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「漬ける」Program 3:ディスカッション(2)テーマ「食文化の振り返り」

「漬ける」Program 3:ディスカッション(2)テーマ「食文化の振り返り」

Program 3:ディスカッション(2)テーマ「食文化の振り返り」

講師紹介

今回で、主催イベントは10回になりました。そこで、これまでを振り返り、今後の関西食文化研究会の活動についてもディスカッションしていただきました。

門上 1回目が3年前。だしサミットということから始まりまして、いろんなテーマにアプローチしてきましたが、この会での活動が、いろんなところへ広まっているというか、村田さんの周りでも意識されてきていますか?

村田 世界中のシェフ連中も同時発生的に同じ方向、同じようなものの考え方をするようになってきているんです。デンマークのルネ・レッゼピにしても、フランスのパスカル・バルボにしても、ブラジルのアレックス・アタラにしても、同じような方向ですよね。それというのは、世界的にこういう方向に行きつつある時は、時代が変わる時です。料理の考え方が確実に変わったと思いますね。それは、科学者と同じように料理というものは考えていかないといけない。おいしい理由をちゃんと考えて、細かいレシピをつくっていくことが、これから要求されていくんやなと。おいしい理由も、きちっと書かれているものがいいんやな、という気がしますね。

門上 今、料理を科学するということは大きな流れで、世界のある種の料理人たちが感じとっている。この研究会で興味深いなと思ったのは、ワークショップ形式で、舞台で料理をしていただく方が新しいプレゼンテーションをされるわけですね。それは一つのチャレンジであって、ひょっとしたら気分よくできあがる場合もあるし、「あ、こういう組み合わせがあったんだ」と新しい世界が開けることもある。プレゼンテーションされる、そこに川崎先生の存在が大きいんですね。川崎先生はもちろん科学が専門ですけど、科学が先にあるわけではないんです。料理が先にあって、皆さんのプレゼンテーションに対して理論的裏付けがあるからこそ、次のステップにいける。川崎先生に加わっていただいて9回ですが、そこが一番面白いことかなと。川崎先生ご自身は料理人との関係をどういうふうに?

川崎 もともと、料理やおいしいものに興味があって、参加させてもらいました。最初は、関西食文化なのに、科学でいいのかなと聞いたんです。ただ、サイエンスの成り立ちを調べたりしていると、あくまでサイエンスは文化の一つかなと思っています。何かを説明するためのロジカルな関わりだと思うのです。サイエンスは絶対的なものを求めようとするんですけど、文化は全く違うものです。それをむりやり説明しているだけなので、すべてがわかったのかのようにしゃべっていますけど、全くそんなことはなくて、一部を説明しているだけなんです。やっぱり料理人さんの頭の中がありき、なんです。それは外さないようにしています。

門上 木下先生は、料理人でもあり、教育者でもあります。コアメンバーに参加していただいて、これまでの活動について、どういうふうに思われますか?

木下 料理すること自体が科学みたいなもので、フライパンで焼くのも科学といえば科学ですね。解明されていることが使われているかどうかは別にして、今までは見たり、聞いたり、触ったりで伝承してきたわけです。簡単にいうと、フライパンに油を入れて「薄らと煙が上がってきたら肉を入れよ」、「薄らと煙が上がってなかったら、まだ早い」という話ですね。薄らと煙が上がる温度が何度で、肉を入れた時に表面温度がどれだけ下がって、これだけ焼けるというようなことが科学力でだんだん解明されてくることなんです。この会でいつも申し上げているのは、科学力だけを使い続けると同じものができてしまって、料理人が違っても画一的な料理になる可能性があるんですね。料理は個人的で、料理人のものなのですが、皆が同じ料理をつくれるとなってくると、食べ手はどこへいっても同じ料理を食べることになるんです。最近、そうかなと思うのは、火入れに適した温度とか流布されると、どこのレストランにいっても同じような肉の食感になってしまったりする。それが残念で、シェフは好きなように焼いたらいいんじゃないかと思うのです。フランスにフレデリック・シモナンという新鋭の料理人がいます。この人は科学とか頭の中に入っているんでしょうけど、手の感覚で肉を焼きたいというキュイジーヌ・ア・ラ・マン(手の料理)を信条にしているそうです。そうした料理人も出てきています。両方知らないと船に乗り遅れるので、知っておくべきなんですけど、知った上で、どう使うかを自分で考えないといけない。そのまま船団の後についていけばいいという考え方ではなく、自分でどう舵を切っていくかというところが大事だと思います。

門上 山口さんは、自分の料理すべてを公開という、すごいところがあるんですけど。それぞれの料理人によって個性が必要というのが、今、木下先生がいわれたようなことになるわけですか?

