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「料理と飲み物の相性」Program 1:講義:料理人のための「料理と飲み物の相性」のサイエンスとデザイン 1/2

「料理と飲み物の相性」Program 1:講義:料理人のための「料理と飲み物の相性」のサイエンスとデザイン 1/2

Program 1:講義:料理人のための「料理と飲み物の相性」のサイエンスとデザイン 1/2

講師紹介

川崎 寛也(かわさき ひろや)氏
農学博士

最初に、なぜデザインという言葉を使っているかをお話します。デザインとは、本質を見出して意図的にコントロールすることだと捉えています。料理でいうと、お客さんがどう感じるかを考えることですね。その本質を見えるようにするのがサイエンスの役割です。だから、デザインとサイエンス、二つを両方考えていくのがものづくりには重要であると思います。料理人はやることが多くなってきて、技術や食文化だけでなく、科学の勉強もしないといけない大変な職業になってきていると思います。味と香りをどう感じるか。味と香りは不可分です。言語でいうと母音と子音の関係だと思います。母音だけでは意味がわからない。子音が入って初めて言葉になり、文章ができて物語が紡ぎ出される。というように、味と香りは分けて考えられません。料理だけでも味と香りは複雑ですが、そこに飲み物が加わると、さらに話がややこしくなってきます。

相性の研究はあまり進んでいません。なぜ進んでいないか。料理の研究、食品の研究はあります。飲み物の研究もあります。それをつなぐ、感覚の研究が難しい。特に相性に関していうと、おいしさとは感覚的なものです。そこで、完成度と好みを分けて考えないといけない。自分の好みではないが、完成度が高いかどうかを判断しないといけない場合もある。だから難しいのだと思います。例えば、美男美女のカップルがいる、でも好みじゃないとする。しかし、皆さんはプロとして「この人たちは美男美女だ」と言わないといけない。好みは、お客さんが決めるのです。プロとしては完成度、品質と自分の好みは分けることが重要で、自分の好みをあえて言っているのか、完成度を言っているのか、自分のなかでどういう発言をしているのか自覚が求められます。

そもそも、料理とワインのマリアージュはいつ判断するのか。パターンとしては4つ。料理を飲み込んでからワインなのか。ワインを飲み込んでから料理を食べるのか。どちらかのフレーバーが残った状態で次のものにいく。料理を口に含んでワインを飲むことはできるかもしれませんが、ワインを口に含んで料理を食べることはあまりしない。皆さんの感覚的にもそうだと思います。

まず、味覚と嗅覚の仕組みをおさらいします。味覚は5種類しかありません。食品が口に入った時、味蕾という味のセンサーで受容されて、味覚神経を介して脳に情報が行き、扁桃体という好き嫌いを決めるところに行く。これが味の通り道です。一方、匂いの場合、鼻の前の前鼻腔から物質が入ると、「匂い・香り」として感知される。それに加え、食べ物として口に入ると、後鼻腔からも香り成分が嗅覚受容体で受容される。前からと後ろからのものが同じところで受容されるのですが、経路が違うので全然違うように感じる。嗅神経は、好き嫌いを決める扁桃体にダイレクトに入るので好き嫌いに強く影響するといわれています。嗅覚の場合、受容体の種類は400種類ある。香り物質は数十万種類あり、そのうち人が認識できるのは1万種類といわれています。味覚は受容体1対1対応ですが、嗅覚はパターン認識ですから、一つの香り成分がいろんな受容体を活性化させているのです。

味細胞、嗅細胞が伝える情報は3つ。「質」は甘いとか苦味があるとか。「強度」は強さ。「時間」は、いつからいつまで。酸味は、甘味、塩味によって抑制される実験結果があります。クエン酸にスクロースという甘味、砂糖を入れるとぐっと強度が下がる。混ぜると弱くなります。二杯酢、三杯酢を作る時に砂糖を入れます。角をとるというように。味を混ぜると互いに影響しあい、抑制される。混合抑制というのですが、うま味に関する研究はまだありません。「甘い匂い」といいますが、匂いに味はありません。ショ糖にバニラを入れると甘味を強く感じます。このような、錯覚を利用したバーチャルな風味の増強には、いろんな研究があって、甘い匂いのイメージの香りは砂糖水の甘味を増強するといわれます。香りによる味の増強は食文化が関係する場合もあり、匂いは記憶情報なので一概にはいえません。以上、味覚と嗅覚を感じる側の基礎知識です。

