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![「だしの料理との可能性を探る」Program 2:料理実演と考察 [イタリア料理]](https://food-culture.g.kuroco-img.app/v=1774927652/files/topics/745_ext_2_0.jpg)
「だしの料理との可能性を探る」Program 2:料理実演と考察 [イタリア料理]
Program 2:料理実演と考察 [イタリア料理]
講師紹介
「ガストロバックアワビと海苔のラザニエッテ」

■料理実演
僕は「だし」を使って普通の食材がいかにおいしくなるかを考えました。アワビを使いますが、天然アワビは蒸したり茹でるだけでもおいしく、うま味も濃いのですが、今日はあえて養殖のエゾアワビを用意しました。エゾアワビは調理すると味が濃くなるわけでなく、うま味もどことなく頼りない部分がある。それを、「だし」のうま味を利用して、いかにおいしいアワビ料理にできるか見ていてください。イタリア料理らしくアワビと相性のいいラザニエッテというパスタで仕上げます。
ベースの「だし」になる、魚介のブロードをつくります。太白ゴマ油を入れます。イタリアンなのになぜか。太白ゴマ油にすると味の余韻が上品になるような気がして、好んで使っています。ニンニクを入れて香りが出ましたら白身魚のアラ、きれいに血抜きし、さらしたものを用意しています。少しだけ塩します。先に味見してもらう「だし」用にアサリを使ってしまったので、ここでは別の貝と、ホタテを入れます。それにアスパラガス、白ワイン。ここで昆布を一切れ入れます。アワビの味を優先して引き出したいと考えています。肉とかソースに使う「だし」の場合は、ベーシックな香味野菜をたくさん使って煮出すのですが、今日はアワビの邪魔をしないようシンプルに、野菜はアスパラだけです。灰汁を除きながら1時間くらい煮出していきます。仕上がりの5分前にセロリの葉を入れて漉していきます。これがベースとなる「だし」です。テイスティング用に配ります。今日はシンプルに魚介の「だし」、アスパラにもアスパラギン酸のうま味の風味がありますので。
「だし」をかけている間にアワビを調理します。生のアワビです。ブラシでぬめりをとり、塩はあえてしません。身が硬くなるようなのでこするだけです。昆布、大根、玉露を用意しました。玉露をなぜ使うか。アワビのいやな癖がマスキングでとれるような気がします。お茶にもグルタミン酸、うま味がたっぷりある。40℃くらいに温めたお湯に入れるだけで、「だし」のようなうま味を感じて、このお茶をどうやって使うかと考えましたが、肉に入れたりしてもイマイチでピンとこなくて、魚介に入れると余韻が長いような気がします。酒を入れます。8分圧力をかけていきたいと思います。圧力鍋にかけたアワビを用意しています。加熱した時、出てくる煮汁にアワビ自体のうま味もあります。アワビの中心まで戻す意味で、さらに鮎魚醤を使っています。太白ゴマ油と煮汁を合わせたものは、アワビに固体差がありますので味が濃い、塩辛いものもあるので味をみて入れてください。それをガストロバックにかけます。いろいろ試してみて、常温で10分くらいを3回繰り返して減圧しながら仕上げていきます。目的は味を中まで入れたいから。真空パックでも味は入りますが、ガストロバックを使うことで味が短時間で入るように思いますので、この料理には必ずこの調理の仕方をしています。



今日のパスタはラザニエッテです。普通、パスタは卵、水、塩が基本ですが、あえて昆布を粉末にしたものを入れています。また、高知県で天日干しの昆布塩をつくってもらっていまして、これも中に入れて成形します。さらにアオサ海苔と卵白も入れます。アオサ海苔にはグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸と3種類入っているということです。どこまで効果があるかわかりませんが、アワビを含めてパスタとソースの一体感を出すのが大事と考えているので、昆布のうま味の入ったパスタにさらに茹でる鍋にも昆布を入れています。入れるメリットは下味がしっかり付きやすいこと、そうすることで塩分も控えられる。アルデンテですね、しっかり腰が長く続くような気がします。
パスタのソースをつくります。オリーブオイルを入れて、ニンニクは香りだけ出します。そこにエシャロットのみじん切り、アンチョビ。仕上がったものを入れて煮詰めていきます。昆布は溶けるので、この時に取り出します。ガストロバックにかけたアワビ、形状はそんなに変わらないですが、1日液体においたものがおいしいと思います。養殖のアワビがどこまで味わい深いものになっているかを見せるため、あえてアワビは上に乗せます。煮詰めたところにアワビの肝を裏漉ししたもの。茹で上がる前に一体感を出して馴染ませておきます。ひとつまみバターを入れます。パスタにもしっかり海苔を入れますが、磯の香りを出したい時はパスタに海苔を滑らかなペーストにして混ぜる場合もあります。店では、アワビは湯せんで人肌程度に温める程度で提供していますが、今日はブロードで軽く温めて出したいと思います。周りが焦げやすいのでしっかり混ぜます。パスタにアワビのうま味を吸わせる感じで炒めていきます。イタリアンパセリとバージンオイルを加えて仕上げ。盛り付けでは、デモンストレーションなのでアワビの戻しを殻に入れました。これくらいしっかり肝を入れると、甘味も出ると思います。アワビと海苔のラザニエッテの完成です。

■考察
川崎 アワビが殻から出て、また戻ってきたというイメージですね。フランス料理でも素材を分解し再構築して皿に戻すことがありますけど、イタリア料理においては、さらに違う形で強調されたなと思うのは海苔とかを使うことです。アワビは海草を食べているんですね。海苔は食べていないと思いますが、肝の中に海草が入って強調された感じがして面白い料理だなと感じました。アワビそのものだけではこのおいしさにならない。そこが料理の重要なところ。アワビを身と肝に分解して、アワビはアワビで独特の火入れをして、ガストロバックの効果だと思いますが気圧を抜いていく。真空パックだとパックで締まってしまうところがあると思いますが、そうではなく、気圧を抜いているだけだから柔らかい状態のまま仕上がっている。そこがガストロバックで重要なところで、うま味を含み、これが今回の「だし」の使い方だと思いますが、肝は肝で海苔という外からの情報が合わさって、ブロードも入って、しかもパスタと合わさって、この料理は肝の料理かとも思える。アワビの肝がおいしい料理になっている。肝も一緒にガストロバックにかけていて、肝のすり流しになっているが、肝が普通に食べるよりずっとおいしくなっているような仕立てだったと思います。素材を超えたいろんなうま味が入ることで、アワビそのものがより強調されて、アワビがよりアワビのおいしさになっているのですね。
門上 いろんなジャンルの料理に昆布が使われるようになり、うま味がポイントになって、フランス料理でもイタリア料理でもないような個人の料理になってきている。木下さんの立ち位置は、あくまでイタリア料理なのですか。
木下 僕はイタリア料理をやっているつもりです。日本には、魚をはじめ繊細でいい素材があり、流通もしっかりしていて、いい生産者と知り合うきっかけがある中で、繊細ないい素材はニンニクやハーブ、オリーブオイルなどのイタリア料理の食材や調味料、調理法だけがベストではないことがわかってくる。素材を引き立たせることにつなげようと思えば、ジャンルや垣根を超えないと、最上のおいしさにはいけないのかなと考えるようになりました。イタリア料理しか勉強していませんので、そういう思いをイタリア料理に落としこみたいと。その枠を超えればおいしくなるはず。だから、知識としてインプットして、こういう場でアウトプットして成長につなげていきたい、お客さんには喜んでいただきたいと思っています。

