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10年目の「だし」サミットProgram 3:ディスカッション 2/2

10年目の「だし」サミットProgram 3:ディスカッション 2/2

Program 3:ディスカッション 2/2

講師紹介

門上 山口さん、フランス料理の世界ではそういう動きはありますか。

山口 熟成なんか、植物とか動物がもつ酵素の働きで熟成させることはフランス料理で昔からやっていて。腐っているのではないかというのを、旨いと食べている時代もありました。時代が変わり、嗜好も変わって、テクニックも変わってきていると思います。
関西食文化研究会で僕たちがやっていく仕事はサイエンス化できている。理解度が早まるということですが、まずは自分たちの感覚があって、その後にサイエンスがついてくることが大切なのかなと思います。今回、10年目のディスカッションを聞いて感じているところです。ある研究データによると、昆布は熟成しない、だから優秀な保存食だと。蔵囲いでいやな風味が消えていく。不必要なものがなくなっているから必要なものが際立つという、逆の表裏もあると思いますが、どちらが正しいかではなくて、自分がどういうものをどう使いたいかが重要になってくる。その裏付けで研究データがあれば、料理人にとってはベストなのかなと感じています。

門上 澤田さんへの質問です。
「鰹節の風味によって存在感が強いと思いました。鶏の風味が抑えられて、あまり感じなく、中国人としては鶏の味がある方がいいと思いました。鶏と鰹の風味の両方を出すとしたら、どうすべきでしょうか」

澤田 鰹の風味が強いと鶏の風味は飛んでしまう。残ったうま味で鰹の風味を乗せています。中国の方からすると、上湯もそうですし鶏のスープが好きな国ですから、そう思われるのでしょう。中国と日本の考え方は違いますし、両方の風味を出すのは難しいと思います。上湯に昆布を入れたりすることも昆布のえぐみ、磯の香りが合わなかったので、今回は鰹のだしにしました。両方を活かすのは難しいかと思います。

門上 味と風味については、川崎先生から補足をお願いします。

川崎 考え方として「どういう料理をつくりたいか」から考えた方がいいかなと思います。料理人はそうされているはずです。料理の中で、どうすべきか、今回は鰹の風味をとったということですね。複雑にするほどいいのではなく、今回は鰹を活かしたということだと思います。鶏を活かしたい時、脂があるから中国料理の場合は黄色くなった脂を活かして、どういう料理にしていくか。澤田さんは鯛で餃子をつくったこともあり、鰹との相性もあると思います。そこが面白いところかなと。フランス料理的な考え方だと、具材が鯛なので相性の問題でスープも鯛、中身も鯛というのも面白いかなと思います。「何を使いたいかを考えて料理をつくる」ということですね。

門上 香りということ、鶏と鰹の風味について、吉岡先生はどうお考えですか。

吉岡 私も、鰹の香りが強いかな、酸味が出ていたのかなと感じましたが、香り成分は地域特有の素材に由来するもので、その為に香りの好き嫌いは強い地域性をもちます。慣れない食材の香りは受入れ難い。海外の方々で鰹節や昆布の香りを嗅いだ時、初めてだと馴染めない、強く感じてしまうこともあるようです。澤田さんのだしには中国系の香りも入っている。鶏や豚の味と香り、塩漬けした中国ハムの塩味は普通の塩を加えるよりもうま味が強い。このようなだしの中に挽き肉を入れて澄ます作業をすると脂溶性の香り、塩分のもつうま味などのすべてを取り去ってしまう。以前に、濁った上湯を澄ますためにこの作業をやってみましたが、普通のスープになってしまいました(鰹節40gを中国スープ2.4ℓに加えると数時間もかけて煮出した鶏や豚の風味が感じにくくなるのには驚きました)。鰹節を使って中国スープの香りがうまく残ればいいのですが、まだ試していないのですがやり方はあるようにも思います。

門上 いろんな要素が出てきました。
山口さんには
「デザインが今回のポイントかな、と。一つは味のデザインについて、どのような順で味を決めていくのか。だしと素材との相性の基本はどのようなものですか」
という質問です。

