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「料理と飲み物の相性 Part2」Program 3:ディスカッション

「料理と飲み物の相性 Part2」Program 3:ディスカッション

Program 3:ディスカッション

講師紹介

進行:門上 武司

出演者に新コアメンバーの吉岡 勝美氏(辻調理師専門学校中国料理主任教授)が加わり、あらためて料理と飲み物の相性について討議していただきました。

門上 岡さんから、山口さんの料理は「酸」、山根さんの料理は「ミルク」がポイントとの指摘がありました。まず、山口さんにおさらいをお願いします。

山口 もともと赤ワインならピノ・ノワール、白ワインならシャルドネが好きでしたから。関西食文化研究会は自分たちの経験をサイエンス化してくれますが、そうではなく、自分たちが考えるものが先にあってそれをサイエンスで分析する時、僕の中ではブルゴーニュで働いていた「ラ・コート・ドール」(ベルナール・ロワゾー氏の店)で衝撃を受けた赤ワインソースがありました。当時、時代の最先端だった料理です。その時に感じたことを皆さんにも感じてもらい、科学的に分析することで食の世界が広がればいいな、という思いで今回は料理しました。
料理には油脂分を結構使っています。赤ワインソースの中にもバターがしっかり入っていますし、フォンデュの中にもグレスドワ、というように油脂の分量が多いです。赤ワインソースの酸味がなければ食べられないと思います。そこにピノ・ノワールの気品ある酸味が入ることによって“ウォッシュ”しながら“ニュー”をつくるのですね。白身の魚ですから、肉とは違うヘテロな部分、違いがあることによって変化が生まれる。魚を食べる時にニュートラルになって、酸味とかコクのあるものがきてまたニュートラルになって、というヘテロなつながりも面白いのではないかと思いました。

門上 山根さんの料理はミルクを使われたことが効を奏したのではないか。川崎先生からは「まろやかさ」というキーワードも出てきました。

山根 今回は初めから“ニュー”狙いでした。酸味のほとんどない料理です。仔羊は臭みがあり脂も多いですから、酸を合わせることが多いのですが、あえて酸の感じを除きました。第一、後からピノ・ノワールの酸も味わうわけで、酸に酸をぶつける必要もないのかなと思ったのです。それで、仔羊自体の香りを前面に出そうと。けれど、臭みが強くてもいけないのでミルクでマリネしたのです。酸やハーブをたくさん使うのは仔羊の香りを抑えようという発想ですが、抑えない。究極の仔羊のおいしさはミルクラムに代表されると思うので、そのニュアンスを持たせたかった。ミルクを煮詰めるので油脂は使っていますね。さらに羊自体にはもともと脂のおいしさもあるから、それを無くさず積極的に食べてもらう。全部掃除して仔羊の脂を無くして料理することも結構あります。そうすると、上品ではあるが、仔羊のもっているおいしさを半減する可能性があるので、脂も有効的に利用しておいしさに転化させる。臭いのではなく、おいしいにもっていくという料理です。昔からよく羊は料理していたんですが、その時は酸味も入れた褐色のソースでした。ビネガーを使ったソースです。ある時、うまく焼けたんですね。味見するとソースがない方がおいしいと気づいたんです。基本的にイタリアンはソースがない料理が多いのですが、酸味のあるソースはいっしょに食べて、まずいことはないけど、羊のもやっとした、キレの悪い感じを邪魔しているようで。収斂したり、凝縮することによって羊の膨らみが減っているなと感じたんです。今日は、より膨らませるためにミルキーな感じを出して、結果的にピノ・ノワールの香りや酸の強さとうまく合うのではないかと想像して作りました。

