Program 2:講演:「感動創造の方法論」
講師紹介
京都の人気洋菓子店「マールブランシュ」をはじめとする事業展開。お濃茶ラングドシャ「茶の菓」などのヒット商品を生み出す開発力。そのもとにある理念「KYOTO QUALITY」「感動創造」について、写真をスライド投影しながら講演していただきました。以下、その抜粋です。
わが社の創業は1951年11月、父が京都の三条で一軒の純喫茶「ロマン」を開業しました。法人にしたのが1956年。現在は二つの事業をやっていまして、一つは「マールブランシュ」という洋菓子ブランドのもと、「茶の菓」などをつくっている洋菓子の製造販売事業。もう一つは「侘家古暦堂」というレストラン事業です。
本日は「集客」というテーマですが、経営者としてはお客さまに来ていただくことが一番の課題です。お客さまにいかに気に入っていただくか、お客さまにいかに愛していただくか。それだけを考えて毎日経営しているといっても過言ではありません。社員に常に言っているのは、集客力のある店、すごくお客さまが集まっている会社は、他店や他社にない独自の魅力がある、と。その店その会社にしかない魅力をもっているところに人が集まる、ということです。
●KYOTO QUALITY
では、他にないわが社だけの魅力をどうつくっていくか。私どもは「KYOTO QUALITY(京都クオリティ)」というキーワードを掲げまして、経営すべてに生かしています。世界に本物の素材、商品がありますが、京都の会社として「世界のほんものを京都のほんまもん」にしつらえていく。「ほんもの」と「ほんまもん」はどう違うか。私どもはこう定義しています。ほんものの反対語は偽物、ほんまもんの反対語はもどき、もどきの方がわかりにくい。ほんまもんの中には思想、哲学、理念、愛とか、いろいろ押し込まれてほんまもんになっていく。そんなわかりにくいことを会社の経営に生かしてやっております。
今日はKYOTO QUALITYの話をして、それがわが社においては集客になっていることをお話させていただきます。ご理解していただくために「茶の菓」のものづくりについてご説明します。わが社は商品開発の部隊をもっています。マーケティング室+技術者、パティシエ5人が日夜開発しています。そして広報、販売促進の部隊が三つ巴になってKYOTO QUALITYのもとに3つのキーワードを挙げています。「素材」、「技」、「心」、この3つを意識して開発を進めています。素材はおいしさの原点。できれば他社が手に入らないもの、当社だけが使えるもの、最高の品質のものを、お菓子をつくるために仕入れる。そこからおいしいものをつくる。そして技。技術者の技術。つくるという行為はすばらしく崇高なものだと思います。僕は洋菓子をつくれません。「こんなふうにしてください」というのをパートナーであるパティシエが一生懸命つくってくれる。それを見ていると技術は一番大切なものだと思っています。そして心。心はおもしなしです。サービス、店舗、広告、パッケージ、コピーライティング。商品をより引き立たせるものがないと商品そのものも引き立ちません。そうして独自の感動のものづくりをおこなっています。
●素材について
「茶の菓」の場合、宇治に私たちだけの茶園をもっています。江戸時代から続くこだわりの茶園、小島農園のお茶との出合いがなければ「茶の菓」はなかったと思います。ここでできた一番茶、茶の木をよしずと藁で覆いまして太陽の光が直にあたらないようにしてできた茶の葉、一番栄養価も品質も高い、一番茶だけを摘みます。手摘みです。二番茶は摘みません。二番茶を摘むと次の年にいい一番茶ができない。有機肥料を土の中に年4回撒いて、おいしいお茶葉が育つ状態をつくっています。最高の素材、自分たちのよき素材が生命線になっています。
●技について
「茶の菓」は3人の匠に協力してつくっていただきました。一人目、小島農園さん。「茶の菓」でお茶をたくさん仕入れることで、ここの息子さんに茶園を継いでいただくことになりました。二人目は茶鑑定士。クッキーの生地に合うお濃茶をブレンドしていただいた方で日本一のグランプリをとっておられる方です。ただ飲んでおいしいお茶と、生地にあうブレンドは違うものなのです。そして当社取締役のシェフパティシエ。彼が苦労して時間をかけて「茶の菓」の開発を進めてくれました。ホワイトチョコレートも最初はベルギー産とかスイス産とか高級チョコレートを使ってきましたが、お抹茶はホワイトチョコレートの甘みに負けてしまってチョコレートの甘い後味が残る。いいチョコレートを使うのはいいが、合いません。それなら自分たちでチョコレートをつくろうと、北海道の乳を使って独自のホワイトチョコレートをつくりました。おそらく「茶の菓」をロングセラーにさせていただいているのはホワイトチョコレートの乳味とお抹茶のバランスがよかったのかなと思っています。最後に何か京都らしいものをということで、焼き紋を押しています。
●心について
最後は心、おもてなしです。例えば「茶の菓」のパッケージ。食べていただく前にパッケージでお買い上げいただくので、このようなデザインになりました。デザイナーとアートディレクターで京都らしい貴族文化の雅びな感じを出すにはどうするか、時間をかけてやりました。ロゴをつくりまして金印を押しています。箱から包装紙までいろいろ紙を試して選定しています。
