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10年目の「だし」サミットProgram 2:プレゼンテーション+試食 [フランス料理]

10年目の「だし」サミットProgram 2:プレゼンテーション+試食 [フランス料理]

Program 2:プレゼンテーション+試食 [フランス料理]

講師紹介

山口 浩氏
「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長
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「西洋だしの呈味の分解と再構築」

10年前、だしをテーマにした第1回目のイベントに出演しました。当時は、西洋料理のだしは何なのか、そんなものかなくらいの意識だったと思います。10年経った今回、だしのおいしさ、だしは一体何かということを、もう一度整理して、みなさんに紹介してみたいと思いました。

<以下、スライド上映しながらの説明を要約>おいしさの基本になるのは五味。その中にうま味というものがありますが、だしはうま味だけなのかという疑問があります。うま味成分にはグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸とか、いろいろな成分はあるんですが、その3つは相乗効果が行われるということで代表的なものとして列記しています。それだけでなく、そもそも、だしには基本五味の他においしさを感じる要素、例えばコク、まろやかさ、などの呈味成分が関与している。だしの中にどれだけの呈味成分、どういうものが含まれていているかを実感してもらうために、以下のように分解した「だし」を用意しました。みなさんに調合してもらいながら西洋料理のフォン・ド・ヴォーをつくってもらおうと思います。厳密にいうと、用意しただしはラボでつくった訳ではないので純粋なものではないですが、みなさんの手元に配ったカプセルにあるものは抽出量が多いものとして、広い心でそうだと思っていただけますか。これだけのものが混ざりあってだしが出来上がるということなので、みなさんのテーブルに並んだカプセルで小さなラボでの実験ができるということです。混ぜる量によっては、とんでもないものができるかもしれません。味見する順番がありますのでフライングはしないでください。

1:遊離アミノ酸(グルタミン酸) カプセル1

調理した牛肉より抽出しました。牛肉ブロックを真空パックに入れ、食の安全の観点から85℃で3分間加熱し、表面殺菌をした状態で57℃で12時間低温調理。冷却後、真空パックから取り出し1cm角に細かく切って再度真空パックに肉のドリップと水を入れ、98℃で1時間加熱。これを漉したものをカプセル1に入れています。牛肉だからイノシン酸だということがあると思いますが、以前、ラボの協力で実験させていただくと、牛肉は2日目くらいからイノシン酸が出ますが、ずっとほっておくと下がっていきます。熟成するとグルタミン酸の量が増えていく。イノシン酸は入っていますが、グルタミン酸の方が多い。これだけでも味の相乗効果があるのでグルタミン酸の溶液としてみなさんに配りました。

2:核酸関連物質(イノシン酸、グアニル酸) カプセル2

お手元資料のレシピには鰹とありますが、煮干しを煮出して抽出したものに変えています。日本料理のだしは燻製成分ということがあって、燻製関係が入るとわかりにくいので煮干しに変えました。「うま味インフォメーションセンター」のデータベースを見て、煮干しにイノシン酸が多いということで選びました。カプセル2を味見していただくと、煮干しの臭い味がしますが、洗練されていないものです。その後に1番のグルタミン酸を口の中に入れると「ごきげん酸」になるという、口の中でうま味の相乗効果を実感できます。

3:糖質(グルコース、フラクトース、スクロース) カプセル3

ニンジンから抽出しました。ニンジンをジューサーにかけて加熱沸騰させ、その後、漉して冷却して遠心分離機で色素と上澄みのジュースに分けて取ったものがカプセル3です。

糖質Aの合流化合物 カプセル7

もう一つ、糖質Aをつくっています。糖質に硫黄化合物を含んだ野菜のだしです。ニンジンは硫黄化合物を含まない純粋な糖質。もう一つは硫黄化合物を含んでいます。ポアロー葱を煮出したものでだしを取りました。合流化合物のカプセル7です。

4:有機酸(リンゴ酸、クエン酸) カプセル4

かんぴょうは精進料理で使いますが、思いのほか酸味があります。かんぴょうを煮出し、だしを取りました。

5:無機塩(ナトリウム、カリウム) 別容器

ナトリウムは食塩水を用意しました。これは、カプセルとは別の容器に入れて配っています。高橋さんがグルタミン酸とイノシン酸のだしの中にメイラード反応化合物を入れてナトリウムを入れた瞬間から吸い物になったんだと興味深く思いました。日本料理も、うま味成分だけでは頼りないので、それに入れるものが料理人の個性によって変わってくるのかなという見方もできました。

