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料理の発想ワークショップ part3 7つのキーワードから発想する「麻婆と豆腐」の再構築Program 1:プレゼンテーション+試食 [中国料理]

料理の発想ワークショップ part3 7つのキーワードから発想する「麻婆と豆腐」の再構築Program 1:プレゼンテーション+試食 [中国料理]

Program 1:プレゼンテーション+試食 [中国料理]

講師紹介

吉岡 勝美氏
「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問
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「麻婆豆腐」

発想のもとになる7つのキーワード
麻(花椒のピリッとした味)・辣(唐辛子の辛さ)・鮮(うまみ)・香(香ばしさ)・
酥(もろい歯ざわり)・嫩(口当たりのやわらかさ)・燙(火傷しそうな熱さ)

「麻(マー)」、花椒(ホアジャオ)のしびれる感覚。四川の魂は豆瓣醤と言われることが多いが四川の魂は花椒だと思います。
「辣」は唐辛子の辛さ。唐辛子を使って豆瓣醤や辣油、粉唐辛子が作られる。また加工されたもので辣を楽しむ。
「鮮」はうま味。牛肉、豆腐のうま味。炒めた時のうま味、醤油を焦がしたうまみ、味噌のうま味など。すべての食材、加熱工程から出ている。
「香」は香り。豆瓣醤、豆豉、牛肉を炒めた香りや辣油。油の中に中国料理は香りを移すのが得意。
「酥(スー)」、牛肉の表面のカリカリしたパイ生地のような食感を表したもの。牛肉の外はサクッ、中は柔らかくないといけないルールがあります。歯触りです。料理の中に入れるか上から振る、四川省でも二つの方法がとられています。
「嫩(ノン)」、豆腐の柔らかさ。
「燙(タン)」、火傷しそうなくらい熱い。油が熱くするのではなく、油によって熱せられた豆腐の水分、ソースが料理を熱くしている。
唐辛子の辛味はすぐ消えますが、花椒の辛味は口の中から消えない。最後まで麻と辣が鮮烈に残ります。

「麻婆豆腐」は日本の寿司と同じくらい世界ではたくさんの方に愛されている料理です。麻婆とはあばたのある奥さん。麻婆豆腐は、その麻婆がつくった豆腐料理ですが、味のキーワードは「麻」と「辣」。麻の花椒は四川の特産です。ピリピリして、日本の山椒とは違い、花椒は刺激が強くしびれる。辣は唐辛子(辣椒)の辣、「二荊条」という辛みが適当で香りが良い特殊な唐辛子です。豆瓣醤はその唐辛子とそら豆で作るが唐辛子は夏、そら豆は春に収穫します。そのためにそら豆は乾燥したものが使われます。日本の豆瓣醤は赤いのですが、四川省成都の郫県豆瓣醤は色が黒みを帯び、味噌本来の発酵した旨みの濃い味がします。唐辛子から豆瓣醤や辣油ができる。花椒と唐辛子が味のキーワードになって、この中に調味料が加わる。主材料は豆腐、牛肉、葉ニンニク、そこにスープ。では、つくりながら説明します。

中国で豆腐は紀元前2世紀頃につくられたといわれています。ただ唐から宋の頃にならないと豆腐の文献が見つからないので10世紀あたりではないかというのが定説です。北方でつくられる豆腐はニガリが中心で固い。内陸部の四川省や南の広東では澄まし粉、石膏でつくられるから柔らかい。グルコン酸でつくられるものが多いのですが、今日はニガリと澄まし粉を合わせた豆腐で料理をつくります。昔は石膏が入っていたので癖をやわらげるために湯がきました。もう一つは煮込み時間を短くするためです。今日は湯がくときに塩を入れています。湯がいている間に、他の仕事をします。

日本では豚肉を使いますが、中国では牛肉(黄牛)です。役牛といって働いてお役ご免になった牛が食用になる。四川省は海がないので地下から塩水を汲み上げて塩をつくる。塩水を地下から汲み上げる仕事をしていた牛です。安い食材です。

