Program 2:料理デモンストレーション&試食[里山の風景 SATOYAMA Scenery]
講師紹介
「サスティナビリティーとガストロノミーの融合」をテーマに、自然の素材と向き合う成澤さん。その考え方と料理を、これまで海外で発表してきたときの映像とともに紹介され、凝縮された一皿が供されました。樽や杉を削り水に浸した森のエッセンス、竹炭を使った黒い土、テンペ(インドネシアの発酵食品)を使った土と苔など数々の繊細な料理が、皿の中で里山の風景となって表されていました。
今、レストランで日々何を行っているか。過去の料理学会で発表したものを(スライドで)振り返りながらお見せしたいと思います。僕は料理人の立場でしか語ることはできませんが、毎日、世界中のレストランで繰り広げられる感動と驚きは地球上の豊かな自然があってこそだと思っています。幸い、僕たち料理人は自然と近いところで仕事をしています。そんな行動が自然に対して重要な役割をもっていると思っています。僕の料理は一皿、一皿にそんなメッセージが込められています。
土のスープSUMI ASH
これは2001年から取り組んでいる土の料理です。料理人として安全で健康な、おいしい食材を探し歩いた結果、たどりついた料理です。林に足を踏み入れると朽ち果てた炭焼き小屋を見つけました。ガスや電気が発達してなかった頃、人は森に入って余分な枝を間伐してそれを薪や炭にして調理や暖をとっていました。そういう生活習慣から、木を間伐することによって森に風が通り、光が届いて森に宿るいろんな命が生まれてきました。そんな先人の、このような理に叶った暮らしぶりを忘れぬように、炭を表現した料理を始めました。これは炭を応用したテクニックです。まさに炭が燃えたあとにできる灰のように生まれました。
水のサラダ
海岸で漁師たちがたき火をしながら海産物を焼いている様子をイメージしてつくった料理です。これも畑から林に入っていく途中の風景からイメージした料理です。水です。料理のつくり方、テクニック等は今日はあえてお話しませんが、すべてのレシピは公開していますのでごらんください。水のサラダ、1枚の風景、水がわき出る泉、豊かな自然の風景を一皿にしました。その風景の中には野生のクレソン、田せり、野生のワサビがあります。何とかこれを料理に表現したい。無色透明のきれいな水。そこで減圧できるエバポレーターを使います。その中にここの土地でできた水とすりおろしたワサビを入れて減圧して温度をかけるとワサビの香りが飛んでしまう。気圧を下げて沸点を低くして蒸留させる。無色透明なワサビの香りがする、ほのかに辛味のある水が取り出せます。ゲル化剤を加えてスプーンでぎりぎりすくえる濃度をつくります。その脇には野生のクレソンや田セリをおきます。これはまだまだ氷りそうな里山風景ですので、しっかりと凍る直前くらいまで冷やしています。
森 COOK IT RAW
畑からふと頭をあげると林、その先には日本の豊かな森が広がっています。そんな森を何とか後世にいい形でつなげていきたいと思いました。現在、地球のほとんどの森は人が手を加えて維持されています。これはびっくりするかもしれませんが、自然豊かな北欧なども、ほとんどが人が植えた植林した樹で成り立っています。地球上で原生林は少ない状況です。森に人が入らなければ森は死んでいきます。適度に間伐してそのものを使ってさらに木を植える人と森がかかわっりあって初めて自然は循環していきます。この瞬間にもこの地球上から森がどんどん減っていっています。1年間でイギリスの国土と同じ面積の森が消えています。いくら二酸化炭素の排出量のことを考えても、きちんと浄化する森がなければ、この先、美食も何もあったものじゃない。食べていくことさえ難しい。そんな森は日本人にとって身近な存在だと思います。器、木造建築、おにぎりを包んでいる竹の皮、生活にかかせないものすべてが森からできあがっています。だんだん森からの木々も輸入に頼るようになっています。日本の森は一見、豊かに見えますが、根っこが土から出た状態で、いつ地滑りしてもおかしくない状態です。木を伐採して木を加工して使っていかないといけない。地球は今、放置状態で緑の砂漠といわれている状態です。そこで料理人としてはそんな大きな問題にどうかかわれるか、単純に土のスープと同じで森を味わってもらおう。人の口に入れる時、非常に警戒心が働きます。低農薬だから大丈夫だろうと野菜は食べますが、低農薬の土だから水に溶かして飲んでみろといわれると飲めないと思う。そんな形で森を味わうことを考えました。森からは空気や水、植物、いろんなものが生み出されるわけですが、そんな日本の木をもっと使おうというメッセージを込めた料理を始めました。これは全く熱を使わないでつくった料理です。クッキーのように見えますが、熱を使わず。エゾカジカを味噌漬けにして木に刺して数日間乾かす。生ハムのような状態でスライスして杉の枝に刺して、森からとれる木の実や果物で構成されています。これも2010年にイタリアのフリウリ=ヴェネチア・ジュリア州という、スロベニアとの国境沿いであった、当時世界の料理人に影響力をもっていたイベントで発表した料理です。インターネットで世界中どこでも情報が入る時代です。実演していた瞬間に世界に映像が流れる。またたくまに世界中に木の板に料理が盛られるようになりました。少し時間をおいて日本でも多く木の板に料理が盛られることがあるんですけど、残念なのは、聞いてみると日本の木ではなく、輸入の木の板だと。願わくばビジュアルだけではなく、意味やメッセージも一緒に感じていただけたらいいなと思っています。



