Program 3:トークセッション:「集客をテーマに人・街・店について語り合う」 2/2
講師紹介


門上 本郷さんは日本で唯一の麻婆豆腐研究家で年間120店ですか、麻婆豆腐を食べに行かれている。フェイスブックを通じて、食のイベントを年間100回以上やってはりますね。10人単位から100とか200人までのイベントを。人を集めることで街や店に与える影響はありますか。
本郷 いろんな方がいらっしゃいますが、とくに興味深いのは富裕層です。お金持ちの方は何にお金を使うか。ヨットを買ったり、家を買ったり、その後で食とワインにいかれる人が多いのです。ひとつの食のために、門上さんみたいに天ぷらを食べに静岡の店へ年に何回も通われるとか。食に対する情熱が半端じゃない。そういう方々と知り合うと、食の魅力はお金のあるなしにかかわらず、共通の共感なり共鳴が起こって、そこからビジネスとはいわないですけど、次にここへ行こうというつながりができる。そういうつながりは食以外にない。普通のサラリーマン同士も焼き肉をいっしょに食べると心がよりつながります。これは火を共有しながら肉を焼くという、打ち上げとか決起集会にぴったりの感覚です。麻婆豆腐を食べるのは合コン向きですけどね。脳内快楽物質βエンドルフィンが出て快楽というか、吊り橋効果と同じで、いっしょに辛いものを食べると血が結びつきやすくなるので合コンに向いているみたいな。そういう食を通したセグメントというか、人のつながりの新しいつくり方に興味があって、いろんなことが生まれるのではないかと思っています。
門上 山口さん、本郷さんのようにメディアを通じて人を集める仕掛けがわかっている人が、そういう動きをされるのは面白いですね。料理人に対してもメリットがあるのではないかなと思われますが、いかがですか。
山口 今まで流行ってきたレストランを見ていると、自分たちの日常がお客さんにとっては非日常であること、例えば自分たちがいつも使う食材の処理方法は自分たちには日常だけど、お客さんには非日常になる、そこにエンターテインメント性があるように思います。僕たち料理人もサービスの人たちも、お客さまに、その感動をどう翻訳して伝えるかが大切で、それをされているところが繁盛されているのかなと思います。
肉ロースを捌く時、僕たちは職人としてどれだけ肉を磨くかというふうにたたき込まれる。ロースにかぶっている脂肪を削ったり、被りの肉として筋を引いていくんです。筋は表面的にずらっと入っているわけではなく、リブもあったり入り組んでいる。それをひっくり返す。僕らにすると日常ですよね。ところが、インターネットのある映像を見ていたら、肉をバッと反対にした途端、周りの女性たちがキャーッとかいっている。肉をひっくり返しただけですよ。それであれだけ喜ばれる。僕たちはいろんなパフォーマンスができるんやなと思いました。そういうエンターテーメント性をもたせていく。おなかを膨らませるだけではなく、楽しさをどうつくるか。自然につくっていくことができれば、まあ、みなさんの思っていることが可能になってくるんだろうなと、佐藤さんの話も聞きながらですが、そう思いましたね。
門上 満腹になればいいと思って飲食店に来る人は全くないことはないと思いますが、もっと他の要素があって。佐藤さんがカフェというオープンテラスの業態をつくられた。季節によっていろんなことをやる。あのロケーションがあってこそともいえる。エンターテインメントとは一言で言い切れないんですけど、山口さんがいわれる見せることで楽しめるならリピーターになっていく。まだまだ食の世界はやるべきこと、やれること、可能性がいっぱいあって、そこで何をやるかも含めて、いろいろキーワードが出てきたと思います。
会場から質問があればどうぞ。
質問者 うどん県の香川から来ました。うちの店は「あの料理を食べにいこう」というのがテーマで、そこにしかない料理、職人の腕によるアートな料理を目指していて、地産地消ももちろんそうです。その落としこみ方とか、何かヒントになるようなお考えをいただきたいのですが。
門上 名物をつくるということですかね。朝食が一つの名物にもなるということで、ここは山口さんに返していただきましょうか。
