Program 1:講義:「うどんも、だしも」~現代うどん事情~
講師紹介

私の場合、うどんに魅せられたきっかけは、スーパーで売っているような手打ちうどん用の粉、そのレシピを読んで、自分でもできると思って始めたのがきっかけです。それが今、埼玉市で、うどん店を始めて2年半たちます。そうした私の経験も交えながら、現代のうどんを取り巻く状況とか、全国のうどんの紹介などを話してみたいと思います(参加者には詳しい参照資料を配布)。
うどんは小麦粉と水と塩でつくります。シンプルです。小麦粉の種類からみて、固い小麦、強力粉はパンに向いています。やわらかい小麦、薄力粉は菓子とかパスタとかに使われます。その中間的なもの、中力粉がうどんに向いているのです。うどん用に多く使われている中間質小麦は、オーストラリア産のASW(Australian Standard White)というものです。食材は国産志向もあり、オーストラリアの食材というと驚かれるお客さんがいらっしゃいます。けれど、実際にいろいろの小麦粉を試し、つくってみるとわかるのですが、おいしいさからいいますとASWが優れた特性をもっていると思います。小麦粉の消費量は日本全国で年間630万トンですが、ASWは70万トンくらい使われています。最近までその傾向に変化はなかったのですが、国産小麦粉が改良され品質もよくなり、2000年以降、流通的にも需要的にもかなり見直されるようになっています。具体的には北海道、関東、北九州一帯が国産小麦の主生産地ですが、北海道と九州で国内生産の6割程度を占めています。630万トン中15%程度で、まだ量的には十分とはいえない生産量ではありますが、着実に国産小麦の需要が伸びてきております。有名なところでは香川県讃岐で2000年に品種改良され、その発展で2009年ものの小麦粉が、現在、市場にも出てきているなど、新しい国産小麦粉が結構開発され発売されています。
昔、小学校で小麦粉を水で溶かしながら揉んで、振って、デンプンとグルテンに分ける実験をした記憶がある人もいるでしょう。溶け出すのが全部デンプン、最後に残るガムのようなものがグルテンです。このグルテンが、うどんのコシをつくるといわれています。グルテンの品質、量でうどんの性格が決まってきます。それにプラス、低アミロース。これはデンプンのおいしさ、やわらかさが特徴になっています。昔と比べて麺の質、小麦粉の質の改良によって国産小麦でおいしいうどんができてきているのです。
うどんは小麦粉をこねまして少し休ませないとおいしい麺にならないといわれます。最低でも1時間、まあ一晩、場合によっては2日間くらい寝かせておく。先日、雑誌の取材でヌードルメーカーを試す機会がありました。塩水を入れて10分ほどでうどんとして出てきてしまう。製麺器ですが、寝かさない分だけ早くできる。食べてみたところ、それが結構いけちゃうんですね。ヌードルメーカーでつくった麺で試食すると、必ずしも絶対に寝かさないとだめなのか、これも今後の研究課題かなと思っています。
その他、うどんの味を決める要素はたくさんあります。例えば、うどんの細さ、太さによって茹で時間が変わってきます。茹で時間によってコシの強さ、固さ、やわらかさ、弾力が変わってきます。一般的なうどんの4、5ミリぐらいの太さですと、最低でも10分、場合によっては20分程度の茹で時間がかかります。お客さんの顔を見て茹でると、供するまで時間がかかる。お客さんによっては怒って、帰ったりするのですが、本当は待っていただくのが一番です。うどん屋さんで1分もしないうちに出てくれば、おいしいか、まずいか、判断できるでしょう。釜が上がったところに行き当たれば、いいうどんの可能性が高い。常に釜にうどんが入っていて、締めたてのうどんを食べるチャンスがあるところは評判がよくなります。このへんの食べ方は、2000年くらいからブームになった丸亀製麺さんとかチェーン店がテストケースになり、うどんのおいしい食べ方が広まったような気がします。例えば、うどんとそばをいっしょに出される、特に東京のそば屋さんはこういう傾向が多いですが、そばとうどんをいっしょに頼まれた時、お客さんに同時に出したいと思い、朝、うどんを全部茹でちゃう。そばは1分、2分で出せますので、うどんはちょっと冷遇される。東京の麺類店には「そば、うどん」と書いてある。大阪で両方しているところは「うどん、そば」と書いてある。どちらが主力なのか、ということもあるかと思います。うどんのイメージは、やわらかくて頼りないものというのが一般的だったんですが、茹でたてのうどんが食べられるようになると、うどんは安いコストで、おいしいものだということがよくわかってもらえるかなと思います。



