Program 2:ディスカッション [科学の視点から]
講師紹介

復習も兼ねて話します。相性の問題がなぜこんなに難しいのか。とくに飲み物といっしょに考えると何が問題になるか。そこに人が入るからです。おいしさには人の好みも関わりますから。相性は「料理」と「飲み物」と「人」を一体で考えないといけないところで、よりファクターが多くなって難しくなる。料理人はある程度のストライグゾーンの中に培ってきた技術を使って料理を作っていく。品質と完成度をできるだけ高めても、おいしさはお客さんの好みで判断する。例えば、燻製の香りが強すぎるとか低く感じるとか、そこにも好みが入ってくる。後は、お客さんに任せるしか考えようがないのです。
今回のノンアルコールですが、提案したいのは、「感覚情報に基づいたフレーバーデザイン(Sensory-oriented flavor design)」です。ワインの場合、ブルゴーニュの料理にはその土地で造られたワインが合う、というように食文化に基づいた相性がいえる。ただ、ノンアルコールカクテルでオリジナルなものを作る場合、今回はそれに関係なく、あくまで料理人とソムリエの感覚に基づいたフレーバーデザインができるはずだと。その結果が今日の料理と飲み物です。
前回までに提案した、相性を科学的に考えて分類してみるとどうなるか、を復習します。「washウォッシュ」というのは洗い流す。洗い流すことができるのはアルコール。タンニンは唾液の感覚に結びついて脂を洗い流すことができる。炭酸は単体で脂分を流すことができる。酸は感覚を弱めるだけで、洗い流したかのように感じる。「bad flavorバットフレーバー」は脂質、酸化物の悪い臭いが口の中に発生する。白ワインと魚介類の相性については、たまたま鉄分が多い造り方をしたために白ワインの鉄分が魚介類の脂質を酸化させて口の中で悪い臭いが発生してバッドフレーバーになる。注目しているのは「newニュー」、これができればいいなと。2種類の香りを合わせることで単独では得られない風味を出す。単体でありえないものが2つ合わさって素晴らしいものになるのが重要です。「shareシェア」は、ソムリエの世界では重要視されている考え方で、同じような香りをもつものを合わせる。「dominantドミナント」は、飲み物と料理のどっちかの強度や時間が長すぎると、どっちかが勝ってしまう。「相性がいい」ということではなく、料理の味、ワインの味になってしまう。最後は互いに強めたり、弱めたりする「weak/strong」。ということで分類してみました。

もう一つはルールの想定です。「complexity複雑さ」は、単純な料理より複雑性がある方がいい。いくつかの風味や味がある短時間の中で変わっていく。「ヘテロ感」と言い換えてもいいかもしれない。「harmonyハーモニー」は、いろんな味、香りを感じるといっても、一体感がないとだめだということ。「balanceバランス」はドミナントが偏っていない状態です。
以上のような相性の要素とルールを分けて考えた時、我々が今、議論しているのはどのことをいっているかが明確になる。「相性がいい、悪い」と「うまい、まずい」では、議論は深まらない。それで分類してみたわけです。相性がいい、悪いというのは価値判断。「バットフレーバー」は相性が悪い。「ドミナント」も相性が悪いとしてもいいかな。「ウォッシュ」をすると相性がいい。「シェア」は相性がいいとは限らない。同じ匂いがするからおいしいというわけではない。「シェアかつバランス」が、いい時もある。「バランス」にさらに「ニュー」があると素晴らしい状態になるのではないか、ということを料理人とソムリエの間で議論する。
そもそもアルコールは何か。なぜ料理にワインが必要なのか。水にも油脂にも馴染む。そこが決定的な部分です。ブドウを発酵させることによってあれだけいろんな香りがするのはアルコールが多くの成分を溶かす性質があるからです。香り成分も味成分も溶かす性質がある。香り成分は油脂に溶けることが多く、味成分は水に溶ける。水も脂も溶かすのは香りも味も溶かすということです。さらに、揮発性があることで香り成分がアルコールといっしょに鼻に到達しやすい。アルコールがないと揮発性が押さえられる。お茶は温めたら違う質になって、より香りを感じただろうという可能性もある。揮発性がなければ、コントロールする必要がある。また、アルコールはある程度の甘味がある。甘味神経を刺激するのです。

それを踏まえて、ノンアルコールで相性をよくする関係を見つけるにはどうすればいいか。皆さんに考えていただきたいと。「相性要素を成分に落としこんでドリンクを再構築するとどうでしょうか?」と提案したわけです。
*図1:相性要素を成分に落としこんでドリンクを再構築することはできないか?
「ウォッシュ」は水、硬水の方が効果は高いかもしれない。「酸」には酢とか柑橘とかヨーグルトの乳酸を使う。炭酸水の泡が油脂を除去する。タンニン、茶葉、渋柿の渋は料理には使えない。「シェア」は料理の風味と似た食材を合わせる。燻製要素とかメイラード反応が料理には多いからドリンクでも「シェア」させる。「バランス」は料理の風味や強さ、長さのバランスのために濃度をどうコントロールするか。ここが重要で、バランスをとるためにどちらかを強めたり、弱めたりしないといけない。濃度をコントロールする。質を合わせるだけだと不十分な場合がある。強すぎたということなら弱めれば合っていたかもしれない。「ニュー」は料理を組み合わせて新しいものを感じさせるような食材。雲を掴むような話で、いろいろ試してやるしかない。ルールはありません。

そこで、繊維質を取り除くという方向を定めて考えてみます。
*図2:いろんな液体を濾過してみる
料理は個体で、ソースは液体です。口腔内滞在時間の長さが違う。山根シェフがされたように泡を含ませることでソースが口の中で長く続く。それに対して液体はどうあるべきかと考えた時に山口シェフが合わせたのは固形分のあるもので飲み物を合わせる。料理を邪魔しないように取り除いた方がいいかもしれないが、もしかするとあってもいいかもしれない。料理とドリンクが1対1でないと全部に合わせることは難しいかもしれない。ヨーグルトの乳清には乳酸の酸味がある。甘味はブドウ糖や麦芽糖とか、使い分けることができる。濾過の方法もいろいろあります。コーヒーは濾過の究極の形です。エスプレッソとか。アイスフィルトレーションは、凍らせてポタポタ落とす方法。そういうことをして香りを保つ。こうして作ったものを混ぜたり、ハーブやスパイスをアンフュゼすることもできます。

相性のフレーバーデザインを料理から発想して「ウォッシュ」なのか「シェア」なのか「ニュー」なのか。それによって「ドミナント」させるのかどうか。野菜ジュースを使うとかフルーツジュース、ハーブ、スパイス、だしとか、いろんなものを使って複雑にするのか、逆にシンプルにするのかという「ハーモニー」を考える。
*図3:Non-alcohol 相性のフレーバーデザイン
これをデッサンして共有することができるのではないか。感覚情報は目に見えませんから、料理人とソムリエが図を描くことで、こういうふうに合わせようと考えることによって、図示して感覚情報に基づいたフレーバーデザインができるのではないかということを考えました。
*図4:フレーバーデッサンで図示してイメージを共有


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