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1 theme STUDY vol.05「厨房から考える」Program 1:トークセッション:「探求と超越」

1 theme STUDY vol.05「厨房から考える」Program 1:トークセッション:「探求と超越」

Program 1:トークセッション:「探求と超越」

講師紹介
米田 肇氏
「HAJIME」オーナーシェフ

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君島 佐和子氏
『料理通信』編集長

君島 最近、厨房の外で考える料理人さんが増えてきたように感じています。料理人の活動領域が広がり、いろんなイベントやプロジェクトなど活躍される場が増えている。フェイスブックとかインスタグラムを見ていても外での活動をアップされる方が多い。そうした外で受けた刺激なり情報を、店の料理に生かしていく動きですね。それだけに、あらためて「厨房から考える」というのは、よいテーマだと思います。それに、米田さんらしいテーマだと思いました。米田さんは外ではあまり活動されないので、厨房でどんな行動をとり、何を考えておられるのかを知りたい。いろいろ具体的に伺っていきたいと思います。
まず、米田さんにとって厨房はどういう存在ですか。米田さんは「違和感をもちながら過ごしている」と言われますが、何に対する違和感ですか。

米田 料理を通して表現をしていますので、厨房はその表現を制作していく場所ということですね。私は大学を卒業した後、コンピュータの会社に勤めてから料理人になった。生粋の料理人というより普通の社会人が厨房に入ったという感覚が最初からあったんです。外から見ていて「ここをこうした方がいいのに、ここをこう変えた方がいいのに、こう表現した方ほうがいいのに」というのが、ずっとありながらやってきたので、違和感というのはそういうことなのかなと思うんですけど。

君島 米田さんの厨房はどんな構造ですか。どんな機能、どんな道具をもっているんでしょう。

米田 一瞬にして最終的に料理を完成させるので最短時間で完成させやすい構造に、日々つくり変えています。私を中心に、周りに5人くらい集まって一瞬で完成させる方式をとっていますのでスタッフの調理台があるという感じです。ガス台、IH、オーブンなどの他に厨房機器ではないものもあります。実験用具とか遠心分離器とか、工事現場で使うような道具とか、何ミリとか数字でわかるようなもの、小数点以下まで正確に数値で測れるものを置いてあります。口の中に入れた時、この食感だったら何ミリだというようなことに興味があるので。同じ数値でも同じ食感にならないものもあるので、さらに顕微鏡で見たり、そういうことを深く考えようというのをずっとやっています。

基本的に学問は還元主義といわれます。リンゴを半分に切ってもリンゴ、4分の1に切ってもリンゴ。細かく切っていくと、原子になって分子になってと最小単位までわかるけれど、逆にいえば、その元を集めたところでリンゴにはならないんですね。その間に存在するものがあって最終的にリンゴになる。分解していくことによってどういう構造をしているかはわかります。

君島 分解していって構造がわかることと米田さんの料理がおいしくなることとの間には関係があるのですか。

米田 関係はあるんですけど、複雑系の分野の話になります。人間も細かくして細胞になったとする。それをやっていっても心は見つかりません。人間の形になって心が生まれる。料理はそれとよく似ていると思うのです。食材をばらばらに集めていったところで単体だったりすると構成はなさないが、あるバランスがとれた時に、心のようなものが発生すると思うんですね。バランスをとることによってそこに魂が生まれる。ただ、一つひとつの構成を知るためには、ある程度分解しないとわからないのではないかと思い、両方やります。料理は調理で切ったりすることによってわかるところもあるけれど、最終的に構成していくことで全く違う分野のパワーが生まれると思っています。

君島 今の話をイメージしやすくするために、何か米田さんの料理を一つ、完成までのアプローチの流れでお話いただいていいですか。皆さんがよくご存じなのは「地球」ですよね。

米田 「地球」と名付けた料理は野菜を100種類使っています。調理方法もいろいろで、揚げる、煮る、蒸す、焼く、生のままスライスするときもあります。一つひとつ調理の適性を考えてやっていくんですけど、最終的にまとめる場合、先にどのような発信をしたいのかがベースにあって、その内容に適した表現方法を選ぶ訳です。料理を通して表現したいから道具を使ってまとめるという感じです。画用紙に絵を描くような感じですが、口にしてもらってできるアートみたいなイメージでやろうと思っています。

最初に全体の構成を考えます。どういうものを表現しようか、「地球」をテーマにしようとかです。次に共通認識としてわかりやすいものをテーマに入れていきます。子どもの頃に地球の大地、空を感じたので、空、海、川と分けていくという具合です。それで、一つひとつをどのような食材で表現していくかを考えますが、パッと見てわかるものではなく、口の中に入れて「あ、そういうことだったのか」というかたちにしたいなと思って構成を組みます。

