• 定期
「だしの最前線を探る」Program 2:料理実演と考察 [中国料理]

「だしの最前線を探る」Program 2:料理実演と考察 [中国料理]

Program 2:料理実演と考察 [中国料理]

講師紹介

大澤 広晃氏
「酒中花 空心」オーナーシェフ
実演

「『鮮』の分解と再構築」

料理名の「鮮」という漢字は、魚と羊です。古代中国では、鯉と羊でつくるスープが最高のスープでした。うま味がたっぷりあるスープ。それを現代風においしく食べるにはどうしたらいいか、という観点から考えてきました。科学的とか、体験からのものではない、「だしの物語」のような古代の中国の料理を想像しながら味わっていただけたらと思います。百年や二百年前ではなく、二千年とか三千年前という千年単位が中国らしいというか、おおらかな話で楽しいのではないかと思います。「鮮」は、鯉と羊をグラグラと炊いてつくる、中国料理でいうシャンタン(上湯)のようなものです。でも、臭いんですね。調理師専門学校で働いている時、「古代中国の、北方料理を再現しましょう」というので料理していたら、校内に臭い匂いが溢れ返ってしまう。「お前、飲んでみろ」といわれても「飲まれへん」というくらい臭い。それをどうやっておいしく食べるかをやります。

材料は骨付きのラム肉を使います。油の中に唐辛子、ネギ、香辛料、山椒。ネギ油をつくる感じで香辛料とかネギから香りを出した油を冷たく冷ましてからラム肉を漬け込んでいます。それを65℃くらいでゆっくりと火を通して肉を温めている状態です。今日は鯉の替わりに鯛を使います。小豆は戻して茹でたもの。それに、ドライトマト。中国では今でもウィグル自治区など北方のイスラムに近いところでは羊の肉をトマトとクミンの組み合わせで食べます。そのドライトマトの酸味と、うま味を使います。シャンタン(上湯)の材料は、豚モモ、ひね鶏、金華ハム、牛スネ、豚足。豚モモ、ひね鶏、豚足を一度霜降りしたものをシャンタンの二番だしをとっておいて次のシャンタンをとる時に水と足して濃いスープにしていく。5、6時間ゆっくりと火にかけたのを使っています。

ラム肉の表面を焼いていきます。中は火が通っている状態なので表面を香ばしく焼いていきます。その間に小豆を料理します。なぜ付け合わせに小豆を使うか。「鮮」という羊のスープを肉ごと煮詰めていきますと肉がほぐれた状態になっていきます。それを固めた煮凝りが「羊羹」の始まりといわれています。羊のとろみのあるスープを羊羹とリンクさせて、小豆を使って羊羹らしくして、「鮮」のスープを味わっていただきたいと思いました。油の中にニンニクを粒のまま入れます。香辛料、山椒を少し入れます。唐辛子、八角、肉桂(ニッキ)、陳皮(ミカンの皮)の香辛料をじっくり香りが出るまで炒めていきます。あとは余熱で。香辛料の香りが出てくると戻した小豆を入れます。鶏ガラのマオタン(毛湯)スープを入れます。味付けに塩、砂糖と少し醤油。小豆の濃度が出るまで煮込んでいきます。その間に鯛の頭をローストして塩をふります。オーブンで焼いたものは鯉の替わりです。乾燥のドライトマト、戻し汁ごとシャンタンに入れます。スープの味付けも少しして、鯛に塩もしています。他のうま味もたっぷりあるので少しだけ砂糖と塩を加えます。お客さんに提供する時は、壺の中に鯛の頭ごと入れていきたいと思います。小豆の火が通ると、そこに鯛の身を入れていきます。崩しながら具材兼ソースのような感じで。鯛の身がほぐれてくると、ほぼ完成です。

焼けた骨付きラム肉を切り分け、器に盛りつけていきます。壺は、こういう感じで、お客さんの目の前でスープをかけて完成です。鯛とシャンタンの濃いスープですが、ドライトマトで酸味も出ておいしいスープになっているのではないかと思います。仕上げにクミンオイルをかけます。羊と相性がいいのです。料理はこれで完成です。

■考察(川崎寛也氏)

