Program 3:ディスカッション 1/3
講師紹介



出演者にコアメンバーが加わり、さらに料理と温度の関係について討議していただきました。進行:門上 武司
参加コアメンバー:山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長)、山根 大助氏(「ポンテベッキオ」オーナーシェフ)、吉岡 勝美氏(辻調理師専門学校中国料理技術顧問)
門上 高橋さんには開発中のガス調理機器も披露していただきましたが、お話に加えることがありましたら、どうぞ。
高橋 炭火焼の研究には、炭がない時とか、これから炭が枯渇して制約が起こった場合に備え、代替の技術を探る意味もあります。大局的には、今あるのとは違う調理器具ができたらいいなと思っています。それで、ガスとIHの技術を融合させて炭火焼にどのように近づけていくかを考えてきましたが、炭火焼以上のものができる可能性も出てきました。新しい味をつくることが私の仕事で、そのきっかけになればいいと思っています。加熱方式では、今は850℃まで上げられましたが、素材の全方位を850℃の熱をあてることは炭火でも不可能なので、そういうこともできないかと考えています。空気の流れを強制的に変えてどのように回していくか、想像できないような焼き上がりができる可能性もあるのです。そこに新しい「おいしさ」が存在するはずで、そういう考え方を止めてはいけないという思いで話をいたしました。
門上 川崎先生の話された「メカニズムを知る」ことにつながっていくのですね。
川崎 新しいことを発明するってほんと難しい。ほとんどの場合、古いものと古いものの間とか、融合とか、古いものの一部を違う形に変えていくとかに留まっている。アプローチとしては、ミクロとマクロ両方に考えることが大事で、メカニズムを知ると違うことができる可能性は高まります。炭がなくなった時どうするかというアプローチは、さすがですね。持続可能性の考えにもつながります。何かがなくなる、絶滅することもありうると思いますが、そうなってからでは遅い。「なくなったから次のものでええやん」となると、技術はどんどん落ちていくわけです。技術を発明する時は、技術のことしか頭にないので技術論になりがちですが、まず目標は「これがおいしい」というところから考えていくことは料理人の皆さんにしかできません。道野さんがいう哲学、僕はデザインといいましたが、まずは哲学、デザインなんですね。それで何をつくるべきかの考えを上げていかないと、新しい物事は発明されません。
門上 山口さんは、あべのハルカスで『エ・オ』という新しいスタイルのレストランを始めておられます。新しい調理機器も駆使しながらですが、今日の高橋さんのアプローチをどう感じられましたか。
山口 自分の料理の哲学として、生命維持のために食べることから楽しさに方向転換しようと思ったのが『エ・オ』なんです。その中で低温調理とかいろいろと料理の可能性を探りながら、ガストロバックとか遠心分離機とか新しい器具を使ったりして料理をつくっていますが、気になったのはロゼにあたる60℃での長時間加熱、あれは温度がちょっと高いですよね。
川崎 実際には56℃~58℃だと思います。
山口 60℃で焼くとロゼにならないというか。肉の柔らかさは、コラーゲンを柔らかくすることで筋繊維を柔らかくする。そういう感覚になりますよね。
川崎 低温の方の問題ですね。固くなる原因がコラーゲンのシュリンク(収縮)として、コラーゲンを柔らかくする温度は45℃から始まります。それが行き過ぎてコラーゲンがゼラチン化するのはまた別の話。煮込みの柔らかさか、ステーキの柔らかさか、分けて考えると、ステーキの柔らかさについては、筋繊維の問題とコラーゲンの問題は分けて考えたい。難しいのは、筋肉には両方入っていることです。両方入っているのに違う温度で動くから、それをうまくみていかないといけなくなるのです。
山口 58℃になる手前で8時間くらい調理していくとコラーゲンが潰れる。肉は筋繊維がコラーゲンで固まってその連続性の中での話なので、食べられた方がどう感じられるかです。歯の入り方にしても、「ロゼは引きちぎる」ようになるが、低温で長時間調理すると見た目はロゼなんですが、「歯にさくさくという感覚がある」となる。研究とか科学的なアプローチの中でつくりあげたものでも、お客さんの食べる側の反応を聞くことによってまた新しい世界ができていくんやなと。復習にもなったように感じます。