キーワードを7つ挙げておきました。牛肉を炒めた時のサクサクする食感を表す言葉が酥(スー)。パイ生地であればフイユタージュをかみ砕いた時のもろさ。春巻の皮を食べる時の食感は「脆(ツェイ)」、同じもろさでもニュアンスが違う。

炒めるときの調味料です。豆瓣醤は炒めやすいように水と老酒で伸ばしています。二荊条という唐辛子を粉にしたもの。辣油は2種類。一つは漉した透明な紅いもの、もう一つは粉唐辛子入りの紅黒い辣油です。紅黒い辣油には醤油と老酒が入っていて香ばしい。辣油は粉唐辛子に油を加えてつくりますがここにコップに入った2つの辣油があります。同じように見えますがこれは粉唐辛子に常温の油を加えた辣油。そしてこちらは100℃に熱した油を加えた辣油です。常温の辣油は粉唐辛子の生っぽい香りと油の中に甘みを感じます。100℃に熱した辣油は常温では感じなかった香ばしさが加わっています。

油の温度が上がりましたので牛肉を揚げていきます。通常は炒めますが火力が弱いレンジでは豚肉よりも水分の多い牛肉を酥にはできません。湯がいている豆腐はさわると弾力が増したのがわかります。普通の豆腐は落としたら壊れますが、壊れないくらいの弾力となる。鍋に透明な辣油を入れ、そこに郫県豆瓣醤を入れます。粉唐辛子も入れます。低温の油でゆっくり炒めて辛味と色を引き出すのが基本です。辣油の中に豆瓣醤と粉唐辛子が入った。どれだけ辛いかと想像されると思います。この中に豆豉という大豆を発酵させたもの、絞ると醤油になる、醤油のもとになるものを加えます。次に豆腐、調味料、老酒、スープが入ります。陳麻婆は牛の尾と豚肉などで取った濃厚なスープを使用していたようですが今日は豚骨とスペアリブ、アヒルなどで取った四川省で使われている濃湯を使いました。ラーメンなどに使うスープとは違い、ゼラチン質に富む濃厚なスープです。

醤油、塩を入れます。中国ではどんな料理も味の基本は塩です。醤油は補いで塩分がしっかり効いた料理になっています。煮込みといっても3分も煮込まない。煮込む間に挽き肉を炒めて醤油、老酒、生姜で味を入れていきます。肉の表面はサクッとして中は柔らかい。麻婆豆腐が出来上がって盛り付けた後で上から振ると酥の食感が味わえる。おそらく前もって炒めておいた牛肉を色々な料理に用いていたのでしょう。今も四川省では中に入れる店もあれば上から振る店もあります。

麻婆豆腐店ができたのは1862年といわれていますが、当時、麻婆豆腐の作り方は今とは違っていました。今日は辣油に豆瓣醤、粉唐辛子を入れましたが、当時は豆瓣醤を使わず、油の中に粉唐辛子を入れて炒めていた。豆瓣醤がなかったのかどうか、郫県豆瓣醤ができたのが嘉慶年間、乾隆帝の息子の時代といわれ1805年くらいでしょうか。麻婆豆腐店ができた頃には豆瓣醤は間違いなくあったと思います。麻婆豆腐は肉体労働者が自分の体にエネルギーを入れたいとの思惑から安い牛肉と豆腐でつくったのがきっかけでした。作り方も単純で高いと思われる食材は使っていない。中国に唐辛子が入ったのは明末、清初の1645年くらい。唐辛子が中国に入っても、どこでも育つわけではなく、誰でも好きになるわけではない。育つ環境がいる。揚子江の下流にあたる湖南省、上流の四川省、貴州あたりで唐辛子がたくさん栽培され食べられるようになっていった。ただし一般的に唐辛子が食べられるようになるにはそれから100年くらい、清の中頃まで待たなければならなかった。

