Program 1:講演:「関西の外食の未来を語ろう~おもしろいことになりそうだよ」 2/2
講師紹介
●食とアートを創造する複合商業施設 『 MIRROR(ミラー)』
東京都台東区、隅田川に近い蔵前のビルです。7年前に手がけたんですが、6階に東京本部を置いています。蔵前といったら「国技館」と返ってきます。でも、国技館は50年くらい前に両国に移っている。大鵬の時代の国技館が蔵前にあったので、それぐらいしか話題がない。忘れ去られた街です。もともとはオモチャ屋さん発祥の地でした。エポック、バンダイ、タカラなど、今も本社が残されているんじゃないですかね。そういう土地にあるビルをまるまる一棟借りることになりました。直近まで銀座の山野楽器が入っていて、CDなどの物流倉庫にされていました。商業は成立するはずがないという場所でした。それを僕たちが手がけると、こうなります。このビル、1階から6階を飛ばして7階まで飲食店舗になるんですが、年間22万人が来られます。蔵前の1ブロックには我々の店ができるまで一軒の商業施設もありませんでした。東京電力の変電所、浄水場、税務署、消防署、老人ホーム、幼稚園、郵便局しかない。5時を過ぎると誰も歩かないところです。そこに我々が忽然と現れたわけです。7年かかりましたけれど、じわじわ伸びています。22万人の方に来ていただき年間5億円くらいの売上になります。これができてから斜め向かいに日本で最も予約が取れないバックパッカーのホステル「Nui」ができました。ジョエル・ロブションの元総料理長・渡辺雄一郎シェフがここで開いた店「ナベノイズム」も予約が取れない。それから「ダンデライオン・チョコレート」もやってきました。蔵前が今、オシャレだといわれ始めています。その1号店、最初の一ヵ所目の突破口は我々が7年前に開いた店でした。
なんか大阪って、発想する街なんだと思うんですね。アイデアがあるし、新しい工夫をするし、官がそれほど出張ってきませんので自由な発想でモノがつくられる。それを東京で実践していくのが面白いかなと思って。しかし、大阪はものすごい根絶あります。これは、卓球ができるバー、僕らが生み出したわけではありません。こういう店があったことをイメージして設けましたが、すごい人気です。これは7階のプライベートサロン。自分が好きなこと、DJやったり、音楽やったり、おいしいスイーツを出したり。僕は葉巻をやりますので、ここはシガーバーになっています。
●ガーデンダイニング『IN THE GREEN(インザグリーン)』
京都府立植物園です。植物園も昼間だとこういう感じ。グリーンでいいよね。でも、夜になると真っ暗じゃないですか。ずっと壁が続きますから治安がよくない。家もなければ店もない。京都府が、ここに賑わい施設をつくりたいと公募されたんですが、僕たちもそれに応募して、結果、こういう店ができあがりました。緑の中なので「in the Green」。でも、当初はみなネガティブでした。うちの社員たちですら「北山って、バブル以降、衰退するばっかりだよ」といってました。とんでもない。今、北山の老舗洋食レストラン「東洋亭」さんや向かいのお店の方にも仲良くしてもらっていますし、商店街の会議にも寄せてもらえるようになり、一緒にがんばろうとなっています。「マールブランシュ」さんも向かいでやっています。
●複合施設『THE CALENDAR (カレンダー)』と観光案内所『OTSURY(オーツリー)』
JR大津駅です。2年前までは寂しい駅で、誰も手を出さないし借り手がつかないというのでJRの特殊なことができる部署の人が相談に来られました。僕は条件を3ついったと思います。1つは、2階の使えるスペースが250坪あったんで、それを全面使えるんならやりましょう。それと、150坪のテラスのようなベランダがあったんですね。ここも全く使われていない。その場所を使えるならやりましょう。そして3つめは、観光案内所もつくることになっていて、コンペなんですが、我々が運営することになったら民間と行政が一体となって大津を盛り上げる、リブランドをやりましょう。ということで、JRと大津市を巻き込みながら手がけた案件です。こんなふうになります。一部はカプセルホテルです。ラウンジに卓球台があります。レストラン、カフェ、バー、ブックカフェもあります。これがずっと放置されていたベランダです。我々が投資して、BBQテラスになっています。このJR大津駅の仕事が縁で、滋賀県での縁があり草津川跡地でのプロジェクトや「ピエリ守山」へと展開しています。
