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「料理と温度の関係」Program 2:温度をテーマにした料理実演と講評+試食 [フランス料理]

「料理と温度の関係」Program 2:温度をテーマにした料理実演と講評+試食 [フランス料理]

Program 2:温度をテーマにした料理実演と講評+試食 [フランス料理]

講師紹介

山口 浩氏
「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長
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「オニオンパウダーを纏う牛ロース肉の低温調理 ガストロパックのフォワグラカナールと凝縮トマト」

57℃で約7時間加熱した牛ロース。それには、ソテー後長時間乾燥させてパウダーにした玉ネギを纏わせる、これまでにないステーキの提案。鴨のフォワグラは、減圧加熱調理器ガストロパックによる調理。今回は低温調理によって、従来の料理を再構築し新たな食感とともに提示し、料理と温度の関係をあらためて考えさせられる山口さん流の見事なプレゼンテーションでした。

今日の料理は、タンパク質の熱による変化、コラーゲンの熱による変化を微妙に現在の調理技術、テクニックで完成させたものです。食の安全に関して、ある程度の器材が揃っていて衛生概念をしっかりもっておかないと真似ができないものもありますので、そこも踏まえて見ていただけたら、と思います。

使うのは霜降りの結構いい牛ロース肉です。これをリソレして焼くことはしません。その逆から作っていく料理です。この肉はトリミングしたものです。表面が汚染されていないのが前提です。ミルポワ野菜(香味野菜)で肉に香りを付けたいと思います。ミルポワは、ニンジン、玉ネギ、セロリ、ポワロー葱。今日は牛ロースから出てくる脂、ヘッドでミルポワ野菜を炒めていきます。このあたりがデザインになるかと思いますが、この野菜を香ばしい色を付けながら甘味を出していくと湯がくよりもおいしい。多くの人が「おいしい」というでしょう。そういうふうにするのか、しないのかは料理人のスタイル、考え方だと思うんです。ボイルはしませんが、通常のデミグラスソースを作る時のようにしっかり色付けをするのも一つの方法です。フランス料理は調味料をもちませんので鍋の中で調味料を作っていきます。土鍋は熱伝導がいいので120℃を超えた時に化学変化が加速度的にスピードアップされていく。低温で長時間おいておくものを短時間で速く、ソースや醤油に代わるものをここで作っていきます。ミルポワのソテーしたものと肉を真空パックに入れて、少し味がほしいので、ほんの少し塩をします。塩をした方がいいのか否か、まだ結論は出ていません。炒めていったん冷やします。これから真空にかけるので、冷やすのは熱いものを入れると沸いてしまうからです。

肉は57℃で7時間、火を入れていきます。タンパク質の離水温度まではいかないけれど、57℃はエビデンスもとりましたが、新鮮な肉はイノシン酸が高い。死後硬直するとイノシン酸はどんどん減っていく。肉のもつ酵素の働きでタンパク質が分解され、アミノ酸に変わって、うま味成分に変わっていきますが、それはグルタミン酸、イノシン酸が合わさっただけではない。苦味があり、甘味の強いものがある。57℃で7時間加熱することによって酵素の働きが常温よりも活性化する。そうすると何が起こるか。熟成肉のような状態になる。時間換算すると1週間か10日、温度を利用することがうまくできれば時間を短縮することができるのです。あるいは低温で長時間やっていくという逆のこともあります。今日はうちのホテルで火を入れてきたものですが、大きめの肉を用意しました。ホテルとか、レストランによっては7時間加熱したものを急速に冷蔵させて保管できます。オーダーが入って65℃まで温度を上げることによってもとの同じ状態にできる。冷蔵庫で1週間保管しても引き続き酵素が働いている。酵素の働きによって冷蔵庫に入れていてもずっとおいしいのです。

グルタミン酸がどんどん増えてきた牛肉、生のような肉を召し上がるのは、ジェットコースターを安全ベルトしていない状態で乗るようなもので楽しいとは思うんですが。少し安全にというのが、タマネギの衣です。タマネギをじっくりソテーしてフードプロセッサーにかけ、ピューレ状にしたもの。これをペーパーで薄く伸ばし、57℃で12時間乾燥させました。温度を上げすぎると色が付きすぎるので、できあがりの色はこれくらいにしたい。乾燥機に入れて乾燥させるとシート状になります。パリパリのシート状で、付け合わせに使っても面白くて、おいしい。「玉ネギですよ」というと喜ばれます。それをフードプロセッサーにかけます。肉の焼き色を違うやり方で変化をつけることもあります。ヘタのところを細かく刻んでしっかり色付けして肉のそばに添える。色付いた肉を食べる。そうすることで味の変化を楽しむこともあってもいいのかなと思います。茸のパウダー、野菜のパウダー、ベーコンを乾燥させたパウダーなども作ります。それを魚にでも付け合わせとしてソースの感覚で、いろんなバリエーションのかたちで使っています。