鍋の中で味が馴染んできました。豆腐と牛肉を唐辛子と醤油、スープで煮込み、花椒を振りかけたシンプルな料理ですが至るところに隠されているテクニックが7つのキーワードを生み出す。麻婆豆腐がなぜ根強い人気があるのか。麻婆豆腐が好きな人、しびれる、辛い料理が好きな人はどんどん深みにはまっていく。麻婆豆腐の花椒と唐辛子に常習性はない。タバコ、酒のように中毒になることはないと言われている。麻婆豆腐の中に隠れている秘密です。麻婆豆腐がフカヒレとかアワビと並び称されるくらい世界に広がった大きな理由の一つでもあると思います。では、仕上げていきます。

葉ニンニクを入れます。水溶き片栗粉でとろみをつけていきます。デンプンでとろみのついた(糊化した)液体は冷めにくい。液体が60℃以上の温度を保てばデンプンの老化は起こりにくく、料理は熱く保たれる。豆腐の中に味は入っていません。水溶き片栗粉を少しずつ何度も入れながら熱することで豆腐のもっている余分な水分を外に出し、濃厚なソースを豆腐にしっかりとからめる。ゆっくり鍋を焼きながらとろみをつけていきます。柔らかい豆腐を壊さず形のまま仕上げるという8つ目のキーワードが隠されています。とろみがついた液体は焦げやすいので弱火にして。ここで辣油を入れます。少し赤黒い辣油が入ります。花椒でとった花椒油が入ります。仕上げに熱い油を入れてデンプンの糊化を強め、料理を熱くします。だれもが麻婆豆腐を食べると「熱い」と感じるがそれは油が熱いのではないのです。油は熱しやすく冷めやすい。水は熱しにくくて冷めにくい。比熱の関係です。豆腐の中の水分とデンプンの糊化した麻辣ソースが熱さの基本になっています。強い火力で熱くするのではなく、高温の油が水分を熱くしているのです。

麻婆豆腐が出来上がりました。仕上げに花椒の粉を振りかけて完成です。食べると、まずは塩味を感じる。次に「辛い」と感じ、その次にくるのが「熱い」、もう一つ「痛い」。この3つの感覚(刺激)が起こるのはそこに唐辛子が働いているからです。そして最後にくるのがしびれるです。日本には激辛料理を好むたくさんの人がいて唐辛子の辛味には耐えられる。しかし、花椒の辛さには耐えられない。四川省では唐辛子は約350年の歴史ですが、花椒は2000年以上の歴史があると言われています。中国人にとっての麻婆豆腐のキーは、麻の花椒です。以前に成都の厨房で花椒の油を無防備にスプーンにいっぱいいただいて喉がマヒして窒息するかと思いました。このまま死ぬのではないかと思うくらい、苦しい経験をしました。唐辛子は気にならないが、花椒はすごいのです。麻婆豆腐はどなたをターゲットにつくるかで随分と変わるから難しくもあり、また楽しい。玄人肌の方もいれば、入門編の方もおられる。学校でも麻婆豆腐をつくりますが、学生に教えるのはオーソドックスな品。オリジナルをどんどん入れれば、卒業する時、大変な世界が起こる。1950年代、陳建民さん、黄昌泉さんのお二人が日本に四川料理を広めた、二人は四川省の麻婆豆腐にアレンジを入れました。牛肉を豚肉に変え、甜麺醤(テンメンジャン)という甘い味噌を入れて日本人に食べやすくした。これが日本人の基本の麻婆豆腐です。今日は、あばたのある奥さんの麻婆豆腐に少し私のアレンジを加えました。この後で松尾シェフ、山口シェフのデモが始まりますが、いま試食を終えた皆さんの口はしびれて辛い感覚が残っていることでしょう。大丈夫、5分程経てばなくなっていると思いますが、安心するのはまだ早い「また麻婆豆腐を食べたい」という麻辣の呪縛はすでに始まっています。

「麻婆豆腐」

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