Program 2:パネルディスカッション
講師紹介


「おいしさラボ」が料理デモ出演シェフ3人の作るご飯のおいしさを分析した結果を発表。出演者全員で米とご飯の力について討議していただきました。進行:門上 武司
門上 今回は事前ですが、「おいしさラボ」の冨田さんに、料理人のみなさんそれぞれのご飯を分析していただきました。それをここで発表していただき、米やご飯の特性を知った後で料理デモンストレーションをしてもらいます。パネルディスカッションはそのアプローチです。では、冨田さんからお願いします。
冨田 基本的にはテクスチャーの部分を中心に分析を行い、それをサポートする形で含水状態、吸水率、構造観察を行っております。それぞれの米についてはシェフの方々にご説明いただいた方がいいかなと思います。
門上 最初は「ラ・フィネス」の杉本さんからお願いします。
杉本 今日の料理は洋食のピラフと同じで、タマネギを炒め、米をバターで炒めて、ゼラチンが結構しっかりした鶏のブイヨンの中でピラフを仕上げています。ピラフを単体でお客さまに提供することはありません。店ではブランケット・ド・ヴォーという仔牛のシチューのようなものをいっしょにお出しするので、ソースと絡めてご飯を食べるイメージでやっています。分析のために出させてもらったのは、別のソースで和えてリゾットの形にしました。今日は1ピラフ、2リゾットとありますが、本来ならソースと和えたものというイメージでお願いします。
冨田 前歯の感覚に関してはピラフとリゾット、奥歯の食べた時の「凝集性」、「粘り」はピラフを温めたもので分析しました。その結果、ピラフは結構、表面は硬く、もろさも40%潰した時に出てくる。中は柔らかいという理想的な硬いご飯になっていました。それをリゾットにする段階で表面の弾力は変わらず、もろさはピークから少ない力で潰れるようになった。内部はかなり値が小さく、表面は弾力がそのままある感じで弱い力で潰れて、中はサーッと消えてしまうというイメージでした。
16グラムのご飯を集合として扱い、潰して引き上げ、また潰すという実験をしています。1回目、潰した時、戻った時にかかる力。2回目、潰した時、硬さはこういう力、「付着性」「粘り」と相関がある項目に関しては引き算の部分。1回潰して2回目がどのくらいの割合か。「凝集性」。この3点を評価しています。ピラフは、1回目は高く、かなりエネルギーが必要だった。ピラフを加熱すると1回目で柔らかく、2回目、噛んだ時にはほとんど硬さがないという結果です。粘りに関してもピラフを加熱することで下がって凝縮性も小さくなっているということで、潰れたご飯がギューッとした状態からパラパラの状態になっていることが伺えます。
こういう結果から、ピラフからリゾットへの変化のイメージは、ピラフ加温前は表面の米粒がゼラチンでコートされていて表面が硬くなる。ゼラチンの粘着質のために米粒同士が凝集している。これを加温することで表面のコートした部分、ゼラチンは40℃~60℃で溶解しますので、米粒の表面のコートがとれて表面がもろくなる。内部は柔らかくなる。米粒同士がパラパラと独立した状態になっているのではないかと考えられます。
門上 杉本さん、ピラフでは米粒が凝縮する、リゾットに加温すると米粒が独立するということですが、そう感じられましたか?
杉本 データではこのような感じになりますが、食べた時、ソースの中に絡んでいるので日本のお茶漬けのような感じで、炊きたてのご飯は食感がありますが、お茶漬けにすると水分で中身が柔らかいはずなのに、ツブツブ感をちゃんと感じる。リゾットも同じようにしっかり火が入って炊き込みご飯以上に柔らかいご飯ですが、ソースと絡ました時、サラサラ、パラパラと口の中がなっているのに一粒一粒を感じやすく、食感がないはずなのに食感を感じてしまうという現象が起きると思うんです。今日もブランケット・ド・ヴォーを混ぜないようにしてカレーライス風に、ご飯と仔牛のシチューを別々に添える形になるので、まずご飯を食べてもらい、ソースとよく絡めて食べてもらうようにすると違いがわかって面白いかなと思います。
門上 同じ加熱したものでも単体で食べるのと、ソースの液体と絡めて食べるのとでは印象が違う。微妙な違いがあるということですね。
杉本 感じが違うと思います。今回は米だけで判断したものだと思いますが、ソースといっしょにすると口の中で滑る、潤滑油が入るとまた違うのではないかと思います。
門上 お茶漬けの話が出ましたが、徳岡さんは米単体と感じ方が違うのを意識されたことはありますか?
徳岡 その通りです。ただ、お茶漬けの場合、最近はだし茶漬けとかあるのですが、ソースのような濃度はなく、サラサラ、シャバシャバして液体そのものですが、ソースの場合は濃度がついていて、濃度によって米の感じ方が変わってくるのでしょうね。おいしさをどう作りだすか、ソースの量とご飯の量の混ざり具合が変わってくるので、それに適したソースの量があると思います。僕はどちらかというとシャバシャバの方が好きです。
門上 冨田さん、データと実際の食感が違うことについてはいかがですか?
