Program 2:スタディ 1/2
講師紹介
料理人のための料理の分解と再構築

今回はいろんな観点から話します。関西食文化研究会はこれまで様々なテーマでやってきました。「原理」「調理技術」「素材」「感覚」と分類できますが、本日はこれらをどう使うか、という「発想」について考えていきます。
私は「料理とはデザインしていくこと」そのデザインのツールとして科学を使いましょうと述べてきました。科学はあくまでツールなのです。「科学的な料理」というと、科学技術を使えば科学的な料理になると思っている人が多い。例えば、アルギン酸を使って球体をつくりますとか、温度を管理して低温調理でおいしく肉を焼きますとか。けれど、これでは科学技術を使っているだけです。料理人にとってより重要なのは「科学的な考え方」です。考えがないと科学技術を正しく使えないのです。
■科学的な考え方
- 一つめは「体系的」であること。フランス料理は科学的だという基盤には、エスコフィエのまとめた著書『料理の手引き(原題 Le guide culinaire )』があると思います。その本の中では、フランス料理がフォンから始まり、ソースができ、それがどう発展していくか体系づけられており、読めばわかる。それが科学的だととらえられます。
- そして「再現性」。何度も同じことができるのは科学にとって重要です。料理人にとっても毎回同じ味が出せることは重要です。
- そして「客観性」。サイエンスでは実験して論文を書いて、客観的に正しいかどうかを確認していく。料理人にとっても客観性は大事で、自分が「うまい」と思っているものを出すだけではだめです。お客さんが客観的に「この料理は美味しい」と評価することで決まる。
- 最後が「実証」。料理人は言葉だけでお客さんを呼べません。モノを通して考えていくと同時にモノで実証しないとだめ。
以上が科学的な考え方です。どうですか、料理人のみなさんにも必要だと思いませんか。科学者はこういうように考えるトレーニングを受けていますが、料理人もこういう考え方、とらえ方が大事だと思います。こういうベースがあって初めて科学的な技術を正しく使えるのではないかと思っています。
■美味しさとは何か
美味しさとは「好み×完成度」だと思います。ある物質を使ったから美味しくなるという魔法の粉はありません。「好み」と「完成度」、料理人は両方を理解することが重要で、完成度が高くてもお客さんの好みにあわないものを出したらお金はもらえない。完成度が低くても、家庭料理は好みさえ合えばちゃんと美味しいといってくれるわけです。ピッツア職人とか点心師は完成度を高めたものを提供できる人ですが、料理人は両方を考えて、お客さんの好みに合わせ、完成度も高いものを提供するのが重要ではないかと思っています。こうした話を重点的にしていきます。
■本質的に新しい料理を考える
料理人はHOWから入ることが多い。「どうやってつくるか」ということですね。しかし、重要なのは、その前にWHAT「何をつくるか」。それに今回、初めていいますが、WHY「なぜつくるか」も大事だと思うのです。この話は議論するのは難しいと思いますが、例えば、日本人なのになぜフランス料理をするのか。永遠の課題ですよね。このWHY「なぜつくるか」があって、初めてWHATになる。どうやってつくるかが考えられる。つまり、料理人はWHY、なぜというところにこだわって考えないといけない。一つの皿をとってみても、なぜこの料理をつくるのかを深く考えていこうという話です。
■「おいしさ」のデザイン(表:1)
HOW・WHAT・WHYの関係性とデザインについてです。どうやってつくるかの「調理」では料理の中の「成分と構造」を考える。「成分」は口と鼻で味わう味覚、嗅覚として、「構造」は食感となって感じる。けれど「デザイン志向」は後ろから考えます。つまり、お客さんにどう感じさせたいのか、その感じさせることに対して、どういう成分と構造が必要で、どうやってその食品の中に入れていくのかという「HOW」を考える。このように逆に考えることも料理を発想する上で重要なのです。今回、東さんとは事前に話し合いました。まず考えてほしいのは「ピッツアのどこに感動したか」と問いかけました。ピッツアの歴史とか、いろんな人が完成度を高めてきたことに対して中国料理の東さんが、どこに感動するか。東さんが思うピッツアの素晴らしいところを挙げてもらいました。すると「生地」という言葉が出てきたのです。ピッツアの生地は美味しい。焦げた匂い、粉の感じ、食感、その上にしっとりした具材を乗せる。ピッツアの生地をどう感じるかというところから発想することも可能ではないかと思います。
現在発売中のデザイン雑誌『AXIS』(2017年10月号・特集「新しいおいしさ」)では、私と「木乃婦」の高橋さんとの対談が掲載されています。デザインは「意図をもってコントロールする」という意味もありますが、意図をもって何かをコントロールしていくところを料理の中で考えていくことができないかなと、どんどん料理人に投げかけているんです。参考にしてください。

