Program 2:スタディ 2/2
講師紹介
料理人のための料理の分解と再構築

■調理技術の分解と再構築の価値(表:5)
「調理技術の分解」に関しては科学的なことが見えてきます。「調理」を「素材×加熱媒体×温度×時間」と分けて、それぞれを考えていくのです。鴨のソースのついた料理の場合。プリミティブな料理では骨付き鴨の胸身をグリエするだけです。この骨付き肉のグリエも美味しいですが、胸身と骨を分けるとどうなるか。胸身はグリエして、骨からはジュをとって、ソースとして肉に合わせる。これがフランス料理の考え方です。フランス料理には「分解と再構築」が究極的に進んでいるものがある。どちらがいいかではなく、分けてソースをつくるところで価値が出てくる、ということだと思います。

■分解→抽象化→変換で料理は発展する(表:6)
「分解と再構築」によって料理の発展があるといっていいと思います。ステーキを焼く調理を、工程を分解しながら検証してみます。セジールは表面を焼くことですが、本質的にはメイラード反応を起こすことです。ルポゼは休ませることですが、休ませるという表現は科学的ではない。科学でいうと伝導熱のことです。表面の高い温度をゆっくり内部に伝えていく。その伝導熱によって芯温度を58℃くらいにしていくのがルポゼ。次に、そうして分解した抽象化を変換してみます。メイラード反応を表面に起こすなら温度は何℃がいいかという発想になる。前ではなく、後でもいいのかなという発想にもなる。伝導熱だったら低温加熱でもいいじゃないか。250℃の中で焼くから難しいのであって、温度が50℃だったら絶対に肉は50℃以上にならない。50℃にしておけば中心部分はロゼです。それを後で表面を焼くと、いわゆるSous Vide(低温加熱、真空調理)になります。「何故そういう発想になったのか」。こういうふうに分解したからだと思っています。

■プラットフォームとしての要件
今回、ピッツアをどうとらえるか。「プラットフォーム」という考えです。パソコンだったらWindowsなのかappleなのか、基本的なOS(オペレーションシステム)が、プラットフォームです。料理においてはメニューですが、いろんな人がいじりやすい状態になっていることが大事だと思います。ピッツアを「プラットフォーム」として考えると、ピッツアのすごさがわかってきます。まず「美味しい」。そして、粉の生地の上に何か乗っているように「ルールが明確」。また、下の生地と上の具が分けられるように「分解しやすい」。分けることによって発想が広がるし、創造性も刺激される。考えやすいことは重要です。そういうことがプラットフォームとしての要件があると思っています。
■Pizzaを分解する(表:7)
ピッツアを分解します。単純にいうと「生地」と「トッピング」です。それぞれ創造性が刺激されますが、トッピングに着目して変える発想もあるだろうし、生地そのものを変える発想もある。小麦粉なのか、ソバ粉なのか、焼いた生湯葉なのか、米粉なのかとか。発展の仕方、創造性をいっしょに考えるのではなく、別々に考えると発想しやすい、それがピッツアだと思います。

■「フレーバーデッサン」をやってみる(表:8)
ピッツアの素晴らしさに生地があります。生地はあまり味のついていない物体です。その上に何らかの味のついたものを乗せている。それを口の中に入れる。上と下の関係は何にかかわるか。提案したいのは「フレーバーデッサン」という考え方です。例えば、サイコロステーキの表面は満遍なくメイラード反応が起こっていて、それを口に入れるとどうなるか。横軸が時間で、味とか香りをこんな順番で感じていく。表面の香ばしい部分からだんだん中にいって最後は味がなくなるという感じ方になるはずです。四角いサイコロステーキだったら、そうです。仮に、全面ではなく上だけメイラード反応が起こっていたら、下だけだったら、ソースが下についていたら、上に乗せていたらと考えると、全部味わい方が違うはずです。ソースが下にあってメイラード反応が上にある場合は、最初ソースを舌に感じて、その後、肉のメイラード反応を感じる。ソースが上だったら、まず肉の味がする。だんだんソースと混じっていき最後に肉の味で終わる。それぞれ全く違うのではないかと想像がつく。

■pizzaをデザインする(表:9)
ピッツアはどうでしょうか。生地だけだとします。下は焦げの部分がある。生地だけだと香ばしい香りがして、だんだん小麦の香りがして生地のうま味も出てくる。

■pizzaの盛りつけと感じ方をデザインする(表:10)
これをベースに考えて、上にトマトを乗せたらどうか。ピッツアの生地が下で上がソースです。香ばしい香りがしてトマトの風味がして最後にこの粉の香りがする。トマトを乗せてモッツァレラがあってバジリコがあると複雑なものになる。そういう盛りつけと感じ方のデッサンを共有することは、チームでつくる時に重要ではないかと思われます。盛りつけだけを指示すると、最終的な感じ方がずれる可能性があると思います。もう一つは、ピッツアの美味しいところはシンプルな部分。いっぱいモノが乗っていても味わいがシンプルで無駄がない。単純に要素を減らすことが重要ではなく、役割があるということです。

料理は「機能美」が重要です。「機能美」とは「無駄のない、簡潔な美しさ」。入っている要素すべてに機能がある。イタリア料理だろうが、フランス料理だろうが、日本料理だろうが、同じです。無駄がないものしか皿に乗せない。こういうことも意識しながらデッサンすると、料理人の本能として「これ美味しそうだから乗せたい」となりがちですが、それを止めて「お客さんの口の中で意味があるものか」と、デッサンを描くことによって判定できるはずなのです。今回、日本料理が大変だったと思います。ピッツアを考える時、ピッツアの感動がありますが、それを日本料理で感じさせるにはどうしたらいいか。鮎の塩焼の焦げた部分とピッツアを石窯で焼いた底の焦げは同じくらい美味しいと思う、そこから発想してみるとか。発想とはそういう意味です。「味わいから、感動から」発想していくことができれば素晴らしい。
脳科学的に記憶は2種類しかないんです。一つは「意味記憶」。もう一つは「エピソード記憶」です。意味記憶は言葉によるもの。空は空、肉は肉という。エピソード記憶は、時間や場所、感情の記憶がいっしょになる。お客さんはその記憶をもとに「あのレストランにもう一回行こう」となる。そのレストランの価値はエピソードにある。それがWHY「なぜつくるか」」につながっていく。
今回、いろんな話をしました。こういう研究会の重要なところは、点の部分が線でつながることだと思います。科学的なことはつなげられるし、科学的な考え方もつなげられるのです。いろんな知識がどんどん入ってきたら、落ち着いてつないでみる。すると、自分なりの解釈ができる。そういうことが新しい料理をつくる上で大事ではないかと思っているわけです。