森のエッセンス
そしてさらにもっと森をダイレクトに感じてもらいたいと思って生み出したのが森のエッセンスです。木でとるダシ。2009年頃からやり始めて2010年、マドリッド・フュージョンで発表して、バックヤードのキッチンを手伝ってくれる若いスタッフが「日本からきたこいつは頭おかしいんじゃないか」というような目で見られました。カンナで木を削る、それがまさか食材だとは思っていない。そこに水を注いで水ダシの森のエッセンスをとる。一見奇抜なように思えますが、そんなことはない。いろんな木で試したんですが、最終的には杉の木とオークでした。ご希望があれば味わっていただきたい。まさにブランデーやウィスキーそのままの味です。アルコールは入っていません。ノンアルコールカクテルがこれでできます。オークの香りの効いた水。こうやっていろんな木で試して死にそうな思いをしながらヒノキとか桜とかニレとかいろいろやったんです。たどりついたのが先人がやっていた杉の木、お酒の樽とか、オークはブランデーやウィスキーに使われる。メッセージとして森を味わっていただくというのは昔からあったものを、こういう形で表現しました。
木を食べる
そして次に取り組んだのが、実際に食べられないだろうか、木は。いろいろ試してみました。結果的には難しかった。繊維が残る。いろんな方法をとれば可能性があるかもしれない。最終的にはどう森を表現するか。私たちの周りは、目に見えない微生物に囲まれています。菌に囲まれている。体も菌のバランスで健康を保っている。無形文化財にも指定されている白神山地で天然酵母を採取したものを使ってお客さまの目の前でパンを発酵させる。それによって通常、目に見えない微生物を自然の神秘的な働きを見てもらう。実際に森の中には栗の木の粉や木を味わうこととか。焼き上がった時にはふわっと香り立つ木の香りが特徴です。
ラグジュアリー・エッセンス
これは2010年冬。北欧のラップランドという寒い土地、食材が少ない土地では生きるため動物の命を絶っている。クジラやマグロがいわれていますが、極地で生活する人たちは生きるために食べる。ここで目にしたのはトナカイの屠殺です。大勢の海外のジャーナリストと十数名の世界から集まったシェフたちの目の前でトナカイを屠殺した。その時にやっと感じたんです。日本からいって恥ずかしいながら僕たちはどうやって生きているものを残酷に、必要があって殺して血を流して食べているか。次の日の夜の料理として生み出したものです。北欧ですので地面一面にベリー、クランベリー、ビーンズはよく食べます。それらを組み合わせてチリソースをつくったんです。そしていろんな雷鳥とか熊とか農作物を使ってエッセンス、これをラグジュアリー・エッセンスと呼んでいますが、それらを水を入れて12時間蒸す。中国料理の技法から学びました。中国料理で鳥一羽をお皿に載せて蒸してエッセンスをとる。これほどクリアで澄みきったうまみの多い液体はない。自然にタンパク質が凝固していく中で澄み渡っていく。こういう地元の食材と地元の風景と現場の状況を一皿にしたものです。ブラジルのサンパウロ、今、南米は注目されています。なぜかというと食材の起源が南米に多いことと、アマゾンが地球を支えているといってもいいくらいの恵みを抱えていいます。ブラジルでの学会のテーマがサステナビリティでした。ここでは地球の森の状況というものの話をしながら料理を展開していきました。
可視/不可視 利休と成澤
海外の人たちは日本に興味をもっています。正直、わかりづらいという声がある。日本料理は完成されたもので原点がわかりづらいかもしれない。そこでパリの学会では可視と不可視、見えるものと見えないものということで発表しました。なんでわかりにくいかといと、ビジュルアルでは判断できないものが日本にはある。目に写るものがすべてではなく、その奥にあるものを感じることは、なかなか理解できない。おこがましいですが、「利休と成澤」というテーマでレストランの空間の意味についてお話をしました。一見シンプルでなんでもないようにみえますが、それぞれにそれぞれの意味があるというお話をしました。この日、右側は拾ってきた朴(ほう)葉です。この時期になると落ちている朴(ほう)葉に能登の漆の職人さんに漆をかけてもらいました。非常に迷惑がられました。「こんなもの、落ち葉に漆をかけることはない」と。ただ見ていただくと、そこに盛られるものによっても非常に映える。絢爛豪華なものがすべてではないということです。



