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「人・街・店×PRODUCER」Program 2:料理と講演:「オーベルジュの朝食に求められるもの」 1/2

「人・街・店×PRODUCER」Program 2:料理と講演:「オーベルジュの朝食に求められるもの」 1/2

Program 2:料理と講演:「オーベルジュの朝食に求められるもの」 1/2

講師紹介
料理と講演:山口 浩氏
「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長

料理:モーニングプレート
・トーストに洋ナシのコンフィチュール
・天然酵母のパンに豚肉のパテ・ド・カンパーニュ
・玉ネギのドレッシングのかかったサラダ付き
・紅茶

1995年の阪神・淡路大震災の時、私は、神戸六甲アイランドのベイシェラトンホテルにあった「ラ・コート・ドール神戸」の料理長でした。この店は、フランスで修業していたベルナール・ロワゾー氏の「ラ・コート・ドール」のブランチです。日本に出店させるというので、92年に私が帰国して料理長を務めていました。でも、震災でホテルは閉館になり、同時に私は失職しました。佐藤さんの話を聞いて、私も当時は、これですべて終わり、もうお客さんに料理を作ることもないのだと悶々としていたのを思い出しました。

神戸には同じく、92年にオープンして95年の震災で閉館になったホテルがありました。「神戸北野ホテル」です。震災後に使われていないその建物を見て、ここを「ラ・コート・ドール」のようにおいしい料理で寛いで泊まってもらえるオーベルジュにしようと思いました。そして、無一文の状態で新たに「神戸北野ホテル」の運営法人を立ち上げ、2000年から運営を始めたのです。ここで、私がいつかはやろうと、いろいろ考え温めておいたことを実現させていきました。そのひとつが、ロワゾー氏の朝食でした。

ロワゾー氏の朝食は「コンチネンタル・ブレックファースト」と呼ぶ、ヨーロッパ大陸のスタイルです。日本では、ホテルの朝食というと、アメリカンタイプの朝食をイメージされます。卵料理ならボイルやスクランブル、フライエッグにしてもターンオーバーやサニーサイドアップと、いろんな焼き方があります。こうした料理を作るためには料理人が必要です。ロワゾー氏の店では朝食に携わるスタッフの中に料理人はいません。サービスの人たち3人ぐらいで担当し、全部サーブしてしまう。もちろんコンフィチュールを作ったり、いろんな下ごしらえは料理人がするわけですが、用意さえしておけば朝に出る必要はありません。「神戸北野ホテル」は客室30室なのでお客さん60名、その朝食を作るとなると5名以上のスタッフが必要になります。もちろん、当初は資金の余裕がありませんから、そういう面で魅力に感じていたこともあります。しかし、確保できるスタッフで、朝から60名のお客さんにオーベルジュらしいサービスのできる態勢がとれることを優先させ、コンチネンタルスタイルで貫くことにしたのです。

今年で「神戸北野ホテル」を始めて17年になりますが、じつはこの朝食、17年前と今とは進化しています。食の事情、調理法の発展、嗜好の変化など様々な要素によって変化していくのは他の料理と同じです。お客さんの声にも耳を傾けねばなりません。オープン当初アンケート回答のなかに、「朝食にサラダがない」という声が数多くみられました。じつはコンチネンタルスタイルには生サラダがないんです。でもみなさん、ホテルの朝食にはサラダが出ると思われているのか、ずっとそういわれる。サラダを出すのは難しくないんです。けれど、出してしまえばコンチネンタルスタイルという自分たちのスタイルではなくなってしまいます。私は、お客さんがほしいと思っているのを創造提案するのが仕事だと認識しています。ですから、考えました。サラダを求めるのは、朝から新鮮なものを食べたいという要求だと。だったら、絞りたてのジュースをお出ししようと考えたのです。思い出したのがスペインのあるホテルで出合ったジュースです。それはひとつのフレーバーだけではなく、いろいろなフレーバーを合わせて作るジュースでした。野菜とフルーツ、いろんなものを合わせます。そのレシピをもとに今では約150種類になっています。また、これからは、ロカボ(「おいしく楽しく適正糖質」の推奨)が増えてくると思います。低糖質でもおいしく食事していただけるようなロカボの朝食を開発しているところです。