山口 僕は、解き明かすからこそ、できるということがあると思うんですね。その中で、それをちゃんとした形で、食べ手にも説明ができるといいのかなと。日本のフランス料理は、やっと二代目が出てきたところで、これから二代目、三代目と日本料理のように人が育っていくのだろうと思います。僕らは完璧でないといけないところに入れられてしまって、それはマスコミの責任も大きいのではないかと思うんですが、食文化はそういうものではなくて「先代はよかったけど、二代目はどうか、けれど三代目はよさそうや」などという楽しみ方もあるわけで。本来はスパンが長いのに、スパンが短い中で風俗みたいな扱いにされてしまっている部分を、自分たちの力で違うんやと、何かを使わないと脱出できない、そういう危機感の中で、僕らも、すがる思いはありますよね。

門上 実は一緒ですね。知っていることを使うか、使わないか、それをどう解釈するかは、自分なりにチョイスできていくわけですから。その意味では「知る」という流れを知ってないと、違う流れで走っていても競争には入っていけない。そういう面では、科学すること、理由をきちんとわかっていることが大事だと思っているんですね。「だし」から始まって「漬ける」まで10回。これまで毎回、この会が終わると、コアメンバーで話をしています。次に何をしようか。どういう方向性があるか。素材とか、文化的なものも考えられるとか。村田さん、これまで、ご自身が面白いことが生まれたとか、ありましたか?

村田 テーマはそれなりに議論をかもしだせる余地のある方が面白い、と考えてやってきているわけです。いろんな考え方があっていいと思います。いろいろあっていいんやけど、それが考えるきっかけになればいいんです。この会がきっかけになって、自分の料理を見直しチェックしたり、師匠のいうことを疑ってみたり、ほんまにうまいかというのを自分で考えることが、進化につながるわけで。10回のイベントはバラエティに富んだ内容ですけど、それはそれでいいと思うんです。僕らがやったことに対しても、それぞれ反対意見もありそうやなということを、あえて選んでやっているわけですから、この方向性は正しいんやと思いますね。
まあ今、日本のフランス料理がフランスのフランス料理よりも正しいのかもしれんなというふうに思っています。というのは、オーセンティックな料理の上に、料理というものは上に積んでいく。本さえも引かなくなったフランス料理が片方にある。他方に、古い手法を守りながら進化させていこうとする人らもいる。山が二つになっている。フランス料理が本国の中で混乱している。食べ手側も何がいいのかわからなくなっている状況もありますよね。日本のフランス料理の世界では、ちゃんとオーセンティックな料理を残していきつつ、進化させていくという、全体の意思があるような気がしますね。そういう点では日本のフランス料理は、日本料理の影響を受けているなという気がします。

山口 そうですね。温度管理できなかったのが、できるようになったということもあるし、煮物の保存も温度が関係していきますよね。究極はメイラード反応が120℃で加速的に反応が高まるという、そこまでもっていかない。もうちょっと低いところでやる。1906年に日本人がわかっていた、グルタミン酸があるということが100年後にわかって、2000年にえらいことやという話をしていて。うま味というてる時代じゃないんです。そういう意味でいうと、日本料理とフラスン料理が、どちらが優れているかという話になると、大変なことになってしまうので。でも、どちらかというと、フラスン料理も、クールに仕事をやっているのは何かなと。調理温度がどんどん低くなってきているのかなと。そういうふうにいくんだと思いますけどね、間違いなく、全体が。

門上 温度というのが新しいテーマになりそうですね。

木下 「温度」というと、一回分や二回分ではすまないかもしれないですね。あまりにも広すぎて。提案としては低温と高温に分けたりとか。もっと低い、冷凍とか。温度帯を決めてやるのも可能かもしれません。

山口 村田の大将もあちこち行きはって、情報をもってはるんですね。それを惜しげもなく出して、それをなるべく、こぼさんように受け取るということもありますし、木下先生の歴史の話とか、川崎先生に教えていただける科学的な話、そこまで戻っていっても裏付けができるという安心感もありますね。僕は笑いをとれるし、ちゃんとした役割分担ができている。

門上 会員が850人と増えていますけれど、会場が限られていますので全員の方に参加していただけないのですが、今後もいろんなテーマを考えていきたいと思います。山口さんと魏さんで「だし」をテーマに、中華料理とフランス料理がぶつかるとどうなるかという食事会もおこないました。吉田牧場へ皆でいって、向こうの方と交流したり、話をしたり。多彩なプログラムを用意してきました。今年11月には、関西食文化研究会のイベントとして、山口さんと佐々木さん(「祇園 さ々木」)のコラボレーションによる食事会を催したいと計画しています。山口さん、佐々木さん、よろしくお願いします。

また、こういうテーマというご意見ご希望がありましたら投げていただきたい。キャッチボールできるような会にしたいと思います。食文化ということで、いろいろと交流できることで個性も生まれてくると思いますので、ぜひともいろんな球を投げていただきたい。それでは、これまでのことを振り返りまして、コアメンバーでのお話を終わりたいと思います。ありがとうございました。

「関西食文化研究会」では、交流をテーマに
今回のようなイベントを順次展開していきますので、ご期待ください。

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