Program 3:ディスカッション 1/2
講師紹介

・出演者:吉岡 勝美氏(「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問)、松尾 英明氏(日本料理「柏屋」代表・総料理長)、山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長)、川崎 寛也氏(農学博士、「味の素株式会社イノベーション研究所」主任研究員)
・参加コアメンバー:山根 大助氏(「ポンテベッキオ」オーナーシェフ)
・ゲスト:本郷 義浩氏(「毎日放送」チーフプロデューサー)
進行:門上 武司
門上 毎日放送の本郷チーフプロデューサーは、麻婆豆腐研究家としてゲストにきていただきました。本郷さんから今日のデモンストレーションと川崎先生の講演を受けての印象をお願いします。
本郷 年間120食、のべ120店で麻婆豆腐を食べていて料理番番組を28年間制作してきました関係もあり、麻婆豆腐の魅力を感じてきました。名乗った者勝ちだと「麻婆豆腐研究家」と、10年ほど前に名乗ったところ、つい最近まで『あまから手帖』で3年間、麻婆豆腐に関する連載をさせてもらいました。今まで数十人の中華の料理人の方に麻婆豆腐のつくり方を取材して、食べ手側の研究もしてきました。今日の講演、デモンストレーションについては再構築という点で興味深く拝見しました。動物性のタンパク質、植物性のタンパク質が麻婆豆腐には含まれているところがひとつの魅力で、動物性は挽肉、植物性は大豆や豆板醤、そら豆。それに麻婆豆腐においては、油が重要で、料理人のみなさん、麻婆豆腐は、油を食べる料理だとおっしゃっています。動物性と植物性のタンパク質に、辛味をのせて油と食べるということで麻婆豆腐は魅力的なのかなとあらためて思いました。
2018年の2月1日から3月14日まで食べ歩きラリー【愛の肉食麻婆ラリー2018】というイベントをやっています。肉の部分をバージョンアップする新作麻婆をつくってくださいと依頼しまして、29店に参加してもらっていますが、麻婆豆腐を再構築する中で一番おいしく麻婆豆腐を変化させることができるのは肉系の進化だという結論に僕はなりました。29店の中では、サーロインを使ったり、焼き肉店で使われているA4、A5の部分や、ハンバーグのようなつくり方の挽き肉にしたり、カツをのせたり、肉系が進化すると麻婆豆腐の料理としてポテンシャルが上がってくると実感しています。
門上 麻婆豆腐がバージョンアップするという興味深いお話でした。山根さん、前回はピザで実演をやっていただきましたが、今回は7つのキーワードがあって、やりやすそうでしたか。
山根 そんなことはないと思いますが、日本料理とフランス料理の各考え方が明確に出ていて、麻婆豆腐に踏襲されるべき要素を押さえておられる。上手やなと思いました。ただ、料理としてのポテンシャル、単純に好きとか、おいしいとか、ご飯で食いたいという部分においては麻婆豆腐の完成度は高い。再構築して発展させることは面白い試みとして感心しましたが、単純においしく思って、食べたいとなる麻婆豆腐はすごいなとあらためて思いました。今日の麻婆豆腐も普通に食べるのと違って、麻婆豆腐の原点を感じさせるシンプルさ、構成材料も、調味料は凝っていたけど、見た目は単純明快で「おいしすぎないおいしさ」「複雑すぎないおいしさ」、甘みも淡かったし、唐辛子から出てくる甘みと聞きましたが、甜麺醤を使った砂糖的な甘さではない甘さで、よかったです。



門上 麻婆豆腐のうまさを再認識したという話。松尾さんは「感動したものを再構築」する時に新しい料理を考えるといわれました。7つのキーワードの中で松尾さんが重要視されたことは何でしたか。すべての要素を均一に、でしたか。
松尾 普段の料理の発想は「自分のイメージをどれだけ具現化させるか」に重要点がありますが、今回はすべての要素がどうなるかなと楽しくなって、7つの要素を揃えて再構築してみようということになったのです。7つの中でキーポイントは「かんずり」の部分で、麹を熟成した時の辛味を入れるとグーッと麻婆豆腐に近づいていくのですが、自分の立ち位置から離れず、ギリギリだったなという感じでした。
門上 和の要素とフランス料理の構築の仕方が見事に現れていたと思います。川崎先生、山口さんは「熱さ」、松尾さんは「かんずり」の部分、7つのキーワードの中で、きちんと現れていましたか。
川崎 提案させてもらった(から)の方向にお二人ともいっているなと思いました。山口シェフも「熱いこと」が重要ということではなく、中国人は「温度」に着目すべきだととらえた。中国の昔の人が「温度が大事だ」という。「熱々」もあれば「冷たい」ものもあるという発想の転換、切り口を7つ提示されて、そのどれかをグーッと振ったら、また新しいものができるというのが面白いと思いました。
山根さんもいわれましたが、麻婆豆腐はおいしいんですね。伝統料理はおいしい。長い間にいろんな人が考えて麻婆豆腐の枠組みをつくり、完成度を高めるのが料理人の仕事ですから。麻婆豆腐を分解して再構築するのは簡単にできるものではなく、中国料理の麻婆豆腐はすごいなと気づく。普段何げなくつくっている中国料理の人こそ、その価値に気づいていないかもしれない。やっぱりすごかったと。松尾さんは中国料理と日本料理を行き来しながら自分が守るべきところはどこか、自分がこだわって日本料理の境界線はここだというのが明確になり、ここを超えたら日本料理ではないという発想になって、こういうことを通してトレーニングできるような気がします。みなさんも考えながら聞かれたことと思います。
門上 新しい料理を生み出すことと自分の立ち位置を見直すことがつながっている。本郷さんの肉による麻婆豆腐のバージョンアップについてはいかがですか。
川崎 7つの要素のどこを変えるか、それぞれ影響もあります。肉の部分を大きく変えるとか、もちろん影響は大きい。その時、原点をどこまで意識するか。「どんどんおいしく」というか、現代の高い材料を使って高い値段をとる料理になる発想だけでもないかと思います。麻婆豆腐は使役に使った固い牛肉を食べる。料理の初めは「必要は発明の母」というか「固い肉を何とか食べたい、でも腹一杯になりたい」というところから発明されたものだとあらためて思いました。そのストーリーを意識しながら麻婆豆腐を食べたいなというのもあります。



