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10年目の「だし」サミットProgram 3:ディスカッション 1/2
Program 3:ディスカッション 1/2
講師紹介



出演者:川崎 寛也氏(農学博士・「味の素株式会社イノベーション研究所」主任研究員)、高橋 拓児氏(「木乃婦」三代目主人・コアメンバー)、澤田 州平氏(「中国菜 エスサワダ」オーナーシェフ)、山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長・コアメンバー)
参加コアメンバー:山根 大助氏(「ポンテベッキオ」オーナーシェフ)、吉岡 勝美氏(「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問)
進行:門上 武司
今回は、会員の皆さまにもディスカッションに参加いただきたく、質問シートを お配りし、Program1の講演、Program2の各プレゼンテーションごとに提出いた だきました。
門上 会員の皆さんからたくさん質問をいただきました。質問に答える前に、まず、山根さん、今回の感想をお願いします。
山根 この10年の間に、だしは何回もテーマに出てきました。少しわかったこともあり、次の段階に進んでいる感じがしました。だしとは何か、液体に抽出したものを料理に使う。日本料理の場合、だしそのものが味となり、調味料的な役割をしている。肉をよりおいしくするために使うものも、だし。山口さんの実験は、基本となるソースとかスープのベースがあって、イメージができているものを分解して、どういう要素を組み合わせていったらそのものができるか。分解して考えると、いろんな方法でだしを作られる。違う材料に置き換えて、似たような効果を狙えるものが作られるとわかって次につながっていく実験だと思いました。
門上 新しいステージに行けそうな感じですね。吉岡先生も数年前からこの会に参加いただいていますが、今回の10年目の取り組みはいかがでしたか。
吉岡 新しい情報をたくさんいただいてきました。特に今回の山口さんの手法には、会員の皆さんが楽しまれたと思います。川崎先生の講義で、だしの中心になるのはうま味と香りだということでした。山口さんが香りをどのように再現できるか、そこが私の中ではポイントでした。だしを取った時の香りをそのまま顆粒状や液体の風味調味料に封じ込める研究はまだ進んでいないようです。煮出しただしを飲むと顆粒を溶かしたものよりはるかにおいしいと感じるのは香りが大きく関係していて、ひょっとすると、だしに限らず料理をおいしく楽しみながら食べるためにはうま味よりも香りが重要な役割を果たしているのかなとも思いました。
門上 では、質問に答えていきたいと思います。
川崎先生と高橋さんに共通する
「うま味において、灰汁とか雑味をどうとらえるか」という質問です。
「日本料理のだしでは、雑味が出ないようにうま味を抽出するのですが、雑味に関する成分はどんなものがあるのでしょうか」。川崎先生から、雑味や灰汁についてお願いします。
川崎 だしを取る上で、雑味をどう除くかは話題になるところです。灰汁、雑味、雑な味とはどういうものか。本来ほしい味以外のものを雑味と呼んでいる。料理においては2種類あって、動物性の雑味と植物性の雑味です。動物性のは、ペプチドで少し渋味、苦味がある。山口さんのカプセルには、ペプチドの味がないものもあれば、苦味があるものもありました。苦味のあるものをどうやって取り除くか。フランス料理のコンソメ、中国料理の清湯(チンタン)のやり方ですね。挽き肉に卵白を入れ、冷たいブイヨンを入れてゆっくり加熱する。タンパク質の凝固力を利用してペプチドのいやな匂い成分を吸着させて上に浮かせて取り除くことで雑味のないコンソメが取れる。調理過程でそういうことをやるのが中国料理、フランス料理です。日本料理はどうか。そもそも鰹節や昆布は雑味が出ないようにつくってある。だから、厨房では抽出するだけで済む。生の鰹を水に入れて加熱するとどういう味になりますか。雑味、渋味が出る。それが出ないように、鰹節をつくる工程で乾燥させガラス化して筋肉を変性させてペプチドが出ないようにしているのです。植物性の灰汁はポリフェノールです。これが出ないように、感じさせないようにする技術がある。柿のポリフェノールは渋いですが、アルコールに浸してアルコールと結合させて感じさせないようにするやり方ですね。温度を管理して100℃まで上げると溶け出しにくいので、出ないようにするというやり方もあります。感じさせないか、出さないか、二つのストラテジーで動物性と植物性のものを考えていく。高橋さんのデータですが、渋味、雑味は分析装置の特性の問題で、そういうものもデータとしては出てしまう。人間の感じる部分とは違う部分もあります。成分として認知、識別するのが装置の特徴ですから。
