Program 1:プレゼンテーション+試飲食 [中国料理]
講師紹介
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「合鴨の燻製と湯葉の湖南風揚げ」
「紅茶+カルピスの滴(しずく)」

樋口 先の二組に比べて、私と吉岡先生は普段から接点がないんです。しかし、それでも合わせてきました。今日の料理は北京ダック的な食べ方を連想していただいて、甘味噌が入っていたり、スパイスがあったりという料理です。甘辛いソースと巻いて食べるもの、何が浮かびますか。焼き肉を甘味噌つけてサンチュで包んで食べますね。スパイスの香りがいっぱいする食べもの、カレーもそうですね。そういうのを頭に浮かべて飲み物を考えました。今日はスープもあるそうです。合わせ方を変えないといけないなと考えたのが、紅茶とカルピスの滴です。氷がないと滴が溶けていますが、おいしいはずです。
吉岡 今日は合鴨の燻製です。中国各地には鴨を使った有名な料理があります。まずは、それをご紹介します。
●北京ダック:北京を中心とした北の地方の料理で、風船のように膨らませた皮に飴を塗って釜で焼いたもの。皮だけをどれだけおいしく食べるかを考えて生まれた料理で、17世紀にはすでに皮だけをおいしく食べるための特別な飼育法が考案されていました。焼く時に普通ではおいしくない。火力の強い木で焼く。香りがよくなる燻製の効果も考えてナツメなどの木がよく使われました。焼けた皮を小麦粉で作った薄いクレープで包み、甘い味噌と葱を挟んでいただく。北京は13世紀から3つの王朝が都をおいた場所です。高い食文化の中で北京ダックが生まれた。焼けた皮はパリッとし、分厚くて上質の脂肪がのっている。残念ながら肉を食べる料理ではありません。
●広東ダック:次は南。「食は広州に在り」の広州や香港。ほとんどのものをおいしく食べる地方です。裏返すと、どんなものでもおいしく食べる高い調理技術をもった地方だと、中国の中でも認識されています。北と南は違う。広東ダックは肉付きがいい。肉の中には適度な脂肪がある。お尻を切り開いて内臓を抜き、洗ったお腹の中に塩、砂糖、香味野菜、香辛料、蒸留酒をたっぷり入れる。皮には北京ダックと同じような飴を塗って、乾かして釜で焼きます。広東の人たちは皮だけではなく、肉も、家鴨一羽を丸ごとおいしく食ってやろう、そういう気概が感じられます。ぶつ切りにして皿にのせ、少し甘い醤油たれをかけていただきます。
●四川ダック:西は麻婆豆腐で有名な四川省。小ぶりの鴨で、筋肉質のアスリートタイプ。噛めば噛むほど味が出る。内臓を抜いて塩、甘酒などを擦り込んで一晩おいて乾かしてから燻製にする。四川ダック「樟茶鴨」に樟の文字が入っています。楠、樟脳の香りがし防虫効果がある。楠の葉、オガ屑とジャスミン茶の葉を入れる。3時間くらいじっくり蒸してから揚げます。いただく時は燻製の香りとタンパク質の焦げたような肉のうま味が出てくる。ベーコンのようなものを想像していただくといい。湖南省を行くと、洗濯物といっしょに塩づけの家鴨とか魚、腸詰めとかがぶらさがっている。久しぶりに新鮮な驚きでした。食べ物は現地の生活と結びついたものなのです。有名な鴨料理は東西南北にありますが東のダックは割愛します。



