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「料理と温度の関係 Part2」Program 1:基調講演 1/2

「料理と温度の関係 Part2」Program 1:基調講演 1/2

Program 1:基調講演:「料理人のための<料理と温度>のサイエンスとデザイン part2」 1/2

講師紹介

川崎 寛也氏
農学博士

■「おいしさ」のデザイン&「温度」のデザイン

「料理」はどうやって作るのか<参照:表1>。おいしい料理というのを作り上げていくには、技術や科学だけではだめでそれらをどのように組み合わせていくか。意図をもってコントロールすることが大事なのですね。「成分と構造」の成分は味とか香り、風味。食感とは食品のミクロな構造を口の中で壊すときの感覚なので、ここでは構造、とします。「感覚」はどう感じさせるか。成分と構造でどうやって作り、どう感じさせるか。つまり、最終的にどうデザインするかを考える必要がある。料理人の仕事はこの「デザイン」だと思います。料理はhowだけではなくwhat、何を作るべきか考えてデザインすることなのです。

表1:「おいしさ」のデザイン

「温度」もこの切り口で語れます<参照:表2>。どんな温度でどうやって作り上げるかが「調理の温度」。どういうふうに香りがたっていくか、味が抽出されていくかが「成分と構造を作る温度」。お客さんにどんな温度で感じさせるかが「温度の感覚」。それらをどうデザインしていくかが大事なのです。食材は一回でも変化したら戻らない。肉を焼いた後、いくら温度を下げても生の肉には戻りません。不可逆なのです。食材の変化は不可逆であることからも、今回の「温度のデザイン」の重要性がわかっていただけると思います。

表2:「温度」のデザイン

■温度と調理技術

まず、常温の話から。肉を焼く時、「常温に戻してから焼く」と表現されます。常温とは何℃か。何℃が肉にとっての常温か。そんなの誰が決めたのでしょうか。料理を知らない人は「常温に戻す」という意味はわからない。でも料理をしていると、何となくわかるような気がする。しかし、「常温になった」ことはないんです、一回も。牛が生きていた時は体温はだいたい38℃。その38℃で殺され、肉はいきなり0~4℃に下げられて厨房にきます。冷蔵庫も4℃。だから、「常温に戻す」のではなく、「常温に温度を上げている」んですね。焼くのを60℃としたら、0℃から60℃にするよりも20℃から60℃にしたら40℃上げることで済むという話です。この考えを理解すると、食材が今何℃で、どの温度にしたらいいかという表現になるはずです。温度を上げる、下げるというイメージをもっていただきたいと思います。

そこで、調理の温度に関して4つの要素(「素材」「加熱媒体」「温度」「時間」)で話します。ミクロとマクロ、両方の視点が必要ですが、まずマクロです。温度のマクロから。今ある調理技術を「温度」と「加熱媒体」の軸でざっくり分けたらこんな感じになります<参照:表3>。赤外線で温度を上げていくのが「ブロイル」。炭火焼きはこのくらいの温度で加熱媒体は赤外線になります。加熱媒体が水蒸気だったら「蒸す」。水とか調味液だったら「煮込む」。油脂を加熱媒体にするとこのくらいの温度。金属が加熱媒体だったらどうか。オーブンなら、これくらいの空気が加熱媒体になる。フランス料理のコンフィは油で80~100℃前後で加熱して保存食を作ることでしたが、現在は拡大解釈して油で低温加熱することになっている。また最近は、加熱水蒸気がある。水が加熱媒体で、100℃までしか上がらないけれど、気体になった瞬間に水蒸気になる。それで加熱されると焼ける。水という分子が食材にくっついて温度を上げる状態になります。温度は上げるだけではなく下げる、冷やすこともできる。氷は温度を下げるのに使います。ドライアイスは-78℃で冷やす。設備があれば液体窒素による-196℃での調理も可能になりました。フランス料理を中心に最近重要なのが低温調理です。発明された時は真空調理といわれましたが、真空が重要なのではない。低温で加熱するので、パックに空気が入っていると断熱されるため、できるだけ空気を取り除いて、パックと食材をくっつけて表面から温度を伝えていって仕上げる。空気がちょっとでも入っていると時間がかかるんです。だから、ない方がいいということです。これが低温調理です。

表3:温度と調理技術(ざっくり)

減圧で加熱することもみておきます。まず、一般的な沸騰は100℃で1気圧の水です。その時、水は液体から気体へ変化する端境にある。温度を上げていくと気体になる。それが沸騰です。1気圧で100℃を超えた時に気体になる。圧力鍋では、温度が上がると圧力も上がってくる。120℃くらいになると一気に加熱反応が進みます。コラーゲンのゼラチン化も速く起こります。肉が早く柔らかくなる。減圧で加熱する機械、ガストロバックはその逆です。気圧が低いと液体が気体になる。水が水蒸気になるのが60℃で起こる。食材の中にある水分が外に出ようとするのが沸騰です。しかし、温度が低くて出ようとするから、温度が低いけれど火が通ったかのようになる。野菜に使えば、加熱すると色が飛ぶのに、ガストロバックだと60℃で野菜が青々としたまま火が通るという独特の反応が起こる。パリッとした独特の食感になる。ガストロバックは発明されて10年くらいですから、これから新しい調理を見いだしていくことと思います。東京の『龍吟』さんは、肉を火入れして圧をかけたり抜いたりしてだんだん調味料を入れることをされています。