山口 時代の要請とかバックグラウンドがあるので、たくさんインプットしてアウトプットしないとヒット商品は生まれないでしょう。今の地産地消は、一次産業の独自化をすすめるような生産者を守るということだと思います。コンプライアンス、食の安全とかあるでしょうし、いいものはちゃんと世に出したいわけです。これからは生産者とつながりを密にして、その中でストーリーをつくって商品をつくると、そこにしかないものができあがってくるのかなと感じています。僕はフランス料理を修業して日本に帰ってきましたから「地産地消」をあまり意識したことはなかったんです。けれど、今の時代、地産地消でフランス料理をつくれるんですね。「筍の季節だから筍を使いました」なんていえば、かつては否定された。けれど今では、フレンチでそれを出してもちゃんと受け入れてくれる時代になっています。僕の長男にはフランス料理を学ばせから日本料理を学ばせているんですね。それは、日本の四季と地域性を感じて料理をつくることがこれからの時代には必要かなと思っているからです。ヒントになっているかどうかわかりませんが、新しいものができたら、ご招待してください。
門上 佐藤さんはいろいろな業態を手がけてこられています。そのなかで、名物というものは生まれていますか。
佐藤 「名物」と「ヒット」は少し違うように思っています。うちの「ARINCOロールケーキ」の場合、デザートで出していた「エンゼルフードケーキバニラキャラメル」、ふわふわもちもちのケーキにバニラキャラメルのソースをかけたのが好評で、全店あわせると年間でざっと100万個はつくるほど人気になったから「ロールケーキにしたら持って帰ってもらえる」と始めたものなのです。当初は自分たちで焼ける設備もなかったのでケーキは仕入れていたんです。けれど、仕入れ値がどんどん上がって、原価の7割とかまでになった。何とかしようと始めたのがエンゼルだったんです。1年目は8カットにしたから3時間に1個しかできない。それに気づくと、うちを表現してくれるケーキになってくる。そのケーキを食べるのが僕も大好きだった。ヒット作をつくろうとなるとマネーの話になる。大好きなもの、自信をもって、自分たちも愛しているという、それを「食べてね」という思いが結果的に「名物」になっていくのだと思います。そういう延長線上で、気づいたら店が増えてきて。商品の数が増えてきたという感じはしますね。
門上 お二人からヒント的なことをお話されたんですけど、メディアはきっかけとか火付け役になることがありますよね。意識せずに取り上げたものがヒットするとか。本郷さんから見るとどうですか。
本郷 取材するときのひとつの判断材料は、そこに「物語」があるかどうかです。偶然できたストーリーでも、それを料理人の方とかお店の方が気づいてないこともある。例えばこんな「誕生秘話」があります。おふくろは白いご飯が好きでダシ巻が好きだったんで「ダシ巻定食のうまい店を出そう」と。おふくろの味を何とかして再現したいという思いから『まいどおおきに食堂』が生まれた。これは、ご本人と打合せをして「お袋の味が原点」というところから発展していくんです。メディアの役割は、ご自身で気づいていないことを翻訳して、それをストーリーに仕立ててテレビ化することです。それが共感を生んで商品や料理まで感情移入してもらえる仕組みがあると思います。そのポイントを見つけられるかどうかは番組やディレクターの力量でもあると思いますし、両方あってのものですけど。なかには、大企業のチェーン店みたいに「こういう苦労してつくりました」と用意されたストーリーに騙されて取材することもあります。本来は個人店の魅力を、できるだけ取り上げたいと思っています。
門上 聞けばストーリーが生まれてくる。山口さん、ここは提供する側として「ここだけは守りたい、大切にしたい」という要点をまとめてください。
山口 翻訳して、そのどう感動を伝えるかということだと思っています。僕は提供する側ですが、お客さんに媚びたくはない。常に半歩先をいきながら「どうですか、こんなのほしかったでしょう」といえるような。そのためにはインプットをたくさんしないとアウトプットできない。でも、これって疲れますよね。テレビとかゆっくり見てられませんもん。「流行っている、これがいい」と聞かされても、どこがいいのとなってくると疲れるんですけど、提供する側の使命としては、そういうものもインプントしていって、みなさんにわかりやすく伝えることができればと考えていることが一つ。もう一つ別の思いは、この業界に入って40年くらいになりますので、そろそろ好きなようにやらせてよという思いがあって。美味しいか美味しくないかの評価は内に秘めてもらって、自分が楽しく生きたい。いろんな情報が入ってくる時代になったからこそ「自分を見失わずに自分の感性を信用してもらいたい」。みんながそう思うような時代になると、すべての人が幸せになるのとちがうかなと思っています。