門上 仔羊の香りを抑えるのではなく、羊乳を加えることでワインとの相性を求めたという。山根さんのアプローチも面白いですね。川崎先生、お二人の料理はいかがでしたか。

川崎 フランス料理とイタリア料理の考え方の違いが明確に出ているなと思います。山口さんの料理は、よく見ると、鱸、赤ワインソース、エシャロットのフォンデュなどそれぞれのパーツが“シェア”されている。鱸やエシャロット・フォンデュの中にグレスドワが使われ、赤ワインソースにエシャロットが入っている。それらを線でつなぐと全部つながる。赤ワインソースには別の赤ワインがあって、飲む赤ワインとつながるわけで、一見別々のように見えて全部つながっている。山口さんの料理には、常にフランス料理の「リエゾン」を思うんです。意識されているのかどうかわかりませんが、違う要素を合わせる時、「リエゾン」を使う。つまり“シェア”ですね。フレーバーの共通したものを一つは要素として入れていて、そのシェアの効果として一体感が生まれているのではないかと思います。鱸のロティと赤ワインソースは離れているように見えるけど、エシャロットのフォンデュがリエゾンとして支えているような気がして。料理全体として赤ワインと合ってくるのですね。エシャロットのフォンデュが無かったら、全然違う印象になるだろうなと思いました。鱸のロティと赤ワインだけだったら、共通の要素がない。相性がいいというのはワインと合わせると、料理単体よりもおいしくなることが前提なので、リエゾンによって一体感、ハーモニーが出ていることが重要なポイントなんですね。そこに、間をつないでくれているエシャロット・フォンデュが効いているのだと思いました。赤ワインソースだけだと鱸が浮いてしまうような気がします。
山根さんの料理はワインと共通する部分がありません。しかし、肉が“ニュー”によってまろやかになっていて、かつ、油脂を結構感じる。聞き取りデータでは、ワインといっしょに飲んだ時、持続時間が短かった。ずるずると羊の風味が続くのを切るという心地よさをワインに求めている。これは、機能の違いか。つまり同じワインでも、山口さんの料理と山根さんの料理では、ワインの果たす機能が異なっているということですね。フランス料理、イタリア料理、それぞれでワインの持つ役割が料理との相性において大きく変わっていることが、今回、僕の中では発見でした。

門上 岡さん、川崎先生の「ワインの機能が違う」という点についてはどのように思われますか。

 川崎先生の分類によりますと、まさに“ニュー”が山根さん、山口さんは“ニュー”と“シェア”なのだなと納得しました。機能という見方も、うまい視点だなと思って聞いておりました。科学的な思考は大切なことだと感じます。授業料を払わないといけませんね。

門上 山口さん、「リエゾン」は意識されていましたか。

山口 基本的に料理はそういうものだと思っていますから。川崎先生に指摘されて意識を新たにしましたけど、自分自身の中には作り方の不思さは無いんです。今回、僕の作りたかった“ニュー”の世界は、香りの世界ですね。料理では表現できない、アルコールで可能な力で食卓を飾った時、どういうものが出るのかというイメージがあって。今回提示されたピノ・ノワールは、ビンテージも若いし、一口ごとにベリーの香り、新鮮な花の香りもしてきますので鮮度感を表現できるかなというのはありました。

 赤ワインで温度をおっしゃった。調理の仕方で味わいが紙一重になりはしないかなと心配していたのですが、今日は上手に作ってくれはった。熱によって、酢のような酸っぱい香りがしてくることがありますから。

川崎 そもそもワインに含まれている酸には揮発性はありません。ワインを煮詰めることによって起こるのは、アルコールと水分の蒸発、香り成分の揮発です。それによってどんどん濃く煮詰まっていき、酸を強く感じるのです。単に濃度が高まっているので、揮発ではありません。味が強くなっているから酸っぱい匂いがしているように錯覚しているだけだと思います。