里山の料理がさらに深まってきました。このあと、味見をしていただき、ここでも一皿つくりますが、日本の食文化を一皿にした料理です。これはスペインです。シンプルなことが贅沢であると、世界中で複雑な、科学的な、テクニークな話がある中で立ち戻る時がある。成澤を取り巻く生産者の方々を紹介していただき、レストランで豊かに仕事をするには生産者の人たちのお力添え、努力があることをお話させていただきました。
もう一つ世界は現在進行形で、発酵です。発酵こそ、ここに住み着いている菌があって初めてできる。これは実は持ち出せない。発酵による現象を使って料理をする。焼いたり、煮たり、意図的に人が手を下していたものを何とか菌に働いてもらって何かを表現する。秋田にある博士のところに通ってお聴きしながらヒントをえて新しい表現を考えています。
スペインのサンセバスチャンにある4年制大学です。ここでは4年間通うと大学の卒業資格がとれる。ここの学校にいってびっくりしましたが、農科学とか科学的な分野でのことをやっています。調理技術だけではなく、文化や科学的な食を中心に立体的に勉強する。一昨年、日本人で初めて呼んでいただいて2日間、一回の講義は4時間。ずっとやっても誰も寝ない、食いついてくる。その年から毎年一回ずつ成澤に研修にくる。熱心です。
先月、ニューヨークでの学会。うま味とか、発酵に関しても興味をもっています。この料理は五味をばらばらに盛りつけて味わってもらう。甘味、塩味、苦味、酸味、うま味。この時は昆布の話をして、表現しました。興味をもっていただきました。
みなさまの前に出ている料理、「里山の風景」。なかなか250人分つくるのが大変ですが、ペーストは何か。豆乳をヨーグルト発酵させたもの。大豆と米と麦の発酵文化が日本なんですが、大豆は発酵させて、さらに体にいい食材です。日本の食文化という時、環境にもいいが、体にもいい。医食同源。豆乳をつくってそこに乳酸菌を発酵を促進するために麦芽糖を加えて6時間で発酵させる。店ではいろんなものを発酵しています。醤油もつくっています。甘酒も塩麹もつくる。豆乳のヨーグルトは帰りの頃に発酵させて翌日の分にする。
そして今、上に乗っているハーブともいえない山野草、チャービルやイタリアンパセリやバジルとかではない。山で200種類くらい山野草はとれる。今この季節にとれるものを店に送っていただいてすぐに使います。二つ意味があって、日本はこんなに豊かなんだという紹介と、そういう地元の人たちが「うちには何もないよ。ここには何もないよ」というんですが、豊かな食材がそこにはある。それを次の後継者につなげていくことがなくなっている。食べていいキノコと食べてはいけないキノコが年配の人から次の世代に伝承されない。山野草もそうですが、野生のセリ、カタバミとか、見ないとわからない。いろんなものがあるんですが、これをレストランで使うことによって採りにいってもらうことができる。採りにいき始めるとみなさん、勉強してくださって、お金ではない、お金よりも大変です。冬の時期も入るので。見て研究して「これは食べちゃだめだ」とか、トリカブトに似たものがある。並べて皆で勉強してくれる。それが有意義だと。毎年、そこで地域でフェスタをやる。見事におじいちゃん、おばあちゃんしかいませんが、山野草を使った料理をつくったり。みなびっくりします。ハコベなんて、「裏に生えている鳥が食べているハコベ、私が食べるの?」といいながら。それが今、そういうことをすることによってスポットをあてることによって何とか引き継がれていくのではないかと、そういう意味も含めた「里山の風景」です。
土に見立てているものと、苔に見立てているものはテンペ菌です。大豆で食べやすいものを粉末にして乾燥させる。それがなければ、おからでもできます。今、ここにおいてありますが、あらゆるものを加えて何とか食べられる状態にもっていくということです。今、野イチゴが森の中にあります。飾ったり、きれいな紫のムラサキシキブが森に入れば豊かにある。こういうものを東京のど真ん中で日本人に食べてもらって、世界の人に食べてもらって、こんなところから日本の食文化はスタートしていると、お話をさせていただいています。あとでごらんになっていただければと思います。
このように日本料理ではない日本の料理をつくっています。勝手に「イノベイティブ里山」ということで、里山からインスパイヤーされた料理、日本人にしかできない料理をつくっています。海外でつくるのは難しい。ニューヨークでこれをやりましたが、全部、食材をもっていきました。食材はすべて自然から生み出された命あるものである、料理人は自然から預かった命をつないでいく使命があると思います。50年後、100年後の子どもたちにも豊かな食生活を自然環境を残していけるように自然に最も近いところで仕事をしている料理人が何かきっかけを与えられたらと思って日々やっております。今日はありがとうございました。

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