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![「魚の火入れ」Program 2:料理プレゼンテーション&考察 [日本料理]](https://food-culture.g.kuroco-img.app/v=1774927653/files/topics/761_ext_2_0.jpg)
「魚の火入れ」Program 2:料理プレゼンテーション&考察 [日本料理]
Program 2:料理プレゼンテーション&考察 [日本料理]
講師紹介
「甘鯛飯むし」

料理プレゼンテーション
「温故知新」について。私は三代目ですが、『木乃婦』は今から85年前の創業で、積み上げてきた料理も一つずつ変わっていく部分があり、止めたり、また見直して、もう一度始めたりということをしてきました。祖父の料理の中に「甘鯛の飯むし」がありまして、創業当時から続くメニューのひとつで、今は昼のミニ会席にしか出していませんが、忘れない程度にこの料理をしているんです。そもそも若狭から入る甘鯛はそんなに高価でなく、料理には身だけを使っていました。頭は、焼いて出汁に豆腐や刻んだ九条ネギと入れて、無駄のないよう昼のまかないに食べていたようなものです。ところが、近年、甘鯛は年々希少になり値も高騰して高級魚になってしまった。今や昼のミニ会席に入れるのも難しいほどです。一流の食材を使えば必ずおいしい料理はできます。でも、値の張るものを使えば当然単価も上げねばならなくなる訳で、先を考えればそういう対処を続けることにも限りがある。そういう課題とともに持続可能性も踏まえ、今日は高級でないものをどういうふうにすればおいしくできるかを考えてきました。中国産の値頃な甘鯛を使った「甘鯛の飯むし」をつくります。
川崎先生のいわれる「魚の火入れのデザイン」にそって整理してみます。中国産の甘鯛は脂の乗りがそんなによくなくて、風味も国産より弱い。そういう要素から少し薄い、弱い、貧弱というイメージがあります。中国産の甘鯛を塩焼きしてもあまりおいしくない。つまり、成分と構造を引き上げる必要がある。風味を強化して香りを強化する。脂を何とか足していく。香りを付加していくことを考えてみました。「加熱温度の選択に必要な判断」は、表面にメイラード反応を起こしたい。私のイメージでは、表面に香気成分と脂を付加したい。身の中まで浸透させにくいですが、表面に甘鯛の味わいと香りを強化すれば食べた瞬間に口の中に広がる香りと脂で、国産の甘鯛のような雰囲気を出すことができると考えてみました。「温度と食材の成分と構造」では、魚類は40℃から60℃で湯がけばコラーゲンがゼラチン化して離水し、味が水に溶け出していく。温度が上がると脂質酸化が進んでメイラード反応が進んでいく。魚では脂質酸化が進むと困るんです。なおかつコラーゲンが水の中に出ていくとパサついてくるので困る。この部分をクリアしないといけないと考えました。「温度と調理技術」では、水と調味液、油脂の火入れの仕方がポイントです。水と油脂をドッキングさせ、水と油脂の間の構造を湯がいたらどうかと考えました。ポシェ、茹でる、煮込むタイプの茹で方と、コンフィのように完全に油で火入れするやり方をミックスして、コンフィ・ポシェのような要領で甘鯛の表面に脂と香りをまとわせることを考えてみました。