門上 吉岡先生は中国料理が専門ですが、中国料理にワインは合いますか。これまでの一連の流れで、いかがな感想をもたれましたか。

吉岡 川崎先生のお話にもありましたが、料理には好き嫌いの問題があります。そんな中で、中国料理をやっている私がフランス料理とイタリア料理とワインをどう感じるかは、難しいテーマで、いい勉強になるのが正直な感想です。
山口さんのお料理ですが、あっさりとしたストレートな味の鱸、赤ワインのソース、そこに苦味のあるポイントが一つ入って、それと今日のピノ・ノワール、渋くなくタンニンの少ない酸味が効いているワインということで飲みやすい。味の表現としてはいろいろあると思いますが、食べた時に間違いなく酸味は収斂、それに、今日いただいた苦味に気品を感じました。酸味の収斂が苦味の気品を引き出して、鱸をおいしくしている。甘いワインがきた時に、この苦味は何に変わるか、甘味は何に変わるか、などとイメージしていました。
山根さんの料理をいただきながら「これは乳飲み仔羊ですか」と質問したんですが、「いやいや違います」という返事。内心ではそういうイメージで料理されたのではないかと、いただきながら思いました。羊の強い香りも味も好きで、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローのようなタンニンの強いワインが合うと思っていたのです。ところが、羊のやわらかな甘味、なおかつ香りは脂肪でしっかりついているけれど、脂っぽくない。そうなると、タンニンがないような今日のピノ・ノワールが合うのかなと、素人ながら、いい組み合わせだなと、ただただ勉強の食事でした。中国料理でもピノ・ノワールはよくいただきますが、鶏肉や豚肉、牛肉ですと脂分の多くないものが合うのかなと思いました。中国料理では羊も、アヒルとか鴨もよく使います。ただし、鉄分が残らないように仕上げるのが中国料理の独特の方法で、そう考えるとピノ・ノワールは合いやすいのかなと思いましたね。北京ダックを食べながらワインを賞味された方もおられると思いますが、ピノ・ノワールが合うのか。脂分が気になるという方にはもう少ししっかりタンニンの入った赤、メルローあたりが合うのかな。今日は、魚に赤ワインは斬新だという話でしたが、期せずして「北京ダックに白ワインを合わせたら面白いのではないか」と思いながら来たものですから、不思議だなと感じていました。素人の暴走的な意見でしょうか。

 いや、全然。僕も今、白ワインを何に合わせるかなと考えていたところです。お味噌があるじゃないですか。お味噌の味を壊さないように合わせるのは、どうかなと思いましたが。

吉岡 お味噌と酸味は、合わせるのはちょっと難しいでしょうね。

門上 吉岡先生には次回のイベントで料理デモンストレーションしていただきますが、今年1年は「相性」をテーマにしていますので、何をしていただくかは相談しながら決めていきたいと思います。
吉岡先生からは、中国料理であれば焼き物に白という話もありました。今日はリエゾンというつなぎの話、ワインの機能という新しい発見など、そういうことから新しい料理が生まれてくるかもしれない。考えてみれば、お客さんがワインを1本とられた時、ワインの味を変えることはできないけれど、料理で味を変えることはできるなと思ったのです。ワインを開けた時、通常のメニューでも変化させて、香りを少し加えたり濃度を変えたりすることで、今までと違うものができるのではないかと思ったんですが、山根さん、そんなことはないですか。

山根 多少はありますね。うちの場合、営業中にお客さんの選んだワインが厨房にグラス一杯届きます。飲んでみてイメージすることはあります。一番気にするのは、酸の強弱と熟成でしょうか。同じブドウ品種でも、頭でイメージしたのと味わいが違うこともあるので、そういう微調整はしますね。うまい時は気にしません。ワインだけを楽しんでいただく。

山口 中には、いいワインを開けられて、エッという感じで。こちらの作り方を変えることは実際にありますよね。

門上 今回もいろいろ課題がありましたが、会場の会員からご意見をうかがいましょう。

会員氏 おいしい料理をありがとうございました。ちょっとワインが少なかったので、余韻が残るまでワインが残らなかったということはあるんですが、鱸を最初食べた時は鱸の方が勝っていたんです。おっしゃるとおり、エシャロットを入れてマスキングでリエゾンになったというふうに最後の余韻でエシャロットのコンフィがポイントだったなと感じました。ワインの温度が冷えすぎていたように思ったのですが。