他に「お茶のうま味を使いたいが、渋味があるが」という質問がありました。お茶は、だしか。じつは、お茶はだしかなと思っています。水で抽出しますよね。そもそも日本料理の概念は中国料理の漢方の煎じるところからきているのかな、と。お茶も煎じる概念ですから。お茶のうま味を活かしたいが、渋味が問題になる。渋味を何らかの方法で感じさせなくして、抽出するのは難しいと思いますが、「新しい方法の可能性はどうですか」と訊かれると、可能性はあると思います。お茶のうま味については、お茶を料理にどう使うかを考えると面白いのではないかと思います。
門上 高橋さん、「灰汁もうま味のうち」という話についてはどうお考えですか。
高橋 私らは、だしでは灰汁を除きます。洗練させて、できるだけ細いラインを狙ってそこに膨らみをもたせたい。香りでいえば、熟成したそのもの、昆布だったら磯臭い、潮の香りは、できるだけ除去する。生節本来の鰹の香り、血なま臭い、金属臭のするものも、できるだけ除去して合わせていく。そうして味は洗練された形になっていく。融通がきくだしをもってくると、素材が何であっても、素材自体が引き立ってきます。血なま臭い香りが入ると合わす素材も血なま臭くなる。個体差がありますが、主たる食材、今回であればハモとか、スズキは御椀に使いますが、それ自体のハモらしさ、スズキらしさが出る共通因子になるだしがほしいということだと思います。
門上 昆布のグレードを下げてもという、昆布の熟成方法の管理で品質が変わる話がありました。
高橋さんには
「グレード、種類を変えることによって熟成の方法を管理するところはあるのでしょうか」
という質問がきています。
高橋 昆布をそういうふうに管理しているところはないと思います。利尻の昆布以外は、強制乾燥させていますからバクテリア自体が死滅している可能性があって、後からついてくる菌で発酵していると思います。表面で発酵している菌は、中まで染み込でいるバクテリアとは違うと思うので、そこもちゃんと調べてやっていくと、昆布のうま味成分はそんなに変わりませんから、そこについている菌、バクテリアの生育環境によって変性していると思いますし、そのへんはこれからの研究だと思います。
長期で4年熟成といいましたが、温度を高く上げる、5℃~25℃までオーケーなら25℃近辺で熟成をかけるとか、温度を高くして香ばしい香り性分を60℃か65℃か80℃か、わかりませんが、そういう状態で昆布を変性させることをしてやるのも一つかなと思います。
門上 中国料理には乾燥させたものが多くあります。料理人サイドとか研究過程でもう少しこうした方がいいというような動きはあるんですか。
吉岡 中国では13億の人々の生活、健康を守る、生きていくために食物を安定的に獲得できるという考えを基本に乾物が発展してきた、根本的にまだその状況から脱出できていないように思えます。そのために、高橋さんがいわれたような別の方法、今まで以上に食材自体をおいしくするという方法研究には、まだ中国は着手できていないのが現状だと思います。
門上 山根さん、生産者とか加工業者とかでのかかわりはどうですか。
山根 別の勉強会で天日干しがテーマになったことがあります。「何でも天日で干すのか」ですよね。加工食品は乾燥にせよ、自分たち料理人が使うのにいい状態に加工することですから、料理の段階を1段、2段と減らしてくれる訳です。自分で料理をつくる時には思うように段階を経るのに、加工された製品に関しては何もいわず、できたものを使うのは問題だと思うので、これからどんどん変わっていくだろうと考えられます。天日は紫外線の影響が大きいと思っていますが、菌とかバクテリアの残し方とか、殺し方とかが影響すると思います。温風乾燥、冷風乾燥と、違うメカニズムと比較したり、もっと研究できるのではないでしょうか。



