという調理技術がある。フランス料理では使われるようになりましたが、フランス料理ではもともと蒸すという調理法はなかった。日本料理の蒸すを取り入れて肉を蒸してみたらどうか。というふうに、マトリッスクの空欄を埋めていけば新しいものが発想できる。例えば、切り方。鶏のロティと焼き鳥は、焼くという意味では同じだが、切ることだけでも違う料理になる。切り方が変わると、火入れ、メイラード反応、すべて変わって違う料理になる。麻婆豆腐だったらどうなるか。切る、切らないだと、切られているものは豆腐と肉。そういう発想もできる。牛肉を切らずにステーキ肉で調理したらどういう料理になるか。料理人だったら何か浮かんでいるかもしれない。

表3:STEP2加熱調理法を他の素材でやってみる

ステップ3「調理法を分解して再構築する」の例です(*表4)。調理法には成分的なものも入っていますが、「煎り酒」を例にする。醤油の代用として日本料理で使われる煎り酒は、日本酒で梅干しや鰹節とかを炊いて梅干しの香りを移していく液体調味料です。それをフランス料理に置き換えてみる。日本酒をアルコールと考えると白ワインです。梅干しを塩分の香り成分の固まりとすれば香り成分はハーブやスパイスで、鰹節はうま味成分ですから生ハムとすると塩分は生ハムからもきますから、こういうふうなものができる。「煎り白ワイン」。それでハーブスパイス、生ハムで炊くとどんなものができるか。煎り酒とは、「アルコールにより香りが抽出された塩味とうま味のある液体」であるととらえれば、新しい調味料ができるかもしれない。調理科学的、食文化的な意義など、意義のある分解と再構築が必要ですが、こういうことも考えられます。

表4:STEP3調理法を分解して再構築する

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