それでは本題の相性の話に入ります。「感覚」と「料理」と「飲み物」、この3つを総合的に考えたい。今回、6つの分類を提案したいと思います。なかなかまとまった研究がなくて、岡さんにソムリエからの情報もいただきつつ、最新の科学的な研究を入れ、相性の要素を6つに分類してみました。
*図1:相性の要素の分類案

*図1:相性の要素の分類案

<WASH: ウォッシュ>洗い流すことは重要な役割です。アルコールとか炭酸によって洗い流すことができます。<BAD FLAVOR: バッドフレーバー>悪い匂いが口の中で発生する、魚介類とワインの反応とかです。<NEW: ニュー>2種類の香りが合わさることで単独では得られないものを感じて、それが感動的になると素晴らしい。<SHARE: シェア>同じ香り成分を持つ、フードペアリングという考え方で最近は国際的にもソムリエの世界ではこれが一番多いのではないか。ベリーの香りがするワインだからベリーの料理を合わせる、というような考え方です。<DOMINANT: ドミナント>飲み物のどちらかの強度が強すぎるか、感じる時間が長すぎると、なんとなくどちらかの印象が強すぎて相性が悪いとされてしまう。<WEAK: ウィーク/STRONG: ストロング>強度ですね、味の強度をを強めたり、弱めたりする。混合抑制の働きです。以上の6つ。あと、考えられるのは「温度」ですね。冷たいものは口の中の温度を下げますから香りの揮発を抑える。そういうことを活用する。という分類ですが、これから一つずつ説明していきたいと思います。

アルコールによる<ウォッシュ>。味は水に溶け、香り成分は油に溶ける。アルコールは水にも油にも馴染む。実験してみました。チューブに水と油を入れました。攪拌します。左は油と水だけ。中はアルコール20%を加え、右はアルコール40%を加えました。撹拌後、7分経過すると油と水はきれいに分かれますが、アルコールが入っていると、ある程度乳化が保たれています。アルコールで乳化が起こっている。油脂が多い料理を食べた後、口の中を洗うのにアルコールは適している、ウォッシュが可能なドリンクです。ウォッシュのイメージは、口の中に油脂があって唾液で流されていく。どんなものがあるか。まずは、水。硬水はカルシウムとかマグネシウムが多い。タンパク質とくっついてウォッシュが起こりやすいかもしれません。ワインは、酸によってよりウォッシュされやすい。炭酸水の炭酸も油脂を除去しやすい。日本酒のアルコールも油脂を乳化しやすい。緑茶のタンニンもタンパク質と結合することによって流されていきます。赤ワインのタンニンもタンパク質と結合します。タンニンは唾液のタンパク質と結合しますが、当然、口の中のタンパク質とも結合しますから、タンニンは残っていく可能性があるわけです。

<バッドフレーバー>魚介類とワインの相性が悪いというのはなぜか。メルシャンの研究ですが、相性が悪いのは、ワインの中の鉄分がよくないことがわかりました。鉄分は脂質酸化を促進します。特に魚介類の脂質は酸化されやすい。それで、鉄分の多いワインと魚介類を合わせると、ワインの鉄イオンが脂質酸化物を発生させるのです。それで、鉄イオンが少ないワインを開発しようという話になります。白ワインでも鉄分が多いと、臭い匂いが発生する可能性があります。

<ニュー>香りは受容体で受容しますが、Aの匂いとBの匂いを同時に嗅ぐとどうなるか。全く別の形になることがあります。これは、嗅覚はパターン認識であるということから、パターンが違う香りが組み合わさると違うように感じるのです。もしかすると、これが相性の重要な考え方ではないかと考えられます。相性がいいというのは、単に匂いをシェアしているだけではなく、全く違う匂いが発生している、それが素晴らしいものであるというのが本質的な相性の良さではないかと思っています。例えば、オマールにソースを合わせて、そこにマンゴー、ショウガ、レモン、コリアンダーを組み合わせた料理。コリアンダーを入れるかどうかで全く風味が違うという実験です。コリアンダーがない時と、ある時で、感じ方が変わってしまった。コリアンダーがないと、ルーの酸味が残ってオマールの甘味が残らなかった。コリアンダーがあることによって、なぜかわかりませんが、香りが全く違ってA+BがCになったという実験です。

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