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「料理と温度の関係 Part3」Program 1:プレゼンテーション+試食 [中国料理]

「料理と温度の関係 Part3」Program 1:プレゼンテーション+試食 [中国料理]

Program 1:プレゼンテーション+試食 [中国料理]

講師紹介

吉岡 勝美氏
「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問
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「海老とクルミの辛味炒め広東スタイル」

料理と温度といえば、中国料理は炒めもの、カッコよく鍋を振る姿を想像されることが多いと思います。わかりやすい中国料理ということで今日は「炒めもの」をテーマに「料理と温度の関係」をみなさんといっしょに検証していきたいと思います。

中国の「炒」炒めるという用語の中にはたくさんの技法がありますが、その基本になっているのは加熱方法です。生の材料を炒める「生炒」、なめらかな仕上りの炒めもの「滑炒」、焦げて炒めると書く「焦炒」など、いろいろな炒め方があります。炒めることを意味する言葉には「爆」もあります。「炒」と「爆」の違い。「爆」は「炒」よりはるかに強い火力で短時間で調理します。基本的には塩味「塩爆」です。北方の代表的な炒めもの、最初にこの塩爆をご覧いただきます。

用意した材料は、豚の胃袋、ガツです。調味料は中国の黒酢、普通の酢、白粒コショウ、塩、砂糖、紹興酒と、臭みを外す調理料が入っています。さっとボイルして材料の癖をとります。油をくぐらせます。あとは、一気に。ということで、できました(場内大拍手)。今日のプレゼンテーションはこれで終わったようなものです。

中国には56の民族がいますが、人口約13億の92%が漢民族です。残りが少数民族。私たちが中国を語る時はほとんどが漢民族の歴史、文化になります。漢民族が文化を起こして北方の遊牧民族、モンゴルとか女真族、満州族が攻めてくる。秦の始皇帝が万里の長城をつくって阻もうとしたが、元、清朝の時代は遊牧民族が中国を統一した。彼らは羊やアヒル、その内臓を食べるので食材の癖を和らげる調理法を生み出した。サッとボイルして油をくぐらせ、臭みをとっていく。仕上げは高温で一気に熱を加え、デンプンを加えずに仕上げる。デンプンを加えると中に癖がこもるからです。征服者が残した異民族の味、技法が先にご覧いただいた調理法です。今日の本来のプレゼンテーションは、北方料理ではなく、南方や東方の、海に面した新鮮な魚介類の豊富な地方の炒めものです。いかに食材のうま味を中に残して仕上げるかが料理のテーマになります。

「炒」炒める加熱方法について先に説明します。生の肉に下味を一切入れず、高温の鍋で直に炒めながら調味料を少しずつ入れていきます。肉の表面はどんどん水分が飛んで香ばしくなる。水分が飛んだところに醤油、砂糖、酒、酢がしみ込んで料理ができあがる「干炒」。湯がいた豚肉の大きな固まりを薄切りにする。皮つきの豚肉は固くて炒めものには向かないが、下加熱することで炒めることが可能となる「熟炒」。回鍋肉(ホイコーロー)とかがそうです。牛肉を切り、調味料とデンプンで材料のうま味が外に流出しないように下味を入れる。なおかつそれを油通しで加熱するとデンプンの糊化によってなめらかな食感となる。お碗にあわせた混合調味料で炒めて仕上げる「滑炒」。油通しは時間調整をするものですが、そうすることで野菜と肉を最後に同じ時間炒めておいしくなる設定になる。日本でも中国でも炒めもので最も多く用いられている技法です。液体を炒める場合は、生クリームにコーンスターチとか調味料を入れて炒めます。やわらかいスフレのような食感になります。この中にカニ肉を入れたり、ツバメの巣を入れたりしてつくられるデリケートな技法は「軟炒」です。中国でも日本でも同じですが、3割はつくり方、7割は火の通し方が料理を決める「三分做 七分火功」といわれます。どこにおいても調理は加熱が重要な役割を担っています。