門上 山根さんも高橋さんにいろいろ突っ込みところがあったようですが。
山根 炭火焼を30年以上やっていますが、どうやったら上手に焼けるか、ずっと考えています。炭を使っている人のほとんどが「香りを出したい」と思っている。炭に香りはなくて、炭に落ちた油、肉汁、魚の汁が焼けて煙となって燻されている状態、燻香なんですね。でも本来的には燻香りは嫌われるものなんです。煙ができるだけ出ないようにしても、素材をおいしく感じる程度の燻香はいやでもついてしまう。そこで、火が出ないように考えて器具をつくりました。炭は囲ってやって小さい面積で開口部分を絞り込む。と、その方向に熱が出ますが、炭というのは光に近い熱なんだなと思いました。遠赤とかいわれますが、まさに光なんです。ということは、鏡で反射させたり、形状を少しひねってやると、炭のないところに熱を移動させて焼くことができる。上から熱を反射させたり、オーブンのように真ん中に集めて焼いたりとか、そんなことをずっとやっています。
今日の高橋さんの料理は、塩焼きがすごくうまく焼けていると思いました。ふっくらとなってカチッと固まってパサつき感は全く感じなかった。炭火のいいところを表していて、理論的にも代替品になるくらいの方向性、可能性を感じました。僕も炭火をずっと使いたいと思っています。「最適調理やから炭を使わないとあかんやろ」と。炭火のいいところを研究して、誰もが炭火焼のようなおいしい焼き方ができるメカニズムを突き詰め、新しい器具をつくることはかなり意義があるなと感じました。
門上 道野さんの料理は、口の中で温度の変化とともに味を感じていくものでした。高橋さんのアプローチにはどう感じられましたか。
門上 料理はなかなか言語化しにくいところがあって、関西食文化研究会ではいくつか、そのヒントになったり、言語化していくことに対して有効な手段をつくってきたと思います。
道野 申し訳ないけど、僕は炭火焼には興味がないんです。というか、今62歳でして、自分には炭火焼にこだわっている時間がない。それよりも、炭火焼は、フランス料理の体系の中でフランス料理らしさを出しにくいんです。焼けた状態が一番おいしい。それならそのまま食べた方がいいし、ソース不要となります。「ソースなしで出してくれ」とよくいわれますが、だったら「ヨソへいってくれ」です。だって、ソースを一生懸命勉強してきましたから。ああだこうだと40年もやってきたのに「ソースなし」といわれたら、全人格否定されたようなものじゃないですか。炭火焼の料理を食べるとおいしいなと思いますけど、フランス料理に主軸をおくと「焼き上がったそのまま」というのはどうもやりにくい。一つくらいコースの中にあってもいいでしょうが。
低温長時間調理という課題もありましたけど、そうなるとコースのメインが限定される。長い時間かけてその日のために用意するとなると、メインをいくつもつくれない。お客さんにとっては選ぶ楽しみがなくなる。僕としてはそれは避けたい。だから、うちのオーブンは90℃。コースが始まってからメインを出すまでの間に丁度いい火加減になるんですね。全部ロゼになる必要はないと思っています。周りがカリカリに焼けたところも食べたらいいやん。
火は発明されたのではなく、発見したもの。山火事が起こった後、焼け焦げたものがあって食ってみたら意外といけた。そういうのが人間の中の奥深いところに眠っているとすれば、焼焦げもあってよいと思うのです。低温調理は随分とやりましたけと、今は逆に、180℃で調理することをまたやり始めています。うちのオーブンは90℃と200℃、それを使い分けています。そういう意味で、深く掘り下げているジャンルもあってもよいと思うのです。食材の意外な組み合わせとか、デザートをつくるやり方で料理するとか、魚料理するやり方で肉料理やってみたりの方が、僕個人としては楽しいかな。白熱した議論に水を差すようなことをいいますけど、そういう広い視野に立っていろんなものを取捨選択する楽しさもあっていいのではないかと思います。




