Program 1:料理プレゼンテーション [フランス料理]
講師紹介
「ロワールの森のラヴィオリ」

門上 高山さんは、オープンされた時から、自らいろんな店にいっていろんな料理を勉強され、和の食材も含めて多様なものを取り入れる料理が結構ありますね。
高山 何か新しいことにチャレンジしないといけないと思いまして。始めた頃は、和の食材のテーマもあったんです。ビストロ料理からスタートしまして、途中でコース主体に変えて丸3年。今はコーススタイルでやっていまして、よりフランスを感じる料理を和ベースからフランスを感じるようなところへと、テーマを広げてきています。
門上 今回は記憶をテーマに、食材をどのように結びつけるかということをご説明いただきたいと思います。
高山 フランス料理である以上、フランスを感じる食材を使って、フランスに行かれてない方でもフランスを感じる、その中で季節感を入れて、今だと秋をテーマにして、それぞれ食べていただいた時、それぞれの秋を感じていただけるところを料理に考えてきました。
門上 では、よろしくお願いします。
高山 自分で料理を考える時は、郷土料理とか古典料理からアレンジしてみたり、素材と素材の組み合わせを面白くしてみたり、何かに見立てたり、というところにテーマをおくことはあるんですが、「記憶」というのは初めてでした。記憶に関して何が重要なのか。季節感だったり、旬をテーマにすることで、それぞれの秋を感じてももらえるかなと考えました。メニューは、ロワールをイメージしています。食材はセップ茸の入荷がなかったのでイタリアのポルチーニで代用させていただきました。エクルヴィス(ザリガニ)ですが、ロワール川領域ではザリガニとかウナギとか、小魚も豊富にあります。天然の茸もたくさんありますので、ロワールをイメージして何か記憶を呼び起こすような料理ができないかなと思いました。食べにくい料理はだめ。ソースをつけるにしても一口で表現できないかなと考えました。それで、一口で食感とかソースで秋を感じる料理を考えてきました。
秋を自分なりに考えた時に、どういう感じ方をするか。紅葉、枯れた感じ、焼き芋とか焼き栗の焦げた香ばしい感じ、もう一つはカボチャとかサツマイモ、栗もそうですが、食べた時に水分をとられるような、ほくほくした感じを一口で表現できないかと考えました。パスタの生地に包み込んで、ザリガニや茸を一口で食べてもらおうという発想を持ちました。
まず、パスタの生地。練り合わせて半日やすませてパスタマシーンで伸ばして成形したものです。これにセップとエクルヴィスを挟みます。エクルヴィスはボイルして氷水で戻して殻を剥いてきている状態です。いい意味で泥臭い感じがするので、この茸と合わせると相性がいいかなと。フランス料理では、甲殻類と茸の香り高いもの同士をあわせる料理があるので、それで、よりフランス的な料理なのかなと考えています。
次にデュクセル、ペースト状にしたものとエクルヴィスを重ねていきます。デュクセルを下に、その上にエクルヴィスを乗せます。型で丸く抜きます。通常はこのままボイルして盛るのですが、これでは面白くないので、引っ繰り返して茸の軸に見立てたらどうかな、と考えました。その上に重ねるのは茸のサブレです。お茶菓子で出すようなものを、引っ繰り返したら茸の傘のように見え、一人でテンションが上がってしまいまして、これを一口で食べてもらうと面白いかな、と仕立てました。そのまますぐボイルすると皮が剥がれてしまいますので、半日寝かせます。今日は、より乾いた感じ、ドライな感じを表現したかったので、フライパンに多めの油で揚げ焼きにして生地をカリッと焼きます。
中身は火が入っている状態なので、極力、高温でパスタの生地だけを香ばしく焼いていきます。その間にあわせようと思うのは、ラプサンスーチョン(正山小種)という中国のお茶です。茶葉は松の木の香りをつけた燻製香のする紅茶で、これを嗅いだ時に、すごく森を感じました。ドライな乾燥した茶葉なので、ラヴィオリにぴったりだなと思いまして、この香りをプラスして、仕上げています。
この料理は、コースの最初にお客様に手にとって召し上がっていただくような料理です。実は今回のテーマを考えているときに生まれた料理で、先月店でお出ししました。あとはサブレも表面をバーナーで炙って焦がし、苦み、香りをつけたいと思います。
今日は、盛りつけは、料理というより、一作品として考えてきました。桜の木を自分で煮沸して、表面は天然のオイルでコーティングし、上には焦がしたパン粉とラプサンスーチョンの粉末を乗せています。お出しした時に香りを嗅いで、料理を食べていただくように仕立てています。飾りで月桃という花を、よりドライな感じを表現したかったのでドライフラワーにしたものを乗せています。
ラヴィオリを仕上げていきます。デュクセルとエクルヴィスを入れ、その上にデュクセルをペースト状にしたものを、口あたりをまろやかにするために、少し乗せます。セップをソテーしたもの。ペーストだけですと口あたりがいいのですが、茸独特の、ぬめっとした触感もほしかったので、これを少し上に乗せます。ラプサンスーチョンを上からふりかけます。サブレを重ねます。小さな茸のような感じです。最後に乗せるだけです。こういう感じで完成です。
素材を見て口で味を感じると思いますが、中身が見えてない分、食べた時にエビのプリッとした食感とか、茸のぬめっとした食感とか、サブレの粉っぽい感じとか、食べているうちに、こういう味がしていると考えながら食べると思うんです。考えることで、脳を刺激して過去の記憶を呼び起こすようなテーマにつながるのではないかと考えております。今日は、見えない部分に「記憶をゆさぶる」というテーマをフォーカスして考えてきました。そのまま一口で召し上がってください。



