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「だしの最前線を探る」Program 1:レビュー 1/2
Program 1:レビュー 1/2
講師紹介
基調講演:『料理人のための「だし」のサイエンスとデザイン レビューと発展』

「だし」をどう使えばいいかにつながるまとめです。導くのは、サイエンスによる解明とデザインしていくという考え。まとめのポイントは2つ。ひとつめは、What:「だし」とは何かを材料と成分から説いていただきました。ふたつめは、New:新しい「だし」を考えるための提案です。うま味の使い方、「だし」の役割などから、いくつかの方向を示していただきました。
What:「だし」とは何か?材料と成分から考える
「だし」を考えることは料理を考えることだというのは、「だし」を長く研究してきて思うことであります。そもそも「だし」とは何か。食材から水の中に注入してきたものととらえると、それは料理の世界にいっぱいあります。醤油って「だし」じゃないのか。醤油は大豆を発酵させ、その成分を水の中に移したもの、だから大豆の「だし」ですよね。塩が入っているので「だし」ではないということですが。では、「だし」の定義は何か。「塩味が入っていない水の中のうま味」と考えることができます。「だし」を考えることは料理を考えることかなと、いつも思うわけです。
■「だし」の原型
日本料理も中国料理もフランス料理もそうですが、「だし」の原型はポトフだと思っています。原始時代、肉を焼いて食べることから、肉を水の中に入れて食べると、一つの肉から多くの人が食べられるようになった。それが「だし」の原型、ポトフのようなものですね。それによって人間が共食、いろんな人たちと食べるものを共有できる。多くの人に食品を与えることができて人口が増えることにもつながるのかなと思います。ポトフの液体の部分、煮物の液体の部分を他の料理の煮つけに使った、それが「だし」の始まりではないでしょうか。「だし」を味付けに使うと何かいいことがあるか。料理の因数が増えるのですね。煮込みのままだったら豚肉の汁は豚肉の味付けに使うだけ。でも、豚肉の汁を鶏に使う、豚肉の汁を野菜に使う、豚肉の汁を穀物の味付けに使う、というように料理の因数、掛け算の因数が増えることで料理を多様に発展させることができたと思います。ある煮汁を分解して他のものに使うというのが「だし」の本質的な意味かなと思っています。
■味覚は脳に情報を伝えるために存在する
そもそも味覚というのは何のために存在するのか。味覚は、脳に情報を伝えるために存在する。我々の味覚は栄養素を検知するために与えられたものです。甘味は、エネルギーのシグナルです。甘いものを食べると、もともと炭水化物という味のないものがある。でんぷんですね。でんぷんの分解物がブドウ糖です。それを甘いと思うから、おいしいなと思って食べる。炭水化物自体は分子が大きすぎて舌の受容体にはまらない、だから味がない。片栗粉は味がしません。それを口の中に入れて噛むとだんだん分解して甘くなる。甘いなと思って栄養素を感じて摂るようになる。でんぷんが分解されなかったら受容体にはまらなくて何も味がないので、摂ろうと思わない。それが味覚の存在意義です。甘味はエネルギー、塩味はミネラル、うま味はタンパク質、酸味は腐敗とかエネルギー、苦味は毒物。三大栄養素の「炭水化物」と「タンパク質」と「脂肪」。脂肪に関しても受容体が見つかってきています。うま味はタンパク質のシグナル。タンパク質を分解したものがアミノ酸で、アミノ酸を感じるのがうま味だということです。うま味はタンパク質のシグナルなのです。うま味があるものを食べるとタンパク質が摂れる。そこで不思議なことがあります。
■日本料理では、「だし」は野菜や炭水化物をおいしくるために使われてきた
日本料理では「だし」で野菜を炊いたり、炭水化物を「だし」で食べることをしてきました。舌では、うま味を感じる。でも、体の中に入ってくるのは野菜、炭水化物です。これを「うま味パラドックス」と呼んでいます。舌でうま味がすると、脳は「タンパク質があるから摂取しなさい」と命令を与える。ところが体に入ってくるのは野菜、炭水化物だったりする。変ですよね。でも、体に入ってしまえば、タンパク質だろうが炭水化物だろうが、一回分解して、変換して、グリコーゲンという貯蓄物質になったりするので、どっちでもいいんです。体にとっては問題ない。脳を勘違いさせて、「たんぱく質のシグナルであるうま味で、炭水化物というエネルギーや野菜という体にいいものを摂取させようとする」。これが日本料理の素晴らしいところだと思います。肉の場合は脂がある。脂とタンパク質はいっしょに摂らないといけない。でも日本料理は脂をできるだけ除去して、うま味だけでやっていこうとする。そこに「うま味パラドックス」が成立するのではないかと思うのです。
■メイラード反応の香気成分は水溶性が多い(表1)
「だし」の香りの一つに、メイラード反応の香気成分があります。アミノ酸とタンパク質と糖を加熱反応させると、香ばしくて、茶色い色になる。それがメイラード反応です。肉を焼くと、肉の筋肉からアミノ酸が浸み出てくる。ごくわずかな糖分とアミノ酸が反応してメイラード反応が起こり、肉とフライパンの間に焦げた茶色い、おいしい匂いのするものができる。焼いた肉を裏返すと付いている焼き色です。ちょっと焦げたものが銅鍋とか鉄のフライパンだったら鍋側にくっつく。テフロンだったら肉側につく。フランス料理では、その焦げたスックに水やワインを入れて、スックを水やアルコールで溶かしたものがソースの原型になります。それをグッと煮詰めてフォンを入れてまた煮詰めるのがソースのつくり方の基本的なものでした。「だし」は100℃の水の中で肉を加熱する。肉は100℃で筋肉のタンパク質が収縮してアミノ酸が出てくる。野菜も入っているからアミノ酸と野菜の糖が反応して中でもメイラード反応が起こる。焼く場合は200℃で加熱されますからアッという間に茶色くなりますが、水の中では100℃で温度が低いので、薄いし、温度が低いから最低でも4時間、フランス料理の場合は7~10時間かけてブイヨンをとっていきます。

■「だし」のプロセスの違い(表2)
フランス料理とイタリア料理の場合は抽出して濃縮する過程の中で、「だし」っぽいものができていく。日本料理の場合は先に濃縮をする。鰹節とか昆布のように乾燥させて濃縮したものから一瞬で抽出する。ほしいのは同じアミノ酸とか、うま味成分だけど、それを先に香りも味もつくっておいて抽出するのか、鍋の中でつくるのかの違い。そして中国料理は丸鶏とか豚のフレッシュなものから「だし」をとりますが、金華ハムという先に濃縮して、うま味を強くしておいたものも使う。中国料理の素晴らしいところは、両方の知恵を使っているということも俯瞰してみるとわかると思います。

■燻製成分は水溶性が多い(表3)
日本料理、西洋料理、中国料理、いずれも求めるものは同じで、アミノ酸、糖、メイラード反応ですが、日本料理で特徴的なのは燻製成分の入った「だし」だということで、他の料理にはあまりない。ベーコンとかを使うと面白い「だし」がとれますが。西洋料理も中国料理も燻製成分を入れて肉っぽいものとあわせると、また面白いものができるかもしれません。

■「だし」とは何か(表4)
成分から考えると、水とうま味成分は共通、メイラード反応と脂質酸化物も共通だけど、硫黄化合物ですね、ネギ、大根、タマネギとかが入ると独特のものができてくる。これが西洋料理と中国料理の共通点であり、日本料理の特殊性が燻製成分かなと見えてくる。それを食材から水で抽出したものというのが、成分から見る「だし」とは何かと思っているわけです。

