Program 3:ディスカッション 1/2
講師紹介

門上 麺とだしの関係は、切っても切れない大切なものですが、ここからさらに討議を進めていただきたいと思います。まず、木田さんから、本日の感想をお聞かせください。
木田 今日、初めて今井さんのだしをつくるところを見させていただきましたが、自分がうどん屋をやるにあたって教えてもらってきたことと全く違うやり方でした。鰹節屋さんで教えていただいた手順とも、かなり違うものでして、驚きました。
今井 私は生まれた時から見ていたのが、あのとり方です。店に入ってからも、それしかしたことがないので、皆さんがどんなふうにだしをとられているのかも知りません。勉強不足ですみません。
蓮見 そば屋さんで今井さんのだしと近いとり方をされるところがあるかなと思うんですが、うどん屋さんで濃縮しただしを薄めて使われるのは初めて拝見しました。
喜多條 私も、一番だしは絞らないやり方しかしたことがなかったので、びっくりしました。塩分を調整するのに薄めるというのは自分も経験したことがないですね。
門上 今井さんのとり方は皆さん衝撃みたいですね。ご本人は当たり前にやっておられたということですが。山口さん、フレンチもだしのような液体をとられますが、どういうふうに見ておられましたか。
山口 僕の祖父母は大阪でうどん屋をやっていまして、小さい時からだしをとるところを見ていました。でかい釜でしたが、小さい時はあまり関心がなかったので、どうやってとっていたかまでは覚えていません。昆布だしの香りとか嗅ぐと、その頃に戻るんですけど。今日は、うどんへのこだわりを聞かせていただいて、変わった人ばかりやと、こういうのが食文化を育てていくんやなと思いました。すうどんを食べながら、うどんならきつねうどん、甘くしただしが溶け合って好きやったと思い出しました。正直、ぶっかけは通常のは食感が好きではなく、完食できないんです。ヌルヌルっとした感じがあって。けれど、今日のは、それが全くなく、歯ごたえを楽しみながら冷たいうどんが食べられるんや。変わった人がいてくれて、よかったなと思いました。
門上 きつねうどんという話が出ましたが、今井さんのところは、きつねうどんが名物でして、そのだしと揚げとの相性はどういうふうに。
今井 うちには祖母がつくったレシピがありまして、薄揚げ100枚分のレシピなんです。おかげさまで「大阪はきつねうどんにたこ焼き」と注目されて、人気に応えようと調整を試みましたけど、結局はレシピどおりの味をいかに再現するかということになったんです。うちに来られるお客さんの中には「こんな甘いうどん、食べられへん」という方も、「これが大阪のうどんや」というていただける方もおられて、食べものは好き好きなんやなと感じています。



門上 木下先生はフランス料理の立場から今日のだしのとり方も含めて、どんな感想をもたれましたか。
木下 まず、木田さんにお訊きしたいのですが。小麦粉とか、水、塩へのこだわりがあるんですか。今使われている塩はどこの塩か、教えてもらえますか。
木田 塩は鳴門塩業の特別なのを使っています。もともと塩は塩化ナトリウムですから、余分なものが入ったらプラスになる場合とマイナスになる場合があると気づきました。また、成分によって麺質が固くなったり、悪くなったり。普通の場合は何も入ってない塩の方が確実に小麦の特質を生かした麺がつくれると思いますが、今使っている特別な塩は苦味成分の塩です。塩を研究した時にいろいろ試したんですが、ほとんどの塩がだめでした。たまたまドイツ製の岩塩だとツルツルした麺ができたので、その塩がないかと塩メーカーに問い合わせたところ同じ成分の塩があった。ベースが海水のちょっと特殊な塩を使っています。その塩を使うと表面がツルッとした感じになります。
木下 水にもこだわりはあるんですか?
木田 塩といっしょで癖のないものを使うべきでしょうね。癖をつけるとプラスとマイナスが出る、浄水器を使うくらいでいいと思います。
木下 知りたくてなんでも質問するんですが、練りあわせてから、うどんは足で踏むんですよね。踏んでどれくらい寝かせるのですか。
木田 足で踏んでいます。機械製麺もあるんですけど、機械を通しますと生地によってグルテンが切れたり生地が割れたりします。足で踏むと切れませんからいいんです。でも、グルテンが絡んでいますので、踏んで伸ばそうとすると緊張して生地が固くなって伸びない。そうすると次、もう一回折り畳みたいので寝かしておく。生地をもう一回伸ばせられる状態まで寝かしておけば、それでいいと思います。
山根 脱気はするんですか。
木田 うどんの場合は、あまりしない方がいいと思います。空気が多少残っている方が茹で時間がちょっと早くなりますので。空気の残った不完全なものの方が、うどんとしては食感がよくなるみたいです。
木下 畳むのは踏みながら折っていくんですか。折り返しは何回とか決めているんですか。
木田 生地を踏んで折り畳むのが必要な動作だと思っています。踏むことによって何層にも重なったミルフィーユのような、うどんのグルテンができますから。畳める厚さまで薄くするために踏んでいるだけであって、讃岐うどんのように1時間も2時間も踏むと密度が上がってしまって固くなる。それが讃岐うどんらしさなんですけどね。私は、最初、8回くらい折り畳んでいたんですが、時間がかかるし、面倒だし、しんどいと思っていました。ところが、ある回数で急に食感が変わりだして。なので、自分の意図する食感になる回数を畳めばいいと解釈しています。何回も多く畳んでも効果はないと思います。
山根 そのとき方向は変えるのですか。パスタでもいろいろあって、方向を変えて畳んでやると均一なものになるように思うのですが。



木田 うどんの場合は向きを変えて畳みます。パスタは一方向ですね。ラーメンの生地も一方向で、その方向に対して重ねあわせて伸ばしていく。麺を切る方向が縦方向でないと麺が弱くなるんですよ。ラーメン生地を、うどんの製麺機で横に切ると、すぐ切れてしまう。成形も結果に対して必要なことです。グルテンを絡ませないとコシが生まれないと思うので。うどんの場合、四角くつくっていきますので最後はどっちに切るか、わからないですから。
山根 空気を含みますよね。湯がいた時に麺が浮きますよね。含んでいる空気が茹でる時に風船みたいに泡が膨れる。パスタは中に空気があると切った時にスポンジみたいな断面になる。おそらく気泡が大きくなっている。それを避けるために脱気するのが普通なんです。
木田 その空気はプラスαの要素と思っています。生地を畳んだものを分割する時には中にいっぱい空気が入っています。つくり手によって違うんですが、讃岐うどんには二つあって、重たくて沈んでそのまま上がってきて同じ太さでできあがる店、沈んで上がって膨らむ店。水で締めると、ピッとなります。この二つのタイプがあって、それは空気の含有量の違いだと思います。製麺機に入れる場合は練っている間に脱気しながら練っているものもありますね。
門上 今日はパスタとの違いとかも出てきています。だしも今井さんのだしとの違いの話がありました。この研究会は1回目にだしをテーマにしまして、村田さんに基本のだしと新しいだしをしていただいたんですが、村田さん、皆が衝撃だったといわれる今井さんのだしはいかがでしたか。
村田 まずは、サバ節もウルメ節も、京都で使っているものより燻蒸香が濃いなと感じました。大阪の方が多分、燻蒸香がきついんでしょうね。燻蒸香がきついと、ある程度それをやわらげるためにネギが絶対必要なんやろうなと思います。だしは返しに近いだしのとり方やね。一旦、ガッと強いのを引いて、後で薄めるという。最初に濃いのをガッと引いてしまう、ああいうやり方は料理屋にはないので面白いなと思いました。