では、今日のプレゼンテーション「海老とクルミの辛み炒め広東スタイル」です。下味のついた海老です。薄い調味料と片栗粉のひかえめの下味。食感を損なわず海老を楽しむための下味です。海老の殻にニンニクとタマネギと生姜を入れて油でゆっくりと炒めます。海老の香りを抽出して料理に使います。炒めものには海老と銀杏を使いますが、ミルクの寄せものも炒めます。材料はスープ、バター、生クリーム、牛乳、コーンスターチ、片栗粉、塩、砂糖。バター以外をボールであわせて、バターを溶かした鍋に入れます。コーンスターチと片栗粉が入っているので、熱すると糊化して粘りが出てきます。それを取り出して冷まして。これを1.5cm角に切って料理にあわせます。

クルミは砂糖と水を入れて煮詰めていきます。糖液は115℃くらいから煮詰まった状態で粘りが出てくる。さらに進めていくと糸を引くような状態になる。114℃くらいだと空気を入れながら糖液を冷ますと砂糖に戻ります。日本に「りんかけ」というお菓子がある。同じ糖液を温度を違えることによって二つの状態にできる。今回は糸を引くような飴でクルミの飴絡めをつくります。クルミをボイルして水と砂糖で炊いていきます。600gの水と100gの砂糖を煮詰めていくと糖液の温度が上がってとろみが出てきます。箸で持ち上げて細い糸を引くようになれば油で揚げます。油の中に水飴が入ってクルミの水分が飛んで。シロップは100℃を超えると次第に蔗糖の濃度が高くなってシロップの温度が上昇してくる。130℃くらいでグラスを割るくらいのパリンとしたものになります。160℃を超えると蔗糖が分解して不規則な結合をしてカラメル状になる。飴が固まらないうちに炒りゴマをまぶして、クルミの飴絡めができます。これを炒めものに入れようと考えています。

今日の主材料は海老、副材料は銀杏だけです。薬味はネギ、生姜、ニンニク、香辛料は唐辛子。「朝天椒」チャオテンジャオという四川省の辛味の柔らかな唐辛子を使います。調味料は豆板醤とスイートチリソースという甘い唐辛子のペーストです。うま味、辛味、香りとコクの組み合わせ。「温度」としては、海老は温かい、銀杏も温かい。「食感」としては、海老はプリン、銀杏はネチッとなる。「色」は、海老は白黒、銀杏は若草色。ネギは翡翠色。唐辛子を炒めると真紅になる。この料理をつくる時、どうデザインできるかを検討しました。足りないものは何か。うま味の中で足りないのは、まろやかさ。温度でいうと温かいものはあるが、熱いものがない。食感ではサクッ、パリッとしたものが存在しない。色からいくと黒いものがない。それで、ミルクを入れてまろやかさを出す。デンプンが糊化したミルクは冷めにくい。これが唯一の熱い食材になります。色はベージュ。クルミは香りがよくなって食べた時にカリッとする。色はブラウンです。

ミルクは白玉粉の衣で揚げて炒める。白玉粉はもち米の粉ですから揚げると、かき餅のような香りがする。小麦粉と違い、サクッとなる。「脆(ツェイ)」というのは春巻きを食べる時の食感を中国人が表した言葉です。クルミは飴を絡めてどこまで渋みをつけるか。砂糖のままで止めるとか、ドンドン濃くして苦味を加えるのか。今日は苦味を足そうとクルミの渋皮を剥かないで用意しました。それと、色は黒。ピカッと光る光沢を料理の中に入れたい。「おいしさのデザイン」をしました。

海老は下味が終わりました。ミルクもできてナッツもできました。ミルクを揚げて調理の工程に入っていきます。海老に下味をつけたが銀杏にはまだ味は入っていません。最後に同じ調味料で炒めても海老がおいしくなるように設定していますが、銀杏はまだなっていない。ピーマンを入れても同じ。野菜にも下味を入れる。個別に下味と加熱をすることで最後に同じ鍋で個々の食材が最高の状態になることを目指しています。固い野菜は高温の油でくぐらせて味の入ったスープで炊くと表面に皺が入ってタクアンを噛むような食感になります。柔らかいアスパラなどはそのままで十分柔らかい。野菜に応じて揚げる温度も変わってきます。温度を操ることで私なりに「おいしさのデザイン」をつくっていきます。