全国各地、隅から隅まで食べ歩いたわけではありませんが、所変われば品変わるということで、珍しいうどんにめぐり合っています。関西なら、三重県の「伊勢うどん」が一つの究極かなと思います。一昨年、NHK「ためしてガッテン」の番組に出ましたが、そこでも伊勢うどんが紹介されていました。うどん屋さんの話によりますと、1時間近く茹でたうどんを水で締めてザルにとり、それをその日に食べるのかと思っていたら、翌日に使うというのです。やわらかくて独特のたまり醤油で食べるうどんです。それと対極にあるのは山梨県富士吉田のエリアで食べられている「吉田うどん」です。2等粉という色がくすんでいる小麦粉がありますが、吉田うどんの場合、2等粉を使うことが多いようです。小麦粉の胚の部分、芯の部分が白い粉がとれるんですが、そこをたくさん含むのが特等粉とか1等粉になるのです。逆に、ミネラルやケイ素などの雑味が多い灰分量は2等粉になるほうが高くなる。吉田うどんはその2等粉を使っているから、ボソボソ、ごわごわなんですが、噛みしめると小麦の味が出てくる。何度か通っていると癖になるうどんです。讃岐とか、関西のうどんとは趣の異なるうどんであります。機会があったら食べてみられることをおすすめします。
長崎の五島列島に「五島うどん」があります。それに、秋田県の「稲庭うどん」、富山県の「氷見うどん」が、手延べうどんの3大うどんといわれています。そうめんのつくり方に近く、水でこねた小麦粉をたらいの中で包丁で切り出しまして、だんだん細くしていって生状にしたものを引っ張って乾麺にする。半生だったり、生という言い方をするものを出すこともあります。一般には目につくことがなかったんですが、五島うどん、稲庭うどんの一部のメーカーが半生うどんを出されています。これが乾麺とは違う食感がありまして、とてもしなやかで、乾麺よりも食感がいいような気がします。最近は、稲庭うどんでも佐藤養助さんという業界を引っ張っている店から分家された意欲的な方が製麺づくりを手がけていまして、地粉の採用もかなり熱心にされています。また新たな稲庭うどんが出てくる可能性があるかなと思っています。
日本3大うどんという言い方もあります。「讃岐うどん」、「稲庭うどん」は確定として、3つ目に群馬県の「水沢うどん」が入ったり、名古屋の「きしめん」が入ったりします。どちらかというと、ご当地の都合のいいことになるわけですが、水沢うどんについて、少し。群馬県伊香保温泉のそばに水沢観音があり、その門前の街道沿いに16店くらい集合しています。道を挟んでうどん屋さんが競争しているような町並みですが、そこの古いお店が創業400年くらい、田丸屋さん、清水屋さんがあります。それに大澤屋さん、この3つが老舗とされています。私は、その中でも田丸屋さんが群を抜いておいしいかなと思っています。水沢うどんの特徴は、生地の寝かし時間です。夏場はともかく、冬場はきついらしく、麺の育成に時間がかかるということもあり、2日かけて熟成させていく。その生地を温めるのに釜の周りに強制的に温かいところに生地をおいて軟化させてから手打ちをするというつくり方をされています。仕上げのところが面白く、一般的には平らなところで麺棒で延ばし、畳んでいくのですが、田丸屋さんは麺を生地に巻いた時に斜めにして手で絞る形で幅を出していく作業があります。他では見ない光景かなと思います。うどんの質的にはツルツルした食感と適度なコシで、うどんらしいという馴染みのあるものです。ただ、値段が高い。水沢うどんは1杯1000円前後する。うどんとしては高級品に入るかなと思います。
最後に、私の地元の埼玉県の「武蔵野うどん」に触れたいと思います。埼玉県西部のエリアと埼玉でも大宮から北の方、熊谷とか、このエリアは小麦がとれたこともあり、古くからうどん文化があります。冠婚葬祭の締めにうどんが出てきます。それでその会がお開きになる。あたたかい汁に冷たいうどんをつけて食べる、そういう食べ方が主流でした。昔は何も入ってなかったのが、今は豚肉とネギが入って「肉汁」という食べ方があります。でも、「にくじゅううどん」と呼ばれるうちはだめかな。「にくじるうどん」と呼ばれないと市民権は得られないのではないかと思います。その他、お手元の資料にはたくさん挙げていますが、全国各地にうどんはさまざまなものがあります。今後は、国産小麦粉の消費拡大にともない、もっといろんな形でうどんが出てくる可能性があると思います。また、うどんを取りまく環境が多少変わってくる時期にさしかかっていると思います。そんなことを踏まえて、うどん屋さんでうどんを食べていただけたらと思います。