今日の合鴨は大阪の家鴨です。中国からは鳥インフルエンザ以降、家鴨が入ってこない。値は高いですが大阪にはおいしい家鴨がいて、それで燻製の料理を作ります。北京ダックのように皮に飴を塗ってパリッと焼き、広東ダックのように肉に味を入れ、四川ダックのように燻製の香りをつける。今日は全部合わせた贅沢極まりない料理をやってみようと思っています。内臓が丸々入っています。北京ダックのように首に切れ目を入れて食道と気管を切り離し、肉と皮の間に空気を入れる。風船のように皮が膨らみます。次に内臓を出す。広東ダックのようにお尻を切り開いて内臓を出すと空気が抜けるので、右の脇の下を切ってそこから心臓やレバーを芋づる式に引っ張り出していきます。これが内臓です。専門店では内臓も煮込んだり、揚げたり、手羽先も料理します。内臓を出した後で中をきれいに洗って、味を入れて肉をおいしく食べようという訳です。皮を膨らませているので味を擦り込ませることができない。また、お腹を切って中に味を入れるのは不可能なので、漬け込む方法を選択します。調味料は塩と砂糖と香味野菜と香辛料、紅茶も入れます。6日間漬け込みますが3日目に液を替えて、漬け戻します(以下、漬け込み液や調味料など詳しくは配布レシピ参照)。液体に漬けるので、皮と肉の間の空気を入れているところに水が入ると焼いてもパリッとしませんから、水が入らないように切ったところを縛って漬け込みをします。皮に飴をかける前の燻製は台湾の方法を採用しました。凍頂烏龍茶、砂糖、押し麦、それらを1対1対1に混ぜ合わせたものを鍋の底において燻製にかけます。煙で炙ってから首に引っかけをつけて飴をつけます。北京ダックの飴は水と麦芽糖です。今日は酢500gに80gの麦芽糖の割合でします。麦芽糖、酢によってメイラード反応とカラメル化反応が起こる。ガストリックは高温では存在しないかもしれませんが、酢を入れて、ということが中国人の中のどこかにあったのかもしれない。酢を使うと水よりはるかに香りが出るし食感も軽い。飴をかけて一晩乾かして焼きます。オーブンで45℃・30分焼いて乾燥させます。表面が乾くと今度は115℃で1時間焼きます。取り出して1時間置きます。肉にはほぼ火が通ってロゼに近い状態になっています。沢山焼くときはここまでが仕込みです。今日は朝から冷蔵庫から出して180℃で30分焼きます。中国人は基本的には火を通したものしか食べませんが、今日はロゼにしたい。ということで合鴨は終わりです。
湯葉の湖南風揚げ。豚のあばら肉の皮をカリッと直火焼きした食感を湯葉で作ります。湯葉は重曹を入れたぬるま湯をくぐらせると歯切れがよくなります。水分をよく切って広げた湯葉に、干し海老、中華ハム、葱のみじん切りを混ぜ合わせて中に入れ、半分に折って150℃で揚げます。衣は小麦粉と卵と水と塩。衣に塩が入らないとおいしくなりません。表面が固まれば取り出し、165℃で入れ、温度を上げながらカリッと二度揚げします。
ご存じの小麦粉生地を焼いたクレープは水分がほとんどないので蒸してもすぐに冷めて固くなる。沢山の皆さんに熱々のクレープを出す勇気がないので中国北方のものをアレンジして作ります。小麦粉、卵、青葱のみじん切りをサラダ油で作った葱油で炒めたもの。これらを全部混ぜ合わせて45ccで1枚焼いていきます。中国では中華鍋で焼きますがクレープパンが簡単できれいに焼けます。冷めても硬くならない。冷凍されるなら少しトレハロースを入れていただいて。ということでクレープが焼けました。
甘味噌。今日は沢山の調味料が入っています。小麦粉をベースにした甘酸っぱい味噌。広東省の味噌。紅麹で発酵させた赤い豆腐。蒸留酒と味噌を混ぜ合わせて練り直したものなど。甘いだけではなく、フルーティさと酸味をアレンジして組み合わせました。邪魔にならない程度につけて召し上がってください。
中国では北京ダックの皮を食べた後、残る骨からとったスープをお飲みいただいてフルコースになります。今日は鴨のスープに、杏の仁、乾燥ナツメなどを入れて香りをつけて用意しました。中に具材は入っていませんが、召し上がってください。ということで、北京ダック、広東ダック、四川ダックのいいところを合わせた料理にチャレンジをしてみました。

樋口 皆さんが焼き肉のような甘辛いものを食べて、おいしいなと飲むのはマッコリ。辛いカレーとかスパイス料理なら、ラッシー、乳酸飲料。それは相性がいいからです。スパイスがきいた時、乳酸をほしいと感じる。今回、僕の場合は中国料理で、いろんな要素がのっている。乳酸飲料だけでいくとつまらない。なにか切るものがほしい。中国茶の他でもっといいのがないかと考えました。半発酵茶である中国茶やウーロン茶よりも、完全発酵している紅茶が、香り立ちと酸化熟成させた調味料との相性が面白いのではないか。イメージしたのがアイスティーです。それにカルピスの原液を垂らす。氷が入って、少しの乳酸と紅茶と、飲んでみると両方の味がしっかり感じられて紅茶のタンニンが脂分を切る。香りも立って、中華の香りとも合う。乳酸が甘辛味の辛味と合うのは、マッコリやラッシーのような味覚の記憶がないとおいしく感じない。それに、今回はスープがあります。だし的な料理に合わせる時は、ピノ・ノワール。香りとうま味、両方ある赤い飲み物、しかし酸味をもったもの。ということで、紅茶に乳酸が入ったものがそれに匹敵するかなと思いました。両方ともに合わせられるかなという発想です。今日、気づいたんですが、グラスの上が透明になる。タンパク吸着で中が澄んでくる。味が変わるかなと思うと意外に変わらない。これも面白い視覚で、赤っぽい乳酸から透明になってくるとお遊びとしていいのではないかと思いました。
吉岡 ソフトドリンクのご紹介がありましたが、樋口さんとは厳しいバトルもありました。冗談です。中国料理でもドリンクと合わせてやさしく味わえないかなと。同じラインで寄り添ったものが手をつないで歩いているという組み合わせで。提案していただいたのは、合いやすいドリンクだと感じます。料理を食べる時、甘いのは苦手なので、それほど甘くないのがいいですね。ほどよいところで合わせていただいたと思います。
樋口 マリアージュはいろんな考え方があると思いますが、料理を口に入れた瞬間「今やで」と「いっしょに食べて」という感覚で考える。違う味を感じてもらう。僕は、そういうやり方を維持しています。

会場の会員 樋口さんが言われたように、相性を考えて咀嚼する時に意識するものがあって、食事が口に入った時の相性もあると思うので、どこのタイミングで合わせるかですね。料理のコースに対して飲み物を合わせる時、飲み物単体で考えて、甘さをできる限り使わずというのも考えられると思いました。
樋口 確かに、甘味は悩みますね。店でもア・ラ・カルトに合わせて用意しておいたのが、お客様の選び方に合わせ、後半の料理が違うと前半に合わせるワインの構成を変えることもあります。その中でワインの甘さ感、アルコールの強さは、前後関係で変えた方がわかりやすい場合がある。今日の場合、近藤さんのジンジャーエール、植田さんのお茶は、甘さ感を気にして軽快にしておられた。特に甘さは注意しないといけないなと思います。


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