■加熱温度の選択

加熱調理は「素材」×「加熱媒体」×「温度」×「時間」。どれにどういうものを選ぶかの掛け算です。たとえば、肉を焼くステーキ。料理人のみなさんにとっては「ロゼに焼け」といえば簡単に焼ける。例えば200℃で8分、オーブンで焼くと表面が変化する。タンパク質が変化して60℃を超えて水を失ってどんどん上がっていくと、メイラード反応で香ばしい匂いがする。200℃で8分焼くと表面が変化し、熱が中まで通っていく。温度勾配ができる。これが伝統的な肉の火入れ、焼き方です。つまり、昔の料理人は真ん中をロゼにしたい。できるだけロゼの面積、体積を広げるためにいろんな工夫がされてきました。先輩の誰のいうことを聞いたらいいのかと思うくらい、いろんなやり方があった。なぜ難しかったか。オーブンの温度が200℃を超えていたからです。200℃の温度で中を60℃にするのは難しい話ですが、それをされてきた。「オーブンに入れては出し、出しては入れ」をしてきたという人もいます。それでもいいのです。温度を上げて下げればゆっくり温度は伝わっていきますから。60℃で120分より、入れては出しの方が早い。オーブンに出し入れをすると早いのはなぜか。温度は水の流れと同じなんです。水の流れは差があればあるほどエネルギー差が大きい。熱も同じで、エネルギーが大きいほど早く伝わりますから温度差が大きいほど早く伝わる。温度が60℃のオーブンと200℃のオーブンだと200℃のオーブンの方が早く伝わる。200℃のオーブンに入れてちょっと出すと早く伝わって落ち着く。出し入れの方が60℃で加熱するより中心温度が60℃になるのです。ただし、タンパク質の変性はゆっくり時間をかけて60℃に上げるのと、10分で60℃に上げるのとでは同じではない。変性の程度が変わってくるようです。

そういうことを考えていくと「加熱時間」と「素材の中心温度」が重要になります。表4は、違う切り口で調理技術をみたものです<参照:表4>。横軸は「加熱時間」、縦軸は「中心温度」。加熱時間は対数で、1分、10分、100分、1000分と区切っています。低温長時間の低温で6時間加熱は、今ならスチコンがあればできます。低温超長時間の場合。昔、ソースデミグラスを作るのに3日かける、100℃の温度で72時間かけていた。それを低温60℃でやったらどうなるか。試してみる価値はあると思います。

表4:加熱時間と素材の中心温度(イメージ)

「素材」×「加熱媒体」×「温度」×「時間」。そのなかで、肉の加熱温度の選択に必要な判断をどうやって選んでいくか。●表面にメイラード反応を起こしたいかどうか。メイラード反応は茶色く変化して香ばしい匂いが出てくる。それを起こしたいか、起こしたくないかを誰が決めるかという目安。勝手になるのではない、料理人が決めるのです。●離水をどの程度させるか。お客さんの口の中で初めて肉汁が出るようにしたいのか、皿で切った瞬間に出したいのか。どっちの温度が高いと思いますか。切った時に肉汁が出るのはタンパク質から水が出てきてしまっている状態ですから、そっちの温度が高い。お客さんの口の中で初めて肉汁を感じるのはもうちょっと温度が低めです。その温度帯を見つければ口の中で肉汁が出てきます。1℃単位で状態が変わってくる技術で難しいですが、試してみる価値はあると思います。●筋繊維同士を離したいかどうか。一つは肉のロゼの柔らかさ、もう一つは加熱を徹底的にして、筋繊維同士がコラーゲンでくっついているのを離す温度帯。少なくとも90℃で90分以上。それをドンドン続けていくことをしたいかどうか。というように、「素材」「加熱媒体」「温度」「時間」を選んでいけます。

■加熱の原理

熱の種類は次の2つ。高温の物体に接触させる。電磁波を照射する。もう1つ高周波電圧をかけるやり方もありますが、厨房では難しい。高温の物体も固体なのか液体なのかで伝わり方が違う。「伝導熱」は固体から固体に熱が伝わるもの。「対流熱」は液体や気体などの流体から固体へ熱が伝わる場合。伝導熱は運動エネルギーの玉突きです。下から熱がきた時、鉄板が温まり、鉄板の熱が上に伝わる。対流熱は下からの熱が流体や液体に伝わって、それが対流することによって熱が素材に伝わる。中国料理では揚げ物をする時に油を混ぜるのは効率のいいやり方で、お玉でかき回して強制的に対流を起こしているのです。

電磁波は、赤外線とマイクロ波です。「赤外線」は輻射熱。「マイクロ波」は電子レンジ。離れたところから熱いものを近づけると熱が伝わります。赤外線の輻射熱には2つあって、近赤外線と遠赤外線がある。炭火は「遠」赤外線だから遠くまで伝わると思われるのは誤解で、遠赤外線は表面1~2ミリで吸収されるが、温度が高い。つまり表面だけが加熱されます。その後は中を伝わっていくので直接加熱されない。表面だけがパリッと焼けて、中はロゼがやりやすいというのが遠赤外線です。

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