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「肉と火入れの新時代」Program 3:パネルディスカッション 2/2
Program 3:パネルディスカッション 2/2
講師紹介

門上 山根さんのグループでは、どういう話が出ましたか。
山根 技術的な議論もありました。高橋さんの料理が、結構長時間漬け込んでいると。それによって柔らかくなる効果があるのか。塩味で逆に硬くなるのではないか。下味をつけたかったのではないかなど。山口さんの料理でいうと56℃で5日間で、どんなことが起こったのか。それは加熱によってタンパク質が変性したのではなく、タンパク質を分解する酵素が働いて柔らかくなったのではないか。調理ではあるが、酵素調理ですよね。そこからつながって「消化の外部化」、酵素が働くと菌とかバクテリアが食べ物を柔らかくしてくれる。熟成させるのはそれらが栄養素を身体に取り込むために酵素を働かせて食べ物を変質させたことでおいしくなった。それを「発酵」という。おいしくないものもあって、その菌にとってはおいしくても僕にはそうでないのは「腐敗」となる。人間の身体の中でも同じことを行なっていて、栄養素を外から吸収できる形に変化させる。調理というのは外部でどこまで代行するかで、それを器械がやることもあれば料理人がすることもある。全部やってくれれば食べなくてもよくなって、おいしくなくてもよいことなる。山口さんの料理から、「消化の外部化」を思い、こういう方法もあるんだなと感じたという話でした。
門上 長時間漬け込むことで柔らかくなるのか、硬くなるのかということについて、高橋さんどうですか。
高橋 私の料理は揚げています。あれを焼き続けるとガシガシになります。メイラード反応の仕方が変わってきて焦げているのはタレだったりするので、肉が焼けているのかなと思っても、タレが焼けているという感じになります。なぜ天ぷらにしているか。衣を纏うことで蒸し焼きになるからです。水分の多い野菜は特にそうですが、油の中で滞留することがあって、揚げている時、2回目に入れた時も、あまりパチパチしていなかったと思います。あれは中で水分がこもって外に出ていない状態だと思うので音が出ない。それだけ柔らかく仕上がる、そういうようなことで、あえて天ぷらを活用しました。
門上 山口さんの56℃5日間の恒温状態。あれは5日間で何が起こっているのでしょうか。
山口 酵素の働きを利用した「外部消化」なんです。今、興味があるのは嚥下食。それは今回やったものを反転させることで、見た目は肉ですが食感も何もなくて、口の中で溶けていけば高齢社会の日本にとってもいいかなと。そういう発展性があるということを今回の料理を作りながら考えていました。更にもっと、とことん火入れしていったら、口の中に入れた瞬間全部なくなって胃も腸に負担はかからなくなるのではないかと。本日は給食関係の方もおられたので、そのへんの切り口を見いだせられるよう参考にしてください。
門上 山口さんのカツサンドは、カクテルソースがあったり、マスタードがあったり、パンの食感もあったり、いろんな要素が含まれていて、まとめておいしくいただきました。衣をつけない状態で肉を食べるとまた全然違いますよね。
山口さんは「歴史的瞬間に立ち会った」と表現されましたのが、新しい方法が生まれたように思います。
川崎 何が起こっているか。56℃という温度帯では、タンパク質の自己消化酵素、筋肉がもっているタンパク質分解酵素が働いているからですが、3日と5日では違いますか。
山口 分子の熱の伝わり方の違いで、固体の大きさによるだけだと思います。ある程度の時間でも柔らかくなるので、肉をもう少し小さく切ると1日でも同じ効果が生まれたと思います。
川崎 酵素反応は56℃くらいが一番働きます。食べるとわかると思いますが、繊維が切れている感じがしたと思います。顕微鏡で見ると長い筋線維が分断して切れている状態になっていたはずです。以前、『菊乃井』の村田さんがベジタリアン向けの肉を作るというので、麸を煮込んでゼラチンを入れて固めてカツサンドにしておられました。わかりやすいおいしさを作る、そういう時にカツサンドってよく使われるのかなと思いました。
門上 次に、吉岡先生からグループでの報告をお願いします。