■クリエイティビティの段階(表:2)
本題に入ります。新しい料理をどうやって発想していくか。こういうSTEPで考えてみます。「創造性」をどこで発揮するか、段階ごとに。「STEP1」は調理法全体で考える。調理法そのものを変えてみたり、温度や時間を変えてみる。ピッツアだったら、窯を変えたり焼く温度を変えてみる、粉の配合を変えてみたりする。「STEP2」は食材を変えてみる。ある調理法を他の食材で試す。それはジャンルを越えてもいい。ピッツアのように窯で焼くものを他の食材で試す。ピッツアの生地ではなく、魚を焼いたらどうなるんだろうとか。調理法は同じで、他の食材を試してみる。そうすると新しい料理ができます。今日のメインが「STEP3」、調理法の分解と再構築です。調理法そのものを分解して再構築する。分解するのは誰でもできますが、再構築に料理人の知恵が試されます。最後が「STEP4」の素材に向き合う。一体何を表現したいのか、何を生かしたいのか、ここにWHY「なぜつくるか」もかかわってくる。実践的には「STEP3」が要だと思います。

■加熱調理法を他の素材でやってみる(表:3)
「STEP2」の概念だけ話しますと、この(表:3)は重要なもので、この考え方をもっていれば新しい料理が可能です。横軸が食材。縦軸は調理法で、加熱方法に熟成や発酵も入れていい。その他、塩漬け、酢漬け、昆布締めを成分移行とすればこういう配置表ができます。縦軸と横軸が交わるところの欄を埋めていく。例えば、牛肉を液体加熱するとブレゼになる。牛肉の液体加熱の中にブレゼ以外に違いはあるが、焼き物くらいの違いはない。そういう発想をしていき、空欄を埋められる方法が見つかれば、それは全く新しい調理法になるはずです。この表を拡大すると、もっと空欄が見つかるかもしれない。そこを埋められると全く新しい調理方法が発明できてしまう。試しにそういうことをやってみるのもいいかなというのが「STEP2」の発想方法です。

■料理の分解と再構築(表:4)
「STEP3」の分解と再構築について。既存の料理を分解して、ひとまず抽象化する。それを変換することによって新しい料理ができる。分解は二つあり、「素材の分解」と「調理の分解」。「素材の分解」は、素材がもっているいろんな情報、香り成分、味成分、食感などに分解する。例えば鶏のだしなら、鶏から香り成分と味成分を分解して水に溶かしているというようなことが素材の分解です。「調理の分解」は、調理工程を分解して、例えばステーキなら、肉を焼くと何が起こっているかを分解する。そうして分解したのを「再構築」するとき、4つの段階が考えられます。鍋の中で肉と骨を分けて素材の分解をし、それぞれ別の調理をするのではなく、鍋の中へもう一度入れて再加熱するのは「鍋の中での再構築」。分けたものを別々に加熱して、一つの皿に混ぜて置くのは「皿の上での再構築」。一つの皿に別々に置いて盛りつけても、お客さんは同時にしか味わえないから「舌の上での再構築」になります。「頭の中での再構築」も可能かもしれません。バーチャルな潮風を聴きながら食べてもらう、そういうことも考えられます。「頭の中での再構築」は高度で、茶懐石などにはこういう考えがあるのかなと思います。