君島 100種類ある野菜は何を、どんなサイズに切り、どんな火入れをして、というのは分解した部分で、それがお皿の上に一つまとまった時、心をもった「地球」になると考えればいいのですか。それが料理の構成と表現ということでしょうか。

米田 そうですね。一つひとつの野菜はそのものの性質なんです。例えば、プラスチックはプラスチックの性質がある。プラスチックを使っているからといってマイクになる訳ではない。マイクをつくりたいのがまずあった上で、どのようにプラスチックを使うかということですね。

君島 具体的な食材の選択、食材との出合いはどのように行われますか。

米田 基本的に私はゲストがテーブルについて口の中に入れて感動するかどうかを大事にしたい。そういう感覚で食材を選んでいるし、料理しています。「いい生産者がいるよ」と教えてもらう場合は、まず送ってもらいます。実際に食べておいしかったら会いに行きますが。

君島 米田さんの仕事の特徴として味覚に重点をおくことを感じます。味覚絶対主義ですね。米田さんにとって厨房の外の活動と厨房の中は、どうリンクしているのですか。

米田 私の考えですけど、厨房の中での方が完成度は高い。映画監督は自分の映画の中で完成度の高いものを出すべきではないかと思うのです。別の人とコラボしてつくって面白いものができるかというと、違うような気がする。私は完成度が高いものを信頼して提供したいということがあるので、コラボとか、あまりいろんな人とやりませんね。外に出ていくのは今までやったことがない新しい挑戦とか、皆がやろうと思ったけど、まだできないことに挑戦するのはやってみようと思います。

君島 厨房を超えていく仕事で思い描くものを教えていただけますか。

米田 ひとつは「宇宙にいきたい」とずっと思っています。食は生命の進化とともにある。地球に大雨が降って水が集まって生命が誕生して動物に変わる瞬間があった。その瞬間に、なぜ動物に変わったか。動くものがある、そこでパクッと食べる。それによって進化が起こる。陸に上がって類人猿になって人間になる。そこでも食が関係してくる。どんどん進化していったものが、ひょっとして宇宙にいくと、また進化するのではないかと思うのです。進化するのは人間の感覚もしれない。重力があるから、皿の上に載っている料理を味わいますが、宇宙にいくと無重力で自由になる。感覚も、ひょっとしたら別の感覚になるかもしれない。
味覚は、そんなにまだ開拓されていない。人間の直感でやっている分野なので、もっと探求していけば、いろんなことができるのではないかと思います。
料理に関しても、宇宙から新しいものを地球にもって帰って、できたりすることがあるのではないかと思うと、「地球」という料理をつくっているから、第一歩として自分たちが宇宙にいきたいのです。

君島 雑誌の編集という私の仕事の中で、去年くらいからキッチンが一つのテーマになっています。東京では火が店の中心にあるという感覚の店が増えてきた。家もそう。これまで家の中心はリビングであるという感覚でしたが、今はリビングよりはキッチン、火元が中心になる。物理的に中心というだけではなく、もう少しイメージとしての中心が火に集まる。厨房を空間内のどういう場所で存在として位置づけるかが意識的になされるようになっているのかなと思われますが、いかがですか。

米田 そうですね。厨房は火を中心に調理をするので、そうなっていると思いますが、カウンターの店が増えてきているのは少子化で人がいない、サービスを補うために料理人が目の前で出した方がいいのではないかということなのでしょう。家庭でも、もともとはおじいちゃん、おばあちゃんがいて大家族だったのが子どもも少なくなって目の前で出した方が速いのではないかという感覚になっている流れにあるからではないかと思います。

君島 ガストロミーと呼ばれるレストランの場合、今、火入れの方法が多様化し、機器も多様化しています。働くスタッフが少ない店にも、そういうケースが多い。そうした時期を経て、また火元一つによりどころを求める感覚が出てきているのかなという気もしています。
最後にぜひ訊きたいと思っていたのが、技術を磨くため、思考を磨くために、心がけていらっしゃることです。

米田 まずは「真摯さ」ですね。ちゃんと真正面から見て、ものとまっすぐに向き合えられるかどうか。もう一つは、深く堀り下げられるか。例えば、ニンジンならどういうニンジンなのか、どこでつくられたか、どういう生産者なのか、どういう大地で根っこが生えてきて、どのように成長して、どう収穫して、というふうに深く掘り下げようとすればいくらでも掘り下げられる。そうじゃないと、ただニンジンと思うだけ。真正面から向き合わないとだめだと思います。厨房でも、ゲストに対しても、チームに対しても、同じです。真正面から向き合ってあげられるか、「真摯さ」それが料理人に一番大切なことではないかと思います。

君島 わかりました。本日はどうもありがとうございました。

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