門上 佐藤さんは同じ提供する側であっても、料理人とは異なる立場ですが、そこで大切にされていることがあれば、お話しください。
佐藤 山口さんは自分の立場でとおっしゃいましたが、僕は逆で、自分が客になって行きたいか行きたくないかという視点で店をつくっているんです。それも自分の趣向になるんですけど、僕は山口さんのように料理をつくれませんので、うちのシェフやパティシエ、バリスタがつくってくれる「おいしいもの、おいしいと思っているもの」を提供させていただいている立場ですが、自分がいて「気持ちいいか、行きたいか」ということなんですね。今80軒ほど店がありますが、批評家的な目でもあるお客さんの立場で見ていて、悲しい店もあったりするんですね。「こんな、お客さんを幸せにできない店、閉めよう」と正直、思います。実際、営業を止めさせたこともあります。だってそれは自分を裏切ってマネーを見つけようとしているなら、27歳までの僕に逆戻りしているのですから。僕は、この仕事に誇りをもってやっているし、客として誇りをもっていい店でしょと友だちや仲間に伝えている。雑誌やテレビに出してもらうのも、マネーのために紹介していただくならいらないし、そんなものはやりたくないと思っています。でも、全員に徹底させるのはなかなか難しいのです。
門上 本郷さん、伝える側、ストーリーも含めてお話をいただければ。
本郷 まずは情報の質に注意していることは事実です。インターネットによってとても混乱しているので、飲食店を取材する場合、キーワードは「誰が推薦しているか。キュレーターが誰であるか」という付加価値が重要になります。門上さんが推薦している店、行きつけの店というのが大事なキーワードになることとか、そこに「物語」があるかどうか。そういうところを肝心なところとして伝えています。
実は、いちばん伝えたいのは情報の背景にある「情動」です。『浪速割烹 㐂川』の初代・上野修三さんが田舎から中学生で出てきて包丁一本で「㐂川」というの店を築かれたストーリーは、描くと感動します。視聴者が、その苦労や、どうやって成功したかを見て「料理人を目指したいと思いました」と違う店の若い料理人からいわれたとか。そういう話を聞いて、僕も感動するし、それを映像化した瞬間に自分の番組なのに涙してしまう。こういう気持ちを大切にしたいし、これを伝えていくことを「情動」という言葉で表しているんですけど、それがメディアの役割ではないかと思っています。山口さんの番組用作品をつくらせてもらった時、山口さんといっしょにフランスの『ラ・コート・ドール』にカメラがついていきました。その店は、山口さんの師匠ベルナール・ロワゾーさんの店で、ロワゾーさんはまだご健在だった。最後のインタビューで「ヤマグチ、僕は自分の後継者はヤマグチだと思っている」といわれた瞬間、横で聞いておられた山口さんが涙をボロボロと流された。そこで撮れた感動シーン、テレビ的なものをオンエアすると視聴者に心を動かしていただける。何か自分も「明日、新しいことをしたい、生きる力として食があるし、自分はがんばれるのではないか」と思ってもらえる、そういうことを使命として今後やっていきたいと思っています。
門上 なんか詰まるところ「感動し続ける心をもち続ける」ということがいちばん大事ではないか。自分の生業にしていることに感動できることが大切ではないかと思いました。それを伝える、その核になる食が大事で、そこにある背景も含めて、もっともっと感動できることがたくさんあると思います。「情動」という言葉が最後の印象に残ったと思います。
本日はご出演いただきましたみなさん、どうもありがとうございました。
厚生労働省より平成29年度「卓越した技能者(現代の名工)」の表彰、また、兵庫県より平成29年度兵庫県技能顕功賞をダブル受賞された山口浩さんに関西食文化研究会より気持ちを込めまして花束を贈らせていただきました。おめでとうございました。