レシピは簡単です。日本料理は塩をします。身に塩を満遍なくおいて3、4時間。飯むしなので、これくらいの器で出しています。おしのぎ程度に寒い時は最初に出したりもしていましたが、これくらいの大きさの器で餡掛けして食べる料理でした。切り身も大きいものではなく、湯がいてさっと蒸すくらい。今日は霜振りもせず、そのまま油で火入れしたいと思います。
昆布出汁を沸かして入れます。甘鯛は焼いて1日たつと酸化臭が強くなるので、出来立てしか無理です。一旦冷まして火入れすると酸化臭が強くなってスープストックとしては取れないので、当日、アラを入れてお客さんに出すタイミングでオンデマンドでつくらないとだめだということです。頭を入れて濃い目の出汁を取ります。沸いたら酒を600cc入れてアルコールでクセを飛ばすようにして灰汁を引いてコトコト炊いていきます。できる限り透明にしていく。沸いたら、油を入れます。後からも油を足しますが、この時点で余分な灰汁を取ってなおかつ油を少し足します。太白胡麻油ですが、これ自体、香りがないので甘鯛を炊いている間に甘鯛の香りを油に移す。中国産の甘鯛は脂が足りないので脂がない部分だけ精製した油を足し、精製した油に甘鯛の香りを移して、しばらくフツフツと香りが移るまで10~15分炊きます。これを残しているのは後でまだ油が足りない場合にちょっと足すためです。魚の脂分がどれだけあるかによって調整します。細かいもので漉していきます。濁りやすくなるので静かに漉す。味をみて、少し足りなければ必要な分だけ油を足して。油と水分が分離した状態でポシェしても上に油が浮いて下に沈むので茹でていることと変わりがなくなるので、これをバーミックスで乳化させ、結構どろどろの液体をつくります。一旦、こういう状態になると戻らないので白濁した液体の状態で加熱します。魚によって油量は調整してもらえばいいと思います。



魚の身を入れて75℃で火入れしていきます。10分間、火入れしている間に白蒸しをつくります。もち米を水でよく研いでザル切りして20分蒸します。上がってきたものに酒100cc、塩1g加えて、もち米に吸わせて水気が引くまで攪拌します。百合根を掃除して適当な大きさに切り、中に入れてさっと混ぜて真ん中を空けて蒸します。10分再度蒸して白蒸しが出来上がります。その間に出汁を取ります。素出汁に調味料を入れていきます。薄口醤油7cc、味醂5cc、酒5cc、うま出汁です。他の工程は祖父の時代と同じですが、甘鯛自体の処理を差し替えて全体的にイメージを変えたものになります。食材が違う状況でも、若干、品質が高いものにして出せるようにという一つの工夫を紹介させていただいています。あとは沸いてきたら水溶き葛で、とろみをつけて銀あんをつくります。蒸し上がったものに上からかけます。食べていただくと、外側に風味が結構グワッとくることがわかっていただけるかと思います。銀あんができたのでもち米を入れて茹で上がったものをペーパータオルで軽く上だけを拭いて上に乗せて銀あんをかけて仕上げるという至って簡単な料理です



最近、朝に京都中央市場へ行っても、魚の種類が少なくて地方から魚を買わないと日本料理がつくれないことになっている。全国からいろんな食材を高いフードマイレージを使って料理をつくっていかざるをえない。京料理の構造自体も難しい世の中になってきているなと思います。災害があると完全に交通手段が分断されますし、料理がつくりづらい。それをどう工夫するかも料理人のテクニックとなってくる。昔のように、当たり前のようにいい食材が入る環境ではなく、そうではない環境でも料理をつくること。お客さんには、そういう食材でも、そこそこおいしく食べられるようにやっていくことがが今後、大事になってくるというふうに思います。ずっと続いている料理も、食材がその時代のものがあればいいんですが、時代が変われば食材も変わってくる。「温故知新」、調理技術は常に発展していくものなので新しい調理技術と考えあわせながら料理をつくっていくことが大事だなと思っています。

考察
川崎 香り成分は脂に溶けやすい成分と水に溶けやすい成分があって、加熱していく段階で焼いた甘鯛の頭で出汁を取っている時、一番おいしそうだなと思いました。油を足す理由に関しては、香りが飛んでいく部分を、ある種の油でトラップする、それによってすべての甘鯛の香りを汁の中に止めておく。それをまた甘鯛に戻していく火入れの仕方。香りを使って火入れをアップデートしているところがポイントかなと思いました。
髙橋 酒を入れて生臭さを飛ばしてから余分なものを取り除いて油でコーティングして酸化を止める。空気に触れない状態にして。そこに油に香りを移すという処理です。
川崎 そこの部分で香りを届け、さらにバーミックスで中に入れ込んで加熱する。そこが重要かなと思いました。ありがとうございました。