ミルクの寄せもの。白玉粉でつくった衣を下揚げして準備に入ります。白玉粉は小麦粉と違い、粘りが強いのでベーキングパウダーを入れていますが、高い温度で揚げないとくっつく。高い温度で一気に揚げて表面を固めてしまう。衣をつけて揚げないとミルクを炒めることは不可能。衣に少しでも穴があいていると高温になるとデンプンが糊化したものが、もう一度柔らかくなって油の中に出てきます。一気に高温で表面を固めて炒めると、外はサクッ、中のクリームがなめらかな舌触りで口の中で他の食材と一体になることを目指します。コーンスターチのもつ粘度がキーになっています。一度揚げた衣は萎むと揚げ直しても膨らまない。完全に表面を固めてしまいます。ミルクは揚がりました。これで食材の準備はできました。

仕上げの工程です。今日の調味料は、シーズニングソースという薄い色の塩分の強い醤油。スイートチリソースという甘辛い調味料。豆板醤、塩と砂糖、水と片栗粉、スープ、紹興酒です。では、実際に料理をつくっていきます。海老を油の中に入れます。50℃です。普通は120℃で油通ししますが、タンパク質の変性で固くなります。そのまま寸胴鍋に返します。この中は50℃です。表面の泡の状態で温度を見ます。そのまま銀杏の油通しをする。スープで味を入れていきます。生姜の絞り汁を酒で割ったもので臭みをとる。油を入れることにより沸点が上がって冷めにくくなる。カップに出しておくと自然に熱が入っていく。その間に他の仕事をします。揚げたミルクを温める。カリカリになるまで揚げます。海老は50℃で、ある程度火が通っています。オイルバスは温度の勾配がないので全体が同じ温度になっている。高温の油の中に入れて一気に表面の香ばしさを出す。こうすることで海老の香りとハリのある食感が生まれる。唐辛子をゆっくりと(鍋で)炒めていく。ニンニクと唐辛子はゆっくり炒めると香りがいい。気長にゆっくり、赤黒くなるくらいまで炒めて取り出す。鍋の油の中にニンニクを入れる。ネギを入れる。調味料の豆板醤、スイートチリソース、軽く炒めている間に仕上げの調味料をあわせます。銀杏の水気を切る。海老を(鍋に)戻す。銀杏も戻す。あわせた仕上げの調味料を入れていく。ジュージューと音がするくらい鍋は熱い。炒めた唐辛子、クルミ、ラー油、ゴマ油。さらに強火で料理を熱くして。最後に揚げたミルクを絡めます。

ということで炒めものが出来上がりました。中国料理の炒め物は簡単なように見えますが、細かな工夫が入っています。炒めものは液体が少ないほど香りはいいが、冷めやすい。今日は冬のさなか、料理を3階でつくって1階へ降りてくる。この環境や設備で、160名の料理を同じようにつくることはできません。大量のものをどうやったら熱くつくれるか。そこにデザインが必要になります。料理をつくるだけのデザインではありません。私としてはみなさんにご試食いただく時、「温かいと感じていただきたい。熱いという人がいたら最高」と思っていました。今日の料理が「温かい」という声はありがたいですね。たくさんのみなさんに料理を出すにあたり、日ごろと違うデザインをしたわけです。液体は冷めにくいのでミルクは熱かったと思います。「熱い」と錯覚させるものは二つ。ミルクを食べると他のものも熱いと錯覚する。もう一つは唐辛子。麻婆豆腐とか担々麺を食べると熱い。唐辛子は基本的に熱くないが、人間の口の中にカプサイシンが入ると体温37℃の口腔温がそれ以上と錯覚して汗をかく。「ミルク」と「辛い料理」の選択が、最後のデザインでした。ということでプレゼンテーションを終わらせていただきます。

「海老とクルミの辛味炒め広東スタイル」

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