滋賀県の人たちって、出身を訊かれると「京都」と言う人が多いですよね。滋賀県がどこにあるかわかってもらえないから、「滋賀」と言ってもわかってもらえにくいと。そんな馬鹿な。滋賀県は、人口増えているんですよ。大津、守山、草津も人口増えているんです。あれだけ素敵な琵琶湖があり、自然に恵まれた環境があるところを、わかってもらえないからって、ねえ。胸を張れといいたい。滋賀県は絶対これから面白くなると思います。JR大津駅にオープンしたのは1年前ですが、1年間で大津のみならず、草津、守山にも店をつくりました。観光案内所『OTSURY(オーツリー)』のこの壁、実は開くんです。開けている間は民間の我々と一体化するというので観光案内所の利用客は以前の4倍になったそうです。
●奈良市観光センター『NARANICLE(ナラニクル)』
奈良です。奈良の観光案内所もご多分に漏れず、鳥居があったり、ポスターがやたら貼ってあったり、アートデレクションはゼロのところでした。これを僕たちがリ・デザインし、投資もして、バーター的な形でカフェを運営させてもらっています。奈良市観光センターと書いてあるところですね。こんなふうになっています。厳密にいうとカフェもあるんで計算できないんですけど、観光案内所の利用客は以前と比べ何倍にも数えられないくらい増えたといわれました。



●カフェ&レストラン『ORANGE BALCONY(オレンジバルコニー)』
これは守山のショッピングモール「ピエリ守山」にもともとあったカフェです。そのモール自体の改修に際し、カフェスペースを僕らがお借りして、こんなふうにしました。何よりもこの店が素敵なのは、ベランダの向こうの琵琶湖です。西を向いているので夕日が沈むのが見えます。この店は「オレンジバルコニー」という名前です。バルコニーがオレンジ色に染まるんです。以前は使われず放置されていました。それを活かすとこうなります。どこのリゾートかわからなくなるという感じです。夜もいい感じになります。
大津とか草津に出店するというと「それ、どこ」「なんで、そんなわざわざ」といわれます。「グランフロントにも出店しているのに、なんで梅田を攻めないの」ともいわれます。梅田なんて坪家賃3万円、4万円、5万円が普通です。今日スライドで見ていただいたところは、ほとんどがその値段を切っています。定借で出ていくリスクもあるので不動産を取得している物件が数件あります。大阪にはそういう場所がいっぱいあります。今、狙っているのは市内にある、とある1軒です。そういうビルですと、アイデアもいろいろ盛り込めます。もちろん建築基準法に則った形ですが、自分たちで床を抜いたり、窓を抜いたり、吹き抜けにしたりと、いろんなことができます。そういうことに対して、大阪市は非常に協力的です。建築指導課は、コンプライアンスが求められますから、いろいろ回されますが、東京に比べてはるかに柔軟に対応してくれることが多いです。