面白い料理をつくっていただきました。「鮮」については、中国で「鮮味(シェンウェイ)」は、うま味という意味ですね。上海で研究していた時、中国の料理人にうま味を味わってもらうと「これは鮮味だ」と返ってきました。大澤さんの料理は、いろんなものからうま味が出ている。ドライトマト、羊とクミンなど。トマトは南米からきているから、古代の中国にはなかったはずで、現代ならではの組み合わせです。「うま味インフォメーションセンター」のデータを見ていると、昆布ほどうま味の多い食材ってあんまりないんですよ。昆布がダントツです。ドライトマトはグルタミン酸が多く、それを入れることでうま味を与えられる。

臭いというのは食経験によります。上海の会社の食堂でのこと、川魚を甘辛く煮るんですが、表面は甘辛いが、骨の周りが臭い。ところが、1週間もするとそれが癖になってきて楽しみになってくる。料理の技術は何のためにあるか。臭いとか苦いものを人間が食べやすくするためにある。食材は自然のものですから、生きていこうともがいている。植物も動物もいろんなものの成分を自体の中につくりだしていって、人間が味わうと「臭いな」と思うんですが、それを逃したり、組み合わせたりして人間が「おいしい」と思うようにするのです。今回の料理は、古代の料理をいかに現代の人間の食経験にあわせて、どうつくり替えていくかということだと思います。

ポイントは一つ、「物語を料理したこと」だと思います。料理が小説とかアートと違うところだと思っているのは、料理はおいしくないといけないことです。絵画だと、嫌いな色があろうが鑑賞者の体内には入ってきません。料理は体の中に入れるものですから、物語をいかに今までの人間の知恵や中国料理の知恵でおいしいものにしていくか、おいしいという担保が必要です。おいしさの担保としての「だし」を、今回はシャンタンとかドライトマトでつくりだされている。ラム肉などはそのままでもおいしいですから。物語を料理にすることの中で、いかに分解して再構築するか。「鮮」はどこでできているか。口の中で「鮮」ができているのだと思います。

小豆のソースやシャンタンにラム肉の要素は入っていないですね。古代の料理では、それらをいっしょに煮込んでいた。今回の料理は、それぞれ適切に調理をして、口の中で合わさって「鮮」をつくったという意味で新たな発明なのかなと思いました。

小豆のソースはガルニチュールのようなもの。僕はインド料理の研究もしていまして、最初にされたことがインド料理と全くいっしょです。テンパリングですね、ホールスパイスを油の中で炒めて、香りを出してミルポアを入れて、パウダースパイス、豆を入れて、チャナダルカレーになる。今回はマオタン(毛湯)と鯛と醤油が入って中国料理にグッと近寄せている。最初に見た時、びっくりしてカレーができるのかなと思いました。テンパリングという技術は、いかに焦がさずに炒めるか。火加減に気をつけてゆっくりとおこないます。ホールスパイスの香りを油に移し、油の香りを小豆に移し、小豆に香りをまとわせたことと、マオタン(毛湯)が入っているから、ある程度うま味はあります。シャンタンがグッと強い味で、ラムとあわせて口の中でいっしょに汁と食べる感じですね。みなさんも、ぜひ口の中で「鮮」を味わってください。今回の料理との関連で、つながらないところとかあれば質問してください。大澤さん、スパイスの香り成分も油にいくので香り油ですか?

大澤 あれは透明な辣油という感じですね。

川崎 ラム肉をネギ油に浸して65℃で1時間加熱は、スチコンですか。これに関しては現代の調理法ですね。表面だけを焦がして加熱するというようなことができる。

門上 魚は鯛でしたが、川魚では難しいのでしょうか。

大澤 難しくはなく、あまり癖の出すぎない方が、現代風で伝えやすいかなと思っただけです。

川崎 中国で食べるなら川魚の方がいい。

門上 はじめ、インド料理ということを感じましたが、境目はスパイスだけなんですか。

川崎 豆も違いますが、ホールスパイス自体も種類が違いますし、クミンが最初に入っていない。インド料理ではクミンは最初に入れます。南インドではテンパリングにはマスタードシードを使います。小豆のガルニチュールは中国料理の技術でもあるんでしょうか。

大澤 今回は羊羹とくっつけたいということで僕がつくったんです。

川崎 油に戻したものを入れるのはインド料理でしか見たことがない。インド料理は、うま味はあまり入らない。油と香りだけです。日本人がつくると、煮詰め具合とかは「日本人がつくったカレー」になりやすい。インド人は香りの出し方とか煮詰め具合とか、だし成分を入れないから同じ材料でつくっても違うのですね。

門上 また、新しいアプローチが出て来ました。大澤さん、川崎先生、ありがとうございました。

他にもこんな記事が読まれています