冨田 米粒に関してはデータ通りかなと思います。米とソースが混じった時は実は難しくて、そこをうまく反映することができれば、料理としての評価もちゃんとできるのかなと思います。
門上 崎さん、寿司屋でお茶漬けを出すことはないし、握りも最近は小さいものに具材を乗せたりしますね。それは意識されますか?
崎 噛む、咀嚼することによって感じ方も変わるので、いろいろと考えます。
門上 崎さんは、どういう米を提案されていますか?寿司米というと、酢を加えたものですね。
崎 古米を3種類ブレンドしています。米を店で炊いたのをもって帰ってもらい、分析してもらいました。白ご飯とシャリとの違いをいいますと、シャリは粘りが少ない。シャリにした時のおいしさを、どこを狙うか。僕の中では口の中に入れた時のほどけ具合を大事にしています。ほどけ具合をどう考えるか。ご飯の表面のデンプンをいかに出さないか。ご飯の中に閉じ込めた状態で酢をかけてシャリにする。その数字がいろいろ出ていると思われます。
冨田 崎さんのは、水の状態、吸水状態を評価しています。一つ目がテクスチャーで、前歯で硬さの変化がどうなっているか。3種類の米のいろんな粒を評価すると3つのパターンに分かれました。タイプAのあまり食感がない、柔らかいものから始まって、タイプBは硬さはありますが、少ない力で潰れるもの。タイプCは強い力で噛んだ時に潰れるもの、と3つに分かれていました。これを寿司飯にするとどうなるか。A、B、Cはこのように変化しました。食べる時に温度を上げて人肌にしている。加温した場合はさらに柔らかさが増す結果になっています。この変化が大きいのではないか。その原因を探るために分析すると、3つのタイプの吸水曲線が分かれることがわかりました。A、Bは早く吸水され、Cはゆっくり吸水されていく。30分~60分で季節によって吸水の時間が違うということですが、冬は60分で、吸水が終わった状態で炊飯されている。すると、Cは硬めのご飯になり、Aは柔らかめのご飯になるのではないかと考えられます。付着性、凝集性、パラパラ感、溶け具合に関しては酢飯にして加温すると下がる結果がえられております。
これから考えられる酢飯への変化ですが、炊飯米の状態では水分を若干少なめに炊飯されるということなので、若干硬めです。その上で違う食感の米が共存しているのですが、酢飯にすることで調味料を添加する。水分率60%と適度な水分率、炊飯器でいう硬いモードの水分率になっています。それになると、ともに若干硬めの米は、ほどよい食感になり、柔らかめの米は潰れたりして、それが味の要素になっているのではないかと考えられます。
崎 季節によっても違うという説明がありましたが、調理場の手元に蛍光灯が1本あるんです。洗米した時に目視で確認する。毎日見ていますと何となく「いい状態」を目視で確認できていると思うので、季節によって変わっているということです。
門上 3種類の古米をブレンドされて、硬めのものが食感になり、柔らかめのものが粘りと味の要素になるという、すごい結果が出てきたなと思います。
杉本 すごいですね。熟成させるためではなく、古米にすることによって、どういう要素が出るんですか?
崎 新米はデンプン質が多く、粘りけが出てしまうので気を使います。なぜ古米を使うかというと、炊きあがった後、酢をかけた時の吸水がいい。よく酢を吸ってくれるのです。それと、表面のコーティングですね。新米だときれいにコーティングできない。古米の方がコーティングできて、一粒一粒がほどけやすくなっている。今は、米屋さんがかなりがんばってくれて、玄米で保存している湿度や温度をコントロールしてくれているので、昔のような古米ではないんですね。そういう理由から古米を使っています。
徳岡 勉強になります。ブレンドはやったことがないので。違うものを混ぜるとムラがでるとか、普通に食べるご飯にはよくないのかなというイメージがあるんです。寿司の米は吸水性が上がるのはわかりますが、ブレントすることでどうよくなるのかわからないですね。ブレンドする中の一番いい米を使った方がいいのではないかと思うのですが。
崎 シャリは、半分は食感があって半分は柔らかくて甘みがある。硬い米は甘みがない。柔らかい方が食味がある。半分、半分くらいで混ざるとシャリとしておいしいかなというのがイメージです、僕の中では。
門上 寿司屋では、皆、ブレンドされているんですか?