 会場が暑いので、あえて低くしていました。

会員氏 フレーバーがちょっと短く感じて。

 それはちょっとありましたね。

会員氏 味覚と温度帯の関係も面白いかなと思いました。

 了解しました。

会員氏 山根シェフの料理も野菜使いに興味があって。ズッキーニがバランスを保っていたなと感じました。僕にとっては、今日のポイントは「温度」と「野菜」というところでした。

 女性の会員にも感想をうかがいたいですね。

会員女史 じつは、赤ワインは全く飲まないんですが、鱸とワインがこんなに合うのかと勉強させてもらいました。私は学校の食事に携わっていまして、学校給食とかの分野は遅れているから、こういう会に参加して勉強して、ちょっとずつ変えていかないといけないなと思いました。教えていただきたいことが多すぎて。今日は話を聞きながらいろんな料理をいただき、こんなに味の広がりがあるんだなと勉強になりました。

山口 川崎先生が店に来ていただき、今回の料理の評価を測定されました。質問は「アイテムを10個くらい出してください」。味の感じ方をグラフにしてもらったのです。そういう食べ方は初めての経験でしたね。「今、どういう味がしている、こういうふうに変わった」とか。ワインのテイスティングもほぼ同じで、まずワインをみて、その後、酸味と甘味を感じながら渋味を感じた後に余韻を、という順序があります。ワインに関してある程度の知識を持っている方のテイスティングの順番は同じですね。スピードとか長さは変わってくるでしょうけど。食べる量とか食べる箇所によっても変わってきます。長く食の世界に携わっていますが、じつは初めて見えてくる世界もあるんです。意識をもって食べると、今、何の味をしているか神経を集中させることによって生まれてくる新しい世界。今回の「相性」にもそういうものがあるんですね。本当に「料理は脳で食べるんやな」ということを、関西食文化研究会のこういう回を重ねるごとにつくづく感じているところです。

山根 今日感じたことで少し補足的に話します。二人ともプレゼンした料理はクラシカルな料理だったと思います。山口さんの組み合わせは、あえてシンプルに、コンフィはエシャロットだけでしたし。本来はもっと複雑に構成されているのではないかと思います。僕も、ズッキーニはスキャッチャータ、ぺちゃんこにするという意味ですが、シンプルに凝縮しただけです。二つともワインとよくあったでしょ。ワインがおいしくなって料理もおいしくなっていく。ところで、皆さん、最近の流行りの料理は小さいポーションで出てくるの、ワインと合っていないと思いません? それはいけないかというと、それはまた別の話で、もしかしたらあえて「ワインと合わなくてもよい」という料理がどんどん出てきているのかなと感じるんです。先日「noma」に行きましたら、エビに蟻をまぶしたような料理があって、これがワインに合うんです。しっかり煮詰めてワインのうま味を引き出すのにソースが必要だったとか。ある意味、古典的な料理なんですね。それとワインの相性は普通にいいなというのが印象です。フランス料理らしいフランス料理はワインをおいしくするんだなと改めて思いました。イタリア料理はそこまでソースに頼った料理ではないけれども、ちゃんと作ったらそれなりにワインと自然に相性が出てくる。そうじゃない料理はまた違う次元になっていて、日本料理にワインを合わせていくことと似ているのかなと思います。「ちょっとワイン合わへんな」という料理に日本酒を合わせてみたら、わりとおいしかったりする。そういうことに次のヒントがあるような気がしました。

門上 じつはワインのペアリング以外にも、日本料理では清酒のペアリングとか、ティ・ペアリングが出てきたり、相性についてのチャレンジはいろんな場面に出てきています。、今日とは違うアプローチがあることは、現実の料理界で起こっていることです。関西食文化研究会はいろんなことをやっていきたいと思いますので、アンケートには要望など積極的に書いてください。どこかで実現させたいと思います。よろしくお願いします。ということで次の20回目もハードルを高くして頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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