一目で茶畑を連想させるようなデザインを施しています。お菓子にパッケージは大事な要素ですが、一番大事なことはそのデザインを見た時に中の商品が連想される、KYOTO QUALITYのコンセプトがメッセージとして伝わることです。商品のよさ、店のよさを無言で、デザインで伝えるメッセージデザインが大事ではないかと思っております。このような形でパッケージも定着してまいりました。
●コトづくり
モノ余り、コト不足の時代、モノだけ売っていたんでは人は集まりません。物販は飲食ではないし、百貨店のように長く滞留していただくことはないので、私どもの「コト」表現は、パッケージ、ディスプレイ、店舗になります。
例えば、北山の本店の内装。大理石を5種類くらいつなぎあわせて京都を連想させるデザインにしています。真ん中には生のお花をふんだんに飾っております。春には春の、夏には夏のいっぱいのお花で埋めつくされているという、お菓子を買いながら四季を感じていただく「コト」を感じていただく演出です。この中には喫茶があります。この椅子はモンブランのお菓子が刷ってあるモンブラン椅子です。向こうにはショートケーキ椅子があり、こっちは茶の菓椅子がある。喫茶に来られたお客さまが「今日はモンブランの椅子に座れてラッキー」と会話が弾みます。楽しさがある。これも「コト」だと思います。
京都高島屋の店の場合。百貨店には洋菓子屋さんがいっぱいあります。そのなかで私どものお店を選んでいただく理由が必要だし、それを永遠に追求しています。例えば、内装には、京都の数寄屋造りで有名な工務店にお願いして割板を貼りまして蒔絵の手法でグラデーションをつけるとか、また、北陸の職人さんに「茶の菓」で松をつくってもらいディスプレイに使っています。「マールブランシュの他店と違う魅力は何か」と問われたら、「お菓子を通じて京都の歴史、文化を送ってください。京都にきたら癒されるという気持ちを送ってください」とお答えしています。お客さまとは平均5分程度の接客ですが、このような工夫をして表現に努めています。マーケティングオフィスのスタッフたちはKYOTO QUALITYを実現するために日夜いろいろ工夫してお客さまを喜ばせたいということで頑張ってくれています。
清水坂にあります店には観光のお客さまがいらっしゃいます。その立地特性に応じて売り方も変えています。商品構成の8割は同じですが、対面販売ではなくセルフサービス形式で販売しています。お客さまが買い物籠に好きなお菓子を入れてレジで精算するスタイルです。気楽にお買い上げいただけるように、店舗のトーンもポップにしていますが、店内の真ん中に滝を流しています。清水の滝があるように水をテーマにしたディスプレイです。「このスペースに商品をおけば売れるのに」とよく言われます。でも、無駄に見えるスペースがあるから店の中が楽しくなる、そういう大事な要素だと思っています。
また、新たに京都の祇園の路地の奥に「加加阿365祇園店」という店を始めました。チョコレート専門店です。日本ではチョコレート専門店は商売になりにくいと言われます。「それなら、チョコレートを売るのではなく、京都の365日を売りましょう。コンセプトは、カカオを通じて365日を表現する」という提案です。元旦から大晦日までの365の紋をつくり、365日に名前を決めオリジナルのメッセージをそえてトップに日々の紋を描いたチョコレートをつくりました。パッケージに巻く掛け紙も365種類です。店に来られれば、その日付のチョコレートが買える。コトを売る、京を売ることをコンセプトに、今日の商品、今週の商品、四季の商品というようにデイリー、ウィークリー、フォーシーズンと分けて商品を展開しています。おかげさまで順調にお客さまに来ていただいております。
●GLOCAL
私どもは京都の中にしか直営店舗をもちませんが、京都には全国から海外からお客さまが来ていただいています。これからはグローバルの時代ということで、KYOTO QUALITYは一つのキーワードを「GLOCAL(グローカル)」と定めています。グローバルとローカル。京都から世界へ、世界から京都へ。お客さまが世界から来ていただく店になりたいという夢があります。その夢に向けたチャレンジもおこなっています。パリの世界最初の百貨店「ボン・マルシェ」に「茶の菓」を置かしてもらい、6年目になります。パリではホワイトチョコレートはチープと思われるのか、ビターチョコがいいと言われましたが、6年経ちまして固定客もついてまいりました。3年前からは、ニューヨークの「ディーン・アンド・デルーカ」という高級食品店にも「茶の菓」を置かしてもらっています。いずれは世界の方に私どものつくる京都の洋菓子「マールブランシュ」を食べていただきたい、世界のお客さまに愛されることをつくりあげたいとグローカルにチャレンジしております。
私どもの会社にしかない、他にない魅力ってなんだろうと常に考え、自分たちにしかできないオリジナル、オンリー1をつくっていくこと。何年かかってもチャレンジしていかなければならないと思っております。