崎 寿司屋は初め「日本晴」という米の品種を好んでいたんですが、僕が修業した店では古米をブレンドしていました。新米だと出るたびにブレンドの比率を変えていかないと年間を通して同じになりにくいので、米屋と相談した結果、3種類ブレンドするのが安定していたということです。
門上 新たな課題が出てきたような気がします。最後は徳岡さんの米とご飯について。炊きたてですね。
徳岡 単純に炊きたてのご飯を分析していただきました。炊きたてといっても、店によっては、蒸らしとかかき回すとか、いろいろありますが、そういうことをせずに炊きあがった上層部を調べていただきました。
冨田 テクスチャーで前歯の感覚で「煮えばな」の状態から「蒸らし」5分後までの変化、構造観察として「蒸らし」の時点から段階的に分析を行っています。テクスチャーで0分は「煮えばな」の状態です。弾力は若干弱めで内部もそんなに硬くない。1分、3分、5分となるにつれどんどん内部の硬さが出てくる。弾力はどんどん上がっていきますが、フラットだった部分が3分、5分になると凹凸ができる。この凹凸があることで、外の食感と中の食感に差が出ることで、食べた時にしっかりと米粒を感じることができる。この結果をもって徳岡さんにお話にいったところ「こうじゃないかもしれない」というお話でした。それで考えて、次のようなことかなと。「煮えばな」は出来たてのご飯で、ご飯の温度は高い。熱いものです。表面は「おねば」だったり、水分がある状態です。計測する時はご飯から一粒取り出して評価するので、ご飯の温度が低下することや表面の乾燥が懸念されました。実際の食感と異なる可能性があると思われました。そこで考えたのが、出来たてのご飯を瞬間冷却して、その時の構造を観察する手法に切り換えました。米も違い、炊飯器も違いますが、「おいしさラボ」で丹波産の米を炊飯し、ご飯を釜から取り上げて断面構造を観察しました。その結果、釜底の温度とご飯の温度ですが、8分で100℃に到達し、その後、12分かけて炊飯が終了し、ここから「蒸らし」開始となります。サンプルにしたのは「蒸らし」開始の5分前から始めて、「蒸らし」開始の時点、3分後、5分後、10分後と取りました。そうすると、中央に芯がある。「蒸らし」0分でも若干芯がある。「蒸らし」3分で芯があるかないかの状態。5分、10分では芯がなくなるという変化が見られました。
「煮えばな」は中心の芯がなくなった瞬間という話でしたので、内部は若干硬い。周囲は水分があって柔らかい。「蒸らし」を行うことで通常の炊飯に近づいていくわけですが、蒸らし後のご飯は内部に蓄熱された熱で柔らかくなり、外部は若干、水分が蒸発して硬くなるという変化があるのではないかと考えられますが、いかがでしょうか。
徳岡 そんな感じなんでしょうね。最初の講演で「おいしさというのは味だけではない、香りや食感もあって」と話されていました。米の場合、白いご飯はおかずを食べる時が大事だと思います。なぜかというと、ご飯を食べる時のおかずは濃いめで、おかずの味をご飯といっしょに調味してあわせて食べるので、多少、甘みがあり、香りがよくてもわからなくなる。その時に残るのは食感なのかなと思うのです。糠くさい米を炊いて食べると、口に入れる前にまずくなる。味がよくないもの、雑味が含まれているものは、口の中に入れた瞬間にだめ。香りも大事で、ある程度の水準の香りであれば、食感があるものの方がご飯の価値観、存在感は広がる。食感は、炊く時の水加減、米の作り方、作った後の保存の仕方、玄米を脱穀する方法、精米する方法、炊く方法などから作り出せる。そういうことを吟味しながら、これからもお客さんに喜んでいただける白いご飯を炊きたいと思いました。
門上 徳岡さんの店では、毎年、スタッフを含めて試食し、その年の米を決めておられます。食感ということが出ました。ご飯をおかずといっしょに食べる、おかずを合わせた時の食感の大切さを話されましたが、崎さんいかがですか。
崎 寿司も食感が大事です。おいしくない寿司のシャリはダマになって重たかったりベチャついたり、そうならないように意識しています。
杉本 日本人は米に対してすごいですよね。日本酒でも大切なのは吸水。酒蔵にいくと、吸水の時に話しかけると怒られます。その場で5分くらいにらめっこして、今という瞬間に5人くらいが一気に水を落として「蒸らし」にかかるんですね。米によって吸水の時間が違う。米を買った時、吸水時間を考えて食べ比べたりするんですか?米の種類は聞いたんですが、一つの米で吸水を変えてみたりとか、火入れを変えてみたりするんですか?
徳岡 同じ生産者の米でも一粒一粒が違うんですよ。子育てと同じで「この子は早くから歩きだす」とか「この子はなかなかしゃべられない」とか、いろいろあると思うんですが、ある程度、環境をつくってあげないといけない。愛情をかけてあげないといけない。愛情は「水」と「熱」と「圧力」。吸水時間も、うちは1時間かけます。それ以上すると状況が変わってくるので1時間を目安に調整します。そうすると、生産者が違ってもある程度の吸水状況は完了する、いい状態になるのです。
門上 それぞれの米とご飯についての分析、そこから料理ということを考えていくと、次のステージになります。それぞれの特徴が少し見えてきたかなという気がします。この後、3人にデモンストレーションしていただき、会場からも質問を受けながら進めていきたいと思います。冨田さんにも入っていただきます。とりあえず、パネルディスカッションはこれで終了したいと思います。