6:ペプチド

タンパク質が酵素の働きで分解してできるものですが、ペプチドはタンパク質が分解する肉の中でできているので、1の遊離アミノ酸のだしにペプチドが抽出されているという状態ですから、今回は用意していません。

7:高分子物質(トロポミオシン、コラーゲン分解物) カプセル5

真鯛の骨と皮を水と鍋に入れて煮出して取っただしです。今は鰹節には急速冷凍して運んできて鰹節にしたものと、従来のものとがありますが、急速冷凍して鰹節にした方が優れた品質ができる。温度が高くなってコラーゲンが流れ出ていないものを鰹節にする方がおいしいからです。だしの中にも高分子物質が役割を果たして、グルタミン酸とイノシン酸だけではないということだと思います。

8:コク(グルタチオン、含流アミノ酸を含むペプチド類) カプセル6

ニンニクを薄くスライスして鍋で水と煮出して取っただしです。

9:メイラード反応化合物(ガストリック) カプセル8

砂糖と酢を混ぜて火にかけてつくるガストリックを水で止めて仕上げた、メイラード反応生成物です。フランス料理のだしの中身はメイラード反応の化合物もコクになるということです。

別皿:牛ロース肉

上記のだしを調合しながら、味わいが確かめられるように調理した肉を用意しました。

実験

最初に2番のイノシン酸を味見していただけましたか。煮干しのうま味を感じると思います。次に1番のグルタミン酸を口の中に加えると、そこで味覚の相乗効果によって、味の変化が起こります。この二つを空の器に入れて混ぜるとイノシン酸とグルタミン酸の混合物ができます。1番と2番は全部入れてください。二つを混ぜたものを味見するとグルタミン酸とイノシン酸が入っているが、日本のだしとはほど遠い感じです。ただ、うま味の相乗効果は起こっている状態です。

そこに高分子物質、7番のコラーゲンですね、鯛のアラから取ったコラーゲンを少し入れます。スポイドを水で洗っていただいて、ほんの少し、鰹節と昆布からだしを取った中に高分子化合物が入っている。そのくらいの量ですが、味見すると、少しずつだしに近づいていたなら、うれしい。どうですか。

次に3番のニンジンだしを少し入れてください。味見してください。どうですか。また少しだしに近づいていませんか。イメージするだしに。ここに食塩水は相当濃いので、塩をするくらいの感じで入れて味見してください。だんだんだしになってきませんか。次に4番、かんぴょうからとった甘みをほんの少し入れます。透明感とかはないかもしれませんが、日頃飲んでいるだしのベースはこれで出来上がっていませんか。これが、和のだしです。これをフォン・ド・ヴォーに変えたいと思います。

8番のニンニク、スポイドにほんの少しだけつけたニンニクで、硫黄化合物がどれだけ味覚にアプローチしてくるかがわかると思います。コクは味の厚み、広がり、深みです。ニンニクをほんの少し入れるだけで厚みが増していませんか。もう少し緩やかにしたければ、糖質Aの合流化合物、ポアロー葱のだしをスポイトでたっぷり目に入れてください。入れすぎると、その味だけになりますから注意して。硫黄化合物を入れることで、だしの味に厚みが出ませんか。ニンニクを入れたりするのは和食にはありませんが、吸い物に入った具材のネギを食べた時のように、この味は経験されていると思います。

最後に9番、メイラード反応化合物。掬わないで好みでスポイトにつけ、混ぜて色のつき具合を調節してみてください。これでフォン・ド・ヴォー、ジューのだしになりませんか。そのものではありません。でも、各自のテーブルでグルタミン酸とイノシン酸が混ざっただけの味が日本料理でいうだしになり、そこにもっと複合的に呈味成分を加えることによって西洋料理のだしに近づくのではないか。これらを煮詰めていくとジューになります。別皿で渡しました肉を何もない状態で食べてみてください。次に9番のメイラード反応の化合物をほんの少しつけます。頼りない味だと思います。でも、メイラード反応化合物を醤油のようにつけて肉に焼き色をつけるとステーキになります。みなさんで調合しただしをつけて召し上がっていただく。そうすると出来上がります。

今回、なぜこういう提案をしたか。いろんな「だし」をつくっている、何かが足りないけれど何を足したらいいのか。素材の味や香りを生かしたいけれど、うま味を引き出すにはどうしたらいいか。料理をデザインするために分解したことをインプットしておけば、組み合わせてデザインできる。料理を見る時の解釈の度合いが広がるのではないかと考えて、こういうプレゼンテーションをしてみました。ひらめきや才能は、知識と技術で補うことができるのです。

「西洋だしの呈味の分解と再構築」

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