門上 ラプサンスーチョンというのはすごい香りですよね。正露丸とか、コールタールとか、イギリス人が好む紅茶で、秋の記憶に、持ってこられた。香りということを重視しているというか、川崎先生、この料理はある種、複雑なところがあると思いますが、いかがでしたか。
川崎 フランス料理らしいと思います。この料理がなぜおいしいかという話とすると、上野さんの料理は食文化、今度は自然を食べることで、そこにポイントがあると思いました。自然を食べるんですが、リアルでないところが重要で、サブレで土っぽいとか、エクルヴィスで泥の感じをイメージする。例えば、土を殺菌して食べる状態にして使うことはできますよね。でも、実際のものを食べさせるのではなく、こういう土とか泥を想起させる、バーチャルを食べるところが重要で、それこそがおいしい料理につながっていくのだろうと思いました。泥の水のイメージのエクルヴィスと森の土のイメージの茸がリエゾンするところに、サブレとか紅茶で燻製したような森のイメージが湧いてきますよね。そういうリエゾンさせるもの、全然違うものをつなげていく。それが全部、香りで行われることが、多分、新しい料理を考えるということで重要なんだろうと思います。
門上 見えないという、中身がわからないというところは?
川崎 これは驚きに変わると思います。人間って、見えるものに影響を受けるので、見えるものを食べた時に予想通りの味がしたら安心します。安心するだけでなく、レストランの環境の中で食べるから、こういう味だろうなと食べて、ああおいしいと思える。これが、森で出てきたら不安なんです。自然のものをそのまま食べるのは本来、不安なんです。今回のは、完全に自然を想起させるものを、大都会の中で食べるという、ある種の矛盾が面白いですね。それが安心して食べて、あっと驚き、こんな食感、こんな香りと、全部つながっていくことが重要なんだろうなと思います。
門上 フランス的な例ですが。フランスからきた料理人の方が、松茸をみて香りを嗅いで、ジロール茸の香りを嗅いで、両方ともみじん切りにされました。驚きますが、フランス人にとっては、この香りとこの香りをあわせたら、おいしいと思うのでしょうね。実際、作られたのは、めちゃくちゃおいしかったです。というように、いろんな記憶が使える可能性がありますね。
高山 松茸でもいける可能性はあります。バリエーションは幅広いと思います。
木下 香りの話と紅茶の話ですが、1930年代にエドワール・ニニョンという料理人がいました。オーナーシェフになってからは白衣を脱ぎ、人生の半分はサービスをした料理人がいるんですね。生涯に3冊の本を出しています。1冊はとっても希少で250部くらいしか発行してなくて、今であれば200万から300万円する本です。その中にパウダーの項目があります。料理書で粉を扱っているのはこの本しかないんですが、その当時、トリュフの粉、セップの粉、タイムの粉、ハーブティーの菩提樹の粉、これを使っています。高山さんと同じように粉を香りとして料理の横に散らせたり、料理の上に振りかけたりしています。これは、後にフェルナン・ポワンがバターを多用するようになって、バターの香りになってから粉を使うことがなくなったんですね。それからずっと粉を使う料理人がいなくなりました。今、高山さんが使うということは、フランス料理としては順当なところで、香りを大事にすることが一つですね。僕らの年代では、自然は普通にあったので、あまり意識しなかったものです。70年代生まれの方は、自然に対して、僕らと少し違う捉え方をしているのかな。多分、生まれた時からエコとか環境という言葉がずっと頭に入っていて、自然がそのまま自然であるのではなく、バーチャルな世界の自然を、よりノスタルチックなところでという感じがしました。それが顕著に出ている料理だと思います。
門上 バターの香りを、ある種、打ち破る可能性はあるということで、村田さんは、和食は全然違うアプローチでしょうか。
村田 和食とは違うアプローチです。日本料理、日本人の料理人は今まで味ばかり意識していたんですが、ヨーロッパのシェフ連中は香りでいくんです。アジアは、うま味があって、というのですが、彼らは香りが肝心なので、どこまでが香りで、どこまでが味か、わからない。正露丸の粉みたいなものと、茸をあわせると、より茸らしくなった、森の香りがしたというのは、香りに対する能力が優れていることがフランス料理のシェフにとって重要なことなんやなと思いました。味、味でいくと、クリーム、バターの方へ傾いていって、僕らみたいなおっさんは昔のフレンチの方がうまいということになっているのだけど、それは根本的に間違っているのかもしれない。日本料理の表現の仕方よりヨーロッパの表現の仕方の方がストレートだから、今の若い人たちはヨーロッパの表現の仕方でないと、却ってわからない。例えば、日本料理の場合、白の上用饅頭に朱の筋が引いてあるのを、銘を聞いて「龍田川」といわれると、味とは関係なく、頭の中に紅葉いっぱいの龍田川が広がるものなんです。ヨーロッパの人たちの表現の仕方は、もっと直線的で、その記憶が必ず蘇る。表現の仕方は違うけど、時間と空間をトリップして四次元を求めている点では同じですわな。それが、ある程度の人に支持されようと思うと、どれだけの広い範囲の人、世界中のたくさんの人にアピールできるような、いろんな経験をもっているか否かによる。京都人だけ、大阪人だけにアピールするのではなく、日本人にアピールする、アジア人にアピールする、世界中の人が、その記憶があるだろうというところまで広がっていくと、世界の料理として認められることになっていくのかなと思いました。