滋賀県はもっと面白いです。滋賀県を攻めてみられてはいかがですか。守山の可能性、大いにあると思います。人口が増えて駅前があれだけ面白い、きれいになっている街はないですし、家賃は坪何千円台です。飲食店の損益勘定って、基本的に売上と食材原価と人件費ですね。家賃は3つ目に来るわけじゃないですか。家賃の経費比率が10%から下手したら12%までくるんですね。歩合家賃のところなんか15%のところもあります。不動産取得をしたら、家賃にあたるのは固定資産税分だけです。築年数の古いビルで簿価がないから減損しません。減価償却、建物としてはゼロです。内装費はありますけど、それは家賃とは違う分野ですね。そういうとこ、大阪にはまだ多く残っていますよ。町屋にするのも、民泊なんかも面白いです。今は民泊も徐々にルールが変わってきていますので、ちゃんとした旅館業務が取れそうです。そしてそこにレストランもできる。今回、JR大津駅でやっていますけど、食材も地産地消じゃないですが、できるだけ滋賀のものを使っています。滋賀産ってすごいんですよ。まず、米。僕の実家は菓子屋です。あられって基本的に近江米です。近江米を搗いて焼いているのです。近江牛も銘品です。それと酒。ただし、酒蔵に派閥があるんですね。僕らは観光案内所という公の機関を運営させてもらっているんで、滋賀県の酒蔵を全部つなげることができました。それに観光案内所で我々が酒の販売を可能にするライセンスがおりました。
京都の南禅寺横に「菊水」という料亭があるんですが、あれも買いました。高校の後輩がオーナーだったんです。これから全面改装します。京野菜はもちろん使いたいし、南禅寺は山科越えてすぐ滋賀なんで滋賀のチームと連動したいと思っています。歴史はそれほどなく、60数年の料理旅館ですけど、僕らがかなりの資金を投入して、京都が京都らしさを誇れるようなたたずまいの旅館とか、ごはん屋さんをつくれるといいなと思って、いろんな方にご協力いただきたいと考えています。
仕入れのことも料理のことも、そうした全部を含めて、その街にしかないもの、その物件だからできることを一つひとつ掘り起こしていくと、大阪って魅力だらけの場所が多くあります。東京で13年前にデビューした案件は、東京タワーを見上げる場所でした。東京タワーの料金所とは道を挟んで前のビルでした。そのビル、実は全く借り手がつかないから、1階坪家賃1万円で借りていたんです。わずか3カ月で大繁盛させました。でも、定期借家で5年しか借りられません。そこへ、僕らの売上が全部わかっていますから、家賃3倍で借りるところが出てきました。我々は5年間ででていくこととなりました。そらそうですよ、家賃100坪100万円だったのが、例えば300万円払うところが出てきたら、そこに貸しますよね。仕方ないけれど、それは僕たちが流行らせることによって自ら首を絞めていることになります。さっき、いくつか買ってますといってましたが、不動産を取得したいとか不動産王になりたいという気は全くありません。それより、事業をどれだけ続けていけるのか。飲食業は街になくてはならないものであり、その街に愛され、その街にあってよかったと思ってもらえる存在であるべきだと思っています。そういう店をやるためには、どれだけ事業を継続していけるかにかかっている。うちの第1号店、22年前にやった店は、「売られるんだったら売ってくださいね」といっています。オーナーには「いや、売る気はない。でも、あなたのような人に入ってもらってありがとう」といわれてます。22年間に一度も家賃の値上げをされていませんし、一度も何か注文されたこともありません。毎年、オーナーには来ていただいて「がんばってるね」といっていただいてます。
そういう人の思いや人との繋がり、物件の縁やロケーション、建物の特性、そんなものを使って店をやっていく。それは僕が先ほど申し上げた地震のあの悲惨な時に、すべての希望や夢を朽ち砕かれた時に、それでもなお、人は食べることによって勇気や希望をもらうことができる。そして、それを僕はやっていく。その覚悟を決めた22年前からこの気持ちが変わったことは一度もありません。この仕事をやって失敗したと思ったことは一度もありません。なんていい仕事に就けたんやろう。そういう意味で、ここにいるみなさん、門上さんや山口さんを始め業界の仲間でもありますし、そして利用者でもありますし、自分たちも楽しみで行きますし、そういう食というものを盛り上げていく今回の関西食文化研究会に呼んでいただいたことは非常に光栄です。僕の話をこれで終わらせたいと思います。どうもありがとうございました。