本日は「モーニングプレート」で用意しました。シュクルという甘いもの、サレという塩漬け、2種類の朝食になり得るものを作ってきました。シュクルは、バターをたっぷり塗ったトーストに洋ナシのコンフィチュールをのせています。サレは、シャルキュトリーで豚肉のパテ・ド・カンパーニュ。ルバンという天然酵母で作った、酸味のあるパンにのせています。それと、朝ではないので、玉ネギのドレッシングのかかったサラダも付けています。配られたら、召し上がりながら話を聞いてください。

私は、伝統を次の世代に続かせることを常に意識しながら仕事をしています。それも、ただ伝承するのではなく、ほんの少しだけ自分たちの時代をその中に入れて次の世代に渡していくのが大切なのかなと思っています。コンフィチュールを例にして、その話をします。要するにジャムって保存食です。保存するためのテクニックがありますが、作るのにものすごく手間がかかります。その手間をかけながらひとつの付加価値としてジャムを17年間作ってきたんですけど、自己否定することが大切で、本当にこれでいいのだろうかと考えました。鍋の前に何時間も立ちながらジャムをコトコト炊くのも必要なんでしょうけど、もっと他に違う方法はないのか。若い人たちがこれからも飲食業界で働きたいと思える状態にしていくためには、付加価値を高めて、生産効率を上げていかないといけない。生産努力が必要だと思うのです。ジャムは消費するのに1週間もかかりません。買ってすぐに消費してしまうものを、1年以上保存できるような状態に作る必要性があるのか。そのように考えて、新しい作り方を考案したのが、真空パックの中で作る方法です。これですと、真空パックしてコンベクションオーブンで温度管理しながら作れますから、ほぼ人手がいらずに作れます。糖度もなるべく低くしたい。しかし、落としすぎるとお客さんのジャムという概念から外れてしまう。それで、自分が食べて、これはジャムだなと思える甘さ、その最低限度の甘さで作ったのが、今、召しあがっていただいているジャム、コンフィチュールです。今日は、洋ナシで作ってきました。これまでの作り方とは全く違います。

これまではどういう作り方をしていたか。簡単な方法は、果物と規定量の砂糖を鍋に入れて炊いてしまう作り方です。工場では大きな鍋で作りますが、表面温度と中心温度が違いますから撹拌しますので、肉質がつぶれたようなジャムしかできません。けれど、最低量2kgで作ります。通常は、規定量の砂糖を半量、生の果物の中に入れて1日間置いておきます。置いておくと砂糖の効果で脱水作用が起こり、果物から水分が出てきます。マセレというんですが、その水分だけを煮詰めます。出来上がり間近になったところで果肉を入れ、一度煮沸して殺菌をして瓶の中に詰めていくというのがこれまでの作り方です。瓶の中に入れて、もう一度殺菌するためにコンベクションオーブンで加熱させますが、オーブンから出した時に反転させるんですね。なぜ反転させるかというと、瓶に蓋をしますと空気の入った層がありまして、反転させる時にジャムの加熱された液体の中を空気が通りますから殺菌できる。ペクチンは衝撃を与えるとシャバシャバになってしまうので、そのまま置いておくのが通常の作り方なんです。

新しい方法は、袋の中に規定量の砂糖を入れて手で揉む作業は必要ですが、コンベクションオーブンで加熱するだけです。通常のジャム作りの殺菌工程だけの作業で作られる。イチゴやブドウなどはいい感じにできます。そういう簡単なものですが、フルーツらしい風味は今までの既存のジャムよりあるんじゃないかなと思います。洋ナシのコンフィチュールはいかがでしたか。また、パテ・ド・カンパーニュを出した理由です。パテ・ド・カンパーニュは昔からフランスの家庭で食べられている料理で使い勝手のよいものなんですけど、家庭では作りにくいのです。大阪ガスさんの魚を焼くグリルが新しく開発されたので、その中で作ってみると思いのほかうまく作れたので、今日はそのお披露目も兼ねてお出ししました。

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