昔のフランス料理、ポトフ、ブイヤベース、ブフ・ブルギニヨンなどと今の料理とでは何が違うのか。今のお客さんが何を求めているかを考えると、昔はブフ・ブルギニヨンにしても一口めに召し上がった印象と最後に召し上がった印象はそんなに変わらないはずです。食感や味が変わることはないからです。今は情報がたくさんある中で、同じ味が続くことは望まれない。では、起承転結とかリズム感を出すためにどうするか。ある料理を分解して再構築する時、普通はもとの形にするんですけど、あえてそうしないで、お客さんに食べ方を任せる。そういう方法もあり得るのかなと思います。

プチトマト、これは結構おいしいですよ。湯むきにして並べます。コンベクションオーブンにまず130℃で45分加熱した後、95℃にして1時間ほど。トマトの半乾燥です。熱伝導は温度を最初に上げる方が95℃でずっと加熱するより時間短縮できます。しかし、130℃でやってしまうといろんな化学反応の加速がつくので温度を下げる。こういうフォルムです。

鴨のフォアグラの塊です。大きな塊と小さいのがくっついたものを外します。血管の太いところは切り取る。大きいのを3等分、小さいのを2等分にして減圧加熱調理器ガストロバックに入れます。キャラメルとリキュールを入れます。フォアグラは冷蔵庫で固まっていますが、30℃に温めることによって柔らかくなります。湯煎して使うこともできるし、直接火を入れることもできる。つないで減圧していく。ほぼ真空に近い状態になる。この中にマリネ液を入れてフォアグラを入れて減圧するとどうなるか。フォアグラがもつ血が表に抜け出して血抜きができます。その後、中心温度が48℃になるまで加熱する。48℃でも50℃でもいいんですが、いろんなもので試すと48℃が一番よかった。データの数字をみると45~50℃がいいという印象をもっています。分子レベルで細胞が潰れていないが、火が入っている状態。今まで食べたフォアグラの食感ではないと思います。フォアグラとしての固体がしっかりしている。肉を噛む時、食感の違いを感じてください。筋繊維の塊、細いものが束になり、それがまた束になるんですが、57℃でコラーゲンは分解しないとされていますが、完全に分解しないだけでコラーゲンに作用は及んでいます。噛んだ時の食感がサクッと入ります。生肉で食べると筋繊維がコラーゲンで束になっていますから歯で引きちぎる。こちらは57℃で7時間加熱でコラーゲンが変性し始めている。噛んだ時の食感がサク、サク、サクと。見た目のフォルムとロゼの違いがあることと、もう一つ、低温長時間調理に関しても通常の焼き色のように少しグラデーションをつけようかと。均等になるおいしさもありますが、火の通りが違うおいしさもある。最初に入れる温度と順番に温度を下げていくことによってコンベクションオーブンとか温度管理をしながら使う調理器具を使ってもグラデーションはできます。逆にこの状態で開けるとお客さんのオーダーが通ります。肉の時は前菜に魚料理を食べられます。その間に温度を上げておきます。肉のオーダーの時にやらないといけないのは、水分をとってステーキのようにリソレする、焼き色をつける。そうするとお客さんに出す時間のタイミングを測りやすい。今はシェフのデザイン力がどんどん高く求められていますが、焼きのテクニックは機械が全部してくれるのですね。

肉を切る時、生の肉を切る包丁の感覚と全く違います。ロゼに仕上がっていますが、感覚はどうでしたか。サクサクとしていませんでしたか。仕上げに付け合わせをします。フォアグラは切った時に圧力の関係で血は完全に抜けていますが、血管が抜けたわけではない。この状態で血管を抜きます。今までのフランス料理の感覚では「生のフォアグラが出たのかな」と思うでしょう。しかし、生ではない。火が通っています。乾燥トマトを添えます。あとはサラダを盛りまして、これで今日の料理はできあがったんですけど、今までのステーキの概念と比べてどうですか。ちゃんとしたステーキの方がおいしそうですかね。それをどういうふうに違う形で表現するか、この方がおいしいと思われる方がたくさんいればビジネスは成り立つでしょうが、今までのステーキの方がおいしいとなると、店は潰れてしまいます。これで僕のデモンストレーションを終わります。

「オニオンパウダーを纏う牛ロース肉の低温調理 ガストロパックのフォワグラカナールと凝縮トマト」

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