>Program 1:料理プレゼンテーション [日本料理]
講師紹介
「煮物椀 ~鮑柔らか煮 蓮根豆腐 冬瓜 人参 柚子~」

高橋 「料理・・・デザイン」というテーマについて、基本的には、普段やっている料理の中で自分がどういうふうに料理を組み立てているかを考えてみまして、なおかつ自分でたどっていくような感じで作ってみました。今回のポイント等については映像画面を用意しましたので、料理とあわせてご覧いただけたらと思います(画面1)。

日本料理をしている自分の中にあるものを探っていくと、煮物椀がわかりやすく、いろんな要素が込められているかなと思い、あわせて調和ということも考えました。料理とデザインの間に「調和」を入れてみる(画面2)。そう見たときに、調和というのは日本料理の特徴的な部分であり、それを表現したものが煮物椀なのかなと、考えていったのです。

最初に蓮根豆腐です。蓮根は初夏の頃にはあっさりした、デンプン質が少ないものですから、こういうことはしないのですが、蓮根をすり下ろします。ただすり下ろすと蓮根のザラザラ感が出てしまいますが、パコジェットを使うとなめらかな食感に仕上がります。
葛粉とわらび粉、どちらも粘性の高いものです。わらび粉だけだと色目が黒くなる。葛はきれいに艶よく仕上がる。それで、どちらもということで、両方を使っています。パコジェットには、蓮根と豆乳が入っています。蓮根だけ冷蔵して作りますと隙間が多いので、隙間を埋めるために豆乳を加えて冷凍しています。少し蓮根の色が出ていますが、サラサラの状態ですね。生のままで凍らせていますので、この豆腐を練る時に初めて火が入ります。

しばらく、これを練りながらお椀の話をさせていただきます(画面3)。料理とデザインの間に「調和」という言葉を入れて今日のお椀を考えました。煮物椀、10月という季節‥日本料理では料理の表現の中で歳時記的な要素を形に表すのですが、ただ単に形に表すだけではなく、なぜそうするかを自分の中で整理してみました(画面4)。稔りの秋、豊穣を祝う…夏の終わりは季節感を強く感じるもので、花も夏にとったあと、脇から出てきた二番花、割り山椒の種をはじく感じ、夏の終わりをイメージするものです。お茶では畳の上に釜があるんですが、11月から炉に変わります。畳の上に釜がある風炉の最後が10月ということもありまして、季節感を感じる時期、名残という要素が強くなります。そうした要素を、できるだけ料理の背景として込められたらな、ということで組み立てました。

煮物椀の代表的なのに鱧と松茸のお椀があります(画面5)。夏には盛りの脂の乗ったおいしい鱧を食べるんですが、この時期は脂が抜け、あっさりして、落としにしてもおいしくない時期になってきますので、旬の松茸、高価なものを組み合わせて使うのです。名残の鱧と旬の松茸の季節感を味わうベーシックなもので、煮物椀の主流になるんですが、慣れたお客さんには少し趣向を変えて提供していきますので、今日のような椀を出したりします。

一皿の中にいくつかの要素を盛り込む(画面6)ということで、夏の名残と旬の鱧松茸のようなもの、それに加えてハシリ、これから出てくる素材を加えることで季節感の流れを味わい、季節の移ろいを味わう。そういうことができるのではないかと、今日のような形にしました。

素材を組み合わせたもの。旬の時期を書き出しました(画面7)。鮑は、夏の盛りのごちそうですが、食材としてエネルギーが弱まり、香りもあっさりしたものになるのを使いました。冬瓜も夏の主流のものを少しだけ使っています。蓮根は、デンプンがこの時期から出てくるのでデンプンを生かしたものにしました。京人参は出たてのもの、季節の訪れを感じさせてくれる食材ですので使っています。10月の柚子は色目が良くない。11月になれば黄色い柚子が出てきますが、緑と黄色の中間の色のをあえて使いました。

それぞれ手法を変えてます(画面8)。蓮根でデンプンの甘み、なめらかな食感を出しているのが今回の目的の一つです。鮑は普段きっちり味を乗せて炊くんですが、今回はお碗に使うので少しあっさり目に炊いています。それに、食材としてのエネルギーが弱まっていることで香りを増強します。焼いてしまうと香りがつきすぎるので、炭の香りだけを移す。下が焼けない程度に油を足して炭の香りだけを移します。焼くのではないので香りだけに使います。鮑を燻した香りで香りを増強させて使います。

蓮根豆腐、練り上がるとこういう形でできています。これを適当な大きさに切ります。鮑は香りを増長させ、蓮根はこういう形で仕立てたんですが、京人参は色目として二番ダシで炊きます。冬瓜は扇面の形。夏であれば大ぶりで切って使うのですが、今回は薄めに、香り自体が弱いので薄くスライスして使います。柚子は、普段は松葉にして使いますが、今回は料理の味のアクセントにするために白い部分を切り取り、香りの部分だけを使っています。蓮根は最初に固くなって、あとからねばねが出てくるんですが、時間的に20分くらいはかかるんですが、最終的に練り上げたものを流します。これを一度空気を抜いて濾し水をあてて冷まします。表面が乾くのでラップをしておきます。冷まして形を整えます。一番ダシに薄口、塩がお吸い物のベースになります。鮑が入った時、貝の香りが強いので、夏に仕立てる時はお酒を入れたりするんですが、今回は名残の鮑なので、薄口と塩だけで仕立てます。



試食は、お椀の形ではないので風味が上がってくると思いますが、燻した香りが最初に上がってきて、あとからまた吸い物のうま味が入ってくる感じになります。今回は秋なので、見本に秋草のお椀をもってきました。蓮根豆腐をベースにおいて積み木のような感じで上に積み立てるようにして盛り込んでいきます。鮑をおきまして人参を立てかける。最後に香りの柚子を添えるんですが、今回は調味料的な感じで、苦味の一つとして使っています。おダシ自体は澄みきったおいしさ、うま味を求めておダシをひくんですが、そのアクセントとして柚子の苦味を使うということです。澄みきったダシのおいしさの秘訣だと思いますが、昆布ダシ自体は、私は70~75℃を目指してダシをとっています。葛を加える時は90℃前後の温度。鰹節が多いかなと思いますが、うちはマグロ節なので酸味とか渋味が少ないおダシになっています。

バランスですが(画面9)、蓮根豆腐のなめらかさ、鮑の食感、弾力性のある食感を対比させる。冬瓜の瓜くささが何ともいえなくて鮑がおいしい。おいしさを少しやわらげるようなおいしさでもあると思うのです。冬瓜を単体で食べてもおいしくないのですが、組み合わせた時に食材がおいしくなるということで、こういう使い方をしています。人参は彩り。おダシを注ぐ。できるだけ鮑がダシに浸からないよう上に乗せまして、召し上がっていただく時、自然とおダシの香りと鮑の香りが出てくるよう、試食用の用意をしました。この椀自体が季節の移ろいを表現しているので、気持ちが高まる料理というより、安堵感のあるおいしさを求め、足し引きしながら組み立てをしました。

村田 細かいところを積み重ねていくのは、京料理界でも一番敏感だと思っています。細かいディテールをあわせていくのは、なかなか理解できない部分もありますが、一つにまとまると何かを伝えることになると思います。彼のような構成の仕方をする若い人が、京料理の中でも増えてきていると思います。ひと昔前の僕らとは根本的に違う、和洋中を問わず、そういう若い人たちが増えているかなという気がします。


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