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「魚の火入れ」Program 1:レクチャー 2/2

「魚の火入れ」Program 1:レクチャー 2/2

Program 1:レクチャー 2/2

講師紹介

川崎 寛也氏
農学博士、「味の素株式会社 食品研究所」上席研究員

基調講演:『料理人のための「魚の火入れ」のサイエンスとデザイン』

■加熱時間と素材の中心温度(参照:表8)

同じ温度でも長時間加熱するとどんどん反応は変わります。前回、山口シェフに「低温長時間調理」をしていただきました。調理器具がなかった頃、低温で長時間加熱できなかったのが、スチコンとか科学的手法が発達したことによって温度制御60℃で長時間加熱し続けることができるようになりました。加熱技術の発展は器械とともに進んできている。加熱調理法とメニュー名は一致して例えば「魚のヴァプール」という言い方をする。今まで食材と料理の加熱方法は、この食材はこういう調理技法とある程度決まっていたと思いますが、あえてそれを違う方法ですることもできる。

表8:加熱時間と素材の中心温度

■加熱調理法を他の素材でやってみる(参照:表9)

マトリックスにすると、今まであまり試みてこられなかったものが見い出せる。あえて白身魚をポシェとかヴァプールとかすると、どうでしょうか。マトリックスで考えると穴が見つかるということです。2013年、月刊『専門料理』に連載していたとき、業務用の強いドライヤーを加熱調理に使えないか試してみました。温度が上がる、乾燥もする。鮎に離水温度より下まで加熱するのに使えるのが実証できました。

表9:加熱調理法を他の素材でやってみる

■塩の影響(参照:表10)

離水温度より上の温度まで加熱する場合、保水性を高めておく。これが日本料理で特徴的な加熱だと思っています。塩の影響が多くあります。筋肉のタンパク質のうち、塩に溶けるタンパク質、「塩溶性タンパク質」を溶かす。それによって高温に加熱した時の保水性が高まる。60℃以上加熱しても、しっとり感が残る。これが日本料理の他の料理との一番の違いだと思います。フランス料理の場合、事前に塩をすると肉の場合、シャルキトリーのハムやソーセージに近づくというので、あまりされないと聞いています。日本料理は塩を含む調味料、醤油、味噌とかでマリネする。日本料理の場合、炭火で加熱することで温度コントロールが難しいので、こういう知恵ができたと思います。糖にも保水性がある。砂糖、味醂にも保水性があるので日本料理の西京漬とか高温に適した調理になります。ところで、塩がタンパク質を分解してアミノ酸が増えるといわれますが、そういうことはありません。塩してもアミノ酸は増えない。塩溶性タンパク質が溶けるだけで分解はしない。塩をしたら、うま味が増えたかのように感じますが、塩によってうま味を強く感じているだけです。

表10:塩の影響

■日本料理の魚の火入れに学ぶ

日本料理では魚の火入れの前に塩または塩を含む調味料でマリネすることによって炭火など高温で加熱しても保水性が認められました。NHK BSの番組でしたが、火入れして身は75℃になっていましたが柔らかいのが確認されました。

■昆布締めした肉は加熱するとさっくりした食感

豚肉をシートで締めていくと新しいことができるのではないかという紹介です。昆布締めした魚を焼くことは、あまりないかもしれませんが、昆布締めすると食感がさっくりして、塩で締めるのと違う効果があります。『エディション・コウジシモムラ』の下村浩司さんに肉でやってもらいましたが、羅臼昆布に白ワインを塗って100℃のオーブンで加熱する。昆布臭さが飛んでメイラード反応が起こり、さらに燻製して豚肉をマリネする。昆布締めをした肉を加熱することで独特の食感になるのがわかりました。それで、下村さんと「何々締めをやってみよう」といろいろ試してみました。ドライトマトとヨーグルトを混ぜたものをシート状にしてマリネすると、ヨーグルトの酸で違う食感になるとか。ビーツはグルタミン酸が多くて昆布のようなものなので、ビーツヨーグルトとか奈良漬けヨーグルトとか、いろいろやりました。

■その他の火入れ

ロンドンの『Bratブラット』という一つ星の店では魚を丸ごと網で炭火の長時間加熱をしていました。丸ごと肉を焼くような感じです。メイラード反応はそんなに起きていません。遠火で長時間加熱していますから、しっとりしておいしかった料理です。その他、筋線維下に油脂を浸透させるコンフィなどは、加熱していくとき、油脂が共存すると筋線維の間に入っていき、滑りがよくなって噛んだときに柔らかく感じる。コンフィにはそういう役割があります。

■炭火での加熱

表面をしっかり加熱するメイラード反応でも、そのとき重要なのは温度です。炭火で表面温度が800℃~1200℃くらいといわれますが、遠赤外線なので表面が乾燥します。メイラード反応が激しく起きて一酸化炭素が発生するため、脂質酸化を抑えられる。油臭い焼き物でなくなる。内部は表面からの伝導熱でゆっくりと加熱する。水分が保たれてしっとりする。乾燥する、表面がパリッと焼かれることで噛んだときサクッと入る。中はしっとり、ふわふわ。伝導熱や輻射熱については資料の図表(参照:表11・表12・表13)を参照ください。NHK BSの番組で、『瓢亭』の高橋英一さんが「鮎の塩焼き」をしたとき、炭を山積みにして、ものすごい火力で火入れする。そうすると薄い皮がパリッとなって中がふわふわで柔らかいように感じる。身自体の硬さは機械で測っても焼く前と同じですが、表面がパリッとしていることによって柔らかいと錯覚するというのが、そのときの結論でした。

表11:伝導熱

表12:対流熱

表13:2)電磁波を照射する

■炭の香りは存在するか

肉の西京漬けを炭火で焼いたとき、料理人が言うような「炭の匂い」が存在するかを検証しました。炭で焼くと高温でメイラード反応が起こるので脂質酸化臭が少ない。メイラード反応の香り成分が強調されて香ばしい香りがすることが、このときの結論でした。「炭の香り」といいますが、炭自体に香りがないことから考えると「炭で焼くとおいしい」と感じることは、こういうことが理由ではないかと思われます。

本日は「加熱しても柔らかく感じさせる方法」という内容でまとめました。3つの視点、「食材の状態を変えるための温度」「成分や構造を保つための温度」「どう感じさせるか」と、デザインしていくのが重要だということです。柴田書店から出版した著書『料理のアイディアと考え方-2』が、魚の話です。12の魚介ごとに使い方やおいしい理由を解説しています。参考になればと思って紹介しました。以上です。

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