吉岡 山口さんの肉料理にですが、「従来にない食感で驚いた」という感想がありました。中国料理でも、硬い肉を調理する時は煮込んで味を含ませてコラーゲンをゼラチン化していく。試食では柔らかいが煮込んだものと焼いたものの食感の違いをはっきり感じました。また、「コラーゲンをおいしく食べる、硬い肉を柔らかくするテクニックで調理されていましたが、肉本来の味は素朴で、それが表に出てきてもいいのか」という感想がありました。変えるとすればどういうテクニックを加えたらいいか。またコラーゲンを利用した調理法で何かお考えがあればお聞きしたいとのご意見でした。
山口 肉のおいしさについては、先に紹介したユーチューブを見てください。神戸ビーフが出ています。「赤身のおいしさを肉のおいしさ」とするか、「霜降り脂のおいしさを肉のおいしさ」とするかで、出来上がりのデザインは変わってくると思うので、「味が淡白だった」という意見を想像して「もう少し脂があった方がいい」ということならば、違う形でも展開できると思います。A5の肉を食べておいしいと思うのか、シャロレー牛の肉汁を噛みしめるとおいしいと思うのか。「こんなのがあります」「自分はもっとこうしたい」とか料理は提案なんですね。常連さんには、その方に合わせた料理ができるわけですが、すべての人がおいしいと感じる料理は作れません。どの料理店でもそうでしょう。一人ひとりの方にカスタマイズされた料理ができれば完璧においしいものは作られると僕は思っています。コラーゲンの料理については、中国料理はコラーゲンの料理ですよね。洋食、和食には中国料理に比べたら少ないと思いますが、なぜ中国料理は、これだけコラーゲンの料理があるんですか。
吉岡 フカヒレとか魚の浮き袋、象の鼻など、中国の人達にはコラーゲン、ネチッとしたゼラチン質の多いものが身体によく活力になるという発想が基本的にある。民族性、食文化の違いでしょうか。その他、高橋さんへ焼いてから下地に8時間漬けて真空にする手法。そこに「安全が担保されているのか」という質問がありました。
高橋 肉自体は魚と違い、表面の加熱でしっかり処理がされているということです。炭火は高温なので、高温でしっかり加熱してから真空にしています。その後の火入れ自体も、天ぷらの温度帯も高温処理で、肉の厚みを計算して芯央が70℃近くで調理していますから問題ありません。
川崎 炭火で焼いて温度をすぐ下げている。56℃の温度帯も早く通り過ぎさせるという伝統的なやり方に則っているから問題ないという判断ですね。
吉岡 あとは熟成肉に関しての質問です。料理人が注文して届いた肉を下処理をし保存して加熱する。安全という面で、どういう扱いをすればよいのか、製造、流通、販売から調理、加熱まで「安全のポイントで定められていること」があれば教えていただきたい。また、熟成肉は血液の多い肉なので「安全についての科学的な方法」があれば教えていただきたいという質問です。
川崎 「スネ肉は味わいが薄い」という話がありましたが、スネ肉という肉自体もともと肉汁が多い部位ではない。そんなにうま味を感じないのではないかと思われます。スネ肉の加工は、山口さんがされたのがおいしさの限界ですかね。当然、ロースとかリブロースとか肩ロースとかとは違うという前提だと思います。だからこそ、ソースをおいしくして、全体としておいしくすると考えるのがいいのかなと思います。
安全に関する法律についてですが、整備が始まろうとしていると聞いています。それに則ってやるしかないです。
血生臭さについて。当然、血抜きはされているはずです。でも、スネ肉は動物で体重を一番受けるところです。血液はヘモグロビンですが、筋肉中にあるのはミオグロビンという別の物質で、それが筋肉が赤い理由ですが、ミオグロビンもヘモグロビンも酸素を入れる力が強い。スネ肉は、赤いということはミオグロビンが多い。脂質を酸化させやすい。それで血生臭さが出やすいのではないかと思います。
門上 いろいろな観点から発言をいただきました。今回はグループディスカッションをした効果があったように思います。また更にブラッシュアップしていきたいと思います。「肉の火入れの新時代」は、「安全」が担保されてこそ、次の段階へと進めていける。この提案を、みなさんがどう受け止め、次のプロセスにいくか。ここからみなさんで考えていっていただきたいです。それでは今日のプログラムはこれで終了します。どうもありがとうございました。