門上 和食の場合は味、味というのに対して、西洋の料理は香りということを意識されていますか?
高山 そうですね。香りというか、ソースが薬味的な感じでチャツネの香りだったりとか、軽いということとか、香りで食べさせる料理は増えてきているなと感じてます。ビストロから始まったので、バターとかクリームをしっかり使っていきたいとは考えているんです。軽いイコール薄いとか、味がない、料理と感じない、おいしく感じないというのは、僕がまだまだ勉強不足なのかということもあります。でも、フランス料理自体、大事にしていきたい部分もありますので、今日は、中身はしっかりバターを使い、最後は生クリームでポワレもしています。コクというか、うま味という部分では、一口ですから量的な問題にも注目しつつ、うま味の部分は追求し、かつ香りも大事にしたいなと思っています。
門上 香りと香りをあわせたら、こんな味になるというのは、高山さん、訓練されているんですか?
高山 僕自身、スパイスとかハーブが最近のテーマです。まず、料理を出した時、視覚からと香りからとで印象がかなり大きいのではないかと考えていますので、料理のコースを6構成でお出ししていますが、その中で、目に入るものとスパイスのハーブはよく使っています。
門上 今回の料理は、コースに出されているそうですね。反応はいかがですか?
高山 お皿盛りで、3品目にアメリケーヌのソースを引いて、いろんな茸をソテーして、出しました。香りと見た目で、驚きという面では最初のインパクトは大きかったと思います。お出しする時も「一口で召し上がってください」と伝えていたので、その部分では印象は大きかったのかなと思います。
門上 上野さんはいかがでしたか?

上野 まず一口で食べるというのが、いいなと思いました。一口で食べると、口が集中するんですね。口の方でこれを理解しようと脳が働くと思います。それを食べていくと、これはこんな味がある、食感を分析する力が出てくると思います。最後の香り、僕は「これがロワールの香りかな」と、行ったことはないですけど、こういう発想が浮かんできました。おいしくいただきました。


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