山口 五味という基本ベースがある。味覚センサーとしてある五味。それを取り囲むように香りとコクと、広がりがあって、五味が風味に変わる。風味の次に、温度、色、粘度、テクスチャー、咀嚼の音などが加わって、基本味が風味になり、風味が食味になる。食味以外に外部環境として、空調の温度、質、携わることができないお客さんの食の履歴、生体内環境、歯が痛いとか気分が悪いとか、それは感じられないのですが、そうしたのがデザインの根幹の部分になるのでしょうが、「海の幸と山の幸を合わせてみました、どうぞ」と出すのも一つのデザイン。「今日は海をテーマにしてつくりました」と出すのも一つのデザイン。海のだしに山の食材を合わせた時、デザインとして「山と海を味わってください」と出す。料理の皿を出してお客さんが召し上がるだけが、僕たちのやる仕事ではなく、本来はストーリー、つくる人間の思い、「こういうものを食べてもらいたい」とかが加わって初めて料理ができる。一つひとつのつくっていくテクニック、ツールとかつくるための技法は、それが目的ではなく、目的は「こういうものをつくりたい、お客さんに感じてもらいたい」、そのために一つひとつの技法を自分の中で、あれが使えるとか、こっちを使おうとか、そういうことなのかなといつも考えています。

門上 今の話を聞くと、食べ手の口の中に料理が入った時、どういうふうに感じてもらいたいか。部屋の雰囲気を含めて、どういう技法を組み立てていくか、設計図がきちんとなされていないと、そこに向かう段取りができないと思いました。いろんな質問がありましたが、川崎先生に今回のまとめをお願いします。

川崎 「だしについて考えることは、料理全体を考えること」になる。だしの素材が何で、どう抽出して、どう味を合わせるか、固めるのか、液体のままなのか、ソースにするのか、濃縮するのかなど。だしを考えることは料理全体を考えることになるので、「だしは料理そのものを発達させる」のです。
だしの基本を説明する時、ポトフは人間が料理を始める最初の起源に近いだろうと思っています。土をこねて鍋ができて、そこへ水を入れて素材を入れる。何ができるか。例えば、肉を火で焼いただけだと500gの肉を2人しか食べられなかったものが、500gの肉を野菜と水で煮ることで10人が食べられるようになる。ポトフの煮込み料理がより多くの人を育てることになり、「共食」というコミュニケーションにもつながるということで、人間の食の根本はポトフにあり、それは全世界にある。たまたま日本には魚があり、中国から漢方の考え方がきたので、鰹節とか昆布とか乾燥したものができて、だし文化になっているんですが、根本は鰹を煮詰めて鰹の汁を使っていたりした歴史があったりする。そうした背景からも「だしを考える=料理を考える」ことになっていると思います。

門上 ありがとうございました。10年目の新たな「だし」については、まだまだ別の切り口があると思いました。次回の第28回定期イベントは10月14日ハグミュージアム。第29回定期イベントは来年2月17日エコール辻 大阪校で行います。今年度の残り3分の2、その他のイベントをいろいろと企画していますので、ご期待ください。今日はありがとうございました。

時間の制約から、ディスカッションで取り上げられなかった質問と回答から

Q:メイラード生成物で、醤油以外の水溶性のもので挙げられるのは何か(それらの成分で、押さえておいたほうがいいものがあれば挙げてください)。

川崎先生の回答:ピラジン類やアルデヒド類は醤油や鰹だし、ブイヨンの重要な香気成分だと思います。

Q:だしには軟水がよいと言われていますが データではそれほどでもない。軟水か硬水かは どう考えておけばいいですか。

川崎先生の回答:日本料理のだしにおいては、硬水を使った場合、うま味成分の抽出だけでなく、硬水の味そのものも考える必要があると思います。硬水のミネラル成分によって、うま味成分の抽出効率が下がるかどうかは、さらなる検証が必要ではないでしょうか。

Q:高橋さんのデモでは最後に90℃の加熱をされていますが温度が高いと香りが飛びませんか?

高橋さんの回答:90℃は鰹節から出るだしを洗練させるための必要条件です。昆布のためではありません。

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